三井化学 Research Memo(5):販売数量の増加による増益継続に加え、財務面での改善も一段と進む
[18/12/21]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■中長期成長戦略と進捗状況
1. 『2025長期経営計画』の概要と進捗状況
(1) 『2025長期経営計画』の概要
三井化学<4183>は2018年3月期から『2025長期経営計画』への取り組みを開始した。これは2026年3月期をゴールとする長期経営計画で、1)イノベーションの追求、2)海外市場への展開加速、3)既存事業の競争力強化、の3つの基本戦略から成る。その着実な実行を通じて長期にわたる持続的な成長の実現を目指している。
2025長期経営計画では、売上高2兆円、営業利益2,000億円、売上高営業利益率10%というのが収益面での目標値となっている。一方財務面では、ROE10%以上、ネット・デット/エクイティ比率0.8倍以下の達成を目指している。これらの目標値については当初計画から変更はない。途中経過となる業績計画については、毎年、向こう3ヶ年の業績計画をローリング(見直し)して発表している
同社はまた、2025長期経営計画で目指す姿として、モビリティ、ヘルスケア、フード&パッケージの3セグメントに新事業・次世代事業を加えた“ターゲット事業領域”で全社の利益の80%以上を稼ぎ出すことを目指している。一方、基盤素材は、市況サイクルをまたいで300億円前後の営業利益を安定的に確保することを目標に掲げている。
(2) 2019年3月期第2四半期までの進捗状況
初年度に当たる2018年3月期は、営業利益が期初予想の980億円に対して実績は1,035億円となるなど、売上高、利益ともに、当初計画を上回って着地した。営業利益は前期に続いて2期連続で過去最高を更新した。
2019年3月期は、前述のように第2四半期決算は順調に進捗し、売上高、利益ともに計画を上回って着地した。今通期についても売上高と経常利益の見通しは期初予想から上方修正されている。営業利益は期初予想が据え置かれているが予想が達成されれば3期連続の過去最高更新となる水準にある。
収益面に加えて、財務面でも改善が着実に進んでいる。2026年3月期においてネットD/Eレシオを0.8倍以下という長期目標は2017年3月期末に達成された。その後も低下基調が続き、2019年3月期末には0.70倍まで低下する見通しとなっている。後述するように、各事業セグメントにおいて成長のための様々な投資を着実に実行しながらバランスシートの改善・強化が進んでいることは、同社の収益体質がより筋肉質になってきていることを示しているとともに、将来予想される成長のための大型投資に際しても、安心してそれを見守る余裕度を投資家始め各ステークホルダーに対して提供していると言える。
前回レポート(2018年7月5日付)で収益の質の点について言及した。同社の成長シナリオは、数量差による増益効果を年間100億円規模で確保することを中核としている。2019年3月期においても期初予想の段階では数量差による増益効果が120億円織り込まれている。今第2四半期の実績では、数量差による増益効果が36億円あり、質を伴った利益の獲得という状況が続いていることが確認できた。今下期については、全社ベースの営業利益が上期比66億円の増益と見込まれており、モビリティを始めとする成長領域の3セグメントでは主要な増益要因として数量差が挙げられている。基盤素材についても下期には火災事故の影響がなくなるため、数量差による増益効果を実現できる余地は多分にある。
こうした状況が続いているのは、同社が各セグメントにおいて投資を着実に行っているからに他ならない。以下では各セグメントの成長戦略の主な進捗について説明する。
ギア油添加剤「ルーカント®」と樹脂改質剤「タフマー®」の大型投資を決定
2. モビリティの進捗状況
モビリティでは2026年3月期において700億円の営業利益獲得を目標としている。自動車産業はすそ野が広く、業界を取り巻くテーマも多様だ。したがって成長オポチュニティも、軽量化、EV化、ADAS(先進運転支援システム)、環境対応、快適ニーズなど多数存在している。同社は幅広い製品ラインナップと世界市場をリードする高シェア製品を多く有するという強みを生かして、これらの成長オポチュニティを着実に捉えて収益成長につなげる方針だ。
