EMシステムズ Research Memo(1):「完全ストック型」にビジネスモデル転換中
[20/01/07]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■要約
EMシステムズ<4820>は、薬局を中心に、クリニック、介護施設向けに、業務処理用コンピュータシステムの開発・販売を行うITサービス会社である。主力事業である薬局向け調剤業務処理用コンピュータシステムは16,195薬局で利用されており、市場シェアの32.4%を占め業界トップ。ストック型ビジネスモデルに業界内でいち早く移行を開始した。2019年2月及び3月には介護/福祉システム事業強化のためのM&Aを実施し、ヘルスケア分野全般に関するサービス体制が整った。医科・調剤・介護/福祉の垣根を越えた共通情報システム基盤「MAPsシリーズ」は、完全ストック型・クラウド化が特長であり、次世代戦略サービスとして既に出荷が始まっている。
1. 事業概要
同社では薬局向けの調剤業務処理用コンピュータシステムの開発・販売を行う「調剤システム事業」、クリニック向けの医療業務処理用コンピュータシステムや電子カルテシステムなどの開発・販売を行う「医科システム事業」、及び「その他の事業」の3事業を展開している。
主力は「調剤システム事業」であり、薬局向けの調剤業務処理用コンピュータシステムを開発、販売し、付帯するサプライの供給、保守メンテナンスサービスを行う。全社売上高の76.8%(2020年3月期第2四半期)、全社営業利益の104.9%(同)を占める大黒柱である。主要製品は薬局向け調剤業務処理用コンピュータシステム(製品名:「Recepty NEXT」)。ユーザーの薬局数は16,195件(2019年9月末、シェア32.4%)と業界1位である。同社の強みの1つは、ストック型ビジネスモデルを確立したことである。業界内でいち早く売切り制から初期導入費を抑えた従量課金制度を採用したため、同業他社製品に比べ価格競争力が高い。また同業他社が販売代理店制を採っているのに対して、同社は直販が主体の製販一体体制でありユーザーサポート力の高さに定評がある。
2. 2020年3月期第2四半期業績
2020年3月期第2四半期業績は、売上高7,086百万円(前年同期比7.5%増)、営業利益964百万円(同34.3%減)、経常利益1,283百万円(同28.2%減)、親会社株主に帰属する四半期純利益862百万円(同28.0%減)となった。期初の半期予想からは、売上高で8.8%増、営業利益で35.6%増とともに上回る結果である。売上高が好調に推移したのは、消費税増税やWindows7のサポート終了によるハードリプレイスの駆け込み需要の影響が大きかった。また、調剤システム、医科システムともに課金売上が順調に増加した。営業利益に関しては、当初からの戦略どおりハードウェア提供方法の変更に伴う粗利の減少により減益となった。
3. 今後の見通し
2020年3月期の連結業績については、売上高13,174百万円(前期比0.3%増)、営業利益1,358百万円(同48.2%減)、経常利益1,980百万円(同39.1%減)、親会社株主に帰属する当期純利益1,307百万円(同33.7%減)と増収減益を予想しており、期初から変更はない。2018年5月に公表した新中期経営計画のとおり、ビジネスモデルの変革を行い、従来のシステム・ハード・サポートの三位一体販売からシステム重視の販売にシフトしたことで、完全ストック型ビジネスへの切り替えによる初期導入の売上低下が見込まれるため、固めに見込み、減益の計画としている。通期の予想に対する第2四半期を終えた段階の進捗率では、売上高で53.8%(前年同期は50.2%)、営業利益で71.0%(同62.2%)と前期を上回る。しかし、下期は新製品(MAPsシリーズ)による新規顧客・他社リプレイスの促進が本格化し、販売やマーケティングの投資もしっかり行う。弊社では、売上高はやや上振れ、各利益は予想どおりの水準に抑制されることになると通期の着地を予測している。
4. 中長期の成長戦略
同社は医療・介護業界の動向を見据え、永続する企業を目指す新中期経営計画(2018年5月発表)を推進中である。業績好調で企業体力があることを踏まえ、ビジネスモデルの変更という大きな改革を含めた内容となっている。基本戦略としては、(1)医療・介護情報連携の実現、(2)先進テクノロジーを活用した高付加価値製品の提供、(3)操作の簡素化・自動化とシステム費用の大幅削減といった3本柱。これらにより、顧客数の拡大を図り、2023年3月までに、医科システムは10,000件(シェア10%)、調剤システムは25,000件(シェア50%)、介護/福祉システムは10,000件※の確保を図る。これまでの初期料金+課金の「一部ストック型」から「完全ストック型」へのビジネスモデルの変更を行うという大胆なプランである。
