東都水産 Research Memo(5):東京冷凍工場終了を他の事業で補う計画
[19/06/17]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■事業概要と近年の取り組み
2. 冷蔵倉庫及びその関連事業と取り組み
(1) 冷蔵倉庫及びその関連事業
東京冷凍工場の営業を終了したため、冷蔵倉庫の運営や水産物の買付・加工・販売を行っている子会社は、AERO TRADINGや埼玉県魚市場、釧路東水冷凍(株)、豊海東都水産冷蔵(株)となった。埼玉県魚市場では2018年2月に冷蔵倉庫機能と多様な物流機能を兼ね備えた「埼玉県魚市場物流センター」を竣工、地域の中小スーパーを含む量販・外食店向けにロジスティックの基点となることが期待されている。カナダ・バンクーバーを本拠とするAERO TRADINGは、主に北米や中国へ向けてオヒョウやボタンエビなど高級高額品種を出荷している。また、グループの海外ネットワークの基点としても期待されており、このような在外子会社を持つ卸売業者はほかにないということも東都水産<8038>の特徴になっている。
(2) 冷蔵倉庫及びその関連事業と取り組み
築地市場閉場とともに営業を終了した東京冷凍工場の収益の減少分を、他の事業や他の冷蔵庫で補う考えである。その1つとして、2018年3月に竣工した埼玉県魚市場物流センターの収益向上や卸売事業へのシナジー創出、新規顧客獲得のための営業を強化している。また、豊洲市場開場を機に豊海東都水産冷蔵では第2工場に続き第1工場の冷却設備を更新、地の利を生かして新規顧客の開拓を強化する計画である。AERO TRADINGでは北米や中国向けの高単価商材の販売強化と漁業権の取得を積極化する方針である。
高度利用で不動産の高収益化を検討
3. 不動産賃貸事業と取り組み
(1) 不動産賃貸事業
不動産賃貸事業では貸しビルや賃貸マンションなど9棟を所有するほか、埼玉県魚市場で埼玉県水産物地方卸売市場の管理・運営を行っている。そのほか、カナダのSUNNY VIEW ENTERPRISEが不動産賃貸事業に携わっている。
(2) 不動産賃貸事業の取り組み
築地6丁目の自己所有の賃貸ビル(東都水ビル)については、築地市場跡地の再開発の行方を見極めながら老朽化対策を検討する。自己所有の晴海ビュータワー(マンション(区分所有))、TS東大井ハイム、大森ハイムといった好立地物件については、老朽化対策として一部建て替えを計画している。埼玉県水産物地方卸売市場の市場開設者として、テナント導入など付属施設の魅力度を上げ、仲卸店舗の減少傾向に歯止めをかけ、賃貸収入の増加策を検討する。
販売ルートや海外事業の強化により課題に対応
4. 厳しい事業環境
(1) 水産業の現状
水産業の現状として、日本の漁業生産量は1984年をピークに減少し、2017年にはピーク時の34%に過ぎなくなった。理由は、資源量の減少に加え、沿岸各国の排他的経済水域の設定による漁業可能海域の縮小で、サバやスルメイカなどは資源が近隣国と、サンマやサバなどは資源が公海とまたがって存在している。その上、日中暫定処置水域や日韓暫定水域、北方四島など、日本の主権的権利が十分及ばない水域が多いことも背景にある。また、日本の漁業者1人当たり生産性や漁船1隻当たり生産性は、アイスランドやノルウェーなどに比してそれぞれ8〜9分の1、13〜25分の1しかなく、加えて日本の水産業では漁業者数の減少と高齢化が同時に進行しているということも要因と思われる。一方、海面・内水面ともに世界的に養殖が大きく増加、2016年の生産量は1960年比でそれぞれ50倍、60倍となっている。漁船漁業の生産量が1980年代後半以降頭打ちになっていることから、世界の漁業・養殖業生産量に占める養殖業の生産量は1960年の5.5%から2016年には54.5%と過半を占めるまでになった。
(2) 水産業の課題
日本国内の食品流通業界では、人手不足による物流コストの上昇や原材料価格上昇による商品の値上げ、消費者の節約志向などの逆風は今後も続くと予測されている。そのほかにも水産物卸売業界には重たい課題が多い。世界的に水産資源が減少し、タコ、マグロ、カニ、ウナギなどの漁獲規制が年々厳しくなる一方、欧米での健康志向の高まりやアジア地域での所得上昇によって世界的に魚食需要が増大している。このため水産物の国際価額が上昇、日本企業の「買い負け」現象が顕著になってきた。また、地球温暖化により魚の回遊水域が変化し、漁獲量が激変しているとも言われている。国内でも、食の多様化や人口減少による魚需要の減少など、水産物卸売市場を取り囲む環境は厳しい。食料品の安全・安心は古くて新しい問題だが、トレーサビリティなど消費者への積極的な情報提供も必要になってきた。また、年々、大型量販店向けなど市場外流通による取引が増加しており、卸売市場を経由する取扱量が減少していることも大きな課題である。
(3) 同社の課題と対策
同社にとっても、需要サイドや供給サイド、競合など同社を取り巻く事業環境は日々厳しくなっており、引き続き拡大が見込みづらい卸売市場や生産者減少による調達ができなくなることへの懸念、スーパーや量販店の台頭による川下から川上への要求の増加・多様化・厳格化、食文化の多様化による魚離れ、競争が市場内だけでなく市場外も含めて激化していることは大きな課題である。こうした課題に対して同社は、業務の効率化などによる既存事業の収益力向上、強化カテゴリーの見極めや新たな販売ルートの開拓、集荷力の強化による国内での事業拡大、(株)トウスイやAERO TRADINGを活用した海外事業の強化を推進する方針である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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2. 冷蔵倉庫及びその関連事業と取り組み
