クオール Research Memo(5):規模の拡大と“患者に求められる薬局づくり”、及び人財育成を核に成長を目指す
[18/06/27]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■中長期の成長戦略
1. 保険薬局事業の成長戦略
クオール<3034>の調剤薬局事業(セグメント名の保険薬局事業と同義)の成長戦略は一貫している。すなわち、規模(店舗数)の拡大と“患者に求められる薬局づくり”の2つだ。現実問題としては現場で働く薬剤師の確保と質の向上も不可欠であるため、同社は1)規模の拡大、2)“患者に求められる薬局づくり”、3)人財育成、の3点を主眼に調剤薬局事業の拡大に取り組んでいる。
(1) “患者さまに求められる薬局づくり”
このミッションが意図するのは集客力の拡大(すなわち、処方せん応需枚数の増加)だ。店舗の売上高は処方せん単価と処方せん枚数の積で決まる。処方せん単価は薬剤料に影響を受けるほか、中核部分を占める調剤技術料は定期的な報酬改定の影響を受ける。それに対して処方せん応需枚数は、自助努力で積み上げていくことが可能だ。
国は「患者のための薬局ビジョン」を掲げ、あるべき薬局像を明示している。同社の“患者さまに求められる薬局づくり”も国の求める薬局像に沿ったものとなっている。具体的には、かかりつけ薬剤師・薬局、高度薬学管理機能、健康サポート薬局といった機能を備えた薬局の実現だ。ポイントは、これらすべてを1つの薬局が満たす必要はなく立地や顧客層に応じて特定の機能を強化していくということだ。同社の店舗戦略は前述のように“マンツーマン薬局”がコア業態となっている。マンツーマン薬局の特長に応じて“患者に求められる”施策を進めている。
マンツーマン薬局では、健康サポート薬局の推進に力を入れている。2018年3月時点で同社が抱える健康サポート適合店の数は43店舗に達した。またそれに合わせて人財教育にも注力し、健康サポート薬局研修修了薬剤師の数は753名に達している。同時点における全国の健康サポート薬局適合店舗数は817店舗であるため、同社のシェアは約5%に達していることになる。“シェア5%”は同社の中長期戦略上、重要な意味を持つ数字であるが、健康サポート薬局という機能において、一足早くシェア5%を達成したことは意義深いと言えるだろう。
マンツーマン薬局は特定の医療機関と1対1の関係にある点に特長がある。この点に照らすと、同社が健康サポート薬局に注力することは非常に理にかなっていると弊社では考えている。逆に言えば、健康サポート薬局であることを集客につなげるうえでは、マンツーマン薬局が最も適しているということだ。理由は、地域密着型で、顧客が固定的であるためだ。健康サポート薬局の看板を掲げても、面対応型薬局の場合、店の前を歩く人々が処方せんを持たずに薬局入ることは期待しにくい。しかし、普段から利用している人であれば血圧の測定や健康相談等を目的に、何かのついでに店舗に入ることは十分想定できる。薬剤師のコミュニケーション力の向上や商材の拡充等を通じて入りやすい雰囲気を醸成できれば、集客増と収益拡大につながると期待される。これはまた、集中率の低下にも効果を及ぼす可能性があると弊社では考えている。
健康サポート薬局への取り組みに加え、同社は快適な利用環境づくりにも取り組んでいる。具体的には、クオール薬局全店にフリーWiFiとマルチ決済端末を導入した。また、ICTを用いた継続的管理のために、クオールカードや処方せん送信アプリの活用を進めている。さらに今後の取り組みとしては、クオール薬局店舗に、順次デジタルサイネージを導入していく方針だ。
(2)規模の拡大
調剤薬局事業全体の売上高は店舗当たり売上高と店舗数の積で決まる。したがって規模(店舗数)の拡大というのは、成長戦略において極めて重要な要素と言える。
前述のように、同社はマンツーマン薬局を中心としたクオール薬局と、他業種との連携による新業態の2つの戦略で店舗を展開している。そのうち、クオール薬局については、店舗拡大の具体的方法論として、オーガニック出店(自社による新規出店)とM&A(他社店舗の獲得)という2つのアプローチが考えられるが、同社はM&Aの積極活用を打ち出している。
弊社では、同社のM&Aの積極活用による店舗拡大戦略には説得力があり、相対的に成功する可能性が高いと考えている。そう考える大きな理由が、同社が採用するマンツーマン薬局のコンセプトだ。M&Aによる成長は、いずれの大手薬局チェーンも成長戦略の中心施策に位置付けている。したがって買収案件をめぐる大手チェーン間の競合も激しさを増すことが想定される。その時にマンツーマン薬局のコンセプトが威力を発揮するのではないかというのが弊社の考えだ。
マンツーマン薬局のコンセプトでは、1店舗当たりの売上高は必ずしも最優先課題ではない。むしろ同社は、ロジスティクスや医薬品在庫管理等の観点から、地域的に集中したドミナント体制の構築による効率性の向上により重きを置いている。こうした同社のスタンスは、他の大手チェーンにとってはM&Aの対象から外れるような案件でも、同社にとっては十分検討に値するという状況につながるのではないかというのが、弊社が考える同社の成功シナリオだ。
