学研HD Research Memo(7):主力の介護事業では、サ高住とグループホームの2本柱体制で成長加速を目指す
[19/01/31]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■中期経営計画:『Gakken 2020』
5. 医療福祉サービス事業の事業戦略
2つの事業ドメインのうちの医療福祉分野については、学研ホールディングス<9470>は“学研版地域包括ケアシステムの実現”をテーマとして掲げている。前中期経営計画においても“「学研版地域包括ケアシステム」の実現を目指し、事業拡大を推進するとともに、収益力の向上を図る”としており、事業戦略のメインテーマとしては実質的に継続していると言える。
医療福祉分野は、事業セグメントとしては医療福祉サービス事業の1セグメント体制であるが、サブセグメントとして介護、保育、医療の3つの事業に分かれているのは前述のとおりだ。以下、それぞれについて詳述する。
(1) 介護事業
前中期経営計画と比べて事業戦略が最も大きく変化したのは介護事業だ。MSCの子会社化によってグループホーム事業が加わり、介護事業の柱が従来からのサ高住と合わせて2本柱体制となったことが大きい。MCSの業容はサ高住事業に匹敵するため、医療福祉サービス事業の業容は一気に倍増する形となる。この勢いを収益拡大に結び付けるべく、介護事業では“サ高住とグループホームのシナジー創出”をテーマに掲げている。
a) サ高住事業の事業戦略
同社のサ高住事業は、2018年9月末現在の総戸数が5,884戸で、入居戸数は5,485戸、入居率は93.2%となっている。首都圏と湘南の地域は入居率が93、94%台にあるが、西日本は91%台と若干低い状況にある。
こうした状況を踏まえて同社は、首都圏についてはドミナント戦略で施設を拡大し、更なる収益性の向上を目指す方針だ。
湘南地区は同社が2012年に子会社化した(株)ユーミーケアの事業がベースとなっている。商品性や価格帯を含めた事業モデルが同社オリジナルのココファンのモデルとは異なっており、若干入居率が低い。1,000戸近い規模があるため、スケールメリットは出せているとみられるが、トップライングロースに向けて、事業再構築に乗り出す。
西日本地区については、既存施設における入居率向上を目指すことと、未出店エリアへの進出が事業戦略の柱だ。人口動態を見ながら今後も高齢者が増えると予想されるエリアへの出店を目指す。当初は南関東からスタートし、西日本や中部日本の中核都市への拡大を行ってきた。今後も年間約10〜15施設の出店を目指す。
b) グループホームの事業戦略
2018年9月に子会社化したMCSは、2017年8月期の売上高が26,574百万円、営業利益が577百万円で、同社の保育事業等を含めた医療福祉サービス事業セグメントの業容に匹敵する規模を有している。事業内容は認知症の要介護者のための施設介護であるグループホームの運営が中心となっている。他に施設型介護として介護付き有料老人ホームと軽費老人ホームを展開するほか、デイサービスや介護用品のレンタル事業等も行っている。
グループホームは認知症患者が1ユニット9人で共同生活する共同住宅のことだ。少人数であることで残存能力を活かした生活を送れるところがポイントとなっている。そうした特性から規模は1ユニットもしくは2ユニット(18人)を収容する小規模の建物が多い。また入居条件は要支援2もしくは要介護1〜5の認定を受けた要介護者ということになる。
MCSはグループホームを全国に269か所展開しており(2018年11月)、全国トップクラスにある。これを生かして新中期経営計画においては、運営棟数の更なる拡大を目指すほか、サービス向上、海外拠点の収益化に取り組む計画だ。
c) シナジー追求の取り組み
サ高住事業とグループホーム事業のシナジー効果については、比較的シナリオが明確だ。学研ココファンでは年齢以外の要介護度や要支援度の入居条件は設けていないが、要介護度2程度までの高齢者が多い。しかしこうした入居者も年齢とともに自立できなくなりサ高住での対応が難しくなると、退去する場合も出てくる。しかしMCSのグループ化で、認知症による要介護者については、グループ内送客が可能となるケースも出てこよう。
さらに、MCSにとってはマーケティング費用の削減が図れるほか、介護職員の採用に当たって学研ブランドを活用した効率化や、採用後の研修を含めた様々な面でのスケールメリットの実現などで、グループホーム事業の収益性の改善が期待される。
d) 中長期的事業展開
同社が介護事業で目指す姿は『学研版地域包括ケアシステム』の実現だ。これは高齢者住宅や子育て支援施設、障がい者向けサービス施設、専門職(介護士、保育士等)の教育サービスなどの複数のサービスを集約した複合施設を建設し、世代を超えて様々な人々に継ぎ目のないサービスを提供しようというものだ。
