日本調剤 Research Memo(5):理想とする店づくりと店舗網の拡大を原理原則に則り着実に推進(1)
[18/12/10]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■中長期の成長戦略と進捗状況
日本調剤<3341>は2018年4月に『2030年に向けた長期ビジョン』を公表した。その内容は、国内の社会構造の変化(超高齢化社会の進行など)や医療費削減の要請の増大、薬局に要求される機能の高度化と調剤薬局の淘汰などの環境変化を乗り切り、調剤薬局事業を始めとして各事業を飛躍的に拡大させ、2030年を目途とした企業規模を売上高1兆円にまで高めようというものだ(『2030年に向けた長期ビジョン』の詳細については2018年6月11日付レポート参照)。
そこに至る道程に近道はなく、現在の3事業部門の幹を着実に太くするという地道な努力の積み重ねに尽きる。前述のように、2019年3月期第2四半期決算は、業績数値は増収・大幅減益となったものの、その内容においては各事業セグメントともに中長期的成長に向けた取り組みが着実に進捗していることが確認できるものであった。各事業セグメントの成長戦略と進捗状況は以下のとおりだ。
1. 調剤薬局事業の成長戦略と進捗状況
(1) 成長戦略の全体像
調剤薬局事業は国の健康保険制度の枠内での事業であるため、制度への対応が大前提となる。これまでも繰り返し言及してきたように、国の調剤薬局に対する諸政策は、2015年10月に公表された『患者のための薬局ビジョン』に沿って進められている。目指す薬局像の実現に向けて段階的に進められているが、2018年改定では国が薬局に期待するものがより明確となり、同時にまた、調剤薬局事業者に求められる体力・経営力のハードルが一段上がった(2018年改定の詳細は2018年6月11日付レポート参照)。
こうした事業環境下にあっても同社の成長戦略は揺るがない。すなわち、勝ち残りによるシェア拡大だ。勝ち残りやシェア拡大自体は大手調剤チェーン各社が目指す普遍的なテーマと言える。重要なことはそのための具体的方法論であり、勝ち残りによるシェア拡大をどう実現していくかということだ。
その方法論も突き詰めると、1)どのような店づくりをするかと(what)、2)どうやって店舗網を拡大するか(how)の2つに整理される。店づくりの指針は『患者のための薬局ビジョン』に示されており、同社はそれに沿った店づくりを、同業他社に先んじて実現することを目指している。店舗網拡大については、方法論は自社出店(オーガニック)かM&Aかの2つに大別され、どちらが有効かといった視点で語られることが多い。しかし同社は、どのような店づくりをするのかという大原則に沿った出店を徹底することに主眼を置いており、出店方法は結果論でしかないというスタンスだ。
(2) 店づくりの考え方と進捗状況
同社の店舗戦略の最もベースとなるのは前述のように『患者のための薬局ビジョン』に沿った店づくりだ。国が『患者のための薬局ビジョン』の中で薬局に求めている機能は大きく3つある。すなわち、1)健康サポート機能、2)高度薬学管理機能、3)かかりつけ薬剤師・薬局機能、の3つだ。1)は病気の予防や健康サポートに貢献できることを意味しており、具体的には健康相談受付や受診勧奨・医療機関紹介などの役割が期待されている。2)では専門機関と連携しながら抗がん剤副作用対応や坑HIV薬の選択などを支援することが期待されている。3)では服薬情報の一元的・継続的把握と24時間対応・在宅対応、及び医療機関等との連携が期待されている。
同社は『患者のための薬局ビジョン』への対応と同社自身が目指す“質の高い医療サービスの提供”の実現に向けて、大きく2つのタイプの店舗展開で臨んでいる。すなわち門前薬局とハイブリッド型薬局だ。門前薬局は大学病院や地域の中核的大規模病院の門前の立地で展開するタイプのものだ。一方、ハイブリッド型薬局は、同社が従来「面対応薬局」(人通りの多い場所に立地し、不特定多数の医療機関の処方箋を幅広く受け付ける薬局)と「MC(医療モール)型薬局」(医療モール内に立地し、特定の医療機関の処方箋対応を主とした薬局)の合体型のものを言う。
門前型とハイブリッド型とではその立地の関係もあって、付加的機能で差がある。門前型は大学病院などと連携した高度薬学管理機能を期待される立場にある。一方ハイブリッド型は生活動線に近い立地である点を生かして日常的に健康増進に貢献する健康サポート機能を持たせている。両タイプに共通する基本機能として、かかりつけ薬剤師・薬局機能及び在宅医療機能を具備している。