具体的なアクションとしては、新事業・新製品の開発のための研究開発と、既存製品の生産能力増強の2つが大きなテーマとなっている。そうした中、今第2四半期においては、主力のPPコンパウンドを始め、ギア潤滑剤のルーカント®、エラストマーのタフマー®、金属樹脂一体化製品のポリメタック®などで生産能力増強や新市場開拓の進捗があった。
ルーカント®は炭化水素系合成油で、自動車のディファレンシャルギアやトランスミッションのギア油や潤滑油の添加剤として使用されている。同社は世界最大の潤滑油添加剤メーカーである米ルーブリゾールとのエクスクルーシブ契約(独占契約)のもと、岩国工場で生産したルーカント®を米国のルーブリゾールの工場に送っている。ルーカント®はそこでギアオイルやミッションオイル、エンジンオイルの添加剤として調合され、大手石油会社各社の自動車用油脂類となって、最終的には世界中の自動車の中に入っていくという流れだ。ルーカント®にはギア部品の長寿命化、省燃費化の効果があり、世界的な需要拡大を背景に能力増強が検討されてきた。今回、同社の市原工場に10年ぶりにプラントを新設することを決定した。生産能力は20,000トン/年で、2021年2月の稼働を予定している。
タフマー®はオレフィン系エラストマーで、樹脂改質剤として使用されている。タフマー®の添加によってプラスチックの特性を目的に応じて変えることができるため、自動車、包装材、シューズ材料などの各分野で幅広く利用されている。特に自動車用途に関しては、PPコンパウンドにタフマー®を添加し、バンパーやインパネ(インストルメントパネルの略、運転席の計器盤のこと)など多用途向けにPPコンパウンドを販売している。同社が自動車用PPコンパウンドで世界的大手に成長できた原動力がタフマー®だったという言い方もできるだろう。同社はこのタフマー®について、シンガポール工場の設備をデボトルネックで増強し、現行の200,000トン/年から225,000トン/年に引き上げることを決定した。稼働時期は2020年7月を予定している。タフマー®については同社のPPコンパウンドの増強と軌を一にして動く必要があるため、更なる大型投資も検討されている。
なお、両製品の能力増強は設備投資額合計が200億円に達する大型投資となる。しかしこの点については、両製品とも高シェアで将来性の点でも投資リターンへの不安要素は小さい。また同社のバランスシートの改善が長期目標以上の水準にまで進んでいる点からも懸念する必要はないと弊社では考えている。
PPコンパウンドの増強については前回レポート(2018年7月5日付)で欧州生産拠点建設について言及した。その後の進捗としては、インドでの能力増強が検討されている。2021年3月期の稼働を目指して14,000トン/年程度の増強の線で検討が進められているとみられる。
またモストロンL®(ガラス長繊維強化PPコンパウンド)でも動きがあり、日本と米国での新増設が決定されている。両国とも増強能力は3,500トン/年で、日本は2019年9月、米国は2019年10月の稼働を予定している。モストロンL®については中国でも2021年3月期稼働予定で増強して10,000トン/年体制にすることを検討している。
PPコンパウンド及びモストロンL®の能力増強はいずれも軽量化のニーズが背景にある。軽量化ニーズはガソリン車、EV車に共通したニーズである点がポイントだ。またこれらの投資はコンパウンド化の工場設備であるため設備投資額は比較的小さく、工期も短い。
EV関連ではポリメタック®が水冷LiB(リチウムイオン電池)のモジュールパーツに採用されたことが明らかになった。ポリメタック®は金属と樹脂を射出一体成型することで、接合工程を不要とし、強度確保と軽量化を実現したものだ。LiBについては高出力化に伴い熱マネジメントシステムとして水冷化が主流となっている。その水冷モジュールにポリメタック®を採用することで気密性向上による水漏れリスク低減や製造工程簡略化、軽量化、最適なパーツ設計提案等の実現を図る狙いだ。ポリメタック®を採用したLiBは2019年モデルの欧州車向けOEM採用が決定している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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1. 『2025長期経営計画』の概要と進捗状況
