サンリツ Research Memo(5):ターニングポイントとなった中国事業の再編
[18/06/21]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■業績動向
1. 近年の業績概況
サンリツ<9366>は2005年5月に、新英産業(株)(子会社に新英香港、蘇州新南、張家港新興南など中国企業)を買収して中国に進出した。以来、中国との関係は深まったものの、梱包事業を核としなかったため収益はなかなか改善しなかった。このため海外展開については、2010年3月SANRITSU LOGISTICS AMERICA Inc.(米国)、2013年12月山立国際貨運代理(上海)有限公司と、改めて梱包事業を核にした子会社を設立する一方、2016年3月期から2017年3月期にかけて新英香港、蘇州新南、張家港新興南の3社について売却または清算することになった。この結果、2015年3月期から2017年3月期までの3期間で中国の売上高は24億円減少したが、採算は大きく改善した。しかし、中国事業再編の間に、国内事業所の倉庫稼働率が高まったことから既存顧客の深掘りによる成長が望みづらくなり、倉庫能力の向上と新規顧客の拡大という課題が浮上した。しかも、資産効率や建築費の高騰などを考慮すると大型投資は当面見送らざるを得ず、別手段での成長を図る必要が出てきたのである。こうした課題を解消するために策定されたのが、2018年3月期を初年度とする中期経営計画である。
新ビジョンを背景に採算改善を目指す
2. 新ビジョンと中期経営計画
倉庫能力の向上と新規顧客の拡大に対し、大型投資以外での成長も図る必要が出てきた。こうした課題に対し、同社は新たなビジョン「オペレーションからソリューションへ」を打ち出した。従来、梱包技術を駆使して顧客の指示どおりに最終ユーザーに届けることをグッドオペレーションとしてきたが、現在では、事業間シナジーを使って、グッドオペレーションに加え顧客にとって最適解となる物流ソリューションを提案するようになった。こうした提案に、港湾に隣接した大型梱包設備、時間短縮やコスト削減への対応力といった強みも生かして、既存顧客との取引を深掘りし、グループ全体で顧客の物流シェアと採算を引き上げていこうという考えである。
これは2018年3月期を初年度とする中期経営計画に描かれているシナリオであり、このため営業体制を再編、ソリューション営業に特化した統括部門を設置して事業間のシナジーを強化する一方、取扱製品群別に営業ターゲットを明確化、効果的かつ効率的に新規顧客開拓を進めている。なお、米国では、既存顧客の深掘りによりスチール梱包を含めた工作機械の取扱増を図り、中国では、梱包技術を生かした営業展開を図るとともに材料費など経費削減を進めて黒字化を目指した。強みである梱包技術を海外でも展開することで、顧客ごとに最適化した国際輸送ネットワークを構築することも計画されている。
国内の採算改善に加え海外の収益拡大が見えてきた
3. 2018年3月期の業績動向
2018年3月期の業績は、売上高16,623百万円(前期比13.7%増)、営業利益817百万円(同30.3%増)、経常利益711百万円(同48.8%増)、親会社株主に帰属する当期純利益459百万円(同77.7%増)となった。期初計画からは売上高で1,823百万円、営業利益で127百万円という大幅な超過達成となった。このため、期初に描いた中期経営計画の、2020年3月期に売上高16,500百万円、営業利益950 百万円、経常利益860 百万円、ROE6.3%(参考数値)という目標も、売上高とROEは1年で既に達成、利益も目標に急接近している。
売上高の超過達成要因は、期初に見込まなかった制御システムの新規案件が獲得できその後も順調に推移したこと、世界的好景気に支えられて工作機械のスポット受注が増加したことなどである。一方、増益要因は、増収効果により販管費が抑えられたことに加え、早くも中国が黒転、米国では大幅増益となったことである。制御システムの新規案件も利益貢献したと思われる。
セグメント別では、梱包事業は、国際航空貨物と制御システムの新規案件が大きく寄与したほか、工作機械が国内外ともに好調だったことから、売上高12,086百万円(前期比16.6%増)、セグメント利益1,232百万円(同18.3%増)と連結全体の収益をけん引した。運輸事業は、無線通信機器の取扱いは減少したものの、医療機器や工作機械、国際航空貨物が増加したことにより、売上高2,434百万円(同10.7%増)、セグメント利益73百万円(同56.5%増)と好調であった。倉庫事業は、国際航空貨物における新規案件が寄与したものの、前期発生したスポット売上がなくなったことに加え医療機器の取扱いが減少したため、売上高1,819百万円(同1.0%増)、セグメント利益330百万円(同11.4%減)とやや低迷した。賃貸ビル事業は、フリーレント期間が終了したため、売上高282百万円(同8.0%増)、セグメント利益106百万円(同38.1%増)と利益が大きく伸びた。
