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TKP Research Memo(5):オフィス利用へのサービス拡充で、日本のフレキシブルオフィス市場をけん引

注目トピックス 日本株
■日本及び台湾リージャスの買収について

2019年5月31日付で、レンタルオフィス「Regus」を展開する日本リージャスを完全子会社化するとともに、その親会社であるIWG plc※(以下IWG)と日本における独占的パートナー契約を締結し、短中期のオフィス事業へ本格参入した。買収にかかる取得価額は約429億円(304百万英ポンド)に上ることから、ティーケーピー<3479>にとっては非常に大型のM&Aに踏み切ったと言える。本件における目的及び今後の方向性、期待される効果、財務への影響等については以下のとおりである。また、2019年8月9日には、台湾でリージャス事業を運営する台湾リージャスの完全子会社化(2019年10月連結化予定)を決定するとともに、日本同様、台湾におけるIWGの独占的パートナーとして長期独占契約を締結した。

※IWG plcはスイスに本社を置く世界最大のワークスペースプロバイダー。レンタルオフィス世界No.1ブランド「Regus」や「Openoffice」、「SPACES」などの多様なブランドをグローバルに展開しており、そのネットワークは世界110ヶ国超、1,100都市超、3,300拠点超、会員250万人超(2018年12月時点)に及ぶ。また、同社が完全子会社化する日本リージャスは、IWGの日本事業として全国約37都市、150拠点以上のレンタルオフィスを展開する日本国内最大のネットワークを持つレンタルオフィス業界の最大手企業である。


1. 目的及び今後の方向性
本件は、同社が進めるフレキシブルオフィス事業※における成長戦略の一環として位置付けられる。すなわち、これまでの会議室利用(時間貸し)に加えて、短中期のオフィス利用(月貸し等)へとサービス領域を広げることにより、多様なスペースの活用が可能となるため、広範な顧客ニーズを取り込むことができ、同時に既存スペースの稼働率向上にもつなげるところに狙いがあると考えられる。これまでも、ポテンシャルが大きく、貸会議室との親和性が高いレンタルオフィス事業への展開を模索してきたが、本件により一気に事業基盤(拠点ネットワーク、顧客基盤、人的資源、ノウハウ、ブランド力等)を獲得することができたと言える。両社を合わせた国内拠点数は約409拠点(約49万3千平方メートル)となり、巨大なネットワークを形成する(2019年7月末現在)。サービス領域の拡充により、今後、拡大が予想される日本のフレキシブルオフィスマーケットをけん引するリーディングカンパニーとして、人々の働き方や企業のオフィスの在り方の変革を後押しするとともに、市場の拡大を自らの成長に結び付けていく戦略を描いている。一方、IWGにとっても、パートナーである同社の事業拡大により、効率よくプラットフォーム使用料を得られるところに最大のメリットがある。一方、台湾リージャスは台湾国内で14拠点(オープン予定含む)を展開するレンタルオフィス業界の最大手であり、台湾でも成長が期待されているフレキシブルオフィス市場への参入に加えて、台湾を皮切りとした海外展開へと弾みをつける方針である。

※一般的なオフィスの賃貸借契約ではなく、より利用者の目的に対応したワークスペースを活用することができる新しいオフィスのあり方のこと。


2. 期待される効果
(1) サービス拡充により広範な顧客ニーズに対応
前述のとおり、サービス領域の拡充や拠点ネットワークの拡大により、国内全域で細分化されたビジネス需要を取り込むことができる上、会議室利用からオフィス利用へ、オフィス利用から会議室利用へと相互送客が可能となるため、顧客とのリレーション強化や顧客単価の向上、営業の効率性を高めることが可能となる。これまでも、同じビルに入居していることが多く、日本リージャスの利用者が同社の会議室を使うなど利用者の重複もあったことから、今後は両社にとっての取りこぼしを防ぐことができる。また、働き方やオフィスの在り方が変わりつつあるなかで、高い利便性や最適化されたサービスの実現を始め、多様な形態のワーキングスペース、付帯サービスの提供などを通じて、同社の事業機会はさらに拡大するものと期待される。

