サン電子 Research Memo(4):2019年3月期は減収ながら大幅な損益改善を実現。DIが大きく拡大
[19/07/26]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■決算動向
1. 2019年3月期決算の概要
サン電子<6736>の2019年3月期の業績は、売上高が前期比4.0%減の25,243百万円、営業損失が200百万円(前期は1,074百万円の損失)、経常損失が352百万円(同1,102百万円の損失)、親会社株主に帰属する当期純損失が985百万円(同1,293百万円の損失)と減収ながら大幅な損益改善により、損失幅は大きく縮小した。また、期初予想(レンジ形式)に対しても、売上高、営業損失ともにレンジ内(営業損失はレンジ上限)での着地となっている。
世界各地で需要が伸びているモバイルデータソリューション(DI)が計画を上回るペースで大きく拡大している。ただ、売上高全体で減収となったのは、規則改正の影響や前期好調であった遊技機部品の減少によりエンターテインメント関連が落ち込んだことが理由である。また、新規IT関連(M2M等)やその他(ゲームコンテンツ)についても低調であった。
損益面では、利益率の高いモバイルデータソリューションの伸びに伴って売上原価率が32.7%(前期は40.9%)に大きく改善。その結果、他のセグメントの減収による収益の下押しや販管費の増加などがあったものの、営業損失の縮小につながった。また、営業外費用として、持分法による投資損失406百万円(前期は239百万円)※を計上した一方、特別利益には、モバイルデータソリューションにおけるMLCの事業譲渡に伴う譲渡益758百万円が計上されたことから、税金等調整前当期純損益段階では453百万円の利益(前期は1,672百万円の損失)と黒字転換している。
※InfinityARの財務状況の悪化により一時計上したもの。ただし、すべて減損済となったため、今期からは損失の取り込みはなくなる。
一方、親会社株主に帰属する当期純損益が計画を下回ったのは、「繰延税金資産」の取崩しによるものであり、特殊要因(会計上の判断)として捉えることができる。
財政状態について注目すべきは、「現金及び預金」が「前受収益」により大幅に増加したところである。「前受収益」の増加は、将来の売上高の拡大につながるものであると同時に、キャッシュを前倒しで獲得したことにより、成長分野(モバイルデータソリューション)への研究開発費等に有効活用できる点で評価できる。その結果、総資産は前期末3.5%増の26,761百万円に拡大。一方、自己資本は親会社株主に帰属する当期純損失の計上により前期末比21.3%減の8,618百万円に縮小したことから、自己資本比率は32.2%(前期末は42.3%)に低下した。ただ、当面の支払い能力を示す流動比率は138.8%と高い水準を維持しており、財務の安全性に懸念はない。
2. 事業別の業績
(1) モバイルデータソリューション事業
売上高が前期比19.6%増の18,402百万円、セグメント利益が1,794百万円(前期は25百万円の利益)と計画を上回る大幅な増収増益を実現した。MLCの事業譲渡が減収要因となったものの、世界各地で需要が伸びているDIが大きく拡大。特に、欧州圏、APAC(アジア太平洋)での販売の伸びが大きかった。また、為替相場(円安)の影響※やMLCの一部製品の売却も上乗せ要因となったようだ。損益面でも、積極的な研究開発費の投入等により販管費が増加したものの、増収効果により大幅な損益改善を実現した。
※海外子会社にかかる換算レートは111.00円/米ドル(期初想定レートは105.0円/米ドル)。
(2) エンターテインメント関連事業
売上高が前期比40.9%減の5,281百万円、セグメント利益が同97.5%減の17百万円と大きく落ち込んだ。厳しい事業環境等を踏まえ、もともと減収減益を見込んでいたが、それをさらに下回る着地となっている。特に、規則改正の影響や前期好調であった遊技機部品の販売が低調に推移したことが業績の足を引っ張った。
(3) 新規IT関連事業
