千葉銀行 Research Memo(4):預貸金取引による「資金利益」、「役務取引等利益」の強化など収益源多様化
[18/07/19]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■千葉銀行<8331>の決算動向等
1. 銀行決算を見るポイント
一般の事業会社の売上高と営業外収益を足し合わせたものが「経常収益」と呼ばれるもので、貸出金利息や有価証券利息配当金等の資金運用収益や各種手数料収入などによって構成されている。そこから、資金利息等の資金調達費用や経費、与信関係費用(貸倒引当金繰入額や不良債権処理額)などの「経常費用」を差し引いたものが「経常利益」となっている。
ただし、銀行本来の収益力を判断する上で重要となるのは、「業務粗利益」及び「業務純益」と呼ばれる指標である。「業務粗利益」は、一般の事業会社の売上総利益に相当するもので、「資金利益(貸出及び有価証券等による運用収益から預金等による調達原価を差し引いた利鞘収益)」と「役務取引等利益(送金や各種金融商品の販売等に関する手数料収益等)」、「特定取引利益(トレーディング目的による有価証券等の市場取引やデリバティブ取引から生じた損益)」、「その他業務利益(外国為替売買損益、国債や株式の売買損益等)」で構成される。また、「業務粗利益」から「経費」と「与信費用の一部(一般貸倒引当金繰入額)」を差し引いたものが「業務純益」となる。また、「コア業務純益」とは、一般貸倒引当金繰入前の業務純益から国債等債券売買損益を除いたものである。
「業務粗利益」を稼ぐためには、その大部分を占める「資金利益」の重要性が最も大きい。「資金利益」を増やすためには、預貸金残高をバランスよく増加させ、預貸金利ざやの拡大を図ることがポイントとなるため、その両面に注目する必要がある。一方、「資金利益」に依存せずに「業務粗利益」を増やす手段として各行が注力しているのが「役務取引等利益」の拡大である。これは信用リスクを伴わない収益源として魅力があり、送金や事務手数料のほか、預かり資産※1による手数料収入及び法人ソリューション関連取引収益※2が含まれている。また、同行を含めてほぼすべての地銀がそうであるが、預金残高が貸出金残高を上回ることによる余剰資金が発生しており、そのほとんどを有価証券で運用しているため、運用パフォーマンス(受取利息や配当金等による有価証券利回りのほか、売却損益や評価損益の状況等)も注意すべき項目である。
※1 銀行窓口で取扱いが可能となった投資信託や各種保険商品など。
※2 私募債、シンジケートローン、M&A、ビジネスマッチング、相続関連など。
特に最近の傾向として、貸出金利回りの低下(預貸金利ざやの縮小)に伴う「資金利益」の減少を、有価証券の売却益や過去に積み増した貸倒引当金の戻入益によってカバーする構造が業界全体でみられるため、収益の増減要因を正確に読み取る必要がある。
2. 2018年3月期決算の概要
2018年3月期の連結業績は、経常収益が前期比2.7%増の2,340億円、経常利益が同1.1%増の784億円、親会社株主に帰属する当期純利益が同2.0%増の537億円と計画を上回る増収増益となった。
また、銀行単体の業績についても、経常収益が前期比1.9%増の2,051億円、経常利益が同0.8%増の706億円、当期純利益が同2.1%増の496億円と計画を上回る増収増益となり、当期純利益は前期に引き続き過去3番目の水準となっている。したがって、マイナス金利政策の影響などにより厳しい収益環境が続くなかでも、足元業績は好調に推移していると評価して良いだろう。
(1) 銀行単体の損益の状況
「業務粗利益」は1,494億円(前期比53億円増)と計画を上回る増益となった。「資金利益」や「役務取引等利益」の伸びが増益に寄与した。特に、注力する「役務取引等利益」が法人ソリューション関連収益を中心に大きく拡大(前期比46億円増)。また、「資金利益」もマイナス金利政策の影響等により「貸出金利息」が減少※したものの、そこは想定の範囲内であり、「有証利息配当金」の増加により前期比でプラスを確保した。
※貸出金利回りが1.07%(前期比0.08%減)に低下した影響が大きかったが、貸出金残高(平残)を前期比5.3%増に伸ばしたことにより、「貸出金利息」の減少幅を想定内に収めることができた。
一方、経費についても828億円(前期比2億円減)と経費削減施策の積み上げにより計画水準にてコントロールすることができた。
