全国保証 Research Memo(3):保証債務残高の積み上げによる安定的なストック型の収益モデル
[18/07/24]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■全国保証<7164>の企業特徴
1. 収益モデル及び財務的な特徴
一般の事業会社の売上高に当たる営業収益は、住宅ローンの利用者(債務者)によって支払われる保証料(収入保証料)によって構成され、基本的には保証債務残高の伸びに連動するものである。なお、保証料は住宅ローンの実行時に原則一括前払いにて受領するが、前受収益(負債勘定)に一度プールした上で、返済期間や残高に応じて漸次的に収益認識していく仕組みとなっている。したがって、年度決算における1 件ごとの収益貢献は非常に小さいが、保証債務残高の積上げが安定的な収益基盤となるストック型の収益モデルと言える。また、保証料は、保証金額に対して保証料率を掛けて算出されるが、保証料率については、債務者の返済能力等に応じて同社独自の5 段階で決められている。
一方、費用構造については、与信関連費用の比重が大きいところに特徴がある。与信関連費用は、大きく「債務保証損失引当金繰入額」と「貸倒引当金繰入額」によって構成されるが、そのうち、「債務保証損失引当金繰入額」については、保証する住宅ローンの返済が滞ること(デフォルトの発生)により、同社が代位弁済を行うリスクをあらかじめ合理的に見積もって引き当てるものである。保証債務残高に一定の引当率を掛けて算出されるが、引当率は過去のデフォルト率の実績から導き出される。一方、「貸倒引当金繰入額」は、代位弁済が発生した後の求償債権※に対するリスクを合理的に見積もったものである。したがって、いずれにしてもデフォルトの動向が同社の損益に大きく影響することとなる。
※求償債権とは、代位弁済を行った債務者に対して返還を求める権利。
また、財務面の特徴としては、一括前払いにて受領した保証料が「前受収益」として負債勘定にプールされていることと、その資金の大部分が「現金及び預金」に計上されていることが挙げられる。一見すると資金運用効率が低いとの見方もできるが、「前受収益」は将来の収益源であるとともに、代位弁済や繰上げ返済があった場合の返戻に備える必要のほか、提携金融機関に対して財務的な信用力を裏付ける目的などから、安全性かつ流動性を重視した運用を行う方針としている。特に、足元では良好な雇用環境によりデフォルト(代位弁済)が低い水準で推移しているものの、住宅ローンの保証業務は長期にわたるものであり、そこは慎重な判断が必要であるとの認識に立っている。
膨大なデータ量を活用した審査能力や債権管理ノウハウに強み
2. 価値創造の源泉
(1) データを活用した審査能力や与信管理に優位性
同社における民間住宅ローン市場のシェア拡大は、各金融機関が同社を活用するメリットの大きさにかかっていると捉えることができる。これまで同社の成長を支えてきたものは、蓄積されたデータやノウハウを活用することで、迅速かつ精度の高い審査能力やリスク・リターンに見合った適正な料率設定などによる精緻な与信管理に優位性を築くとともに、各金融機関に同社を活用することのメリットを訴求してきたことにほかならない。
具体的には、住宅ローンにおける信用リスクを外部保証によりコントロールする与信管理上の目的はもちろん、審査や事務負担の軽減、自社審査では対応できなかった案件の取上げ(同社の場合、精緻な与信管理ができるからこその判断が可能)などが挙げられる。特に、住宅ローンは各金融機関にとって優良な資産であるとともに、個人取引の基盤となるものであることから獲得競争が激化しており、同社との提携により競争力の強化にもつながるものと考えられる。
一方、住宅ローンの利用者(債務者)にとっても、迅速な対応や画一的ではない柔軟な審査判断など同社による恩恵は大きく、日本の住宅政策を支える役割においても同社の存在意義は大きい。
(2) 事業領域の拡大にも大きな可能性
同社は、今後の成長戦略の1つとして、中古・リフォームローン市場拡大に伴う対応の強化を掲げている。中古・リフォーム市場については、政府による後押し※が期待できる上、宅建業法改正により2018年4月からインスペクション(住宅診断)の説明義務が導入されたことから、今後の市場拡大に弾みがつくものとみられている。同社がこれまで蓄積してきた70万件を超えるデータや審査ノウハウは、アドバンテージが働く可能性が高いものと考えられる。
※2025年までに既存住宅流通市場を8兆円(2013年実績は4兆円)、リフォーム市場を12兆円(2013年実績は7兆円)へ倍増させる計画を打ち出している(住生活基本計画書)。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)
