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アジア投資 Research Memo(8):今後の収益拡大に向けた中期経営計画を推進

注目トピックス 日本株
■中期経営計画

日本アジア投資<8518>は、2019年3月期より3ヶ年の中期経営計画をスタートしている。「日本とアジアをつなぐ投資会社として、少子高齢化が進む社会に安心・安全で質と生産性の高い未来を創ります」という新たな経営理念のもと、VC業界を取り巻く環境変化への対応や課題解決に向けて、投資方針(本体投資分)の抜本的な見直しを行い、収益拡大に向けた足掛かりを築く内容となっている。すなわち、この3年間を第1段階と位置付け、次の第2段階で収益やキャッシュフローの安定化を実現し、更なる成長に向けた投資を拡大するシナリオである。

具体的には、第1段階として、1)収穫期に入る既存のPE投資資産の売却により、利益・資金を確保するとともに、2)新たな投資方針(詳細は後述)による投資資産の入れ替えを行い、安定収益の拡大と財務健全性向上を目指す。また、3)金融機関への約定返済の削減と、プロジェクト投資事業でのプロジェクトファイナンスによる借入金の増加を図る。そして、第2段階として、4)安定した収益とキャッシュフローを基盤として、更なる成長投資を実施する、という2段構えの戦略となっており、本中期経営計画は第1段階として位置付けられる。

1. 各事業の方向性
(1) PE投資事業
ファンドでの投資は、現状のファンドの投資方針を継続する一方、本体投資は、新たな経営理念やVC業界を取り巻く事業環境の変化を踏まえ、投資方針を抜本的に見直す。すなわち、これまでの「大数の法則(確率論)」に従った散発的な投資から、「JAICとして取り組むべき事業テーマ」を明確に持ち、そのテーマを軸に「企業への投資」(PE投資)と「事業への投資」(プロジェクト投資)を組み合わせる戦略的投資を推進する構えである。

なお、「取り組むべき事業テーマ」については、同社の強み・独自性や市場へのアクセスなどを踏まえ、既存の「再生可能エネルギー」のほか、新規事業として「スマートアグリ(植物工場)」や「ヘルスケア(介護・医療)」を選定している。したがって、今後、本体資金からの投資は、選定した事業テーマに沿った戦略投資※を実施していく。ただし、情勢に応じて柔軟なテーマ設定を継続する方針である(なお、ファンド資金による投資は、事業テーマに限らず、これまで同様、出資者ニーズに沿って投資)。

※事業テーマに基づく「事業への投資」(プロジェクト投資)を行ううえで、パートナーとなる企業へ出資する。これまでもメガソーラープロジェクトにおけるパートナー企業として、リニューアブル・ジャパン及びスマートソーラーへ戦略投資を行ってきた。


(2) プロジェクト投資
安定収益確保のためメガソーラー投資を継続し、投資残高増加を目指すとともに、その成功ノウハウを生かし、他の再生可能エネルギー(バイオマス、バイオガス、風力等)や新規事業テーマである「スマートアグリ」へも展開する。なお、メガソーラー投資資産は、これまで同様、期間損益や資金の状況に応じて中途売却も検討する方針である(長期保有による安定収益と短期売却による足元収益の獲得のバランスを取ることで厚みのある収益基盤の確立を目指す)。また、もう1つの新規事業テーマである「ヘルスケア」についても、実績のあるAIP※の介護施設開発案件への投資を継続する。

※2018年3月期に売却した同社初の高齢者施設プロジェクト(AIP勝どき駅前ビル)におけるパートナー企業。


2. 財務的な目標
(1) 収益構造
メガソーラーを軸とした再生可能エネルギー投資資産も必要に応じて売却しながら、既存PE投資資産の早期流動化による収益を通じて、最終年度(2021年3月期)の最終利益7億円(2019年3月期は5.7億円)、ROE 9%(同8.6%)を目指す。

(2) 財務バランス
相対的にリスクが低く流動性の高いプロジェクト投資資産を積極的に積み上げるとともに、PE投資資産については、既存資産の早期流動化・収益化及び戦略的投資の実行等により入れ替えを図る。具体的には、プロジェクト投資資産を90 億円(2019年3月末は55億円)、プロジェクト投資資産の含み益(割引前累計利益見込額)を200億円(同70億円)にまで拡大する。また、現預金とプロジェクト投資資産の合計額が借入金を56億円上回る財務バランスを実現する。一方、PE投資資産(本体投資分)については、投資方針の見直しに従い、戦略的PE投資に入れ替えながら既存資産の(引当後)残高を10億円(2019年3月末は51億円)にまで縮小する一方、戦略的投資の残高については10億円(同3.7億円)に増やす方針である。

弊社では、VC業界を取り巻く環境が大きく変化しているなかで、投資方針の見直しを行ったことは、同社にとって大きな転機になるものとみている。特に、PE投資事業において、ファンド運用残高が年々縮小傾向をたどり、今後も増加に転じる兆しが見えないなかで、事業テーマに基づくプロジェクト投資の拡大を図る戦略は極めて現実的で合理性が高いと評価している。もっとも、これまでの主力であるベンチャー投資から離れてしまうわけではなく、ベンチャー投資を継続するために必要となる財務基盤を確立するという見方が妥当だろう。また、成長分野であり、かつ同社の強みが生かせる事業テーマの中から、優良なベンチャー企業を見つけ出し、さらには協業を通じてハンズオンを実行できる点においては、今後のベンチャー投資を優位に進めるためにもメリットが大きいと考えられる。さらに言えば、プロジェクト投資事業についても、単なる安定収益源にとどまらず、収益性※にも優れているところは評価すべきポイントと言える。

※同社の試算によれば、2019年3月末の長期保有目的プロジェクト(完成までの投資予定額は約30 億円)における20年間の収入見込み額(累計)は約100億円(割引前の含み益約70億円)。内部収益率(IRR)では10%を超える水準と推定される。


一方、財務的な目標である安定収益の拡大やプロジェクト投資資産の積み上げについては簡単なハードルとは捉えていない。特に、安定収益の拡大については、これまでの軸であった管理報酬がファンド運用残高の縮小に伴って減少する傾向にあることや、売電収益についても立ち上がりの費用などが重荷になることに注意が必要である。また、プロジェクト投資資産の積み上げについても、依然としてメガソーラープロジェクトに拡大余地があるものの、中長期的にはメガソーラー以外のプロジェクトへの取り組みが重要な戦略テーマになるだろう。したがって、収益構造の変化やプロジェクト投資の進捗については、今後も注意深く見守る必要がある。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)




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