(1) 『2025長期経営計画』の概要
三井化学<4183>は2018年3月期から『2025長期経営計画』への取り組みを開始した。これは2026年3月期をゴールとする長期経営計画で、1)イノベーションの追求、2)海外市場への展開加速、3)既存事業の競争力強化、の3つの基本戦略から成る。その着実な実行を通じて長期にわたる持続的な成長の実現を目指している。
2025長期経営計画では、売上高2兆円、営業利益2,000億円、売上高営業利益率10%というのが収益面での目標値となっている。一方財務面では、ROE10%以上、ネット・デット/エクイティ比率0.8倍以下の達成を目指している。これらの目標値については当初計画から変更はない。途中経過となる業績計画については、毎年、向こう3ヶ年の業績計画をローリング(見直し)して発表している
同社はまた、2025長期経営計画で目指す姿として、モビリティ、ヘルスケア、フード&パッケージの3セグメントに新事業・次世代事業を加えた“ターゲット事業領域”で全社の利益の80%以上を稼ぎ出すことを目指している。一方、基盤素材は、市況サイクルをまたいで300億円前後の営業利益を安定的に確保することを目標に掲げている。
(2) 2019年3月期第2四半期までの進捗状況
初年度に当たる2018年3月期は、営業利益が期初予想の980億円に対して実績は1,035億円となるなど、売上高、利益ともに、当初計画を上回って着地した。営業利益は前期に続いて2期連続で過去最高を更新した。
2019年3月期は、前述のように第2四半期決算は順調に進捗し、売上高、利益ともに計画を上回って着地した。今通期についても売上高と経常利益の見通しは期初予想から上方修正されている。営業利益は期初予想が据え置かれているが予想が達成されれば3期連続の過去最高更新となる水準にある。
収益面に加えて、財務面でも改善が着実に進んでいる。2026年3月期においてネットD/Eレシオを0.8倍以下という長期目標は2017年3月期末に達成された。その後も低下基調が続き、2019年3月期末には0.70倍まで低下する見通しとなっている。後述するように、各事業セグメントにおいて成長のための様々な投資を着実に実行しながらバランスシートの改善・強化が進んでいることは、同社の収益体質がより筋肉質になってきていることを示しているとともに、将来予想される成長のための大型投資に際しても、安心してそれを見守る余裕度を投資家始め各ステークホルダーに対して提供していると言える。
前回レポート(2018年7月5日付)で収益の質の点について言及した。同社の成長シナリオは、数量差による増益効果を年間100億円規模で確保することを中核としている。2019年3月期においても期初予想の段階では数量差による増益効果が120億円織り込まれている。今第2四半期の実績では、数量差による増益効果が36億円あり、質を伴った利益の獲得という状況が続いていることが確認できた。今下期については、全社ベースの営業利益が上期比66億円の増益と見込まれており、モビリティを始めとする成長領域の3セグメントでは主要な増益要因として数量差が挙げられている。基盤素材についても下期には火災事故の影響がなくなるため、数量差による増益効果を実現できる余地は多分にある。
こうした状況が続いているのは、同社が各セグメントにおいて投資を着実に行っているからに他ならない。以下では各セグメントの成長戦略の主な進捗について説明する。
ギア油添加剤「ルーカント®」と樹脂改質剤「タフマー®」の大型投資を決定
2. モビリティの進捗状況
モビリティでは2026年3月期において700億円の営業利益獲得を目標としている。自動車産業はすそ野が広く、業界を取り巻くテーマも多様だ。したがって成長オポチュニティも、軽量化、EV化、ADAS(先進運転支援システム)、環境対応、快適ニーズなど多数存在している。同社は幅広い製品ラインナップと世界市場をリードする高シェア製品を多く有するという強みを生かして、これらの成長オポチュニティを着実に捉えて収益成長につなげる方針だ。
