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窪田製薬HD Research Memo(4):スターガルト病治療薬、PBOSの開発が順調に進む(2)

注目トピックス 日本株
■窪田製薬ホールディングス<4596>の主要開発パイプラインの概要と開発動向

3. 在宅・遠隔医療モニタリング機器(網膜疾患)
在宅・遠隔医療モニタリング機器となるPBOSは、2018年10月にプロトタイプ機の臨床試験を完了し、主要評価項目を達成したことを発表している。本臨床試験では米国内の1施設において、12人の健常者と20人のウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄班浮腫等の網膜疾患の患者を対象に、PBOSで網膜の状態を測定し、その精度と解像度について、医療機関等で実際に使われているOCT(光干渉断層計)との比較評価を行った。その結果、網膜の「厚みの計測における再現性」「厚みの変化を捉える性能」及び「医療機関等で使用されているOCTで撮影した画像との相関性」のすべての評価ポイントにおいて、良好な結果が得られたとしている。

同結果を受けて、今後はモバイルタイプの超小型量産機の開発に着手し、2019年内に米国での評価を実施、医療機器としての承認を目指し、2019-2020年に量産体制の確立を目指していく計画となっている。

PBOSが製品化されれば、患者自身が自宅で網膜の状態を測定し、そのデータをインターネット経由で担当の医師が遠隔診断するため、最適なタイミングで治療を行うことが可能となる。特に、患者数が多い加齢黄斑変性に関しては1〜2ヶ月おきに治療薬(抗VEGF薬)の投与が必要だが、適切な投与タイミングは個々の患者によって異なり、網膜の状態をタイムリーに観察する必要性があるのに対して、患者の経済的な負担や自覚症状がない場合もあり、適切なタイミングでの通院検査や投薬が見過ごされることが少なくない。結果的に適切な薬剤投与を行えず、症状を悪化させてしまうケースも多い。

PBOSにより自宅で網膜の状態を測定し、遠隔診断できるシステムが確立されれば、適切な治療を受けることが可能となり、症状を悪化させる患者が減少するメリットが期待できる。また、多くの患者から送られてきた画像データを蓄積し、AI技術を使うことで医者の読影に頼らず、コンピュータが自動的に網膜の状況を判断し、結果を通知するといったサービスも将来的に実現する可能性がある。

今後はビジネスモデルをどのように設定するかが課題で、現在検討を重ねている段階にある。国によって医療行政や保険の仕組みが異なるためで、それぞれの地域に合わせた販売方法やサービス内容、マネタイズの方法などを考えていく必要がある。例えば、PBOSの販売に当たっては販売ネットワークを持つ企業とのパートナー契約を進めていく可能性が考えられる。対象となるのは、眼科向け医療機器メーカーや卸商社のほか、製薬企業も対象となる。PBOSの普及が進むことで、結果的に抗VEGF薬の投与回数が増え、販売量が伸びる可能性もあるためだ。PBOSの販売価格はスマートフォン等と同等の価格帯と既存の医療施設に設置してあるOCT(1千万円以上)と比較して大幅な低価格が実現できる見通しとなっている。このため、医療施設が購入するケースのほか、個人で購入するケースも考えられる。遠隔診断については可能な国とまだ規制でできない国があるため、個別で検討していくことになる。

同社の開発パイプラインの中ではPBOSが最も早く商用化される可能性が高い。網膜疾患の患者数は全世界で1億人以上いると言われ、潜在需要も大きいだけに今後の動向が注目される。

4. 遺伝子治療(網膜色素変性)
同社は2016年4月に英国マンチェスター大学と、網膜色素変性を含む網膜変性疾患の治療を対象とするオプトジェネティクス(光遺伝学治療)の開発権、並びに全世界での販売権を得る独占契約を締結した。オプトジェネティクスとは網膜の光感受性がない細胞に、光によって活性化されるタンパク質を発現させることで、光感受性機能を網膜に再生させる遺伝子治療となる。今回は網膜色素変性の治療法として、患者の網膜中にウイルスベクターを用いて光感受性が高いヒトロドプシンを注射投与することで、視機能の再生を図る技術の確立を目指している。

網膜色素変性は遺伝性の網膜疾患で、4,000人に1人が罹患する稀少疾患であり、患者数は世界で約150万人※1、日本では2万人強(難病指定)※2と推計されている。光の明暗を認識する杆体細胞が遺伝子変異により損傷されることで、初期症状として夜盲症や視野狭窄、視力低下などを呈し、時間経過とともに色を認識する錐体細胞の損傷による色覚異常や中心視力が低下、最終的には失明に至る。幼少期より視力低下が進行するケースでは、40歳までに失明する可能性がある。また、網膜色素変性の発症原因となる遺伝子変異の種類は100種類以上あり、現段階で有効な治療法は確立されていない。

※1 Vaidya P, Vaidya A(2015) Retinitis Pigmentosa: Disease Encumbrance in the Eurozone. Int J Ophthalmol Clin Res 2:030
※2 日本眼科学会によれば、国内では10万人に18.7人の患者数がいると推計されている。


同社ではオプトジェネティクスの開発を進めることで、社会的失明(矯正視力0.1未満)とみなされている患者の視機能回復を目指している。マンチェスター大学におけるマウスを使った実験によれば、オプトジェネティクスで治療したマウスが、スクリーンに投影された襲いかかろうとするフクロウの映像に対して、正常なマウスとほぼ同じ距離の回避行動的反応を示すなど、網膜が持つ視機能のうち光受容の機能が回復したであろうことが確認されている。

遺伝子治療の開発では、目的の細胞(光感受性を持たない細胞)までヒトロドプシンを送り届けるためのウイルスベクターのほか、プロモーターやカプシドの最適化を図ることが重要となる。このため、同社は遺伝子デリバリー技術で数多くの開発実績を持つ独シリオンと2018年1月に共同開発契約(2年間)を締結したほか、プロモーターでは米サーキュラリスとも共同開発を進め、その他アカデミアなどとも協業しながらオプトジェネティクスの開発を進めている。開発スケジュールとしては、2018年にヒトロドプシン、プロモーター、カプシド等の最適化に向けた取り組みを開始しており、2020年にCMCプロセスの確立と非臨床試験の開始、2021年の臨床試験入りを目指していく。

現在、オプトジェネティクスの開発では複数のベンチャー企業やアステラス製薬<4503>等が臨床試験を行っているが、同社の開発する技術は遺伝子変異の種類に依存しないこと、また、ヒト由来のロドプシンを使っているため他のタンパク質よりも高い光感度が得られることが期待されるほか、炎症反応も最小限に抑えることができると想定されるため、薬理効果や技術的な競合優位性は高いと見られる。同技術の開発に成功すれば、失われた視機能が回復する画期的な技術として世界的に注目を浴びるものと予想される。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)



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