窪田製薬HD Research Memo(4):2018年12月期はアライアンスも含め複数パイプラインで進捗が期待(2)
[17/12/25]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■開発パイプラインの動向
3. オプトジェネティクス(網膜色素変性遺伝子療法)
窪田製薬ホールディングス<4596>は2016年4月に英国マンチェスター大学と、網膜色素変性を含む網膜変性疾患の治療を対象とするオプトジェネティクス(光遺伝学治療)の開発権、並びに全世界での販売権を得る独占契約を締結した(契約一時金は0.2百万米ドル)。オプトジェネティクスとは網膜の光感受性がない細胞に、光によって活性化されるタンパク質を発現させることにより、光感受性機能を網膜に再生させる遺伝子治療法となる。ウイルスベクター(遺伝子を細胞内に運ぶウイルス)を利用し、網膜のオン型双極細胞に光の感受性が高いヒトロドプシン※を注射投与することで、視機能の再生を図る仕組みとなる。
※ ヒトの網膜の杆体(かんたい)細胞を構成するタンパク質の一種で、光受容体(光信号を電気信号に変えて脳に伝達する)の機能を果たす。
網膜色素変性は遺伝性の網膜疾患で、4,000人に1人が罹患する希少疾患となる。患者数は世界で約150万人※1、日本では2万人強(難病指定)※2と推計されている。光の明暗を認識する杆体細胞が遺伝子変異により損傷されることで、初期症状として夜盲症や視野狭窄、視力低下などが見られ、時間経過とともに色を認識する錐体細胞の損傷により色覚異常や中心視力が低下し、最終的には失明に至る疾患である。幼少期より視力低下が進行するケースでは、40歳までに失明する可能性がある。また、網膜色素変性の発症原因となる遺伝子変異の種類としては100種類以上あり、現段階で有効な治療法は確立されていない。
※1 Vaidya P, Vaidya A(2015) Retinitis Pigmentosa: Disease Encumbrance in the Eurozone. Int J Ophthalmol Clin Res 2:030。
※2 日本眼科学会によれば、国内では10万人に18.7人の患者数がいると推定されている。
同社ではオプトジェネティクスの開発を進めることで、社会的失明(矯正視力0.1未満)とみなされている患者の視機能の回復を目指している。マンチェスター大学におけるマウスを使った実験によれば、オプトジェネティクスで治療したマウスが、スクリーンに投影された襲いかかろうとするフクロウの映像に対して、正常なマウスとほぼ同じ距離の回避行動的反応を示すなど、網膜がもつ視機能のうち光受容の機能が回復したであろうことが確認されている。
現在、オプトジェネティクスの開発では複数のベンチャー企業やアステラス製薬<4503>等が臨床試験を行っているが、同社の開発する技術は遺伝子変異の種類に依存しないこと、また、ヒト由来のロドプシンを使っているのは同社のみであり、他のタンパク質よりも高い光感度が得られるほか、炎症反応も最小限に抑えることができると想定されることから、薬理効果や技術的な競合優位性は高いと見ている。
同社では今後の開発スケジュールとして、2018年にIND申請のための非臨床試験を実施し、2018年後半から2019年前半までに臨床第2相試験を開始、2019年を目途にPOCの取得を目指している。今後、最適なウイルスベクターを決めるため、同分野で知見の深い企業と共同で開発を進めていく予定となっている。ウイルスベクターを決定した段階で、IND申請やオーファンドラッグ認定の申請も行う予定となっている。なお、オプトジェネティクスについては、開発期間の迅速化を図るため日本の条件付き早期承認制度を活用する可能性もある。
4. ACU-6151(バイオミメティックス)
