ワコム Research Memo(5):前期比増収増益ではあるが、予想に対しては売上高・利益ともに未達
[18/06/12]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■ワコム<6727>の業績の動向
2. ブランド製品事業セグメントの動向
ブランド製品事業は売上高48,173百万円(前期比9.8%増)、営業利益6,469百万円(同13.8%増)と増収増益で着地した。しかし予想(2017年11月の修正予想。以下同じ)対比では、売上高は1.7%、営業利益は15.5%、それぞれ予想を下回った。
中核のクリエイティブビジネスの売上高は40,362百万円で、前期比4.2%増、予想比1.9%未達となった。その製品別詳細は以下のとおり。
(1) ペンタブレット
売上高は23,390百万円で、前期比5.0%増、予想対比1.9%未達となった。売上高が予想を下回った理由はプロフェッショナル向けIntuos Proの不振だ。2017年3月期に新製品をリリースしたが、勢いが続かず2018年3月期は前期比減収となった。これについて弊社では、他社との競合ではなく同社内でのディスプレイへのシフトにあるとみている。プロ向けの不振をコンシューマ向けIntuosと新興国向けモデルの伸長で吸収し、前期比増収を確保した。コンシューマ向けでは期末の2018年3月に新製品を投入したが、好調な立ち上がりで当期業績にも寄与した(本格寄与は2019年3月期)。新興国向けは中国などで新規ユーザーの獲得が続いており、出荷台数は前期比で約20%増となった。
(2) ディスプレイ
売上高は13,045百万円で、前期比6.7%増、予想比2.4%増となった。新製品のWacom Cintiq Pro 13/16の両モデルが大きく増収となり、既存モデルの減収を吸収してセグメント売上高を押し上げた。同社は大型サイズの新製品Wacom Cintiq Pro 24/32の開発を進めているが、開発の遅延のため24インチサイズのみを2018年3月末に投入した。32インチも含めて大型サイズの本格的収益貢献は2019年3月期となる見込みだ。
(3) モバイル
売上高は3,927百万円で、前期比7.5%減、予想対比13.9%の未達となった。モバイルはペンタブレットとタブレットPCが一体化した構成の製品であるため、使い勝手としては入力用のデジタルペンを採用した一般的なタブレットと同じだ。したがって、同社のモバイルとタブレット各社の製品はユーザーによっては競合関係にある。同社のモバイルはあくまで入力専用機という位置付けで高機能が特長であるため、プロクリエイター向け高機能モデルの市場では競合はなく、同社の競争優位性は維持できている。しかしながらそれ以外のユーザーにおいては、同社のモバイルが競り負けているとみられる。2017年3月期にWacom MobileStudio Pro 13/16をローンチしたが、2018年3月期にはライフサイクルの後期に入ったことも販売減につながった。
(4) コンシューマビジネス
売上高は3,310百万円で、前期比150.6%増と大きく伸長した。増収の大部分はマイクロソフトと共同開発したウィンドウズインク対応のスタイラスペンBamboo Inkが北米を中心に売上げを伸ばしたことによるもの。2016年9月に投入したデジタル文具のBamboo SlateやBamboo Folioはほぼ前期並みの収益を確保した。
(5) ビジネスソリューション
売上高は4,501百万円で、前期比17.9%増となった。ビジネス分野では欧州市場を中心にタブレットなどの一般モバイル端末との競争が続いている上、当期は前期にあったインド公共機関向け大型案件に伴う反動減などが懸念されてスタートした。しかし、液晶ペンタブレットなどが北米金融機関で採用されたことで売上げが拡大し、前期比大幅増収となった。また、2018年6月リリースの新製品Wacom Clipboardが各種用紙に記入した内容を瞬時にデジタル化する機能で、新たなBtoBニーズを掘り起こし、販売を伸ばした。
2018年3月期のブランド製品事業セグメントは、前期比では増収を確保したものの予想対比では未達となったカテゴリーが散見された。この要因を分析すると、新製品、なかでも高機能モデルほど市場の反応が良く、その意味では同社製品の顧客のブランドロイヤリティや製品の競争優位性は維持できていると弊社では考えている。一方で、ディスプレイの大型サイズの開発遅延がみられた点については、2017年3月期の業績不振を招いたネガティブな面を依然と引きずっている可能性を感じさせる。弊社では、この部分を早期かつ完全に払拭できるかが2018年3月期の最大の注目ポイントと捉えていただけに、2019年3月期以降の推移を注意深く見守りたいと考えている。
タブレット・ノートPC向けが売り上げを伸ばし、セグメント収益を押し上げ
3. テクノロジーソリューション事業セグメントの動向