※シェア5%、2019年のM&Aにより既にこの数値を超えた。
同社は2018年11月に、医科・調剤・介護/福祉の垣根を越えた業界初の「共通情報システム基盤」である「MAPsシリーズ」を発表し、既に医科向けと調剤向けが出荷されている。同社の次世代を担う戦略プロダクトであり、新中期経営計画の実現は、このサービスの成否にかかっていると言っても過言ではない。その主な特長は(1)操作性を兼ね備えた低価格クラウドサービス、(2)AIなどによる支援機能、(3)一体開発による医科・調剤・介護/福祉従事者間連携機能、である。
5. 株主還元策
同社は株主に対する利益還元を経営上の重要課題の1つとして考えている。具体的には、ROE(自己資本当期純利益率)を重視しつつ配当性向30%を目標とする。2020年3月期は中間配当8円を実施済み。期末配当11円を含めて、合計19円の配当を予想している。2020年3月期は「完全ストック型・クラウド化」に向けた構造改革の最中であり、利益水準が一時的に落ちるが配当金を維持し、安定した株主還元を行う。結果として配当性向は51.1%と一時的に高くなる予想だ。同社は中長期的に保有する株主を増やすことを目的に2020年3月期から株主優待制度を導入する。毎年3月末に100株以上保有しており、かつ1年以上(初年度の2020年3月31日時点の株主に限り半年以上)継続保有している株主に対して、カタログまたはWebサイトから好みの商品を1点(保有株式数に応じて1,000円、3,000円、5,000円相当の品)贈呈する。
■Key Points
・調剤・医科・介護/福祉システム間で三位一体の情報連携可能なシステムを提供するオンリーワン企業。薬局向けシステムでは市場シェア30%以上で首位
・2020年3月期第2四半期は消費税増税やWindows7のサポート終了による駆け込み需要の影響で計画上回る
・「完全ストック型」にビジネスモデル転換中。次世代戦略サービス「MAPsシリーズ(調剤、医科)」は、操作性の高い低価格クラウドサービスでAI等による支援機能が充実
・構造改革の最中も安定配当を維持。中長期保有の株主を増やす目的で2020年3月期から株主優待制度を導入
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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EMシステムズ<4820>は、薬局を中心に、クリニック、介護施設向けに、業務処理用コンピュータシステムの開発・販売を行うITサービス会社である。主力事業である薬局向け調剤業務処理用コンピュータシステムは16,195薬局で利用されており、市場シェアの32.4%を占め業界トップ。ストック型ビジネスモデルに業界内でいち早く移行を開始した。2019年2月及び3月には介護/福祉システム事業強化のためのM&Aを実施し、ヘルスケア分野全般に関するサービス体制が整った。医科・調剤・介護/福祉の垣根を越えた共通情報システム基盤「MAPsシリーズ」は、完全ストック型・クラウド化が特長であり、次世代戦略サービスとして既に出荷が始まっている。
1. 事業概要
同社では薬局向けの調剤業務処理用コンピュータシステムの開発・販売を行う「調剤システム事業」、クリニック向けの医療業務処理用コンピュータシステムや電子カルテシステムなどの開発・販売を行う「医科システム事業」、及び「その他の事業」の3事業を展開している。
主力は「調剤システム事業」であり、薬局向けの調剤業務処理用コンピュータシステムを開発、販売し、付帯するサプライの供給、保守メンテナンスサービスを行う。全社売上高の76.8%(2020年3月期第2四半期)、全社営業利益の104.9%(同)を占める大黒柱である。主要製品は薬局向け調剤業務処理用コンピュータシステム(製品名:「Recepty NEXT」)。ユーザーの薬局数は16,195件(2019年9月末、シェア32.4%)と業界1位である。同社の強みの1つは、ストック型ビジネスモデルを確立したことである。業界内でいち早く売切り制から初期導入費を抑えた従量課金制度を採用したため、同業他社製品に比べ価格競争力が高い。また同業他社が販売代理店制を採っているのに対して、同社は直販が主体の製販一体体制でありユーザーサポート力の高さに定評がある。
2. 2020年3月期第2四半期業績
