ラクオリア創薬 Research Memo(5):胃食道逆流症薬のP-CABが2018年中に上市へ
[18/08/31]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■中期経営計画「Odyssey2018」と注目ポイント
2. カリウムイオン競合型アシッドブロッカー/P-CAB(RQ-4/tegoprazan)の進捗状況
(1) プログラムの概要とこれまでの状況
P-CABとはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(Potassium-Competitive Acid Blocker)の略だ。ラクオリア創薬<4579>のP-CABの一般名はtegoprazan(テゴプラザン)と言う。
P-CABは胃食道逆流症を主たる適応症としており、この市場では現在、プロトンポンプ阻害薬(Proton Pump Inhibitor、PPIと略される)が主流となっている。PPIの代表的な薬剤としては、第一三共<4568>の『ネキシウム®』、武田薬品工業<4502>(以下、武田)の『タケプロン®』などがある。P-CABはPPIの置き換えを狙う次世代新薬として期待されている。P-CABでは武田がトップランナーで、『タケキャブ®』(一般名はvonoprazan)を2015年2月に発売済みだ。同社のtegoprazanはそれに次ぐ2番目のポジションにある。
P-CABへの期待が高い理由はその市場規模にある。PPIやP-CABなどの胃酸分泌抑制剤の世界市場規模は2兆円と言われており、日米欧の主要先進国を初めとして世界中に市場が広がっている。前述のように、この市場ではPPIが主流となっているがP-CABはそれを代替できる潜在力(薬効、特性など)があるとされている。
同社はP-CABを医薬品メーカーに対してライセンスアウトすることで収益化を実現することになるが、これについて同社は、まずアジア地域(韓国・台湾・中国及び東南アジア)について韓国のCJヘルスケアにライセンスアウトした(2010年9月及び2014年11月)。さらに2017年12月にはCJヘルスケアの対象地域をROW(rest of the worldの略、具体的には中東、中南米及び東欧)へと拡大した。一方、日米欧の3大市場については導出先を追求している状況にあり、導出候補プログラムという位置づけとなっている。
P-CABのこうした状況について、日米欧の3大市場についての導出が進まないことをネガティブに評価する向きもあるようだ。この点について弊社では、導出先のCJヘルスケアにおける開発の進捗についてもっとポジティブに評価されても良いのではないかと考えている。また、日米欧の3大市場を対象とした導出の可能性についても、CJヘルスケアの進捗も含めていくつかの“追い風”と言える動きが出てきことに注目している。
(2) CJヘルスケアによる開発状況
tegoprazanの導出先であるCJヘルスケアについては、主たる市場が韓国(日本などに比べて市場規模が小さい)やアジアであって3大市場が含まれていないことから、同社への収益貢献は限定的と評価され、あまり積極的な評価を受けてこなかったように弊社では感じている。しかしながら、CJヘルスケアでの開発は、韓国を初めとして中国や他の地位でも着実に進捗しており、そうした各地から得られるマイルストンなどを合算していくと、収益貢献の規模はそれなりに大きくなる可能性があるというのが現在の弊社の見方だ。
a) 韓国での状況
CJヘルスケアは2017年8月に韓国で承認申請を行い、2018年7月に韓国当局より製造販売が承認された。これにより、同社は承認獲得に伴うマイルストン収入を獲得することになる。収益計上時期は2018年12月期下半期となる。金額は非公表だが、承認の獲得自体は高い蓋然性があったため今期の業績予想には織り込み済みで、予想対比での業績変動要因とはならない見通しだ。
今後の焦点は販売開始のタイミングへと移ることになる。このまま順調に進めば2018年末と想定されている。これは従来からの同社が想定するタイミングであり、中期長期業績計画に対してはニュートラルと言える。ただし、販売開始が遅れる可能性も存在している。ポイントは、新薬に対する公定薬価だ。CJヘルスケアの期待値を下回る水準になるようだと、CJ社と韓国当局との調整・交渉に時間を要し、販売開始がずれ込む可能性が出てくる。この点について弊社では、CJヘルスケアの期待値に沿った公定薬価で決着するのではないかと考えている。理由は、CJヘルスケアの新薬が、純国産と認定される可能性が高く、国産新規薬剤としてのプラス査定が期待できるためだ。