売上高が前期比21.4%減の1,182百万円、セグメント損失が827百万円(前期は875百万円の損失)と減収ながら損失幅は若干縮小した。売上高の大部分を占めるM2Mについては、IoT等への注目度は高くなってきたものの、本格的な市場形成に時間を要していることや、循環的な需要変動の影響もあり、通信機器(Rooster)の販売(自販機向け等)が一時的に落ち込んだ。また、2018年11月から販売を開始した「おくだけセンサー」についても、まだ実証実験段階にあるものが多く、売上貢献には至っていない。ただ、人手不足が課題となっている業種などで、具体的な導入事例も出てきており、今後に向けては明るい兆しが見えてきた。また、損益面では、費用の効率化により損失は若干縮小した。
AR関連についても、2019年2月から「AceReal」の正式販売を開始したものの、こちらも実証実験段階にあることや、フィールド作業を中心とする業務支援ソリューションの性質から判断すると、完成度を高めるまでには一定の時間が必要になりそうだ。ただ、損益面では、開発がピークアウトしたことから損失は縮小している。
O2Oソリューションは、テイクアウト予約決済アプリ「iToGoプラットフォーム」が好調に推移している。ただ、単価が小さく、売上貢献はまだ限定的である。損益面では、販促や研究開発の強化により、損失は拡大した。
(4) その他
売上高が前期比19.5%減の376百万円、セグメント損失が242百万円(前期は51百万円の損失)と減収かつ損失幅が拡大した。スマートフォン向けのゲームコンテンツの販売が低調に推移するとともに、2018年9月より欧米にて配信を開始したVRゲームコンテンツも苦戦しているようだ。損益面でも、VRゲームコンテンツ等の開発費により損失が拡大した。
3. 2019年3月期の総括
以上から、2019年3月期を総括すれば、エンターテインメント関連の落ち込み等により減収決算となるとともに、2期連続で営業損失を計上したものの、ポテンシャルの大きなモバイルデータソリューションの大幅な伸びを確認できたところはプラス材料となった。特に、ここ数年、採算性が低下してきたMLCを譲渡し、世界各地で需要が伸びているDI向けに経営資源を集中する戦略が奏功していると言える。その結果、まだ業績全体ではV字回復の途上にあるものの、2つの主力事業で新規IT関連等への先行費用を十分に賄うことができる本来の姿に戻ったところは、今後に向けても評価すべきポイントである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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1. 2019年3月期決算の概要
サン電子<6736>の2019年3月期の業績は、売上高が前期比4.0%減の25,243百万円、営業損失が200百万円(前期は1,074百万円の損失)、経常損失が352百万円(同1,102百万円の損失)、親会社株主に帰属する当期純損失が985百万円(同1,293百万円の損失)と減収ながら大幅な損益改善により、損失幅は大きく縮小した。また、期初予想(レンジ形式)に対しても、売上高、営業損失ともにレンジ内(営業損失はレンジ上限)での着地となっている。
世界各地で需要が伸びているモバイルデータソリューション(DI)が計画を上回るペースで大きく拡大している。ただ、売上高全体で減収となったのは、規則改正の影響や前期好調であった遊技機部品の減少によりエンターテインメント関連が落ち込んだことが理由である。また、新規IT関連(M2M等)やその他(ゲームコンテンツ)についても低調であった。
損益面では、利益率の高いモバイルデータソリューションの伸びに伴って売上原価率が32.7%(前期は40.9%)に大きく改善。その結果、他のセグメントの減収による収益の下押しや販管費の増加などがあったものの、営業損失の縮小につながった。また、営業外費用として、持分法による投資損失406百万円(前期は239百万円)※を計上した一方、特別利益には、モバイルデータソリューションにおけるMLCの事業譲渡に伴う譲渡益758百万円が計上されたことから、税金等調整前当期純損益段階では453百万円の利益(前期は1,672百万円の損失)と黒字転換している。
※InfinityARの財務状況の悪化により一時計上したもの。ただし、すべて減損済となったため、今期からは損失の取り込みはなくなる。
一方、親会社株主に帰属する当期純損益が計画を下回ったのは、「繰延税金資産」の取崩しによるものであり、特殊要因(会計上の判断)として捉えることができる。
