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窪田製薬HD Research Memo(3):2018年12月期はアライアンスも含め複数パイプラインで進捗が期待(1)

注目トピックス 日本株
■開発パイプラインの動向

窪田製薬ホールディングス<4596>の現在の開発パイプラインは、医薬品でエミクススタト、ラノステロール及び類縁低分子化合物、オプトジェネティクス、バイオミメティックスの4品目、医療デバイスでPBOSデバイスの1品目となっている。各開発品目の概要と今後の開発スケジュールは以下のとおりとなる。

1. エミクススタト
エミクススタトについては、地図状萎縮を伴うドライ型加齢黄斑変性に対する開発が終了したものの、臨床試験の結果から、視覚サイクルを制御する網膜内の異性化酵素であるRPE65の働きを阻害することが確認されており、RPE65の働きを阻害することによって治療効果が期待される疾病での研究開発を進めている。具体的には、増殖糖尿病網膜症や希少疾患であるスターガルト病での開発を進めていく。また、加齢黄斑変性についても、RPE65の働きを阻害することで網膜内の有害物質の蓄積を軽減できることから、中期段階での治療薬候補(病変の進行を抑制する治療薬)としての開発の可能性を今後、検証していくことにしている。

(1) 増殖糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は糖尿病の3大合併症の1つで、患者数は2015年に全世界で1億500万人と推計されており、糖尿病患者数の25%以上に相当する※1。日本では中高年の失明原因の2位にもなっている主要疾病である。地域別では、米国で約1,038万人、ユーロ圏で約1,124万人、日本で約286万人が罹患している。また、病態は単純期、前増殖期、増殖期へと進行し、同社が現在開発対象とする増殖糖尿病網膜症の患者数については、世界で1,900万人超が罹患しており、2020年までに約2,200万人に達すると予想されている※2。

※1 国際糖尿病連合「糖尿病アトラス第7版2015」
※2 Market Scope, The Global Retinal Pharmaceuticals & Biologic Market, 2015


糖尿病網膜症とは、慢性的な高血糖により網膜内の血液の流れが悪くなることで、毛細血管瘤を引き起こし、血管新生や眼底出血によって視力が低下していくもので、病態は日常生活に支障を来さない非増殖期から増殖期(新生血管の発現・増殖)と段階を経て進行し、最終的に失明に至る疾患である。また、糖尿病網膜症の合併症で、網膜内の血管から水分が漏れ出ることで黄斑に浮腫を引き起こす糖尿病黄斑浮腫は視力への影響も大きい。

治療法としては、非増殖期(単純期、前増殖期)は経過観察が一般的となっている。増殖糖尿病網膜症と診断された場合は、レーザーによる網膜光凝固術や硝子体手術のほか、抗VEGF薬(新生血管の増殖・成長抑制剤)の眼内注射投与が、また、糖尿病黄斑浮腫では抗VEGF薬やステロイド剤の眼内注射投与、あるいは硝子体手術などが行われている。ただ、いずれも侵襲的な治療法であり、視力低下を引き起こす副作用のリスク(白内障や感染症、網膜合併症等)を伴う。同社が開発を進めているエミクススタトは経口薬であるため、低侵襲性で患者の身体的負担も少なく、副作用についても暗順応の遅延や軽度の色視症がみられたケースが臨床試験であったものの予後の影響はなく、安全性に関しては確認されている。開発に成功すれば同疾患に対する治療法を大きく変革する可能性がある。

同社ではエミクススタトには動物モデルにおいて血管新生を抑制する効果があることを確認しており、最初は重度の増殖糖尿病網膜症を適応対象とした開発を進め、次に非増殖期から増殖期への進行抑制、あるいは糖尿病黄斑浮腫の発症抑制の可能性を評価していく方針となっている。

2016年4月から増殖糖尿病網膜症患者を対象に、安全性と有効性の評価を行う臨床第2相試験を実施し、2017年11月27日付で最終被験者の最後の来院を終えたことを発表している。同臨床試験では被験者数18人に対して、エミクススタトまたはプラセボを1日1回、12週間にわたり経口投与した。評価項目としては、増殖糖尿病網膜症に関連する複数のバイオマーカーの変化や、網膜出血の状況、血管新生抑制の効果並びに視力変化などをプラセボ投与群と比較したものとなる。今後は臨床試験のデータを解析し、2018年1月頃に試験結果も含め、これからの開発方針を発表する予定となっている。

なお、糖尿病網膜症/黄斑浮腫を対象とした治療薬の市場規模は、2015年の約10億米ドルから2025年には約37億米ドルに拡大すると予測されている。

(2) スターガルト病(遺伝性疾患)
スターガルト病は遺伝性の若年性黄斑変性であり、小児期から青年期における視力低下が主な症状として挙げられ、大半の患者は視力が0.1以下に低下すると言われている。現在、治療法がないアンメット・メディカル・ニーズでなる。スターガルト病の患者数は世界で約100万人となり、このうち日米欧で15万人弱、米国だけで見ると3.2〜4万人と推計されている※。