(2) 遊休不動産の最適な活用を促進
不動産の共同仕入れが可能となるため、不動産オーナーへの交渉力や仕入れ業務の効率性を高めることができる。特に、前述のとおり、これまでも同じビルに入居していることが多かったことから、この部分における即効性は高い。また、両社が蓄積してきた遊休不動産の膨大な活用実績に加え、両ブランドが一体となった共同マーケティング、共同開発により、地域特性や物件特性に応じた最適な提案が可能となるため、今後、2次空室に伴う空洞化が予想されるオフィスビルや稼働率の安定しない物件など、不動産オーナーに対しても、これまで以上に最適な活用を促進することができる。

(3) 既存スペースにおける稼働率の向上
これまでの貸会議室(時間貸し)ビジネスにおける稼働率は、季節によって変動はあるものの、年間を通じた平均では30%程度にすぎない。つまり、70%程度は空いている状況となっている。したがって、そこを月単位でのオフィス利用で埋めていくことができれば、稼働率を高い水準で安定化させるとともに、収益性をさらに高めることが可能となる。

(4) グローバルサービスへのアクセスを実現
IWGと締結した独占的パートナー契約により、国内顧客に対し、IWGが全世界で展開するロンドンやニューヨークなどの「Regus」や「Openoffice」「SPACES」などのフレキシブルワークスペースを提供できるほか、IWGの海外顧客に対して、従来の日本リージャスの施設、サービスだけでなく、同社が展開する貸会議室のほか、料飲、ケータリング、宿泊などの付帯サービスへのクロスマーケティングが可能となる。

(5) 成長著しいアジア市場への足掛かり
台湾リージャスの持つネットワークを活かし、台湾での貸会議室事業を本格展開するとともに、リージャス事業とのシナジー効果を相互に享受することで、台湾リージャスの成長にもつなげていく戦略である。また、台湾を皮切りとして海外展開を加速する方針であり、日本で展開するノウハウをもとに、まずは成長著しいアジアへ、そして欧米へとTKPネットワークを世界に拡大していく展望を描いている。

3. 財務への影響
日本リージャス買収にかかる取得価額が約429億円に上ったことで、連結化された2020年2月期第1四半期末の総資産は約1,055億円(前期末は約510億円)に倍増する結果となり、財務面にも大きな影響があったと言える。また、有利子負債も前期末比95.6%増の約702億円に拡大する一方、自己資本比率は10.4%(同21.0%)に低下している。もっとも、新たに発行した優先株式約130億円((株)みずほ銀行向け第三者割当)を含めて判断すると、財務面での悪化は限定的と捉えることもできる。また、取得価額の全額が「のれん」として計上されており、のれん償却費(20年間の均等償却)が期間損益に与える影響はもちろん、減損リスクについても懸念材料として認識する必要がある。

さらに言えば、取得価額(約429億円)は日本リージャスの直近の連結EBITDA(約29億円)の約15倍に当たることから、一般的な見方をすれば、決して低いハードルとは言えない。また、レンタルオフィス市場は、成長性が期待できるとは言え、既に競合が厳しくなりつつあり、事業特性から収益性もあまり高くないとの評価もある。ただ、本件については、業界の中で高い収益性を誇り、今後の展開力も期待できる「Regus」ブランドやその運営ノウハウを獲得できるメリットに加え、買収後のシナジー創出の大きさを勘案すれば、十分に理にかなった投資と言え、のれん償却費も今後の利益成長の中で十分に賄えるものとみている。別の言い方をすれば、レンタルオフィス事業との親和性の高い貸会議室事業を展開する同社だからこそ、成功に導く可能性が高いとも言える。

一方、台湾リージャス(13社合計)の企業価値は約22.7百万英ポンド(約29億円)※と算定されているが、純有利子負債などの調整を行った上で、実績の取得額を確定する予定である。

※1英ポンド128.98円で換算

(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)




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