販売が開始されれば同社はヒト領域の医薬品としては初のロイヤルティを獲得することになる。韓国におけるPPI/P-CABの市場規模は500億円と推定されている。日本での『タケキャブ®』の販売実績から見ると、韓国市場でも一定の市場シェアを獲得できるのではないかと弊社ではみている。
b) 中国での状況
CJヘルスケアはP-CABについて中国のLuoxin Pharmaと独占的コラボレーション契約を締結しており、中国国内で臨床試験が進められている。この開発の進捗に伴い、Luoxin PharmaからCJヘルスケアにマイルストンが支払われることになるが、その一部は同社にもマイルストンとして入る契約となっている。中国での開発の現況はフェーズIを実質的に終了して最終報告書をまとめる段階にあり、2018年中にフェーズIIをスキップしてフェーズIIIが開始されることが見込まれている。一般論としてはフェーズIII開始に伴うマイルストンはフェーズIのそれに比べて大きくなると期待され、同社への収益インパクトも一定水準に達すると弊社では期待している。
c) その他の地域での状況
CJヘルスケアはまた、P-CABについて権利を有する地域が日米欧の3大市場を除くほぼ全世界に及んでいることもあって、それら地域での開発にも積極的に取り組んでいる。現状では、1)ロシア・東欧、2)南米、3)インドネシアを中心とする東南アジア、の3つを軸に、それぞれにおいて現地のパートナー候補企業との間で交渉を進めているもようだ。交渉の主軸は(薬効の評価などではなく)経済的な条件面にあるとみられ、合意が得られればスムーズに臨床試験等へと進んでいく可能性がある。それらの開発の進捗に伴い、同社はマイルストンを得ることになる。1つ1つは大きくなくとも、それらが合わされば無視できない収益インパクトをもたらす可能性があると弊社ではみている。
(3) 日米欧の3大市場を対象とした導出の動き
日・米・欧の3大市場を対象としたP-CABの導出はこれまで目立った進捗がなかったが、ここにきていくつかの“追い風”の動きが出てきている。
そのうちの1つは、前述のCJヘルスケアによる製造販売の承認取得だ。一国において製造販売の承認が下りたという事実はやはりインパクトは大きいと言える。また、中国でのフェーズIII試験が開始されることになれば、やはり世界の医薬品メーカーを刺激することになると弊社ではみている。
2つ目のポイントは、武田の『タケキャブ®』の売上高が順調に拡大していることだ。2018年3月期の『タケキャブ®』の売上高は551億円で、前年の341億円から210億円(61.7%)の大幅増加となった。現状は『タケキャブ®』の売上高は国内のみとなっているが、中国やブラジルにおいて新薬承認申請を済ませているほか、欧州でフェーズIIb(後期第二相)に取り組んでいる。さらに日本においては非びらん性胃食道逆流症に適応症を拡大してフェーズIIIを行っている状況だ。武田が『タケキャブ®』の開発・発売に積極的な最大の要因は、実際に服用した患者からのフィードバックが極めて良好である点にあるようだ。どんな商品でも“ユーザーの声”が最大の拡販材料であり、医薬品でも同じと言えるだろう。
3つ目のポイントは、欧州において、P-CABの開発に取り組むバイオベンチャーが出始めている点だ。欧米ではPPI信仰が根強く、P-CABの開発よりもPPIのジェネリックへのシフトが製薬業界の主流の動きであった。そうしたなかで、前述のように『タケキャブ®』が着実に売上げを拡大し、患者から高評価を獲得している現実を踏まえて、改めてP-CABのポテンシャルが評価されてきているものと思われる。
これらの要因に共通して言えることは、P-CABの薬効が高いということだ。この点についてはこれまで、製薬メーカーから過小評価されていた節がある。しかし上記のような動きはP-CABに対する見方が大きく転換されてきていることを示唆している。こうした流れが強まってくれば、“時間を買う”という観点から同社のtegoprazanを導入する機運も高まってくるのではないかと弊社では期待している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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2. カリウムイオン競合型アシッドブロッカー/P-CAB(RQ-4/tegoprazan)の進捗状況