一方、新業態店舗についても、同社は継続的に店舗拡大に取り組む計画だ。新業態店舗で目的とするのは言うまでもなく高い集客力だ。面対応型薬局を効率よく展開することが可能という点で、異業種連携による新業態薬局の展開は優れていると言える。
課題としては、処方元の医療機関の数が圧倒的に多くなり、在庫で抱えるべき医薬品数も多くなるということだ。マンツーマン薬局による高効率的で低コストの店舗運営のメリットが追求しづらいことになる。
この点については、同社の中でノウハウや経験の蓄積が進み、改善が期待できるようになってきている。具体的には同社の物流センター内に、店舗間移動を専門に扱う部署を設け、新業態店舗の在庫管理を効率化が図られている。この仕組みを最大限に生かすためには、店舗間移動がしやすい状況づくり、すなわち、地域ドミナント出店戦略等が必要になると考えられるが、同社はこの点についても当然に対応を進めている。今後の新業態薬局の出店加速と収益力向上が期待される状況にある。
(3) 人財教育
同社は薬剤師を中心に、人財育成にも注力している。良質な医療提供ができる薬剤師の育成を目指し、同社独自の資格である「QOL認定薬剤師制度」を設け、薬剤師のスキルアップとモチベーション向上に取り組んでいる。現在までにクオール認定薬剤師の延べ人数は3,000人を超えるに至っている。
こうした取り組みに加えて、弊社では、薬剤師のコミュニケーション能力の向上やパッシブ(受動的)からプロアクティブ(能動的)への意識改革にも期待したいと考えている。
薬剤師に対するコミュニケーション能力のニーズの高まりは、かかりつけ薬剤師への対応の時からすでに強まっているが、それに加えて、同社の場合はマンツーマン薬局の特長や健康サポート薬局という体制が整っているので、薬剤師のコミュニケーション力を収益拡大につなげやすいと想定していることが理由の1つだ。
もう1つの視点は2018年改定で、薬剤師の業務において“対物業務から対人業務へ”という評価軸の変更が明確化されたことだ。地域包括ケアシステムの中で薬局がその役割を果たすということは、医療機関や行政等の関係各方面と連携を取りながら業務を行うということだ。この点で、マンツーマン薬局のコンセプトは有利なポジションにあると弊社では考えるが、連携の密度と範囲を拡大させるうえでは、薬剤師がイニシアチブを取るケースも十分に想定される。それに対応していくためにはプロアクティブな意識が不可欠になるのではないかと弊社では考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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1. 保険薬局事業の成長戦略
クオール<3034>の調剤薬局事業(セグメント名の保険薬局事業と同義)の成長戦略は一貫している。すなわち、規模(店舗数)の拡大と“患者に求められる薬局づくり”の2つだ。現実問題としては現場で働く薬剤師の確保と質の向上も不可欠であるため、同社は1)規模の拡大、2)“患者に求められる薬局づくり”、3)人財育成、の3点を主眼に調剤薬局事業の拡大に取り組んでいる。
(1) “患者さまに求められる薬局づくり”
このミッションが意図するのは集客力の拡大(すなわち、処方せん応需枚数の増加)だ。店舗の売上高は処方せん単価と処方せん枚数の積で決まる。処方せん単価は薬剤料に影響を受けるほか、中核部分を占める調剤技術料は定期的な報酬改定の影響を受ける。それに対して処方せん応需枚数は、自助努力で積み上げていくことが可能だ。
国は「患者のための薬局ビジョン」を掲げ、あるべき薬局像を明示している。同社の“患者さまに求められる薬局づくり”も国の求める薬局像に沿ったものとなっている。具体的には、かかりつけ薬剤師・薬局、高度薬学管理機能、健康サポート薬局といった機能を備えた薬局の実現だ。ポイントは、これらすべてを1つの薬局が満たす必要はなく立地や顧客層に応じて特定の機能を強化していくということだ。同社の店舗戦略は前述のように“マンツーマン薬局”がコア業態となっている。マンツーマン薬局の特長に応じて“患者に求められる”施策を進めている。
マンツーマン薬局では、健康サポート薬局の推進に力を入れている。2018年3月時点で同社が抱える健康サポート適合店の数は43店舗に達した。またそれに合わせて人財教育にも注力し、健康サポート薬局研修修了薬剤師の数は753名に達している。同時点における全国の健康サポート薬局適合店舗数は817店舗であるため、同社のシェアは約5%に達していることになる。“シェア5%”は同社の中長期戦略上、重要な意味を持つ数字であるが、健康サポート薬局という機能において、一足早くシェア5%を達成したことは意義深いと言えるだろう。