以上から、損益面を総括すると、1)貸出金利回りの低下がマイナス要因となったものの、2)貸出金残高が順調に伸びたことや、3)法人ソリューション関連収益等により「役務取引等利益」が好調であったことがプラス要因となり、計画を上回る増益を実現したと言える。
(2) 銀行単体の運用及び調達の状況
預貸金残高(末残)の状況については、預金が前期末比3.9%増の12兆170億円、貸出金が同5.4%増の9兆8,160億円とともに順調に拡大した。特に貸出金については、中小企業向けが同6.5%増の4兆4,109億円、住宅ローンが4.5%増の3兆4,311億円、無担保ローンが同12.5%増の1,422億円と注力する3つのカテゴリーでバランスよく伸ばすことができた。
(3) 財務の状況
財務の健全性を示す総自己資本比率(国際統一基準)は、単体が12.55%(前期末は13.03%)、連結が13.18%(同13.59%)、「普通株式等Tier1比率」も単体が11.83%(同12.09%)、連結が12.48%(同12.65%)とそれぞれ若干低下した。内部留保の積み上げ等により中核的自己資本(Tier1)が増加したものの、貸出金の増加等に伴いリスクアセットが拡大したことが総自己資本比率及び普通株式等Tier1比率の低下を招いた。ただ、国際統一基準の最低所要水準は大きく上回っており、財務の健全性に懸念はない。むしろ、積極的なリスクアセット(中小企業向けローン等)の積み上げなどを通じて収益力向上を目指す同行にとっては意図した動きと捉えることが妥当である。また、不良債権比率(単体)も、金融再生法開示債権(破産更生債権等)の減少により1.27%(前期末は1.47%)に改善している。
一方、資本効率を示す連結ROE※1は6.76%(前期は6.86%)となり、株主資本の増加(内部留保の積み上げ)に伴って若干低下したが、着実な収益力の向上(利益水準の引き上げ)や株主還元等により中期経営計画(7%台)の達成を目指す。なお、政策保有株式(簿価)については、引き続きリスク・リターンを踏まえた経済合理性などの判断により残高を縮小※2させている。
※1 評価損益変動の影響を受けないB/S上の「株主資本合計」ベース。中期経営計画のROE目標値と同じ考え方。
※2 株主簿価の連結Tier1に対する割合は11.3%(前期は12.6%)。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)
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1. 銀行決算を見るポイント
一般の事業会社の売上高と営業外収益を足し合わせたものが「経常収益」と呼ばれるもので、貸出金利息や有価証券利息配当金等の資金運用収益や各種手数料収入などによって構成されている。そこから、資金利息等の資金調達費用や経費、与信関係費用(貸倒引当金繰入額や不良債権処理額)などの「経常費用」を差し引いたものが「経常利益」となっている。
ただし、銀行本来の収益力を判断する上で重要となるのは、「業務粗利益」及び「業務純益」と呼ばれる指標である。「業務粗利益」は、一般の事業会社の売上総利益に相当するもので、「資金利益(貸出及び有価証券等による運用収益から預金等による調達原価を差し引いた利鞘収益)」と「役務取引等利益(送金や各種金融商品の販売等に関する手数料収益等)」、「特定取引利益(トレーディング目的による有価証券等の市場取引やデリバティブ取引から生じた損益)」、「その他業務利益(外国為替売買損益、国債や株式の売買損益等)」で構成される。また、「業務粗利益」から「経費」と「与信費用の一部(一般貸倒引当金繰入額)」を差し引いたものが「業務純益」となる。また、「コア業務純益」とは、一般貸倒引当金繰入前の業務純益から国債等債券売買損益を除いたものである。
「業務粗利益」を稼ぐためには、その大部分を占める「資金利益」の重要性が最も大きい。「資金利益」を増やすためには、預貸金残高をバランスよく増加させ、預貸金利ざやの拡大を図ることがポイントとなるため、その両面に注目する必要がある。一方、「資金利益」に依存せずに「業務粗利益」を増やす手段として各行が注力しているのが「役務取引等利益」の拡大である。これは信用リスクを伴わない収益源として魅力があり、送金や事務手数料のほか、預かり資産※1による手数料収入及び法人ソリューション関連取引収益※2が含まれている。また、同行を含めてほぼすべての地銀がそうであるが、預金残高が貸出金残高を上回ることによる余剰資金が発生しており、そのほとんどを有価証券で運用しているため、運用パフォーマンス(受取利息や配当金等による有価証券利回りのほか、売却損益や評価損益の状況等)も注意すべき項目である。