(1) プログラムの概要とこれまでの状況
P-CABとはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(Potassium-Competitive Acid Blocker)の略だ。ラクオリア創薬<4579>のP-CABの一般名はtegoprazan(テゴプラザン)と言う。
P-CABは胃食道逆流症を主たる適応症としており、この市場では現在、プロトンポンプ阻害薬(Proton Pump Inhibitor、PPIと略される)が主流となっている。PPIの代表的な薬剤としては、第一三共<4568>の『ネキシウム®』、武田薬品工業<4502>(以下、武田)の『タケプロン®』などがある。P-CABはPPIの置き換えを狙う次世代新薬として期待されている。P-CABでは武田がトップランナーで、『タケキャブ®』(一般名はvonoprazan)を2015年2月に発売済みだ。同社のtegoprazanはそれに次ぐ2番目のポジションにある。
P-CABへの期待が高い理由はその市場規模にある。PPIやP-CABなどの胃酸分泌抑制剤の世界市場規模は2兆円と言われており、日米欧の主要先進国を初めとして世界中に市場が広がっている。前述のように、この市場ではPPIが主流となっているがP-CABはそれを代替できる潜在力(薬効、特性など)があるとされている。
同社はP-CABを医薬品メーカーに対してライセンスアウトすることで収益化を実現することになるが、これについて同社は、まずアジア地域(韓国・台湾・中国及び東南アジア)について韓国のCJヘルスケアにライセンスアウトした(2010年9月及び2014年11月)。さらに2017年12月にはCJヘルスケアの対象地域をROW(rest of the worldの略、具体的には中東、中南米及び東欧)へと拡大した。一方、日米欧の3大市場については導出先を追求している状況にあり、導出候補プログラムという位置づけとなっている。
P-CABのこうした状況について、日米欧の3大市場についての導出が進まないことをネガティブに評価する向きもあるようだ。この点について弊社では、導出先のCJヘルスケアにおける開発の進捗についてもっとポジティブに評価されても良いのではないかと考えている。また、日米欧の3大市場を対象とした導出の可能性についても、CJヘルスケアの進捗も含めていくつかの“追い風”と言える動きが出てきことに注目している。
(2) CJヘルスケアによる開発状況
tegoprazanの導出先であるCJヘルスケアについては、主たる市場が韓国(日本などに比べて市場規模が小さい)やアジアであって3大市場が含まれていないことから、同社への収益貢献は限定的と評価され、あまり積極的な評価を受けてこなかったように弊社では感じている。しかしながら、CJヘルスケアでの開発は、韓国を初めとして中国や他の地位でも着実に進捗しており、そうした各地から得られるマイルストンなどを合算していくと、収益貢献の規模はそれなりに大きくなる可能性があるというのが現在の弊社の見方だ。
a) 韓国での状況
CJヘルスケアは2017年8月に韓国で承認申請を行い、2018年7月に韓国当局より製造販売が承認された。これにより、同社は承認獲得に伴うマイルストン収入を獲得することになる。収益計上時期は2018年12月期下半期となる。金額は非公表だが、承認の獲得自体は高い蓋然性があったため今期の業績予想には織り込み済みで、予想対比での業績変動要因とはならない見通しだ。
今後の焦点は販売開始のタイミングへと移ることになる。このまま順調に進めば2018年末と想定されている。これは従来からの同社が想定するタイミングであり、中期長期業績計画に対してはニュートラルと言える。ただし、販売開始が遅れる可能性も存在している。ポイントは、新薬に対する公定薬価だ。CJヘルスケアの期待値を下回る水準になるようだと、CJ社と韓国当局との調整・交渉に時間を要し、販売開始がずれ込む可能性が出てくる。この点について弊社では、CJヘルスケアの期待値に沿った公定薬価で決着するのではないかと考えている。理由は、CJヘルスケアの新薬が、純国産と認定される可能性が高く、国産新規薬剤としてのプラス査定が期待できるためだ。