マンツーマン薬局は特定の医療機関と1対1の関係にある点に特長がある。この点に照らすと、同社が健康サポート薬局に注力することは非常に理にかなっていると弊社では考えている。逆に言えば、健康サポート薬局であることを集客につなげるうえでは、マンツーマン薬局が最も適しているということだ。理由は、地域密着型で、顧客が固定的であるためだ。健康サポート薬局の看板を掲げても、面対応型薬局の場合、店の前を歩く人々が処方せんを持たずに薬局入ることは期待しにくい。しかし、普段から利用している人であれば血圧の測定や健康相談等を目的に、何かのついでに店舗に入ることは十分想定できる。薬剤師のコミュニケーション力の向上や商材の拡充等を通じて入りやすい雰囲気を醸成できれば、集客増と収益拡大につながると期待される。これはまた、集中率の低下にも効果を及ぼす可能性があると弊社では考えている。
健康サポート薬局への取り組みに加え、同社は快適な利用環境づくりにも取り組んでいる。具体的には、クオール薬局全店にフリーWiFiとマルチ決済端末を導入した。また、ICTを用いた継続的管理のために、クオールカードや処方せん送信アプリの活用を進めている。さらに今後の取り組みとしては、クオール薬局店舗に、順次デジタルサイネージを導入していく方針だ。
(2)規模の拡大
調剤薬局事業全体の売上高は店舗当たり売上高と店舗数の積で決まる。したがって規模(店舗数)の拡大というのは、成長戦略において極めて重要な要素と言える。
前述のように、同社はマンツーマン薬局を中心としたクオール薬局と、他業種との連携による新業態の2つの戦略で店舗を展開している。そのうち、クオール薬局については、店舗拡大の具体的方法論として、オーガニック出店(自社による新規出店)とM&A(他社店舗の獲得)という2つのアプローチが考えられるが、同社はM&Aの積極活用を打ち出している。
弊社では、同社のM&Aの積極活用による店舗拡大戦略には説得力があり、相対的に成功する可能性が高いと考えている。そう考える大きな理由が、同社が採用するマンツーマン薬局のコンセプトだ。M&Aによる成長は、いずれの大手薬局チェーンも成長戦略の中心施策に位置付けている。したがって買収案件をめぐる大手チェーン間の競合も激しさを増すことが想定される。その時にマンツーマン薬局のコンセプトが威力を発揮するのではないかというのが弊社の考えだ。
マンツーマン薬局のコンセプトでは、1店舗当たりの売上高は必ずしも最優先課題ではない。むしろ同社は、ロジスティクスや医薬品在庫管理等の観点から、地域的に集中したドミナント体制の構築による効率性の向上により重きを置いている。こうした同社のスタンスは、他の大手チェーンにとってはM&Aの対象から外れるような案件でも、同社にとっては十分検討に値するという状況につながるのではないかというのが、弊社が考える同社の成功シナリオだ。
一方、新業態店舗についても、同社は継続的に店舗拡大に取り組む計画だ。新業態店舗で目的とするのは言うまでもなく高い集客力だ。面対応型薬局を効率よく展開することが可能という点で、異業種連携による新業態薬局の展開は優れていると言える。
課題としては、処方元の医療機関の数が圧倒的に多くなり、在庫で抱えるべき医薬品数も多くなるということだ。マンツーマン薬局による高効率的で低コストの店舗運営のメリットが追求しづらいことになる。
この点については、同社の中でノウハウや経験の蓄積が進み、改善が期待できるようになってきている。具体的には同社の物流センター内に、店舗間移動を専門に扱う部署を設け、新業態店舗の在庫管理を効率化が図られている。この仕組みを最大限に生かすためには、店舗間移動がしやすい状況づくり、すなわち、地域ドミナント出店戦略等が必要になると考えられるが、同社はこの点についても当然に対応を進めている。今後の新業態薬局の出店加速と収益力向上が期待される状況にある。
(3) 人財教育
同社は薬剤師を中心に、人財育成にも注力している。良質な医療提供ができる薬剤師の育成を目指し、同社独自の資格である「QOL認定薬剤師制度」を設け、薬剤師のスキルアップとモチベーション向上に取り組んでいる。現在までにクオール認定薬剤師の延べ人数は3,000人を超えるに至っている。
こうした取り組みに加えて、弊社では、薬剤師のコミュニケーション能力の向上やパッシブ(受動的)からプロアクティブ(能動的)への意識改革にも期待したいと考えている。
薬剤師に対するコミュニケーション能力のニーズの高まりは、かかりつけ薬剤師への対応の時からすでに強まっているが、それに加えて、同社の場合はマンツーマン薬局の特長や健康サポート薬局という体制が整っているので、薬剤師のコミュニケーション力を収益拡大につなげやすいと想定していることが理由の1つだ。
もう1つの視点は2018年改定で、薬剤師の業務において“対物業務から対人業務へ”という評価軸の変更が明確化されたことだ。地域包括ケアシステムの中で薬局がその役割を果たすということは、医療機関や行政等の関係各方面と連携を取りながら業務を行うということだ。この点で、マンツーマン薬局のコンセプトは有利なポジションにあると弊社では考えるが、連携の密度と範囲を拡大させるうえでは、薬剤師がイニシアチブを取るケースも十分に想定される。それに対応していくためにはプロアクティブな意識が不可欠になるのではないかと弊社では考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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