同社はこうした施設を既に複数運営している。具体的にはココファン日吉、ココファン柏豊四季台、ココファン横浜鶴見、ココファン藤沢SSTで、いずれも、住まい、介護、子育て支援、医療、交流といったサービスを複合施設で提供している。
学研版地域包括ケアシステムは、複合施設を核とした “街づくり”構想へと発展してきている。同社のココファンを中心に医療機関や調剤薬局、配食サービス、グループホーム、人材育成の教育施設などとの連携を図り、幅広い世代が安心して暮らせる地域コミュニティの形成を目指すものだ。この考え方は国(厚労省)が進める地域包括ケアシステムに沿ったものであり、行政の支援なども期待できると考えられる。ココファンを核に街づくりをリードし、収益成長につなげる狙いだ。
この取り組みは『Gakken 2020』だけでなく、今後の中期経営計画に引き継がれ、時間をかけながら実現されていくものとみられる。
(2) 保育事業
保育事業の事業戦略は新園展開のスピードアップと人材確保がまず挙げられている。これは前中期経営計画で掲げた保育園、学童保育施設の拠点数拡大という目標が計画に未達だったことの反省から来ているとみられる。新園展開の上での最大のボトルネックが人材確保であることは想像に難くない。学研ブランドのフル活用などで人材確保を急ぎ、計画どおりの新規出店を目指す方針だ。
学童保育市場は、少子化の現状でも成長が続いている分野だ。多くの学習塾事業者が進出している領域だがまだパイは残っている市場と言える。ライバル企業の中には英語教育や学習・進学指導などのサービスと組み合わせて魅力度を高める取り組みをしているところも多い。同社の中期経営計画からはそこまでの具体的なアクションは読み取れないが、教育コンテンツの豊富さでは同社も他社に引けを取らないため、そうした施策を織り交ぜながら事業の拡大を図っていくものとみられる。
(3) 医療事業
同社の医療事業は、現状は看護師育成のための教材が中心だが、その分野でもデジタル化が進行している。新中期経営計画においては、医療事業の事業戦略として“e-ラーニングの契約病院数の拡大”が掲げられている。前中期経営計画において、e-ラーニングコンテンツの開発強化に取り組み、一定の進捗を達成したことで、新中期経営計画では販売に力を入れる方針とみられる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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5. 医療福祉サービス事業の事業戦略
2つの事業ドメインのうちの医療福祉分野については、学研ホールディングス<9470>は“学研版地域包括ケアシステムの実現”をテーマとして掲げている。前中期経営計画においても“「学研版地域包括ケアシステム」の実現を目指し、事業拡大を推進するとともに、収益力の向上を図る”としており、事業戦略のメインテーマとしては実質的に継続していると言える。
医療福祉分野は、事業セグメントとしては医療福祉サービス事業の1セグメント体制であるが、サブセグメントとして介護、保育、医療の3つの事業に分かれているのは前述のとおりだ。以下、それぞれについて詳述する。
(1) 介護事業
前中期経営計画と比べて事業戦略が最も大きく変化したのは介護事業だ。MSCの子会社化によってグループホーム事業が加わり、介護事業の柱が従来からのサ高住と合わせて2本柱体制となったことが大きい。MCSの業容はサ高住事業に匹敵するため、医療福祉サービス事業の業容は一気に倍増する形となる。この勢いを収益拡大に結び付けるべく、介護事業では“サ高住とグループホームのシナジー創出”をテーマに掲げている。
a) サ高住事業の事業戦略
同社のサ高住事業は、2018年9月末現在の総戸数が5,884戸で、入居戸数は5,485戸、入居率は93.2%となっている。首都圏と湘南の地域は入居率が93、94%台にあるが、西日本は91%台と若干低い状況にある。
こうした状況を踏まえて同社は、首都圏についてはドミナント戦略で施設を拡大し、更なる収益性の向上を目指す方針だ。
湘南地区は同社が2012年に子会社化した(株)ユーミーケアの事業がベースとなっている。商品性や価格帯を含めた事業モデルが同社オリジナルのココファンのモデルとは異なっており、若干入居率が低い。1,000戸近い規模があるため、スケールメリットは出せているとみられるが、トップライングロースに向けて、事業再構築に乗り出す。
西日本地区については、既存施設における入居率向上を目指すことと、未出店エリアへの進出が事業戦略の柱だ。人口動態を見ながら今後も高齢者が増えると予想されるエリアへの出店を目指す。当初は南関東からスタートし、西日本や中部日本の中核都市への拡大を行ってきた。今後も年間約10〜15施設の出店を目指す。