同社は門前薬局の構成比(店舗数ベース)が71%(2018年9月末時点)と高い点を特長・強みとして店舗展開を進めてきたが、近年はハイブリッド型薬局の展開に注力している。2018年9月末現在、1都3県におけるハイブリッド型薬局の構成比は54%と過半数を占めている。全店ベースのハイブリッド型の構成比は29%とまだ低いが、今後、首都圏、大阪、名古屋等の都市部を中心に出店を加速し、中期的には店舗数の半分を占めることを目指している。
こうした機能分化型の店舗展開策は、同社が店舗経営のKPI(重要経営評価指標)として重視する1店舗当たり売上高とも密接に関係している。例えば在宅医療機能を果たすことは1人薬剤師の店舗では実現は不可能に近い。また、薬剤師1人当たり1日の応需枚数に40枚という制限があることから、門前型にしてもハイブリッド型にしても数人の薬剤師が常駐する規模の店舗におのずとなってくる。そうした店舗が効率的に運営される(すなわちそれだけの応需枚数がある)状況になると売上高もおのずと拡大してくる。理想とする店づくりと1店舗当たりの売上高はニワトリと卵の関係にも似ているが、同社の店づくりの理念や実際の行動を見ていると、店づくりが先にあり、高水準の1店当たり売上高はその結果という関係にあると弊社では考えている。
機能分化型の薬局展開の進捗に伴い質の高い医療サービスの提供も順調に進捗している。健康サポート機能を具体的に果たすものとして同社は、健康相談や管理栄養士による栄養指導などを行う「健康チェックステーション」(同社の登録商標)の設置を進めている。この設置数が2017年3月末の3店舗から1年半後の2018年10月末には52店舗まで順調に拡大している。また、かかりつけ薬剤師の在籍店舗の割合は81.9%(2018年10月16日現在)まで上昇しているほか、1店舗当たりの在宅医療実施件数は2019年3月期第2四半期には191件(年換算382件)と着実に上昇してきている。
新たな取り組みとしては、1)遠隔服薬指導を行う薬局として福岡市内の4薬局が事業登録者認定を取得したことや、2)病院向けの「産休・育休代替薬剤師派遣サービス」の開始、3)「地域フォーミュラリー」策定に向けた事業の開始、などが挙げられる。1)は医療のICT化、医薬連携強化に向けた先行投資(ノウハウ蓄積)という位置付けだ。2)については病院との連携を深めて高度薬学管理機能の強化につなげる狙いもある。3)については医療費の増加抑制に向けたフォーミュラリー※の作成を支援する業務で、地域貢献を目指している。
※フォーミュラリーは「患者に対して最も有効で経済的な医薬品の使用指針」とされ、欧米では定着している医薬品適正使用の標準的なマネジメント手法。
(3) 出店状況
前述の店舗戦略に基づき、2019年3月期第2四半期は19店舗を新規出店した。内訳はオーガニック出店が15店舗、M&Aが4店舗となっている。また、19店舗の店舗タイプ・業態別内訳は、門前(門内含む)型8店舗、ハイブリッド型10店舗、物販1店舗(立地は門内)となっている。同社は年間50店の新規出店を1つの指針としているが、それに照らしても2019年3月期第2四半期の出店は順調と言うことができるだろう。
M&Aに対する同社のスタンスは従来から変わっていない。すなわち、店舗当たり売上高に代表される“日本調剤スタンダード”にかなう案件を吟味しながらM&Aの是非を判断し、店舗数拡大ありきのM&Aは行わないというものだ。同社をM&Aに消極的な企業と評価する向きもあるが、それはM&Aで獲得した店舗数に基づく評価であって、同社の姿勢の評価としては必ずしも的を得たものとは言えないと弊社では考えている。
