アーバネット Research Memo(5):好調な外部環境を追い風に、販売戸数の拡大が業績をけん引
[20/09/08]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■業績動向
1. 過去の業績推移
過去の業績推移を振り返ると、主力である投資用ワンルームマンションにおける販売戸数の拡大がアーバネットコーポレーション<3242>の業績をけん引してきた。2011年6月期に業績が落ち込んでいるのは、2008年のリーマンショックの影響などによる金融引き締めを背景として、しばらく開発物件を凍結していたことによるものである。しかし、2011年6月期をボトムとして、金融緩和の動きとともに、順調に開発物件を積み上げることで業績は回復から拡大基調をたどっており、2020年6月期は2期連続で過去最高業績を更新した。特に、投資用ワンルームマンションの売れ行きが好調であることや、海外投資家や事業会社等への1棟一括直接販売による販売単価の上昇もあいまって、経常利益率も10%前後の水準で推移してきた。
一方、財務面では、開発物件の積み上げなどに伴い有利子負債残高も増加傾向をたどってきたが、内部留保の蓄積に加え、2015年6月の公募増資(約13億円)や2019年12月の公募増資等(約20億円)により、自己資本比率は30%を超える水準となっている。なお、2014年6月期以降、その他(固定資産)が拡大しているのは、安定収益源の確保や融資担保となる賃貸収益物件の取得を進めてきたことや、研究開発として取り組んでいるホテル開発プロジェクト(2020年6月竣工)によるものである。足元では用地取得の困難な状況や物件厳選の方針により、2019年6月期以降、棚卸資産(販売用不動産と仕掛販売用不動産の合計)の伸びは抑え気味となっているが、公募増資等による「現金及び預金」の確保や固定資産(自社保有ホテル)の増加などにより資産残高は拡大している。
2. 2020年6月期業績の概要
2020年6月期の業績は、売上高が前期比9.6%増の22,018百万円、営業利益が同15.7%増の2,484百万円、経常利益が同14.9%増の2,198百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同15.0%増の1,506百万円と増収増益となり、2期連続で過去最高業績を更新した。期初予想に対しても、売上高、各利益ともに上回る着地となっている。
売上高は、堅調な不動産市況を反映して、「不動産開発販売」「不動産仕入販売」「その他(不動産賃貸事業等)」がそれぞれ順調に伸長した。特に、主力の「不動産開発販売」における販売戸数が14棟712戸(前期比41戸増)※に拡大し、増収に寄与した。また、コロナ禍の影響(金融機関の出社制限による最終顧客へのローン手続きの遅れ)により、予定していた販売戸数に対しては23戸下回った(売上計上の期ずれ)ものの、その分をカバーすべく、開発用地の転売を行ったことにより売上高は計画を上回ることができた。一方、「不動産仕入販売」については、買取再販物件(2戸)の売却に加え、一括での物件(12戸)購入・販売により伸長した。「その他(不動産賃貸事業等)」についても、賃貸収益物件の安定稼働が業績の底上げに寄与した。
※販売した14棟のうち、1棟一括販売は6棟であった。
利益面でも、増収により増益となるとともに、営業利益率も11.3%(前期は10.7%)に改善した。既述のとおり、販売戸数の下振れ(期ずれ)分を開発用地の転売でカバーしたことから、売上総利益率は前期と同水準にとどまったものの、販管費の増加抑制により営業利益率の大幅な改善に成功した。従業員数の増加により人件費は増加したが、コロナ禍に伴う活動制限に伴う費用減のほか、経費削減策が奏功したようだ。
財務面では、総資産が前期末比11.6%増の33,999百万円と大きく拡大した。2019年12月に実施した公募増資(約20億円)や子会社による優先株式発行(約15億円)に伴って「現金及び預金」が大幅に増加したほか、自社保有ホテルの竣工により固定資産が拡大したことが理由である。一方、棚卸資産(販売用不動産と仕掛販売用不動産の合計額)が若干減少しているのは、開発用地の選別購入によるものである。また、自己資本も公募増資や内部留保の積み増しなどにより同35.1%増の11,288百万円に拡大し、自己資本比率は33.2%(前期末は27.4%)と大幅に増強された。
キャッシュ・フローの状況に目を向けると、営業キャッシュ・フローは増収及び収益性を重視した開発用地の選別購入によりプラスとなった一方、投資キャッシュ・フローは自社保有ホテルの開発によりマイナスとなったが、営業キャッシュ・フローのプラスの範囲内に収まっている。また、財務キャッシュ・フローについては、公募増資や子会社による優先株式の発行により大きくプラスになり、その結果、「現金及び預金」は前期末比67.9%増の8,908百万円に大きく積み上がった。同社では、コロナ禍の影響を含め、環境変化に機動的に対応しながら、持続的な成長に活用していく方針のようだ。
3. パイプラインの状況
2020年6月末のパイプライン(開発物件)の状況は、2021年6月期の販売予定分674戸に加え、2022年6月期以降の販売予定分として840戸を確保していることから、しばらくは高い業績水準を維持していくことが可能であると評価できる。もっとも、全般的に都心のマンション用地は仕入れが難しい環境が続いている上、コロナ禍による不動産市況の急激な悪化も念頭におき、物件厳選など慎重な仕入れ方針で取り組む方針である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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1. 過去の業績推移