※1 銀行窓口で取扱いが可能となった投資信託や各種保険商品など。
※2 私募債、シンジケートローン、M&A、ビジネスマッチング、相続関連など。
特に最近の傾向として、貸出金利回りの低下(預貸金利ざやの縮小)に伴う「資金利益」の減少を、有価証券の売却益や過去に積み増した貸倒引当金の戻入益によってカバーする構造が業界全体でみられるため、収益の増減要因を正確に読み取る必要がある。
2. 2018年3月期決算の概要
2018年3月期の連結業績は、経常収益が前期比2.7%増の2,340億円、経常利益が同1.1%増の784億円、親会社株主に帰属する当期純利益が同2.0%増の537億円と計画を上回る増収増益となった。
また、銀行単体の業績についても、経常収益が前期比1.9%増の2,051億円、経常利益が同0.8%増の706億円、当期純利益が同2.1%増の496億円と計画を上回る増収増益となり、当期純利益は前期に引き続き過去3番目の水準となっている。したがって、マイナス金利政策の影響などにより厳しい収益環境が続くなかでも、足元業績は好調に推移していると評価して良いだろう。
(1) 銀行単体の損益の状況
「業務粗利益」は1,494億円(前期比53億円増)と計画を上回る増益となった。「資金利益」や「役務取引等利益」の伸びが増益に寄与した。特に、注力する「役務取引等利益」が法人ソリューション関連収益を中心に大きく拡大(前期比46億円増)。また、「資金利益」もマイナス金利政策の影響等により「貸出金利息」が減少※したものの、そこは想定の範囲内であり、「有証利息配当金」の増加により前期比でプラスを確保した。
※貸出金利回りが1.07%(前期比0.08%減)に低下した影響が大きかったが、貸出金残高(平残)を前期比5.3%増に伸ばしたことにより、「貸出金利息」の減少幅を想定内に収めることができた。
一方、経費についても828億円(前期比2億円減)と経費削減施策の積み上げにより計画水準にてコントロールすることができた。
以上から、損益面を総括すると、1)貸出金利回りの低下がマイナス要因となったものの、2)貸出金残高が順調に伸びたことや、3)法人ソリューション関連収益等により「役務取引等利益」が好調であったことがプラス要因となり、計画を上回る増益を実現したと言える。
(2) 銀行単体の運用及び調達の状況
預貸金残高(末残)の状況については、預金が前期末比3.9%増の12兆170億円、貸出金が同5.4%増の9兆8,160億円とともに順調に拡大した。特に貸出金については、中小企業向けが同6.5%増の4兆4,109億円、住宅ローンが4.5%増の3兆4,311億円、無担保ローンが同12.5%増の1,422億円と注力する3つのカテゴリーでバランスよく伸ばすことができた。
(3) 財務の状況
財務の健全性を示す総自己資本比率(国際統一基準)は、単体が12.55%(前期末は13.03%)、連結が13.18%(同13.59%)、「普通株式等Tier1比率」も単体が11.83%(同12.09%)、連結が12.48%(同12.65%)とそれぞれ若干低下した。内部留保の積み上げ等により中核的自己資本(Tier1)が増加したものの、貸出金の増加等に伴いリスクアセットが拡大したことが総自己資本比率及び普通株式等Tier1比率の低下を招いた。ただ、国際統一基準の最低所要水準は大きく上回っており、財務の健全性に懸念はない。むしろ、積極的なリスクアセット(中小企業向けローン等)の積み上げなどを通じて収益力向上を目指す同行にとっては意図した動きと捉えることが妥当である。また、不良債権比率(単体)も、金融再生法開示債権(破産更生債権等)の減少により1.27%(前期末は1.47%)に改善している。
一方、資本効率を示す連結ROE※1は6.76%(前期は6.86%)となり、株主資本の増加(内部留保の積み上げ)に伴って若干低下したが、着実な収益力の向上(利益水準の引き上げ)や株主還元等により中期経営計画(7%台)の達成を目指す。なお、政策保有株式(簿価)については、引き続きリスク・リターンを踏まえた経済合理性などの判断により残高を縮小※2させている。
※1 評価損益変動の影響を受けないB/S上の「株主資本合計」ベース。中期経営計画のROE目標値と同じ考え方。
※2 株主簿価の連結Tier1に対する割合は11.3%(前期は12.6%)。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)
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