M&Aについての環境認識として同社は、直近では案件数は増加してきているものの、個々の案件の企業価値としては従来よりも著しく低下していると判断している。いわゆる再生型案件が増加してきており、この傾向は今後も強まるとみている。需給バランスとしては前期までは需要が上回っていたが2019年3月期第2四半期には供給が上回ったとみている。こうした状況認識のもと、これまでどおり、優良案件や再生可能案件中心に取り組む方針だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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日本調剤<3341>は2018年4月に『2030年に向けた長期ビジョン』を公表した。その内容は、国内の社会構造の変化(超高齢化社会の進行など)や医療費削減の要請の増大、薬局に要求される機能の高度化と調剤薬局の淘汰などの環境変化を乗り切り、調剤薬局事業を始めとして各事業を飛躍的に拡大させ、2030年を目途とした企業規模を売上高1兆円にまで高めようというものだ(『2030年に向けた長期ビジョン』の詳細については2018年6月11日付レポート参照)。
そこに至る道程に近道はなく、現在の3事業部門の幹を着実に太くするという地道な努力の積み重ねに尽きる。前述のように、2019年3月期第2四半期決算は、業績数値は増収・大幅減益となったものの、その内容においては各事業セグメントともに中長期的成長に向けた取り組みが着実に進捗していることが確認できるものであった。各事業セグメントの成長戦略と進捗状況は以下のとおりだ。
1. 調剤薬局事業の成長戦略と進捗状況
(1) 成長戦略の全体像
調剤薬局事業は国の健康保険制度の枠内での事業であるため、制度への対応が大前提となる。これまでも繰り返し言及してきたように、国の調剤薬局に対する諸政策は、2015年10月に公表された『患者のための薬局ビジョン』に沿って進められている。目指す薬局像の実現に向けて段階的に進められているが、2018年改定では国が薬局に期待するものがより明確となり、同時にまた、調剤薬局事業者に求められる体力・経営力のハードルが一段上がった(2018年改定の詳細は2018年6月11日付レポート参照)。
こうした事業環境下にあっても同社の成長戦略は揺るがない。すなわち、勝ち残りによるシェア拡大だ。勝ち残りやシェア拡大自体は大手調剤チェーン各社が目指す普遍的なテーマと言える。重要なことはそのための具体的方法論であり、勝ち残りによるシェア拡大をどう実現していくかということだ。
その方法論も突き詰めると、1)どのような店づくりをするかと(what)、2)どうやって店舗網を拡大するか(how)の2つに整理される。店づくりの指針は『患者のための薬局ビジョン』に示されており、同社はそれに沿った店づくりを、同業他社に先んじて実現することを目指している。店舗網拡大については、方法論は自社出店(オーガニック)かM&Aかの2つに大別され、どちらが有効かといった視点で語られることが多い。しかし同社は、どのような店づくりをするのかという大原則に沿った出店を徹底することに主眼を置いており、出店方法は結果論でしかないというスタンスだ。
(2) 店づくりの考え方と進捗状況
同社の店舗戦略の最もベースとなるのは前述のように『患者のための薬局ビジョン』に沿った店づくりだ。国が『患者のための薬局ビジョン』の中で薬局に求めている機能は大きく3つある。すなわち、1)健康サポート機能、2)高度薬学管理機能、3)かかりつけ薬剤師・薬局機能、の3つだ。1)は病気の予防や健康サポートに貢献できることを意味しており、具体的には健康相談受付や受診勧奨・医療機関紹介などの役割が期待されている。2)では専門機関と連携しながら抗がん剤副作用対応や坑HIV薬の選択などを支援することが期待されている。3)では服薬情報の一元的・継続的把握と24時間対応・在宅対応、及び医療機関等との連携が期待されている。
同社は『患者のための薬局ビジョン』への対応と同社自身が目指す“質の高い医療サービスの提供”の実現に向けて、大きく2つのタイプの店舗展開で臨んでいる。すなわち門前薬局とハイブリッド型薬局だ。門前薬局は大学病院や地域の中核的大規模病院の門前の立地で展開するタイプのものだ。一方、ハイブリッド型薬局は、同社が従来「面対応薬局」(人通りの多い場所に立地し、不特定多数の医療機関の処方箋を幅広く受け付ける薬局)と「MC(医療モール)型薬局」(医療モール内に立地し、特定の医療機関の処方箋対応を主とした薬局)の合体型のものを言う。
門前型とハイブリッド型とではその立地の関係もあって、付加的機能で差がある。門前型は大学病院などと連携した高度薬学管理機能を期待される立場にある。一方ハイブリッド型は生活動線に近い立地である点を生かして日常的に健康増進に貢献する健康サポート機能を持たせている。両タイプに共通する基本機能として、かかりつけ薬剤師・薬局機能及び在宅医療機能を具備している。
