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窪田製薬HD Research Memo(4):スターガルト病治療薬、PBOSの開発が順調に進む(2)

注目トピックス 日本株
■窪田製薬ホールディングス<4596>の開発パイプラインの動向

(2)PBOS
在宅・遠隔医療モニタリング機器となるPBOSの今後の開発スケジュールとしては、2018年12月期第3四半期に臨床試験を終え、年内に実用機となる超小型OCTの仕様を固め、2019年に量産型試作機の製作と評価及び承認・認証を取得、2019〜2020年に量産体制の確立を目指している。

現在進めている臨床試験では10人の健常者と約30人の血管新生を伴う網膜疾患の患者を対象に、網膜の状態を定期的に測定し、その精度と解像度を評価するとともに、市販のOCT装置との比較による相関性の確認も行っている。今までのところ経過は順調なようで、臨床試験も予定通り年内に終了する見込み。なお、販売戦略については全世界を対象に考えているが、どのエリアで最初に販売するのか、また、マネタイズの方法についても、ハードウェアの販売で収益を得るのか、モニタリングサービスで収益を得ていくのか、そのバランスも含めて検討段階にある。

加齢黄斑変性や黄斑浮腫等の網膜疾患治療の主流は、抗VEGF薬の眼内注射であるが、現在はいくつかの課題が指摘されている。高薬価(1本約15万円)で1.5ヶ月に1回の頻度での投薬が望ましいとされているが、適切な投薬タイミングは患者ごとに異なる。網膜の状態をタイムリーに観察する必要性に対し、患者の経済的な負担や、自覚症状が無い場合もあり、適切なタイミングでの通院検査や投薬が見過ごされることが少なくない。結果的に適切な薬剤投与を行えず、症状を悪化させてしまう。

こうした課題を解決するために開発されるのがPBOSとなる。患者はPBOSを使って自宅で網膜の状態を定期的に測定し、インターネット経由で担当医に撮影画像を送信し病状の診察を受ける。これにより適切な治療を適切なタイミングで受けることが可能となる。また、多くの患者から送られてきた画像データを蓄積し、AI技術を使うことで医者の読影に頼らず、コンピュータが自動的に網膜の状況を判断し、結果を通知するといったサービスも将来的に実現する可能性がある。

PBOSの販売にあたっては販売ネットワークを持つ企業とのパートナー契約を進めていく可能性が高い。対象となるのは、眼科向け医療機器メーカーのほか、抗VEGF薬メーカーも対象となる。PBOSの普及が進むことで、結果的に抗VEGF薬の投与回数が増え、販売量が伸びる可能性があるからだ。弊社では同社の開発パイプラインの中ではPBOSが最も早く商用化される可能性が高いと見ている。網膜疾患の患者数は全世界で1億人以上いると言われ、潜在需要も大きいだけに今後の動向が注目される。

(3) 遺伝子治療(網膜色素変性)
同社は2016年4月に英国マンチェスター大学と、網膜色素変性を含む網膜変性疾患の治療を対象とするオプトジェネティクス(光遺伝学治療)の開発権、並びに全世界での販売権を得る独占契約を締結した。オプトジェネティクスとは網膜の光感受性がない細胞に、光によって活性化されるタンパク質を発現させることにより、光感受性機能を網膜に再生させる遺伝子治療となる。今回は網膜色素変性の治療法として、患者の網膜中にウイルスベクターを用いて光の感受性が高いヒトロドプシン※を注射投与することで、視機能の再生を図る仕組みとなる。

※ヒトの網膜の杆体細胞を構成するタンパク質の一種で、光受容体(光信号を電気信号に変えて脳に伝達する)の機能を果たす。


網膜色素変性は遺伝性の網膜疾患で、4,000人に1人が罹患する希少疾病であり、患者数は世界で約150万人※1、日本では2万人強(難病指定)※2と推計されている。光の明暗を認識する杆体細胞が遺伝子変異により損傷されることで、初期症状として夜盲症や視野狭窄、視力低下などを呈し、時間経過とともに色を認識する錐体細胞の損傷による色覚異常や中心視力が低下、最終的には失明に至る。幼少期より視力低下が進行するケースでは、40歳までに失明する可能性がある。また、網膜色素変性の発症原因となる遺伝子変異の種類は100種類以上あり、現段階で有効な治療法は確立されていない。

※1 Vaidya P, Vaidya A(2015) Retinitis Pigmentosa: Disease Encumbrance in the Eurozone. Int J Ophthalmol Clin Res 2:030
※2 日本眼科学会によれば、国内では10万人に18.7人の患者数がいると推計されている。


同社ではオプトジェネティクスの開発を進めることで、社会的失明(矯正視力0.1未満)とみなされている患者の視機能の回復を目指している。マンチェスター大学におけるマウスを使った実験によれば、オプトジェネティクスで治療したマウスが、スクリーンに投影された襲いかかろうとするフクロウの映像に対して、正常なマウスとほぼ同じ距離の回避行動的反応を示すなど、網膜がもつ視機能のうち光受容の機能が回復したであろうことが確認されている。

遺伝子治療の開発では、目的の細胞(光感受性を持たない細胞)までヒトロドプシンを送り届けるためのウイルスベクターのほか、プロモーターやカプシドの最適化を図ることが重要となる。このため、同社では遺伝子デリバリー技術で数多くの開発実績を持つ独シリオンと2018年1月に共同開発契約(2年間)を締結したほか、プロモーターでは米サーキュラリスとも共同開発を進め、その他アカデミアなどとも協業しながらオプトジェネティクスの開発を進めている。今後の開発スケジュールとしては、2020年のCMCプロセスの確立と非臨床試験の開始、2021年の臨床試験入りを目指して行く。

現在、オプトジェネティクスの開発では複数のベンチャー企業やアステラス製薬<4503>等が臨床試験を行っているが、同社の開発する技術は遺伝子変異の種類に依存しないこと、また、ヒト由来のロドプシンを使っているため他のタンパク質よりも高い光感度が得られることが期待されるほか、炎症反応も最小限に抑えることができると想定されることから、薬理効果や技術的な競合優位性は高いと見ている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)



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