テクノロジーソリューション事業は売上高33,647百万円(前期比25.8%増)、営業利益5,677百万円(同132.4%増)と大幅増収増益で着地した。予想対比では、売上高は7.0%、営業利益は45.6%、それぞれ予想を上回った。
テクノロジーソリューション事業は向け先別に、スマートフォン向けとタブレット・ノートPC向け(2018年3月期からはノートPC向けもタブレット向けに含んで集計)の2つに分けられる。このうちスマートフォン向けは前期比11.4%減の11,708百万円となった。予想対比でも7.3%の未達となった。この事業ではサムスン電子のGalaxy Noteシリーズ向けにペンセンサーシステムを供給している。2018年3月期は、Galaxy Note7が前年下半期に失速した影響で第1四半期はほとんど売上げがなかった。7月−9月期からGalaxy Note8向けの供給がスタートして回復軌道に乗ったものの、第1四半期の不振を補えず前期比減収となった。予想対比では、Galaxy Note8向けを中心に予想を下回った模様。
タブレット・ノートPC向けの売上高は21,940百万円で、前期比61.9%増、予想比16.6%増となった。同社はタブレット、ノートPCメーカーにアクティブES(AES)方式のデジタルペンをOEM供給しているが、これを採用する新モデルが増加し、売上高が大きく伸長した。背景には、タブレットメーカーにおけるデジタルペンの位置付けが、“商品性を高めるうえで必要な装備”という認識へと変わってきていることがある。加えて、当期は2019年3月期の案件とみていた商談が前倒しでまとまり、これが予想対比上振れにつながった。
製品タイプとしては上記のアクティブES(AES、静電結合方式)のほかにEMR(電磁誘導方式)もある。2018年3月期は上記のようにAESペン採用モデルが増加したが、EMRもグーグルのChromebookなど教育市場向けに着実に売上げを伸ばしている。
弊社では2018年3月期のテクノロジーソリューション事業の好調を素直にポジティブに評価している。上記のように同社は前倒し受注が入ったため、同社自身は(2019年3月期の反動減も含めて)慎重なスタンスを取っているが、“タブレットにデジタルペンは不可欠”という市場の潮流変化が今後も続くとみられる状況は、同社にとってポジティブであることは疑いない。今後は、同社がデジタルペンを供給する各社のタブレット製品がブランド製品事業のモバイルと競合している現実を踏まえて、ブランド製品事業とテクノロジーソリューション事業の収益成長のバランスをどう取るかに注目している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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2. ブランド製品事業セグメントの動向
ブランド製品事業は売上高48,173百万円(前期比9.8%増)、営業利益6,469百万円(同13.8%増)と増収増益で着地した。しかし予想(2017年11月の修正予想。以下同じ)対比では、売上高は1.7%、営業利益は15.5%、それぞれ予想を下回った。
中核のクリエイティブビジネスの売上高は40,362百万円で、前期比4.2%増、予想比1.9%未達となった。その製品別詳細は以下のとおり。
(1) ペンタブレット
売上高は23,390百万円で、前期比5.0%増、予想対比1.9%未達となった。売上高が予想を下回った理由はプロフェッショナル向けIntuos Proの不振だ。2017年3月期に新製品をリリースしたが、勢いが続かず2018年3月期は前期比減収となった。これについて弊社では、他社との競合ではなく同社内でのディスプレイへのシフトにあるとみている。プロ向けの不振をコンシューマ向けIntuosと新興国向けモデルの伸長で吸収し、前期比増収を確保した。コンシューマ向けでは期末の2018年3月に新製品を投入したが、好調な立ち上がりで当期業績にも寄与した(本格寄与は2019年3月期)。新興国向けは中国などで新規ユーザーの獲得が続いており、出荷台数は前期比で約20%増となった。
(2) ディスプレイ
売上高は13,045百万円で、前期比6.7%増、予想比2.4%増となった。新製品のWacom Cintiq Pro 13/16の両モデルが大きく増収となり、既存モデルの減収を吸収してセグメント売上高を押し上げた。同社は大型サイズの新製品Wacom Cintiq Pro 24/32の開発を進めているが、開発の遅延のため24インチサイズのみを2018年3月末に投入した。32インチも含めて大型サイズの本格的収益貢献は2019年3月期となる見込みだ。
(3) モバイル