2020年3月期第2四半期業績は、売上高7,086百万円(前年同期比7.5%増)、営業利益964百万円(同34.3%減)、経常利益1,283百万円(同28.2%減)、親会社株主に帰属する四半期純利益862百万円(同28.0%減)となった。期初の半期予想からは、売上高で8.8%増、営業利益で35.6%増とともに上回る結果である。売上高が好調に推移したのは、消費税増税やWindows7のサポート終了によるハードリプレイスの駆け込み需要の影響が大きかった。また、調剤システム、医科システムともに課金売上が順調に増加した。営業利益に関しては、当初からの戦略どおりハードウェア提供方法の変更に伴う粗利の減少により減益となった。
3. 今後の見通し
2020年3月期の連結業績については、売上高13,174百万円(前期比0.3%増)、営業利益1,358百万円(同48.2%減)、経常利益1,980百万円(同39.1%減)、親会社株主に帰属する当期純利益1,307百万円(同33.7%減)と増収減益を予想しており、期初から変更はない。2018年5月に公表した新中期経営計画のとおり、ビジネスモデルの変革を行い、従来のシステム・ハード・サポートの三位一体販売からシステム重視の販売にシフトしたことで、完全ストック型ビジネスへの切り替えによる初期導入の売上低下が見込まれるため、固めに見込み、減益の計画としている。通期の予想に対する第2四半期を終えた段階の進捗率では、売上高で53.8%(前年同期は50.2%)、営業利益で71.0%(同62.2%)と前期を上回る。しかし、下期は新製品(MAPsシリーズ)による新規顧客・他社リプレイスの促進が本格化し、販売やマーケティングの投資もしっかり行う。弊社では、売上高はやや上振れ、各利益は予想どおりの水準に抑制されることになると通期の着地を予測している。
4. 中長期の成長戦略
同社は医療・介護業界の動向を見据え、永続する企業を目指す新中期経営計画(2018年5月発表)を推進中である。業績好調で企業体力があることを踏まえ、ビジネスモデルの変更という大きな改革を含めた内容となっている。基本戦略としては、(1)医療・介護情報連携の実現、(2)先進テクノロジーを活用した高付加価値製品の提供、(3)操作の簡素化・自動化とシステム費用の大幅削減といった3本柱。これらにより、顧客数の拡大を図り、2023年3月までに、医科システムは10,000件(シェア10%)、調剤システムは25,000件(シェア50%)、介護/福祉システムは10,000件※の確保を図る。これまでの初期料金+課金の「一部ストック型」から「完全ストック型」へのビジネスモデルの変更を行うという大胆なプランである。
※シェア5%、2019年のM&Aにより既にこの数値を超えた。
同社は2018年11月に、医科・調剤・介護/福祉の垣根を越えた業界初の「共通情報システム基盤」である「MAPsシリーズ」を発表し、既に医科向けと調剤向けが出荷されている。同社の次世代を担う戦略プロダクトであり、新中期経営計画の実現は、このサービスの成否にかかっていると言っても過言ではない。その主な特長は(1)操作性を兼ね備えた低価格クラウドサービス、(2)AIなどによる支援機能、(3)一体開発による医科・調剤・介護/福祉従事者間連携機能、である。
5. 株主還元策
同社は株主に対する利益還元を経営上の重要課題の1つとして考えている。具体的には、ROE(自己資本当期純利益率)を重視しつつ配当性向30%を目標とする。2020年3月期は中間配当8円を実施済み。期末配当11円を含めて、合計19円の配当を予想している。2020年3月期は「完全ストック型・クラウド化」に向けた構造改革の最中であり、利益水準が一時的に落ちるが配当金を維持し、安定した株主還元を行う。結果として配当性向は51.1%と一時的に高くなる予想だ。同社は中長期的に保有する株主を増やすことを目的に2020年3月期から株主優待制度を導入する。毎年3月末に100株以上保有しており、かつ1年以上(初年度の2020年3月31日時点の株主に限り半年以上)継続保有している株主に対して、カタログまたはWebサイトから好みの商品を1点(保有株式数に応じて1,000円、3,000円、5,000円相当の品)贈呈する。
■Key Points
・調剤・医科・介護/福祉システム間で三位一体の情報連携可能なシステムを提供するオンリーワン企業。薬局向けシステムでは市場シェア30%以上で首位
・2020年3月期第2四半期は消費税増税やWindows7のサポート終了による駆け込み需要の影響で計画上回る
・「完全ストック型」にビジネスモデル転換中。次世代戦略サービス「MAPsシリーズ(調剤、医科)」は、操作性の高い低価格クラウドサービスでAI等による支援機能が充実
・構造改革の最中も安定配当を維持。中長期保有の株主を増やす目的で2020年3月期から株主優待制度を導入
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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