販売が開始されれば同社はヒト領域の医薬品としては初のロイヤルティを獲得することになる。韓国におけるPPI/P-CABの市場規模は500億円と推定されている。日本での『タケキャブ®』の販売実績から見ると、韓国市場でも一定の市場シェアを獲得できるのではないかと弊社ではみている。
b) 中国での状況
CJヘルスケアはP-CABについて中国のLuoxin Pharmaと独占的コラボレーション契約を締結しており、中国国内で臨床試験が進められている。この開発の進捗に伴い、Luoxin PharmaからCJヘルスケアにマイルストンが支払われることになるが、その一部は同社にもマイルストンとして入る契約となっている。中国での開発の現況はフェーズIを実質的に終了して最終報告書をまとめる段階にあり、2018年中にフェーズIIをスキップしてフェーズIIIが開始されることが見込まれている。一般論としてはフェーズIII開始に伴うマイルストンはフェーズIのそれに比べて大きくなると期待され、同社への収益インパクトも一定水準に達すると弊社では期待している。
c) その他の地域での状況
CJヘルスケアはまた、P-CABについて権利を有する地域が日米欧の3大市場を除くほぼ全世界に及んでいることもあって、それら地域での開発にも積極的に取り組んでいる。現状では、1)ロシア・東欧、2)南米、3)インドネシアを中心とする東南アジア、の3つを軸に、それぞれにおいて現地のパートナー候補企業との間で交渉を進めているもようだ。交渉の主軸は(薬効の評価などではなく)経済的な条件面にあるとみられ、合意が得られればスムーズに臨床試験等へと進んでいく可能性がある。それらの開発の進捗に伴い、同社はマイルストンを得ることになる。1つ1つは大きくなくとも、それらが合わされば無視できない収益インパクトをもたらす可能性があると弊社ではみている。
(3) 日米欧の3大市場を対象とした導出の動き
日・米・欧の3大市場を対象としたP-CABの導出はこれまで目立った進捗がなかったが、ここにきていくつかの“追い風”の動きが出てきている。
そのうちの1つは、前述のCJヘルスケアによる製造販売の承認取得だ。一国において製造販売の承認が下りたという事実はやはりインパクトは大きいと言える。また、中国でのフェーズIII試験が開始されることになれば、やはり世界の医薬品メーカーを刺激することになると弊社ではみている。
2つ目のポイントは、武田の『タケキャブ®』の売上高が順調に拡大していることだ。2018年3月期の『タケキャブ®』の売上高は551億円で、前年の341億円から210億円(61.7%)の大幅増加となった。現状は『タケキャブ®』の売上高は国内のみとなっているが、中国やブラジルにおいて新薬承認申請を済ませているほか、欧州でフェーズIIb(後期第二相)に取り組んでいる。さらに日本においては非びらん性胃食道逆流症に適応症を拡大してフェーズIIIを行っている状況だ。武田が『タケキャブ®』の開発・発売に積極的な最大の要因は、実際に服用した患者からのフィードバックが極めて良好である点にあるようだ。どんな商品でも“ユーザーの声”が最大の拡販材料であり、医薬品でも同じと言えるだろう。
3つ目のポイントは、欧州において、P-CABの開発に取り組むバイオベンチャーが出始めている点だ。欧米ではPPI信仰が根強く、P-CABの開発よりもPPIのジェネリックへのシフトが製薬業界の主流の動きであった。そうしたなかで、前述のように『タケキャブ®』が着実に売上げを拡大し、患者から高評価を獲得している現実を踏まえて、改めてP-CABのポテンシャルが評価されてきているものと思われる。
これらの要因に共通して言えることは、P-CABの薬効が高いということだ。この点についてはこれまで、製薬メーカーから過小評価されていた節がある。しかし上記のような動きはP-CABに対する見方が大きく転換されてきていることを示唆している。こうした流れが強まってくれば、“時間を買う”という観点から同社のtegoprazanを導入する機運も高まってくるのではないかと弊社では期待している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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