2019年3月期通期業績は採算重視を徹底
4. 2019年3月期業績見通し
2019年3月期について、同社は売上高16,500百万円(前期比0.7%減)、営業利益900百万円(同10.2%増)、経常利益810百万円(同13.8%増)、親会社株主に帰属する当期純利益480百万円(同4.5%増)を見込んでいる。微減収2ケタ増益という予想は、低採算案件の見直しを継続していること、新規の制御システムが通期フル寄与すること(新規案件はプロセス構築のため利益率が当初一時悪化するがその後改善する)??が要因である。特に低採算案件の見直しが進んでいる大型精密機器と、「AutoStore」を導入した医療機器においては、増益寄与への期待がかかる。売上高については、既に中期経営計画目標の16,500百万円に到達しており、現在、高品質な梱包技術を背景に各事業で低採算案件の見直しを進めていることもあり、無理に追わない方針である。
基幹システムの更新や米国での積極展開など成長余地はまだ大きい
5. 好調な進捗から見えてくる中期経営計画の先
現中期経営計画に関しては、採算改善策により、売上高だけでなく利益も十分達成可能と考えられる。こうした良好な利益進捗から見えてくるものは、更なる採算の改善と次なる成長戦略である。同社は基幹システムの更新が視野に入りつつある。現在使用している基幹システムはやや古くなっているため、これを更新するだけでも全社的な作業効率の改善が期待できる。また、米国ではこれまで、日系工場向けの調達物流がメインだったため、高度な梱包技術はあまり必要なかった。仮に日系工場のターゲットが米国内から欧州などへ広がりを持てば、輸出用スチール梱包など高度な梱包技術が必要とされる可能性がある。同社はこうした成長余地にも目を向けていると思われる。今中期経営計画終了後、現状のトレンドでも営業利益1,000百万円の突破は難しくないと考えられるが、長期的には経常利益の1,000百万円の達成も期待したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
<MH>
1. 近年の業績概況
サンリツ<9366>は2005年5月に、新英産業(株)(子会社に新英香港、蘇州新南、張家港新興南など中国企業)を買収して中国に進出した。以来、中国との関係は深まったものの、梱包事業を核としなかったため収益はなかなか改善しなかった。このため海外展開については、2010年3月SANRITSU LOGISTICS AMERICA Inc.(米国)、2013年12月山立国際貨運代理(上海)有限公司と、改めて梱包事業を核にした子会社を設立する一方、2016年3月期から2017年3月期にかけて新英香港、蘇州新南、張家港新興南の3社について売却または清算することになった。この結果、2015年3月期から2017年3月期までの3期間で中国の売上高は24億円減少したが、採算は大きく改善した。しかし、中国事業再編の間に、国内事業所の倉庫稼働率が高まったことから既存顧客の深掘りによる成長が望みづらくなり、倉庫能力の向上と新規顧客の拡大という課題が浮上した。しかも、資産効率や建築費の高騰などを考慮すると大型投資は当面見送らざるを得ず、別手段での成長を図る必要が出てきたのである。こうした課題を解消するために策定されたのが、2018年3月期を初年度とする中期経営計画である。
新ビジョンを背景に採算改善を目指す
2. 新ビジョンと中期経営計画
倉庫能力の向上と新規顧客の拡大に対し、大型投資以外での成長も図る必要が出てきた。こうした課題に対し、同社は新たなビジョン「オペレーションからソリューションへ」を打ち出した。従来、梱包技術を駆使して顧客の指示どおりに最終ユーザーに届けることをグッドオペレーションとしてきたが、現在では、事業間シナジーを使って、グッドオペレーションに加え顧客にとって最適解となる物流ソリューションを提案するようになった。こうした提案に、港湾に隣接した大型梱包設備、時間短縮やコスト削減への対応力といった強みも生かして、既存顧客との取引を深掘りし、グループ全体で顧客の物流シェアと採算を引き上げていこうという考えである。
