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クオールHD Research Memo(9):規模拡大と既存店の価値創出の2つの軸で成長を目指す戦略は不変

注目トピックス 日本株
■中長期の成長戦略と進捗状況

2. 保険薬局事業の成長戦略と進捗状況
前述のように、保険薬局事業におけるクオールホールディングス<3034>の成長戦略は、1)規模(店舗数)の拡大と、2)既存店の価値創出、の2つの軸から成っているこの点は従来から一貫しており、ぶれはない。

一方、事業環境においては大きな変化が起こりつつある。現在開会中の第198回通常国会(2019年1月28日−6月26日)に薬機法の一部改正案が提出されていることだ。その中で調剤薬局事業に関連する事項としては、薬局を機能の観点から、1)地域において在宅医療対応や薬物療法の一元管理などを行う「地域連携型」と、2)がん等の薬物療法に関して医療機関との連携のもとで専門性の高いサービスを提供する「専門医療機関連携型」の2つの類型が括り出され、そうした類型が法律で規定される(法制化)される点が重要なポイントと言える。

この改正の目的は患者が自身に適した薬局を選択できるようにすることと明示されている。それと呼応して、地域連携薬局や専門医療機関連携薬局といった名称は、都道府県知事の認定を受けて初めて称することができる、いわゆる名称独占制度となる。これまでは国と事業者との間で、調剤報酬の点数のウエイト付けを通じて政策誘導が行われてきたが、そこには“救済措置”的なものが用意され、また時間の区切りもなかったため、事業者によって受け止め方に差があった。しかし、この改正を機に各店舗の位置付けが名称を伴って明確となり、その上で患者の選択にさらされることになる。事業者の中には、厳しい状況に置かれるところも数多く出てくることが想定される。

こうした環境の変化に直面しても、同社の成長戦略は揺るがない。上述の薬機法の一部改正案の内容は、従前から国が掲げる『患者のための薬局ビジョン』に沿ったものであり、それに対応した店づくりや事業戦略を展開してきた同社にとっては、十分想定の範囲内と言える。会社概要の項で述べたように、同社はマンツーマン薬局と異業種連携による新業態薬局の2つで店舗展開を図っており、この店舗戦略で薬機法の改正に対応できると自信を見せている。

(1) 規模(店舗数)の拡大
店舗拡大戦略の中の、出店方式について、M&A(子会社化、事業譲受等)を積極的に活用していく方針は従来から変更はない。前述のように、2019年3月期は50店舗をM&Aにより取得した。案件のクローズが2019年4月にずれ込んだナチュラルライフを加えると2019年3月期のM&A獲得店舗数は78店舗となる。自社出店の17店舗と合わせると95店舗の出店となり、期初計画の100店舗の出店をほぼ達成したと言えるだろう。

地域的な出店の考え方について同社は、小売業におけるドミナント戦略を1つのモデルとして意識しているようだ。これはマンツーマン薬局のローコストオペレーションという特長ともマッチすると言える。また、人口動態を踏まえて効率性の高い地域、すなわち大都市圏での出店を行いたいという考え方も有している。現在の店舗分布状況は、関東圏322店舗、中部圏177店舗、近畿圏122店舗となっている。2019年3月期から最近までのM&Aは、結果的には中部圏や近畿圏に店舗網を展開する事業者の案件が多かった。関東圏に比べて相対的に手薄だった地域が強化されたことになり、理想的な進捗だったと言える。今後もこうした形で続くと楽観はできないものの、同社としては3大都市圏及び政令指定都市等のエリアでの店舗展開を目指していくものと推測される。

一方、店舗拡大戦略の中の、店舗業態については、マンツーマン薬局と新業態薬局(異業種連携店舗)の2つを軸にしているのは前述のとおりだ。店舗の出店方式と店舗業態との関係を重ね合わせると、新業態は同社自身がローソンやJR西日本のグループ会社などとの提携関係を開拓してきていることもあり、同社自身のオーガニック出店ということになる。一方、M&Aで獲得した店舗及び同社単独による出店は、店舗業態としてはマンツーマン薬局として展開していくことになる。門前薬局を分けて切り出している表を見ると、“医療機関と薬局の緊密な連携関係”というのがマンツーマン薬局の本質であることを考えれば、門前薬局はマンツーマン薬局の中の一類型とも言えるだろう。

前述の薬機法改正との関係では、マンツーマン薬局は医療機関との緊密な連携が特長というベースを生かし、その上でかかりつけ薬剤師・薬局などの機能を充実させて地域連携薬局の認定を狙っていくとみられる。その中で大学病院や中核病院との連携の深い店舗については専門医療機関連携薬局の認定を目指すものと考えられる(薬機法改正は、後述のように「既存店の価値創出」の項でも重要な関係がある)。新業態薬局はいわゆる面対応型店舗となるが、そうした店舗でも医療機関連携を深める、またかかりつけ薬剤師・薬局機能などを充実させて、地域連携薬局の認定を目指していくと考えられる。