財政状態について注目すべきは、「現金及び預金」が「前受収益」により大幅に増加したところである。「前受収益」の増加は、将来の売上高の拡大につながるものであると同時に、キャッシュを前倒しで獲得したことにより、成長分野(モバイルデータソリューション)への研究開発費等に有効活用できる点で評価できる。その結果、総資産は前期末3.5%増の26,761百万円に拡大。一方、自己資本は親会社株主に帰属する当期純損失の計上により前期末比21.3%減の8,618百万円に縮小したことから、自己資本比率は32.2%(前期末は42.3%)に低下した。ただ、当面の支払い能力を示す流動比率は138.8%と高い水準を維持しており、財務の安全性に懸念はない。
2. 事業別の業績
(1) モバイルデータソリューション事業
売上高が前期比19.6%増の18,402百万円、セグメント利益が1,794百万円(前期は25百万円の利益)と計画を上回る大幅な増収増益を実現した。MLCの事業譲渡が減収要因となったものの、世界各地で需要が伸びているDIが大きく拡大。特に、欧州圏、APAC(アジア太平洋)での販売の伸びが大きかった。また、為替相場(円安)の影響※やMLCの一部製品の売却も上乗せ要因となったようだ。損益面でも、積極的な研究開発費の投入等により販管費が増加したものの、増収効果により大幅な損益改善を実現した。
※海外子会社にかかる換算レートは111.00円/米ドル(期初想定レートは105.0円/米ドル)。
(2) エンターテインメント関連事業
売上高が前期比40.9%減の5,281百万円、セグメント利益が同97.5%減の17百万円と大きく落ち込んだ。厳しい事業環境等を踏まえ、もともと減収減益を見込んでいたが、それをさらに下回る着地となっている。特に、規則改正の影響や前期好調であった遊技機部品の販売が低調に推移したことが業績の足を引っ張った。
(3) 新規IT関連事業
売上高が前期比21.4%減の1,182百万円、セグメント損失が827百万円(前期は875百万円の損失)と減収ながら損失幅は若干縮小した。売上高の大部分を占めるM2Mについては、IoT等への注目度は高くなってきたものの、本格的な市場形成に時間を要していることや、循環的な需要変動の影響もあり、通信機器(Rooster)の販売(自販機向け等)が一時的に落ち込んだ。また、2018年11月から販売を開始した「おくだけセンサー」についても、まだ実証実験段階にあるものが多く、売上貢献には至っていない。ただ、人手不足が課題となっている業種などで、具体的な導入事例も出てきており、今後に向けては明るい兆しが見えてきた。また、損益面では、費用の効率化により損失は若干縮小した。
AR関連についても、2019年2月から「AceReal」の正式販売を開始したものの、こちらも実証実験段階にあることや、フィールド作業を中心とする業務支援ソリューションの性質から判断すると、完成度を高めるまでには一定の時間が必要になりそうだ。ただ、損益面では、開発がピークアウトしたことから損失は縮小している。
O2Oソリューションは、テイクアウト予約決済アプリ「iToGoプラットフォーム」が好調に推移している。ただ、単価が小さく、売上貢献はまだ限定的である。損益面では、販促や研究開発の強化により、損失は拡大した。
(4) その他
売上高が前期比19.5%減の376百万円、セグメント損失が242百万円(前期は51百万円の損失)と減収かつ損失幅が拡大した。スマートフォン向けのゲームコンテンツの販売が低調に推移するとともに、2018年9月より欧米にて配信を開始したVRゲームコンテンツも苦戦しているようだ。損益面でも、VRゲームコンテンツ等の開発費により損失が拡大した。
3. 2019年3月期の総括
以上から、2019年3月期を総括すれば、エンターテインメント関連の落ち込み等により減収決算となるとともに、2期連続で営業損失を計上したものの、ポテンシャルの大きなモバイルデータソリューションの大幅な伸びを確認できたところはプラス材料となった。特に、ここ数年、採算性が低下してきたMLCを譲渡し、世界各地で需要が伸びているDI向けに経営資源を集中する戦略が奏功していると言える。その結果、まだ業績全体ではV字回復の途上にあるものの、2つの主力事業で新規IT関連等への先行費用を十分に賄うことができる本来の姿に戻ったところは、今後に向けても評価すべきポイントである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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