これは2018年3月期を初年度とする中期経営計画に描かれているシナリオであり、このため営業体制を再編、ソリューション営業に特化した統括部門を設置して事業間のシナジーを強化する一方、取扱製品群別に営業ターゲットを明確化、効果的かつ効率的に新規顧客開拓を進めている。なお、米国では、既存顧客の深掘りによりスチール梱包を含めた工作機械の取扱増を図り、中国では、梱包技術を生かした営業展開を図るとともに材料費など経費削減を進めて黒字化を目指した。強みである梱包技術を海外でも展開することで、顧客ごとに最適化した国際輸送ネットワークを構築することも計画されている。
国内の採算改善に加え海外の収益拡大が見えてきた
3. 2018年3月期の業績動向
2018年3月期の業績は、売上高16,623百万円(前期比13.7%増)、営業利益817百万円(同30.3%増)、経常利益711百万円(同48.8%増)、親会社株主に帰属する当期純利益459百万円(同77.7%増)となった。期初計画からは売上高で1,823百万円、営業利益で127百万円という大幅な超過達成となった。このため、期初に描いた中期経営計画の、2020年3月期に売上高16,500百万円、営業利益950 百万円、経常利益860 百万円、ROE6.3%(参考数値)という目標も、売上高とROEは1年で既に達成、利益も目標に急接近している。
売上高の超過達成要因は、期初に見込まなかった制御システムの新規案件が獲得できその後も順調に推移したこと、世界的好景気に支えられて工作機械のスポット受注が増加したことなどである。一方、増益要因は、増収効果により販管費が抑えられたことに加え、早くも中国が黒転、米国では大幅増益となったことである。制御システムの新規案件も利益貢献したと思われる。
セグメント別では、梱包事業は、国際航空貨物と制御システムの新規案件が大きく寄与したほか、工作機械が国内外ともに好調だったことから、売上高12,086百万円(前期比16.6%増)、セグメント利益1,232百万円(同18.3%増)と連結全体の収益をけん引した。運輸事業は、無線通信機器の取扱いは減少したものの、医療機器や工作機械、国際航空貨物が増加したことにより、売上高2,434百万円(同10.7%増)、セグメント利益73百万円(同56.5%増)と好調であった。倉庫事業は、国際航空貨物における新規案件が寄与したものの、前期発生したスポット売上がなくなったことに加え医療機器の取扱いが減少したため、売上高1,819百万円(同1.0%増)、セグメント利益330百万円(同11.4%減)とやや低迷した。賃貸ビル事業は、フリーレント期間が終了したため、売上高282百万円(同8.0%増)、セグメント利益106百万円(同38.1%増)と利益が大きく伸びた。
2019年3月期通期業績は採算重視を徹底
4. 2019年3月期業績見通し
2019年3月期について、同社は売上高16,500百万円(前期比0.7%減)、営業利益900百万円(同10.2%増)、経常利益810百万円(同13.8%増)、親会社株主に帰属する当期純利益480百万円(同4.5%増)を見込んでいる。微減収2ケタ増益という予想は、低採算案件の見直しを継続していること、新規の制御システムが通期フル寄与すること(新規案件はプロセス構築のため利益率が当初一時悪化するがその後改善する)??が要因である。特に低採算案件の見直しが進んでいる大型精密機器と、「AutoStore」を導入した医療機器においては、増益寄与への期待がかかる。売上高については、既に中期経営計画目標の16,500百万円に到達しており、現在、高品質な梱包技術を背景に各事業で低採算案件の見直しを進めていることもあり、無理に追わない方針である。
基幹システムの更新や米国での積極展開など成長余地はまだ大きい
5. 好調な進捗から見えてくる中期経営計画の先
現中期経営計画に関しては、採算改善策により、売上高だけでなく利益も十分達成可能と考えられる。こうした良好な利益進捗から見えてくるものは、更なる採算の改善と次なる成長戦略である。同社は基幹システムの更新が視野に入りつつある。現在使用している基幹システムはやや古くなっているため、これを更新するだけでも全社的な作業効率の改善が期待できる。また、米国ではこれまで、日系工場向けの調達物流がメインだったため、高度な梱包技術はあまり必要なかった。仮に日系工場のターゲットが米国内から欧州などへ広がりを持てば、輸出用スチール梱包など高度な梱包技術が必要とされる可能性がある。同社はこうした成長余地にも目を向けていると思われる。今中期経営計画終了後、現状のトレンドでも営業利益1,000百万円の突破は難しくないと考えられるが、長期的には経常利益の1,000百万円の達成も期待したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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