過去の業績推移を振り返ると、主力である投資用ワンルームマンションにおける販売戸数の拡大がアーバネットコーポレーション<3242>の業績をけん引してきた。2011年6月期に業績が落ち込んでいるのは、2008年のリーマンショックの影響などによる金融引き締めを背景として、しばらく開発物件を凍結していたことによるものである。しかし、2011年6月期をボトムとして、金融緩和の動きとともに、順調に開発物件を積み上げることで業績は回復から拡大基調をたどっており、2020年6月期は2期連続で過去最高業績を更新した。特に、投資用ワンルームマンションの売れ行きが好調であることや、海外投資家や事業会社等への1棟一括直接販売による販売単価の上昇もあいまって、経常利益率も10%前後の水準で推移してきた。
一方、財務面では、開発物件の積み上げなどに伴い有利子負債残高も増加傾向をたどってきたが、内部留保の蓄積に加え、2015年6月の公募増資(約13億円)や2019年12月の公募増資等(約20億円)により、自己資本比率は30%を超える水準となっている。なお、2014年6月期以降、その他(固定資産)が拡大しているのは、安定収益源の確保や融資担保となる賃貸収益物件の取得を進めてきたことや、研究開発として取り組んでいるホテル開発プロジェクト(2020年6月竣工)によるものである。足元では用地取得の困難な状況や物件厳選の方針により、2019年6月期以降、棚卸資産(販売用不動産と仕掛販売用不動産の合計)の伸びは抑え気味となっているが、公募増資等による「現金及び預金」の確保や固定資産(自社保有ホテル)の増加などにより資産残高は拡大している。
2. 2020年6月期業績の概要
2020年6月期の業績は、売上高が前期比9.6%増の22,018百万円、営業利益が同15.7%増の2,484百万円、経常利益が同14.9%増の2,198百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同15.0%増の1,506百万円と増収増益となり、2期連続で過去最高業績を更新した。期初予想に対しても、売上高、各利益ともに上回る着地となっている。
売上高は、堅調な不動産市況を反映して、「不動産開発販売」「不動産仕入販売」「その他(不動産賃貸事業等)」がそれぞれ順調に伸長した。特に、主力の「不動産開発販売」における販売戸数が14棟712戸(前期比41戸増)※に拡大し、増収に寄与した。また、コロナ禍の影響(金融機関の出社制限による最終顧客へのローン手続きの遅れ)により、予定していた販売戸数に対しては23戸下回った(売上計上の期ずれ)ものの、その分をカバーすべく、開発用地の転売を行ったことにより売上高は計画を上回ることができた。一方、「不動産仕入販売」については、買取再販物件(2戸)の売却に加え、一括での物件(12戸)購入・販売により伸長した。「その他(不動産賃貸事業等)」についても、賃貸収益物件の安定稼働が業績の底上げに寄与した。
※販売した14棟のうち、1棟一括販売は6棟であった。
利益面でも、増収により増益となるとともに、営業利益率も11.3%(前期は10.7%)に改善した。既述のとおり、販売戸数の下振れ(期ずれ)分を開発用地の転売でカバーしたことから、売上総利益率は前期と同水準にとどまったものの、販管費の増加抑制により営業利益率の大幅な改善に成功した。従業員数の増加により人件費は増加したが、コロナ禍に伴う活動制限に伴う費用減のほか、経費削減策が奏功したようだ。
財務面では、総資産が前期末比11.6%増の33,999百万円と大きく拡大した。2019年12月に実施した公募増資(約20億円)や子会社による優先株式発行(約15億円)に伴って「現金及び預金」が大幅に増加したほか、自社保有ホテルの竣工により固定資産が拡大したことが理由である。一方、棚卸資産(販売用不動産と仕掛販売用不動産の合計額)が若干減少しているのは、開発用地の選別購入によるものである。また、自己資本も公募増資や内部留保の積み増しなどにより同35.1%増の11,288百万円に拡大し、自己資本比率は33.2%(前期末は27.4%)と大幅に増強された。
キャッシュ・フローの状況に目を向けると、営業キャッシュ・フローは増収及び収益性を重視した開発用地の選別購入によりプラスとなった一方、投資キャッシュ・フローは自社保有ホテルの開発によりマイナスとなったが、営業キャッシュ・フローのプラスの範囲内に収まっている。また、財務キャッシュ・フローについては、公募増資や子会社による優先株式の発行により大きくプラスになり、その結果、「現金及び預金」は前期末比67.9%増の8,908百万円に大きく積み上がった。同社では、コロナ禍の影響を含め、環境変化に機動的に対応しながら、持続的な成長に活用していく方針のようだ。
3. パイプラインの状況
2020年6月末のパイプライン(開発物件)の状況は、2021年6月期の販売予定分674戸に加え、2022年6月期以降の販売予定分として840戸を確保していることから、しばらくは高い業績水準を維持していくことが可能であると評価できる。もっとも、全般的に都心のマンション用地は仕入れが難しい環境が続いている上、コロナ禍による不動産市況の急激な悪化も念頭におき、物件厳選など慎重な仕入れ方針で取り組む方針である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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