同社は門前薬局の構成比(店舗数ベース)が71%(2018年9月末時点)と高い点を特長・強みとして店舗展開を進めてきたが、近年はハイブリッド型薬局の展開に注力している。2018年9月末現在、1都3県におけるハイブリッド型薬局の構成比は54%と過半数を占めている。全店ベースのハイブリッド型の構成比は29%とまだ低いが、今後、首都圏、大阪、名古屋等の都市部を中心に出店を加速し、中期的には店舗数の半分を占めることを目指している。
こうした機能分化型の店舗展開策は、同社が店舗経営のKPI(重要経営評価指標)として重視する1店舗当たり売上高とも密接に関係している。例えば在宅医療機能を果たすことは1人薬剤師の店舗では実現は不可能に近い。また、薬剤師1人当たり1日の応需枚数に40枚という制限があることから、門前型にしてもハイブリッド型にしても数人の薬剤師が常駐する規模の店舗におのずとなってくる。そうした店舗が効率的に運営される(すなわちそれだけの応需枚数がある)状況になると売上高もおのずと拡大してくる。理想とする店づくりと1店舗当たりの売上高はニワトリと卵の関係にも似ているが、同社の店づくりの理念や実際の行動を見ていると、店づくりが先にあり、高水準の1店当たり売上高はその結果という関係にあると弊社では考えている。
機能分化型の薬局展開の進捗に伴い質の高い医療サービスの提供も順調に進捗している。健康サポート機能を具体的に果たすものとして同社は、健康相談や管理栄養士による栄養指導などを行う「健康チェックステーション」(同社の登録商標)の設置を進めている。この設置数が2017年3月末の3店舗から1年半後の2018年10月末には52店舗まで順調に拡大している。また、かかりつけ薬剤師の在籍店舗の割合は81.9%(2018年10月16日現在)まで上昇しているほか、1店舗当たりの在宅医療実施件数は2019年3月期第2四半期には191件(年換算382件)と着実に上昇してきている。
新たな取り組みとしては、1)遠隔服薬指導を行う薬局として福岡市内の4薬局が事業登録者認定を取得したことや、2)病院向けの「産休・育休代替薬剤師派遣サービス」の開始、3)「地域フォーミュラリー」策定に向けた事業の開始、などが挙げられる。1)は医療のICT化、医薬連携強化に向けた先行投資(ノウハウ蓄積)という位置付けだ。2)については病院との連携を深めて高度薬学管理機能の強化につなげる狙いもある。3)については医療費の増加抑制に向けたフォーミュラリー※の作成を支援する業務で、地域貢献を目指している。
※フォーミュラリーは「患者に対して最も有効で経済的な医薬品の使用指針」とされ、欧米では定着している医薬品適正使用の標準的なマネジメント手法。
(3) 出店状況
前述の店舗戦略に基づき、2019年3月期第2四半期は19店舗を新規出店した。内訳はオーガニック出店が15店舗、M&Aが4店舗となっている。また、19店舗の店舗タイプ・業態別内訳は、門前(門内含む)型8店舗、ハイブリッド型10店舗、物販1店舗(立地は門内)となっている。同社は年間50店の新規出店を1つの指針としているが、それに照らしても2019年3月期第2四半期の出店は順調と言うことができるだろう。
M&Aに対する同社のスタンスは従来から変わっていない。すなわち、店舗当たり売上高に代表される“日本調剤スタンダード”にかなう案件を吟味しながらM&Aの是非を判断し、店舗数拡大ありきのM&Aは行わないというものだ。同社をM&Aに消極的な企業と評価する向きもあるが、それはM&Aで獲得した店舗数に基づく評価であって、同社の姿勢の評価としては必ずしも的を得たものとは言えないと弊社では考えている。
M&Aについての環境認識として同社は、直近では案件数は増加してきているものの、個々の案件の企業価値としては従来よりも著しく低下していると判断している。いわゆる再生型案件が増加してきており、この傾向は今後も強まるとみている。需給バランスとしては前期までは需要が上回っていたが2019年3月期第2四半期には供給が上回ったとみている。こうした状況認識のもと、これまでどおり、優良案件や再生可能案件中心に取り組む方針だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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