(1) 冷蔵倉庫及びその関連事業
東京冷凍工場の営業を終了したため、冷蔵倉庫の運営や水産物の買付・加工・販売を行っている子会社は、AERO TRADINGや埼玉県魚市場、釧路東水冷凍(株)、豊海東都水産冷蔵(株)となった。埼玉県魚市場では2018年2月に冷蔵倉庫機能と多様な物流機能を兼ね備えた「埼玉県魚市場物流センター」を竣工、地域の中小スーパーを含む量販・外食店向けにロジスティックの基点となることが期待されている。カナダ・バンクーバーを本拠とするAERO TRADINGは、主に北米や中国へ向けてオヒョウやボタンエビなど高級高額品種を出荷している。また、グループの海外ネットワークの基点としても期待されており、このような在外子会社を持つ卸売業者はほかにないということも東都水産<8038>の特徴になっている。
(2) 冷蔵倉庫及びその関連事業と取り組み
築地市場閉場とともに営業を終了した東京冷凍工場の収益の減少分を、他の事業や他の冷蔵庫で補う考えである。その1つとして、2018年3月に竣工した埼玉県魚市場物流センターの収益向上や卸売事業へのシナジー創出、新規顧客獲得のための営業を強化している。また、豊洲市場開場を機に豊海東都水産冷蔵では第2工場に続き第1工場の冷却設備を更新、地の利を生かして新規顧客の開拓を強化する計画である。AERO TRADINGでは北米や中国向けの高単価商材の販売強化と漁業権の取得を積極化する方針である。
高度利用で不動産の高収益化を検討
3. 不動産賃貸事業と取り組み
(1) 不動産賃貸事業
不動産賃貸事業では貸しビルや賃貸マンションなど9棟を所有するほか、埼玉県魚市場で埼玉県水産物地方卸売市場の管理・運営を行っている。そのほか、カナダのSUNNY VIEW ENTERPRISEが不動産賃貸事業に携わっている。
(2) 不動産賃貸事業の取り組み
築地6丁目の自己所有の賃貸ビル(東都水ビル)については、築地市場跡地の再開発の行方を見極めながら老朽化対策を検討する。自己所有の晴海ビュータワー(マンション(区分所有))、TS東大井ハイム、大森ハイムといった好立地物件については、老朽化対策として一部建て替えを計画している。埼玉県水産物地方卸売市場の市場開設者として、テナント導入など付属施設の魅力度を上げ、仲卸店舗の減少傾向に歯止めをかけ、賃貸収入の増加策を検討する。
販売ルートや海外事業の強化により課題に対応
4. 厳しい事業環境
(1) 水産業の現状
水産業の現状として、日本の漁業生産量は1984年をピークに減少し、2017年にはピーク時の34%に過ぎなくなった。理由は、資源量の減少に加え、沿岸各国の排他的経済水域の設定による漁業可能海域の縮小で、サバやスルメイカなどは資源が近隣国と、サンマやサバなどは資源が公海とまたがって存在している。その上、日中暫定処置水域や日韓暫定水域、北方四島など、日本の主権的権利が十分及ばない水域が多いことも背景にある。また、日本の漁業者1人当たり生産性や漁船1隻当たり生産性は、アイスランドやノルウェーなどに比してそれぞれ8〜9分の1、13〜25分の1しかなく、加えて日本の水産業では漁業者数の減少と高齢化が同時に進行しているということも要因と思われる。一方、海面・内水面ともに世界的に養殖が大きく増加、2016年の生産量は1960年比でそれぞれ50倍、60倍となっている。漁船漁業の生産量が1980年代後半以降頭打ちになっていることから、世界の漁業・養殖業生産量に占める養殖業の生産量は1960年の5.5%から2016年には54.5%と過半を占めるまでになった。
(2) 水産業の課題
日本国内の食品流通業界では、人手不足による物流コストの上昇や原材料価格上昇による商品の値上げ、消費者の節約志向などの逆風は今後も続くと予測されている。そのほかにも水産物卸売業界には重たい課題が多い。世界的に水産資源が減少し、タコ、マグロ、カニ、ウナギなどの漁獲規制が年々厳しくなる一方、欧米での健康志向の高まりやアジア地域での所得上昇によって世界的に魚食需要が増大している。このため水産物の国際価額が上昇、日本企業の「買い負け」現象が顕著になってきた。また、地球温暖化により魚の回遊水域が変化し、漁獲量が激変しているとも言われている。国内でも、食の多様化や人口減少による魚需要の減少など、水産物卸売市場を取り囲む環境は厳しい。食料品の安全・安心は古くて新しい問題だが、トレーサビリティなど消費者への積極的な情報提供も必要になってきた。また、年々、大型量販店向けなど市場外流通による取引が増加しており、卸売市場を経由する取扱量が減少していることも大きな課題である。
(3) 同社の課題と対策
同社にとっても、需要サイドや供給サイド、競合など同社を取り巻く事業環境は日々厳しくなっており、引き続き拡大が見込みづらい卸売市場や生産者減少による調達ができなくなることへの懸念、スーパーや量販店の台頭による川下から川上への要求の増加・多様化・厳格化、食文化の多様化による魚離れ、競争が市場内だけでなく市場外も含めて激化していることは大きな課題である。こうした課題に対して同社は、業務の効率化などによる既存事業の収益力向上、強化カテゴリーの見極めや新たな販売ルートの開拓、集荷力の強化による国内での事業拡大、(株)トウスイやAERO TRADINGを活用した海外事業の強化を推進する方針である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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