<NB>
1. 収益モデル及び財務的な特徴
一般の事業会社の売上高に当たる営業収益は、住宅ローンの利用者(債務者)によって支払われる保証料(収入保証料)によって構成され、基本的には保証債務残高の伸びに連動するものである。なお、保証料は住宅ローンの実行時に原則一括前払いにて受領するが、前受収益(負債勘定)に一度プールした上で、返済期間や残高に応じて漸次的に収益認識していく仕組みとなっている。したがって、年度決算における1 件ごとの収益貢献は非常に小さいが、保証債務残高の積上げが安定的な収益基盤となるストック型の収益モデルと言える。また、保証料は、保証金額に対して保証料率を掛けて算出されるが、保証料率については、債務者の返済能力等に応じて同社独自の5 段階で決められている。
一方、費用構造については、与信関連費用の比重が大きいところに特徴がある。与信関連費用は、大きく「債務保証損失引当金繰入額」と「貸倒引当金繰入額」によって構成されるが、そのうち、「債務保証損失引当金繰入額」については、保証する住宅ローンの返済が滞ること(デフォルトの発生)により、同社が代位弁済を行うリスクをあらかじめ合理的に見積もって引き当てるものである。保証債務残高に一定の引当率を掛けて算出されるが、引当率は過去のデフォルト率の実績から導き出される。一方、「貸倒引当金繰入額」は、代位弁済が発生した後の求償債権※に対するリスクを合理的に見積もったものである。したがって、いずれにしてもデフォルトの動向が同社の損益に大きく影響することとなる。
※求償債権とは、代位弁済を行った債務者に対して返還を求める権利。
また、財務面の特徴としては、一括前払いにて受領した保証料が「前受収益」として負債勘定にプールされていることと、その資金の大部分が「現金及び預金」に計上されていることが挙げられる。一見すると資金運用効率が低いとの見方もできるが、「前受収益」は将来の収益源であるとともに、代位弁済や繰上げ返済があった場合の返戻に備える必要のほか、提携金融機関に対して財務的な信用力を裏付ける目的などから、安全性かつ流動性を重視した運用を行う方針としている。特に、足元では良好な雇用環境によりデフォルト(代位弁済)が低い水準で推移しているものの、住宅ローンの保証業務は長期にわたるものであり、そこは慎重な判断が必要であるとの認識に立っている。
膨大なデータ量を活用した審査能力や債権管理ノウハウに強み
2. 価値創造の源泉
(1) データを活用した審査能力や与信管理に優位性
同社における民間住宅ローン市場のシェア拡大は、各金融機関が同社を活用するメリットの大きさにかかっていると捉えることができる。これまで同社の成長を支えてきたものは、蓄積されたデータやノウハウを活用することで、迅速かつ精度の高い審査能力やリスク・リターンに見合った適正な料率設定などによる精緻な与信管理に優位性を築くとともに、各金融機関に同社を活用することのメリットを訴求してきたことにほかならない。
具体的には、住宅ローンにおける信用リスクを外部保証によりコントロールする与信管理上の目的はもちろん、審査や事務負担の軽減、自社審査では対応できなかった案件の取上げ(同社の場合、精緻な与信管理ができるからこその判断が可能)などが挙げられる。特に、住宅ローンは各金融機関にとって優良な資産であるとともに、個人取引の基盤となるものであることから獲得競争が激化しており、同社との提携により競争力の強化にもつながるものと考えられる。
一方、住宅ローンの利用者(債務者)にとっても、迅速な対応や画一的ではない柔軟な審査判断など同社による恩恵は大きく、日本の住宅政策を支える役割においても同社の存在意義は大きい。
(2) 事業領域の拡大にも大きな可能性
同社は、今後の成長戦略の1つとして、中古・リフォームローン市場拡大に伴う対応の強化を掲げている。中古・リフォーム市場については、政府による後押し※が期待できる上、宅建業法改正により2018年4月からインスペクション(住宅診断)の説明義務が導入されたことから、今後の市場拡大に弾みがつくものとみられている。同社がこれまで蓄積してきた70万件を超えるデータや審査ノウハウは、アドバンテージが働く可能性が高いものと考えられる。
※2025年までに既存住宅流通市場を8兆円(2013年実績は4兆円)、リフォーム市場を12兆円(2013年実績は7兆円)へ倍増させる計画を打ち出している(住生活基本計画書)。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)
<NB>