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エノモト Research Memo(5):荒波を乗り越え経営を盤石化

注目トピックス 日本株
■エノモト<6928>の業績動向

1. ヒストリカルな収益動向
この30年程度を俯瞰すると、起伏の多い業績となっている。「産業のコメ」と言われる半導体関連メーカー向けに電子部品を製造供給しているため、外部環境にある程度左右されるのは仕方なく、高い技術力と適応力でそうした荒波を乗り越えてきた事実は大きい。1990年代はパソコンの普及やデジタル化の流れのなかで半導体向け需要が拡大したが、2000年代に入るとITバブルの崩壊により業績が低迷した。その後LEDの普及とともに業績は改善したが、2008年のリーマンショックを契機に再び業績が低迷した。リーマンショック後は、構造改革が東日本大震災によって後ろ倒しになり、そこへ急激な円高で中韓の電子部品メーカーが低価格で参入、2013年3月期に巨額の当期純損失を記録する要因となった。このため、同社は2014年1月に改めて構造改革をスタート、1987年進出で老朽化していたシンガポール工場を解散したほか、不採算の事業所や静岡工場を閉鎖して人員削減も行った。

こうした構造改革の甲斐あって固定費が削減され、そのタイミングでスマートフォン向けの需要が拡大し、円安の追い風も吹いた。低採算品の値上げ交渉や高品質電子部品の販路拡大も進展した。さらに、これまでの業界環境の悪化や価格競争によって市場を退出したメーカーが多かったこと、スマートフォンのハイスペック化に対応する「メイドインジャパン」品質の電子部品を安定かつ大量に供給できるメーカーが少なくなってきたこと??から営業利益率は急速に改善していった。顧客側からすると、歩留まりの高さなど技術力やニーズへの柔軟な対応が、同社を選択する理由になったと思われる。現在、装置産業であることに加え高精密化やハイスペック化により参入障壁が年々高くなっていることもあり、「残存者メリット」を享受しやすい環境になったと思われる。さらに足元は、車載用やウェアラブルなどで高精度化・超小型化ニーズの拡大という波にも乗りつつある。

同社は、2017年に東京証券取引所JASDAQ(スタンダード)から東京証券取引所第2部へ市場変更、その1年弱後の2018年には東京証券取引所市場第1部への指定替えをスピード達成した。この間既に、人材の採用や外部プロジェクトへの参画などにおいて、1部上場によるステイタス向上の恩恵を受けているもようである。また、ガバナンス面では、執行役員制や監査等委員会制へ移行した。執行役員制への移行により、各部署に担当役員が配置されることになり、権限移譲が進んで意思決定のスピードが速くなった。リスク管理体制の強化も進めており、監査等委員会制への移行とともに内部監査室を設置し、海外工場責任者や管理部門責任者の経験を有する者がその任に当たっている。さらに、無理・無駄をなくすワークフローの改善や新規事業開発など、経営の盤石化は足元も進行中である。


スマートフォン向け電子部品の好調で2ケタ増益
2. 2020年3月期の業績動向
2020年3月期の業績は、売上高22,647百万円(前期比7.6%増)、営業利益1,358百万円(同20.1%増)、経常利益は1,394百万円(同10.6%増)、親会社株主に帰属する当期純利益912百万円(±0%)となった。国内経済は当初、雇用や所得環境が改善傾向になるなど持続的な回復基調にあった。電子部品業界も、自動車向け部品が世界的な自動車販売台数の減少の一方、電装化で1台当たりの搭載が増え、5Gへの過渡期でありながら高機能カメラ付きスマートフォン向けに需要が高い水準で推移した。しかし、2020年初から世界的に広がった新型コロナウイルス感染症により、現状、世界経済の先行きは非常に不透明となっている。

売上面では、前々期好調だった反動でLED向けの在庫調整が続いたが、車載向けは自動車の販売台数が伸び悩んだものの電装化傾向に伴う1台当たり搭載数が増加、スマートフォン向けは当初予測を上回る需要増にウェアラブルの好調が加わった。利益面では、量産品の画像検査自動化など工程改善活動や廉価版における数量効果などにより下期に盛り返し、売上総利益は増益を確保、業務効率化や配置見直しなどで生産性が向上した結果、販管費を削減できた。しかし、営業外損益で前期の為替差益が今期は円高で差損となり、特別損失で回収可能性を考慮して所有不動産の減損を計上したため、当期純利益は前期並みにとどまった。新型コロナウイルス感染症の業績への影響は、海外事業の決算が12月だったこと、国内はスマートフォン向けに需要が強かったことから、結果的に軽微だったと言うことができる。

期初計画との比較で、売上高で1,647百万円、営業利益で159百万円、経常利益で194百万円の超過達成、親会社に帰属する当期純利益7百万円の未達となった。売上過達の要因はスマートフォン向け部品が当初の予測を超えて伸びたことで、ウェアラブルの好調も貢献した。また、営業利益の過達要因は、売上好調に加え、大量生産品目の受注比率上昇による稼働率向上と、自動化など全社で推進した工程改善活動の効果である。なお、当期純利益が未達になったのは、上記減損損失と投資有価証券評価損の発生による。

用途別動向では、車載向け部品が、自動車の販売台数は厳しい状況だが、1台当たりの電子部品搭載率の増加により堅調に推移、フィリピンでもエアバッグの搭載車種の増加や搭載率の上昇でコネクタの点数が増加しており、好調継続となった。スマートフォン向け部品は、米中貿易摩擦の影響で一時苦戦したが、新旧製品がともに好評だったため、その後好転し期末まで好調を持続した。また、ウェアラブル端末向け部品はウォッチタイプに加え、新たにワイヤレスイヤホンの市場が拡大し始めた。心配された米中貿易摩擦だが、第2四半期−第3四半期に限って影響が現れたのみで、第3四半期の途中には急速に戻ったようだ。特に同社は独立系のため、米中貿易摩擦など供給サイドの問題以上に、今回のスマートフォンのように、ヒット商品が出るか否かといった需要サイドの影響のほうが大きいように思われる。

製品群別の売上高は、IC・トランジスタ用リードフレームが7,485百万円(前期比0.4%減)、オプト用リードフレームが2,854百万円(同2.5%減)、コネクタ用部品が11,554百万円(同18.5%増)、その他が752百万円(同12.0%減)となった。IC・トランジスタ用リードフレームは、自動車向け部品が海外での自動車販売台数減少の影響を受けたものの底堅く推移、民生用機器向け部品の受注は比較的安定していた。オプト用リードフレームは、メインのLED用リードフレームは、自動車向け部品や大型ディスプレイ・アドバタイズメントなど設備向け部品が前期好調の反動もあって在庫調整に転じた。第2四半期で若干持ち直したものの、高品質部品の需要も少なく、年度を通してはっきりとした上昇には至らなかった。コネクタ用部品は、想定以上の好調となったスマートフォン向け部品や、需要拡大が続くウェアラブル端末向け部品など需要が高水準で推移した。車載向け大型コネクタの需要は、フィリピンと中国の海外生産品を中心に堅調な推移となった。その他は、メインのリレー用部品の通信基地局向け需要が米中摩擦で低調に推移した。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)




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