b) グループホームの事業戦略
2018年9月に子会社化したMCSは、2017年8月期の売上高が26,574百万円、営業利益が577百万円で、同社の保育事業等を含めた医療福祉サービス事業セグメントの業容に匹敵する規模を有している。事業内容は認知症の要介護者のための施設介護であるグループホームの運営が中心となっている。他に施設型介護として介護付き有料老人ホームと軽費老人ホームを展開するほか、デイサービスや介護用品のレンタル事業等も行っている。
グループホームは認知症患者が1ユニット9人で共同生活する共同住宅のことだ。少人数であることで残存能力を活かした生活を送れるところがポイントとなっている。そうした特性から規模は1ユニットもしくは2ユニット(18人)を収容する小規模の建物が多い。また入居条件は要支援2もしくは要介護1〜5の認定を受けた要介護者ということになる。
MCSはグループホームを全国に269か所展開しており(2018年11月)、全国トップクラスにある。これを生かして新中期経営計画においては、運営棟数の更なる拡大を目指すほか、サービス向上、海外拠点の収益化に取り組む計画だ。
c) シナジー追求の取り組み
サ高住事業とグループホーム事業のシナジー効果については、比較的シナリオが明確だ。学研ココファンでは年齢以外の要介護度や要支援度の入居条件は設けていないが、要介護度2程度までの高齢者が多い。しかしこうした入居者も年齢とともに自立できなくなりサ高住での対応が難しくなると、退去する場合も出てくる。しかしMCSのグループ化で、認知症による要介護者については、グループ内送客が可能となるケースも出てこよう。
さらに、MCSにとってはマーケティング費用の削減が図れるほか、介護職員の採用に当たって学研ブランドを活用した効率化や、採用後の研修を含めた様々な面でのスケールメリットの実現などで、グループホーム事業の収益性の改善が期待される。
d) 中長期的事業展開
同社が介護事業で目指す姿は『学研版地域包括ケアシステム』の実現だ。これは高齢者住宅や子育て支援施設、障がい者向けサービス施設、専門職(介護士、保育士等)の教育サービスなどの複数のサービスを集約した複合施設を建設し、世代を超えて様々な人々に継ぎ目のないサービスを提供しようというものだ。
同社はこうした施設を既に複数運営している。具体的にはココファン日吉、ココファン柏豊四季台、ココファン横浜鶴見、ココファン藤沢SSTで、いずれも、住まい、介護、子育て支援、医療、交流といったサービスを複合施設で提供している。
学研版地域包括ケアシステムは、複合施設を核とした “街づくり”構想へと発展してきている。同社のココファンを中心に医療機関や調剤薬局、配食サービス、グループホーム、人材育成の教育施設などとの連携を図り、幅広い世代が安心して暮らせる地域コミュニティの形成を目指すものだ。この考え方は国(厚労省)が進める地域包括ケアシステムに沿ったものであり、行政の支援なども期待できると考えられる。ココファンを核に街づくりをリードし、収益成長につなげる狙いだ。
この取り組みは『Gakken 2020』だけでなく、今後の中期経営計画に引き継がれ、時間をかけながら実現されていくものとみられる。
(2) 保育事業
保育事業の事業戦略は新園展開のスピードアップと人材確保がまず挙げられている。これは前中期経営計画で掲げた保育園、学童保育施設の拠点数拡大という目標が計画に未達だったことの反省から来ているとみられる。新園展開の上での最大のボトルネックが人材確保であることは想像に難くない。学研ブランドのフル活用などで人材確保を急ぎ、計画どおりの新規出店を目指す方針だ。
学童保育市場は、少子化の現状でも成長が続いている分野だ。多くの学習塾事業者が進出している領域だがまだパイは残っている市場と言える。ライバル企業の中には英語教育や学習・進学指導などのサービスと組み合わせて魅力度を高める取り組みをしているところも多い。同社の中期経営計画からはそこまでの具体的なアクションは読み取れないが、教育コンテンツの豊富さでは同社も他社に引けを取らないため、そうした施策を織り交ぜながら事業の拡大を図っていくものとみられる。
(3) 医療事業
同社の医療事業は、現状は看護師育成のための教材が中心だが、その分野でもデジタル化が進行している。新中期経営計画においては、医療事業の事業戦略として“e-ラーニングの契約病院数の拡大”が掲げられている。前中期経営計画において、e-ラーニングコンテンツの開発強化に取り組み、一定の進捗を達成したことで、新中期経営計画では販売に力を入れる方針とみられる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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