※Market Scope,「Retinal Pharma & Biologics Market」「UN World Population Prospects 2015」をもとに、同社が推計。


発症原因は、網膜内にあるABCA4遺伝子の突然変異によるものと考えられている。突然変異により視細胞から網膜色素上皮へのビタミンA輸送機能が損なわれ、リポフスチンの主要構成成分のA2E(ビタミンA由来の有害副産物)が網膜色素上皮に蓄積する。このA2Eに起因する毒性により視細胞が障害され、視力低下や中心暗点などの症状を引き起こす。治療法はいまだ確立されておらず、網膜に黄斑等の異常が出れば、レーザー光を用いて凝固し、症状の悪化を防ぐだけの処置にとどまっている。

エミクススタトは動物モデルを用いた非臨床試験で、A2Eの蓄積を阻害する効果が確認されたことを受け、2017年1月より臨床第2a相試験を開始し、同年12月4日付で最終被験者の最後の来院を終えたことを発表している。同臨床試験では被験者数22人に対して、エミクススタトの薬理作用、安全性及び忍容性の評価を行うもので、1ヶ月の間1日1回、エミクススタトを経口投与(2.5mg、5mg、10mgの投与群に分類)した。薬理作用の評価では、網膜の中で光感度の高い杆体細胞の働きの変化を調べるため、網膜電図を用いて点滅光に対する網膜の電気的応答の変化を検証したほか、光退色光への曝露後における杆体b波の振幅と抑制の割合を検証した。今後は臨床試験のデータを解析し、2018年1月頃に臨床試験の結果も含めてこれからの開発方針を発表する予定となっている。

なお、スターガルト病については希少疾患となるため、米国でオーファンドラッグの対象となっており、エミクススタトに関して、2017年1月にFDAよりオーファンドラッグ認定を受けている。競合薬の開発状況としては、サノフィ(フランス)が臨床第1/2相試験を行っている段階にある。

2. ラノステロール及び類縁低分子化合物(白内障・老眼(老視)治療薬)
同社は2016年3月に、米バイオベンチャーのYouHealthから、白内障の薬剤候補となるラノステロールの開発に関わる独占契約の権利を取得し、現在はラノステロール及び類縁低分子化合物として開発を進めている。類縁低分子化合物とは、ラノステロールに類似した化合物を意味する。

白内障は眼の中でレンズ部分に当たる水晶体が変性したタンパク質の凝集によって混濁し、視力が低下する疾患を指す。白内障を発症する要因の大半は加齢に伴うもので、40代後半から発症率が上昇し、80歳までに70%の人が発症すると言われている。世界の失明原因の51%を占める眼科領域の主要疾患で、2015年のデータでは世界で約9億人の罹患者数が、2020年には10億人まで拡大することが予想されている※。

※Market Scope, Global IOL Market 2015。


現在の治療法としては薬剤による根治療法はなく、中等度から重度の患者に対して人工の眼内レンズを移植する外科的手術が行われている。眼内レンズの手術件数は年間約2,830万件程度だが、そのうち約4割は欧米、日本などの先進国で占められている。手術に要する費用は日本で約20万円(単焦点眼内レンズで片目の場合)だが、投薬、入院費用、その後の矯正手術なども含めると、白内障手術にかかる総医療費は世界で数兆円規模に達することになる。また、新興国ではこうした手術を受けることすらできず、そのまま失明に至るケースも多い。このため、点眼薬による非侵襲的な根治療法が開発されれば、社会的意義の極めて大きい革新的な治療薬となる可能性がある。

今回、白内障・老眼(老視)治療薬として開発を進めるラノステロール及び類縁低分子化合物は、タンパク質凝集を阻害し、水晶体の混濁を解消する薬理効果があることがイヌを使った動物実験で確認されている。現在、同社ではIND(臨床試験用の新医薬品)申請のための非臨床試験を進めている段階にある。当初の計画よりもやや遅れ気味ではあるものの、2018年内の臨床第1/2相試験開始に向けて、今後も動物実験による開発を進めていく方針となっている。臨床第1/2相試験での評価項目としては安全性のほか、ヒトによる水晶体混濁度の評価、視力変化等となる見込み。

同社では軽度の白内障患者に対する開発が順調に進めば、中等度から重度の患者及び老視(老眼)まで適応範囲を拡大することも視野に入れている。

白内障治療薬については、同社が把握している範囲では米国のバイオベンチャーであるViewPoint Therapeutics(2014年設立)が、ワシントン大学及びミシガン大学の研究室で開発された技術をもとに化合物の開発を進めているようだ。開発ステージは非臨床段階であり、開発する化合物もラノステロールとは異なり生体物質ではないと見られている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)



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