具体的なアクションとしては、新事業・新製品の開発のための研究開発と、既存製品の生産能力増強の2つが大きなテーマとなっている。そうした中、今第2四半期においては、主力のPPコンパウンドを始め、ギア潤滑剤のルーカント®、エラストマーのタフマー®、金属樹脂一体化製品のポリメタック®などで生産能力増強や新市場開拓の進捗があった。
ルーカント®は炭化水素系合成油で、自動車のディファレンシャルギアやトランスミッションのギア油や潤滑油の添加剤として使用されている。同社は世界最大の潤滑油添加剤メーカーである米ルーブリゾールとのエクスクルーシブ契約(独占契約)のもと、岩国工場で生産したルーカント®を米国のルーブリゾールの工場に送っている。ルーカント®はそこでギアオイルやミッションオイル、エンジンオイルの添加剤として調合され、大手石油会社各社の自動車用油脂類となって、最終的には世界中の自動車の中に入っていくという流れだ。ルーカント®にはギア部品の長寿命化、省燃費化の効果があり、世界的な需要拡大を背景に能力増強が検討されてきた。今回、同社の市原工場に10年ぶりにプラントを新設することを決定した。生産能力は20,000トン/年で、2021年2月の稼働を予定している。
タフマー®はオレフィン系エラストマーで、樹脂改質剤として使用されている。タフマー®の添加によってプラスチックの特性を目的に応じて変えることができるため、自動車、包装材、シューズ材料などの各分野で幅広く利用されている。特に自動車用途に関しては、PPコンパウンドにタフマー®を添加し、バンパーやインパネ(インストルメントパネルの略、運転席の計器盤のこと)など多用途向けにPPコンパウンドを販売している。同社が自動車用PPコンパウンドで世界的大手に成長できた原動力がタフマー®だったという言い方もできるだろう。同社はこのタフマー®について、シンガポール工場の設備をデボトルネックで増強し、現行の200,000トン/年から225,000トン/年に引き上げることを決定した。稼働時期は2020年7月を予定している。タフマー®については同社のPPコンパウンドの増強と軌を一にして動く必要があるため、更なる大型投資も検討されている。
なお、両製品の能力増強は設備投資額合計が200億円に達する大型投資となる。しかしこの点については、両製品とも高シェアで将来性の点でも投資リターンへの不安要素は小さい。また同社のバランスシートの改善が長期目標以上の水準にまで進んでいる点からも懸念する必要はないと弊社では考えている。
PPコンパウンドの増強については前回レポート(2018年7月5日付)で欧州生産拠点建設について言及した。その後の進捗としては、インドでの能力増強が検討されている。2021年3月期の稼働を目指して14,000トン/年程度の増強の線で検討が進められているとみられる。
またモストロンL®(ガラス長繊維強化PPコンパウンド)でも動きがあり、日本と米国での新増設が決定されている。両国とも増強能力は3,500トン/年で、日本は2019年9月、米国は2019年10月の稼働を予定している。モストロンL®については中国でも2021年3月期稼働予定で増強して10,000トン/年体制にすることを検討している。
PPコンパウンド及びモストロンL®の能力増強はいずれも軽量化のニーズが背景にある。軽量化ニーズはガソリン車、EV車に共通したニーズである点がポイントだ。またこれらの投資はコンパウンド化の工場設備であるため設備投資額は比較的小さく、工期も短い。
EV関連ではポリメタック®が水冷LiB(リチウムイオン電池)のモジュールパーツに採用されたことが明らかになった。ポリメタック®は金属と樹脂を射出一体成型することで、接合工程を不要とし、強度確保と軽量化を実現したものだ。LiBについては高出力化に伴い熱マネジメントシステムとして水冷化が主流となっている。その水冷モジュールにポリメタック®を採用することで気密性向上による水漏れリスク低減や製造工程簡略化、軽量化、最適なパーツ設計提案等の実現を図る狙いだ。ポリメタック®を採用したLiBは2019年モデルの欧州車向けOEM採用が決定している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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