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ワコム Research Memo(5):4つの重要取組事項それぞれにおいて2019年3月期第2四半期に進捗・効果を確認

注目トピックス 日本株
■新中期経営計画『Wacom Chapter 2』の進捗状況

2. 重要取組事項と2019年3月期第2四半期における進捗
(1) 顧客志向の技術革新
新中期経営計画では前述のテクノロジー・リーダーシップのフレームワークに則り、技術革新を具体的なブランド製品へと落とし込み(製品化し)、成長を追求していくことになる。詳細はまだ明らかにされていないが、今後のワコム<6727>の技術的アピールで大きな位置を占めると考えられるのがデジタルインクだ。デジタルインクの進化の方向性の1つとして、VR(Virtual Reality、仮想現実)やMR(Mixed Reality、複合現実)の技術との融合及びそれを生かした製品が示唆されている。また、テクノロジーソリューション事業は、前述のように、パートナー戦略が骨格となっている。大手PC・タブレットメーカー等と提携して同社のペンタブレット技術を拡大させていくというものだ。今後の成長戦略の軸足を新規市場の開拓に置き、具体的市場として、教育分野でのデジタルペンの普及や、デジタル文具市場の開拓、AIとの連携などを想定している。

これまでの具体的な動きとしては、2018年8月にカナダ・バンクーバーで開催されたSIGGRAPH(シーグラフ、CG、アニメ、デジタルアート等の国際展示会)の近くにおいてVR及びMR環境での製品デザインやコンテンツ制作を可能にする実証用試作機(PoC、Proof of Concept)の体験会を開催した。同社はこの領域ではVRを使った3Dデザインソフト開発を行っている英グラビティ・スケッチと協業している。

また、2018年10月には米Magic Leapとの協業を発表した。協業の内容は、空間コンピューティングを活用したMR環境において製品デザインやコンテンツ制作を、複数人数で連携して行うことを可能にするシステムソリューションの開発だ。同時にプロトタイプも公開した。プロトタイプは同社のWacom Intuos Proと、Magic Leapが開発したアプリケーション、ヘッドセットから構成され、4人のメンバーが同じMR画面を共有しながらデザインする事例などが公開された。

これらが実製品として市場にリリースされるまでにはまだ時間を要し、当面の間収益インパクトはない。しかしながら、同社が目指す「テクノロジー・リーダーシップ・カンパニー」というポジショニングの確立に向けては避けて通れない領域であり、地道な開発が今後も続けられる見通しだ。

(2) 組織/オペレーションの改革
同社は課題の解決のための各種施策の一環として組織再編にも取り組んでいる。主眼は“顧客フォーカス”と“簡素化された組織体制”の2つだ。これまでに、デジタルインク関連部署を統合してInk Divisionを設立したほか、CTOオフィスの設立、商品開発プロセスの見直し、事業に帰属したカスタマーサポートへの再編、などにも取り組む方針だ。これらの組織再編により、技術革新、開発手法、CRM(顧客管理)、品質向上などの各種課題の解決を加速させていくことになる。

こうした同社の取り組みを試す格好のチャンスが2019年3月期第2四半期に出現した。ディスプレイ(液晶タブレット)の新製品Wacom Cintiq Pro 24の供給問題だ。この問題が2019年3月期第2四半期決算においては減収減益要因となったのは前述のとおりだが、新中期経営計画においては、まさにこうした問題をいかに解決するかが重要なテーマとなっている。Wacom Cintiq Pro 24に関して言えば、2018年3月に新製品として市場にリリースしたが、直後の2019年3月期第1四半期(4月−6月期)において供給問題が顕在化した。これを受けて同第2四半期(7月−9月期)に対策を進め、同第3四半期(10月−12月期)の年末商戦には需要に対して十分供給できる体制を整えた。また上位機種のWacom Cintiq Pro 32は11月初旬にリリースされたが、2019年3月期下期におけるブランド製品事業の巻き返しのメインエンジンはこれら24/32インチサイズのディスプレイ2機種の拡販であり、想定どおりの業績が達成できれば、同社の組織オペレーションの改革が狙いどおり機能し始めていることの証明になると弊社では考えている。

注意を要するのは、こうした問題が今後も顕在化する可能性があるということだ。過去のレポートでも言及したが、同社は自社のキャパシティを超えて(新製品の開発も含む)業容拡大を図り、それが様々なひずみを生みだして業績不振に陥ったという経緯がある。今回の供給問題もオリジン(根っこ)はそこにあるとみられる。問題に対する対症療法的施策だけでなく、予防的改善策も進めているとみられるが、潜在的リスクとして認識しておくべきだろう。

(3) 利益を重視した財務体質の確立
収益性の観点で同社がまず取り組むのは、販管費の最適化だ。具体的な目標として、「売上高販管費率を過去10年間で最低レベルまで抑制する」ことを掲げている。2013年3月期の26.7%が過去10年の最低値ということになり、これが今後の目安となるとみられる。

重要なことは販管費の絶対額ではなく、あくまでも対売上高比率を引き下げるということだ。同社が掲げるテクノロジー・リーダーシップの実現のためにも、同社は研究開発への積極投資は維持することを明言している。一方で、それ以外の部門での生産性向上とコスト削減を徹底し、分母となる売上高の拡大を図り、売上高販管費率の低減を目指す方針だ。

販管費については、前述のように、2019年3月期第2四半期において明確な進捗がみられた。販管費総額は前年同期比8.5%減少し、売上高販管費率は28.1%に低下した。主要な削減項目のうち、前年同期比で20%近く減少した外注費は、前中期経営計画で導入を目指したグローバル基幹業務システムに関連する費用が減少の主因だ。この辺りに新中期経営計画の効果を読み取ることができるだろう。一方で同社は2019年3月期の研究開発費予算を前期比14%増の5,000百万円としている。2019年3月期第2四半期の研究開発費実績は前年同期比11.4%減の1,826百万円だった。すなわち、下期の販管費は研究開発費の大幅増の影響が想定される。2019年3月期第2四半期実績で満足・安心すべきではなく、まずは通期決算を待ちたい。

(4) 取締役会改編による経営の質向上
井出社長は、経営の質の向上の実現には、個人に依存するのではなく取締役会の十分な議論を経て経営判断を行う体制が不可欠と考えている。テクノロジーカンパニーとして質の高い戦略議論ができる取締役会こそが、井出社長が理想と考える取締役会ということだ。

改編の視点としては、戦略議論ができる人選、取締役会の規模の適性化、公平性・透明性確保のための社外取締役の登用、の3点が挙げられており、この枠組みに沿って取締役会の改編が進むと期待される。

同社は2018年6月に開催された株主総会で井出社長以下総勢8名の取締役を選出した。このうち4名が社外取締役という構成だ。また、社外取締役のうち弁護士の1名を除く3名は企業向けのシステム開発やアウトソ−シング事業、ゲームなどのソフトウェア開発、企業再生支援といった同社の事業領域やこれまでの経緯と関連性の高い分野でキャリアを積み重ねている。目指す方向に沿って取締役会の改編が進んでいると弊社では評価している。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)



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