2016年12月に、眼科治療薬の開発企業である米EyeMedicsと、眼科治療薬の新規化合物を含むバイオミメティックス(生物模倣技術)において、全世界における製造・開発・販売の独占的実施権取得に関するオプション契約を締結した。同技術はEyeMedicsが南カリフォルニア大学から技術導入したもので、生体内物質の働きを模倣する低分子化合物を開発し、抗炎症剤のプラットフォームとして様々な眼疾患に対する革新的な治療法の確立を目指した技術となる。
同社では、需要が見込まれる糖尿病黄斑浮腫、加齢黄斑変性等の網膜疾患の初期段階において炎症を調節するまったく新しい薬剤の開発を進めていく方針となっている。眼内の細小血管を損傷することなく、病的な血管新生及び血管漏出を抑制する効果が期待され、従来よりも少ない投与回数による治療法によって患者負担を軽減していくことを目指している。初期段階のin vivo試験※では抗VEGF薬と同等の効果を得られる可能性が示唆されている。
※in vivo(イン・ビボ)マウスなどの生体内に被験物質を投与し、薬物反応を調べる試験のこと。
今後の開発スケジュールとしては、糖尿病黄斑浮腫、加齢黄斑変性(ウェット型及び地図状萎縮を伴うドライ型)を対象に、2018年にIND申請のための非臨床試験を実施し、2019から2020年までに臨床第2相試験の開始及び2020年にPOCの取得を目指していく方針となっている。現在、ウェット型加齢黄斑変性治療薬の市場規模は世界で60億ドルを超える巨大市場となっているだけに、今後の開発動向が注目される。
5. 遠隔・在宅眼科医療機器ソリューション-「PBOS(Patient Based Ophthalmology Suite)」
同社では眼疾患領域において治療薬だけでなく、医療デバイスの開発も進めている。PBOSと呼ばれる小型のOCT(光干渉断層計)デバイスがそれで、ウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の網膜血管新生による眼疾患において網膜の状態を測定する検査デバイスとなる。従来は病院に設置してある高額の検査機器で網膜の状態を測定し、診断を行っていたが、PBOSが実用化されれば自宅で患者自身が網膜の状態を測定し、インターネットを介して担当医師が測定データを確認して、最適な治療方針を決めることが可能となる。
網膜疾患の患者は定期的な検査により、症状に合わせた治療が必要となるが、移動手段の確保等の問題もあり定期的に来院することが難しく、症状を悪化させてしまう患者も多い。同時に、自覚症状で視力の低下もなく、治療が問題ないと判断し来院しない患者も少なくない。このように症状の把握が遅れ、結果的に病状が進行してしまうケースもある。自宅で検査できるデバイスがあれば、患者自身が日々検査することによって、こうした病状の進行を未然に防ぐことも可能となる。医師にとっても、業務負担の軽減につながるためメリットは大きく、在宅・遠隔医療ソリューションの1つとして今後の普及拡大が期待される。
同社では、検査結果を解析するソフトウェアも含めて開発し、クラウドサービスとして提供していく考えだ。病院の検査装置は多機能なため2〜3千万円と高価だが、PBOSは必要な機能※のみを搭載した超小型のハンドヘルドデバイスとし、部品なども汎用品を使うことで10万円以下と大幅な低コスト化を目指している。PBOSの開発についてはスイスを拠点として進めている。
※網膜の断面の構造を見ることができる機能のみを搭載する。
今後の開発スケジュールとしては、2018年前半にプロトタイプで試験を開始し、動作検証など行った上でPBOSのデザイン設計等を行い、2019年に医療機器として承認・認証を取得し、商用化を目指している。PBOSの開発・製造・販売に当たっては光学機器メーカー等と共同で進めていく可能性が高い。また、同デバイスが普及すれば、抗VEGF薬等の治療薬の使用量も増加する可能性があることから、対象顧客及び医療施設への販売ネットワークを既に構築している製薬企業や医療機器製販企業と協業していく可能性もある。
弊社では同社の開発パイプラインの中ではPBOSが最も早く商用化される可能性があると見ている。網膜疾患の患者数は全世界で1億人以上いると言われ、潜在需要も大きいだけに今後の動向が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<MH>