言うまでもなく、現時点では新たな薬局類型の定義・要件は定まっていない。今後この点が明確になれば、それに応じて同社も出店モデルを微調整してくると考えられる。

新業態店舗に関する具体的取組目標として同社は、ローソンとの提携に基づく「クオール+ローソン」店舗の拡大を図る方針を明らかにしている。クオール+ローソンは2019年3月末時点で35店舗を擁し、35店舗合計の年商は2019年3月期で100億円突破した状況にある(クオール+ローソン店舗は、すべて同社がローソンのフランチャイジーとして運営する店舗であり、売上高はコンビニ分と調剤分の合計)。こうした実績を踏まえて同社は、東京都区内でクオール+ローソンの100店舗体制を目指すほか、大阪・京都など大都市圏においても出店(水平展開)していく方針だ。コンビニ業界については市場飽和が言われているが、一方で働き方改革や事業承継の問題も浮上してきており、こうした流れのなかで、同社のような法人によるFCには現在主流の個人FCからの転換の受け皿になって拡大余地が生まれるというのが同社のシナリオだ。

弊社ではクオール+ローソンを始めとする新業態の取り組みは、M&Aと並んで新規出店で重要性が今後ますます高まるとみている。そう考える大きな理由は、2019年3月期の処方箋応需枚数の動きだ。既存店の処方箋応需枚数は前期比4.1%増と、同業他社に比して高い伸びを示した。この要因のすべてが新業態にあるわけではないが、面対応型薬局が成長していくうえで、“調剤薬局+他業態”という合わせ技が有効に機能したことも大きく貢献したものと推測している。クオール+ローソンについては、実現性という点でも説得力があると考えている。JR西日本やビックカメラとの連携は、立地面での制約が多いと考えられるのに対してローソンはそれが少ないと考えられる。今後の展開に注目したい。

(2) 既存店の価値創出
既存店における成長について、これまで「売上高の拡大」表現されてきたものが今回、「価値創出」と変わったのは、前述の薬機法の一部改正を念頭に置いたためと考えられる。薬機法の改正への対応が売上拡大に前提条件となるとの認識があるとみられる。

同社の主力業態であるマンツーマン薬局は、特定の医療機関との密接な連携が構築できている店舗のことであり、その密な関係を“マンツーマン”と表現したものだ。“1対1”という表現は誤解を招きやすい面がある(弊社自身もかつてはその1人だった)が、同社のマンツーマン薬局は決して1人薬剤師の店舗が中心というわけではなく、対象とする医療機関が1つというわけでもない。

同社の1店舗当たり薬剤師数は正社員薬剤師ベースで2.86人(2019年3月期実績、公表資料より弊社試算)で、非正社員薬剤師を含めた実態ベースでは4人弱とみられる。また対象医療機関も、都市部であれば商圏内に大小複数の医療機関が存在しており、それら1つ1つと密接な連携を構築している。地方であれば中核の病院を軸に、その周辺に存在するクリニックとも連携するというイメージだ。マンツーマン薬局とはいえ、対象医療機関数としては1対多(1対n)の関係も多いのが実態とみられる。同社自身はこの点をあまり強調しないが、それは、1対多の関係の場合、面対応薬局との境界が曖昧になることを懸念したものと考えられる。同社の店づくりにおける“価値”とははあくまで医療機関との強固な連携関係であり、それを強調する意図がマンツーマン薬局という呼称に込められているということだ。

こうした同社の店づくりの理念は、薬機法の改正への対応でも威力を発揮すると期待される。前術のように、薬機法改正案が通れば、地域連携薬局や専門医療機関連携薬局といった新類型ができることになる。同社のマンツーマン薬局では医療機関連携は言うまでもないが、それに加えてかかりつけ機能を充実させており、地域連携薬局の認定取得がまず期待される。それらの中で、大学病院や地域中核病院などを対象とする薬局は、高度薬学管理機能を備えた専門医療機関連携薬局の認定を獲得することになると考えられる。800近い店舗の何割がどういう認定を取得できるかは、各店舗類型の要件・定義がわからないため同社自身も試算できていないが、同社の自社出店によるマンツーマン薬局は地域連携薬局に認定される可能性は非常に高いと弊社では推測している。

既存店の価値創出に関してはこれまでも、薬機法改正とは関わりなく、自社の薬局の機能強化に向けて、かかりつけ薬剤師・薬局の拡大、健康サポート薬局の拡大、人材教育などに取り組んできた。これらの中で弊社が重要と考えるのは人材の教育・育成だ。国(厚労省)は薬剤師の業務として対人業務の充実と、その反面としての対物業務の効率化を促進する姿勢を明確にしている。これは今後、調剤報酬の配分の変更などに反映されてくると考えられる。これに対しては、同社は社内外資格認定制度を活用して薬剤師のスキル向上に努めている、また、それと表裏一体の関係にある対物業務の効率化については、調剤機器やIT技術の積極活用に従前から取り組んできており、様々な面で国の方針に沿った対応が進捗している。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)



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