売上高は3,927百万円で、前期比7.5%減、予想対比13.9%の未達となった。モバイルはペンタブレットとタブレットPCが一体化した構成の製品であるため、使い勝手としては入力用のデジタルペンを採用した一般的なタブレットと同じだ。したがって、同社のモバイルとタブレット各社の製品はユーザーによっては競合関係にある。同社のモバイルはあくまで入力専用機という位置付けで高機能が特長であるため、プロクリエイター向け高機能モデルの市場では競合はなく、同社の競争優位性は維持できている。しかしながらそれ以外のユーザーにおいては、同社のモバイルが競り負けているとみられる。2017年3月期にWacom MobileStudio Pro 13/16をローンチしたが、2018年3月期にはライフサイクルの後期に入ったことも販売減につながった。
(4) コンシューマビジネス
売上高は3,310百万円で、前期比150.6%増と大きく伸長した。増収の大部分はマイクロソフト
(5) ビジネスソリューション
売上高は4,501百万円で、前期比17.9%増となった。ビジネス分野では欧州市場を中心にタブレットなどの一般モバイル端末との競争が続いている上、当期は前期にあったインド公共機関向け大型案件に伴う反動減などが懸念されてスタートした。しかし、液晶ペンタブレットなどが北米金融機関で採用されたことで売上げが拡大し、前期比大幅増収となった。また、2018年6月リリースの新製品Wacom Clipboardが各種用紙に記入した内容を瞬時にデジタル化する機能で、新たなBtoBニーズを掘り起こし、販売を伸ばした。
2018年3月期のブランド製品事業セグメントは、前期比では増収を確保したものの予想対比では未達となったカテゴリーが散見された。この要因を分析すると、新製品、なかでも高機能モデルほど市場の反応が良く、その意味では同社製品の顧客のブランドロイヤリティや製品の競争優位性は維持できていると弊社では考えている。一方で、ディスプレイの大型サイズの開発遅延がみられた点については、2017年3月期の業績不振を招いたネガティブな面を依然と引きずっている可能性を感じさせる。弊社では、この部分を早期かつ完全に払拭できるかが2018年3月期の最大の注目ポイントと捉えていただけに、2019年3月期以降の推移を注意深く見守りたいと考えている。
タブレット・ノートPC向けが売り上げを伸ばし、セグメント収益を押し上げ
3. テクノロジーソリューション事業セグメントの動向
テクノロジーソリューション事業は売上高33,647百万円(前期比25.8%増)、営業利益5,677百万円(同132.4%増)と大幅増収増益で着地した。予想対比では、売上高は7.0%、営業利益は45.6%、それぞれ予想を上回った。
テクノロジーソリューション事業は向け先別に、スマートフォン向けとタブレット・ノートPC向け(2018年3月期からはノートPC向けもタブレット向けに含んで集計)の2つに分けられる。このうちスマートフォン向けは前期比11.4%減の11,708百万円となった。予想対比でも7.3%の未達となった。この事業ではサムスン電子のGalaxy Noteシリーズ向けにペンセンサーシステムを供給している。2018年3月期は、Galaxy Note7が前年下半期に失速した影響で第1四半期はほとんど売上げがなかった。7月−9月期からGalaxy Note8向けの供給がスタートして回復軌道に乗ったものの、第1四半期の不振を補えず前期比減収となった。予想対比では、Galaxy Note8向けを中心に予想を下回った模様。
タブレット・ノートPC向けの売上高は21,940百万円で、前期比61.9%増、予想比16.6%増となった。同社はタブレット、ノートPCメーカーにアクティブES(AES)方式のデジタルペンをOEM供給しているが、これを採用する新モデルが増加し、売上高が大きく伸長した。背景には、タブレットメーカーにおけるデジタルペンの位置付けが、“商品性を高めるうえで必要な装備”という認識へと変わってきていることがある。加えて、当期は2019年3月期の案件とみていた商談が前倒しでまとまり、これが予想対比上振れにつながった。
製品タイプとしては上記のアクティブES(AES、静電結合方式)のほかにEMR(電磁誘導方式)もある。2018年3月期は上記のようにAESペン採用モデルが増加したが、EMRもグーグルのChromebookなど教育市場向けに着実に売上げを伸ばしている。
弊社では2018年3月期のテクノロジーソリューション事業の好調を素直にポジティブに評価している。上記のように同社は前倒し受注が入ったため、同社自身は(2019年3月期の反動減も含めて)慎重なスタンスを取っているが、“タブレットにデジタルペンは不可欠”という市場の潮流変化が今後も続くとみられる状況は、同社にとってポジティブであることは疑いない。今後は、同社がデジタルペンを供給する各社のタブレット製品がブランド製品事業のモバイルと競合している現実を踏まえて、ブランド製品事業とテクノロジーソリューション事業の収益成長のバランスをどう取るかに注目している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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