3. オプトジェネティクス(網膜色素変性遺伝子療法)
窪田製薬ホールディングス<4596>は2016年4月に英国マンチェスター大学と、網膜色素変性を含む網膜変性疾患の治療を対象とするオプトジェネティクス(光遺伝学治療)の開発権、並びに全世界での販売権を得る独占契約を締結した(契約一時金は0.2百万米ドル)。オプトジェネティクスとは網膜の光感受性がない細胞に、光によって活性化されるタンパク質を発現させることにより、光感受性機能を網膜に再生させる遺伝子治療法となる。ウイルスベクター(遺伝子を細胞内に運ぶウイルス)を利用し、網膜のオン型双極細胞に光の感受性が高いヒトロドプシン※を注射投与することで、視機能の再生を図る仕組みとなる。
※ ヒトの網膜の杆体(かんたい)細胞を構成するタンパク質の一種で、光受容体(光信号を電気信号に変えて脳に伝達する)の機能を果たす。
網膜色素変性は遺伝性の網膜疾患で、4,000人に1人が罹患する希少疾患となる。患者数は世界で約150万人※1、日本では2万人強(難病指定)※2と推計されている。光の明暗を認識する杆体細胞が遺伝子変異により損傷されることで、初期症状として夜盲症や視野狭窄、視力低下などが見られ、時間経過とともに色を認識する錐体細胞の損傷により色覚異常や中心視力が低下し、最終的には失明に至る疾患である。幼少期より視力低下が進行するケースでは、40歳までに失明する可能性がある。また、網膜色素変性の発症原因となる遺伝子変異の種類としては100種類以上あり、現段階で有効な治療法は確立されていない。
※1 Vaidya P, Vaidya A(2015) Retinitis Pigmentosa: Disease Encumbrance in the Eurozone. Int J Ophthalmol Clin Res 2:030。
※2 日本眼科学会によれば、国内では10万人に18.7人の患者数がいると推定されている。
同社ではオプトジェネティクスの開発を進めることで、社会的失明(矯正視力0.1未満)とみなされている患者の視機能の回復を目指している。マンチェスター大学におけるマウスを使った実験によれば、オプトジェネティクスで治療したマウスが、スクリーンに投影された襲いかかろうとするフクロウの映像に対して、正常なマウスとほぼ同じ距離の回避行動的反応を示すなど、網膜がもつ視機能のうち光受容の機能が回復したであろうことが確認されている。
現在、オプトジェネティクスの開発では複数のベンチャー企業やアステラス製薬<4503>等が臨床試験を行っているが、同社の開発する技術は遺伝子変異の種類に依存しないこと、また、ヒト由来のロドプシンを使っているのは同社のみであり、他のタンパク質よりも高い光感度が得られるほか、炎症反応も最小限に抑えることができると想定されることから、薬理効果や技術的な競合優位性は高いと見ている。
同社では今後の開発スケジュールとして、2018年にIND申請のための非臨床試験を実施し、2018年後半から2019年前半までに臨床第2相試験を開始、2019年を目途にPOCの取得を目指している。今後、最適なウイルスベクターを決めるため、同分野で知見の深い企業と共同で開発を進めていく予定となっている。ウイルスベクターを決定した段階で、IND申請やオーファンドラッグ認定の申請も行う予定となっている。なお、オプトジェネティクスについては、開発期間の迅速化を図るため日本の条件付き早期承認制度を活用する可能性もある。
4. ACU-6151(バイオミメティックス)
2016年12月に、眼科治療薬の開発企業である米EyeMedicsと、眼科治療薬の新規化合物を含むバイオミメティックス(生物模倣技術)において、全世界における製造・開発・販売の独占的実施権取得に関するオプション契約を締結した。同技術はEyeMedicsが南カリフォルニア大学から技術導入したもので、生体内物質の働きを模倣する低分子化合物を開発し、抗炎症剤のプラットフォームとして様々な眼疾患に対する革新的な治療法の確立を目指した技術となる。
同社では、需要が見込まれる糖尿病黄斑浮腫、加齢黄斑変性等の網膜疾患の初期段階において炎症を調節するまったく新しい薬剤の開発を進めていく方針となっている。眼内の細小血管を損傷することなく、病的な血管新生及び血管漏出を抑制する効果が期待され、従来よりも少ない投与回数による治療法によって患者負担を軽減していくことを目指している。初期段階のin vivo試験※では抗VEGF薬と同等の効果を得られる可能性が示唆されている。
※in vivo(イン・ビボ)マウスなどの生体内に被験物質を投与し、薬物反応を調べる試験のこと。
今後の開発スケジュールとしては、糖尿病黄斑浮腫、加齢黄斑変性(ウェット型及び地図状萎縮を伴うドライ型)を対象に、2018年にIND申請のための非臨床試験を実施し、2019から2020年までに臨床第2相試験の開始及び2020年にPOCの取得を目指していく方針となっている。現在、ウェット型加齢黄斑変性治療薬の市場規模は世界で60億ドルを超える巨大市場となっているだけに、今後の開発動向が注目される。
5. 遠隔・在宅眼科医療機器ソリューション-「PBOS(Patient Based Ophthalmology Suite)」
同社では眼疾患領域において治療薬だけでなく、医療デバイスの開発も進めている。PBOSと呼ばれる小型のOCT(光干渉断層計)デバイスがそれで、ウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の網膜血管新生による眼疾患において網膜の状態を測定する検査デバイスとなる。従来は病院に設置してある高額の検査機器で網膜の状態を測定し、診断を行っていたが、PBOSが実用化されれば自宅で患者自身が網膜の状態を測定し、インターネットを介して担当医師が測定データを確認して、最適な治療方針を決めることが可能となる。
網膜疾患の患者は定期的な検査により、症状に合わせた治療が必要となるが、移動手段の確保等の問題もあり定期的に来院することが難しく、症状を悪化させてしまう患者も多い。同時に、自覚症状で視力の低下もなく、治療が問題ないと判断し来院しない患者も少なくない。このように症状の把握が遅れ、結果的に病状が進行してしまうケースもある。自宅で検査できるデバイスがあれば、患者自身が日々検査することによって、こうした病状の進行を未然に防ぐことも可能となる。医師にとっても、業務負担の軽減につながるためメリットは大きく、在宅・遠隔医療ソリューションの1つとして今後の普及拡大が期待される。
同社では、検査結果を解析するソフトウェアも含めて開発し、クラウドサービスとして提供していく考えだ。病院の検査装置は多機能なため2〜3千万円と高価だが、PBOSは必要な機能※のみを搭載した超小型のハンドヘルドデバイスとし、部品なども汎用品を使うことで10万円以下と大幅な低コスト化を目指している。PBOSの開発についてはスイスを拠点として進めている。
※網膜の断面の構造を見ることができる機能のみを搭載する。
今後の開発スケジュールとしては、2018年前半にプロトタイプで試験を開始し、動作検証など行った上でPBOSのデザイン設計等を行い、2019年に医療機器として承認・認証を取得し、商用化を目指している。PBOSの開発・製造・販売に当たっては光学機器メーカー等と共同で進めていく可能性が高い。また、同デバイスが普及すれば、抗VEGF薬等の治療薬の使用量も増加する可能性があることから、対象顧客及び医療施設への販売ネットワークを既に構築している製薬企業や医療機器製販企業と協業していく可能性もある。
弊社では同社の開発パイプラインの中ではPBOSが最も早く商用化される可能性があると見ている。網膜疾患の患者数は全世界で1億人以上いると言われ、潜在需要も大きいだけに今後の動向が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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