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シンバイオ製薬 Research Memo(5):ブリンシドフォビルはアデノウイルス感染症を対象とした治験から始める方針

注目トピックス 日本株
■シンバイオ製薬<4582>の開発パイプラインの動向

3. ブリンシドフォビル(注射剤/経口剤)
(1) ブリンシドフォビルの概要とライセンス契約について
「BCV」は、サイトメガロウイルス網膜炎治療薬等で知られているシドフォビル(CDV)に脂肪鎖を結合した構造となっており、CDVよりも高活性の抗ウイルス効果が得られるほか、幅広いウイルスに対して抗ウイルス活性を持つこと、優れた安全性を持つことなどが特徴となっている。「BCV」はCDVに脂肪鎖を結合した構造となっており、CDV単体よりも細胞内に侵入しやすく、また、細胞内に侵入すると脂肪鎖が切り離され、二リン酸と結合することでDNAウイルスの複製を阻害する役割を果たす。このため、CDVや他の抗ウイルス薬と比較してウイルスの増殖抑制効果が格段に高くなるというデータがin vivo試験などで得られている。また、安全性という点においては、CDVが腎尿細管上皮細胞に蓄積することで、腎機能障害を発生するなど腎毒性が強いといった副作用リスクがあったが、「BCV」は脂肪鎖と結合することで逆に腎尿細管上皮細胞内に蓄積されず、腎毒性も回避できるといった優れた特徴を持つ。米国FDAからは、サイトメガロウイルス、アデノウイルス、天然痘を対象としたファーストトラック指定を受けており、欧州EMAからも同様のウイルスを対象にオーファンドラッグ指定を受けている。

キメリックスでは「BCV」を経口剤として開発を進めていたが、第3相臨床試験で下痢等の副作用が発生したほか、統計的に有意な結果が得られず開発を中断していた。その後、抗がん剤分野に経営リソースを集中するため「BCV」のライセンスアウト先を探していたところ、新規導入品を探索していた同社とタイミングが合致し、2019年9月にグローバルでの製造・販売・開発(天然痘を除く)に関するライセンス契約の締結に至った。同社が導入を決めたポイントは、「BCV」の対象疾患が「希少疾患」かつ「空白の治療領域」であり、同社の開発ターゲットと合致していたこと、また、対象が「トレアキシン(R)」と同じ血液疾患領域であるため、営業面でのシナジー効果が大きいと判断したことにある。

なお、キメリックスが経口剤の開発に中断した原因として、消化器官からの薬剤の吸収率が低かったことにあると同社では見ている。注射剤であれば経口剤の1割の投与量で同じ効果が期待できるため、成功確率も高くなることが想定される。なお、今回の契約では注射剤だけでなく経口剤についても契約内容に含まれている。経口剤に関しても今後、製剤改良を行うことで課題を解決できる可能性があると考えたためだ。なお、天然痘だけ契約の対象外となっているのは、バイオテロ対策として天然痘治療薬を米国政府が自国で製造、備蓄しておく必要があるためで、キメリックスは2020年内にもFDAに対して販売承認申請を行う予定となっている。

今回のライセンス契約ではグローバルライセンスであること、また、製造権も含めた契約になっているところが注目点となる。対象疾患は造血幹細胞移植後又は臓器移植後のウイルス感染症となるが、特に、臓器移植は欧米だけでなくアジアの市場が大きく、潜在的な市場規模も大きい。同社は従来も「トレアキシン(R)」を韓国、台湾、シンガポール向けにパートナーを通じて販売してきたが、規模は小さく業績に与える影響も軽微だった。「BCV」の海外での展開に成功すれば、グローバル・スペシャリティファーマとして成長することも可能となる。

また、製造権も含めたライセンス契約としたのは、2019年12月期に発生した「トレアキシン(R)」での品質不良問題が影響している。製造も含めて自社でコントロールし、事業リスクを極力抑える体制を構築していくことが重要との認識だ。製造委託先の選定を現在進めているが、高活性のウイルス製剤を製造できる技術があれば可能であり、臨床試験の開始までに決定する。なお、ライセンス契約締結に伴い、開発元のキメリックスに対しては、契約一時金5百万米ドル(約540百万円)を2019年12月期第3四半期に支払い、将来的なマイルストーンとして最大180百万米ドル(約194億円)、製品売上高に応じて2ケタ台のロイヤリティを支払う契約となっている。

(2) 今後の開発方針
同社は「BCV」(注射剤)の開発戦略について、2020年2月に開催したグローバルアドバイザリーボードにおいて、今後の方針を決定している。具体的には、「BCV」の強みとなるマルチウイルス活性を生かした開発を進めていくこと、治療薬が無く、医療ニーズの高いアデノウイルスを含むマルチ感染症をターゲットとすること、医療ニーズの高い小児の移植領域を最優先に開発することの3点を決定した。

専門医の委員からの強い要望もあり、最初の開発ターゲットとしては造血幹細胞移植後のアデノウイルス感染症を対象とした国際共同第2相臨床試験(日米欧)から始めることとした。安全性についてはキメリックスが実施した臨床試験(1,000人超の症例)のデータを活用できるためスキップする。アデノウイルスは自然界に存在するウイルスで、呼吸器、目、腸、泌尿器などに感染することによって、咽頭炎、扁桃炎、結膜炎、胃腸炎、出血性膀胱炎等の感染症を引き起こす。健康な人が感染しても重篤になるケースは稀だが、造血幹細胞移植後の免疫力が低下した患者が感染すると重篤化するリスクが高く、未だ治療薬も無いことから、治療薬や予防薬の開発が強く望まれている状況にある。症例数は少ないもののまずは小児向けを対象に開発を進め、その後、成人向けに対象を広げていく予定にしている。具体的な開発スケジュール等は今後、策定していく予定となっている。おおよその販売開始時期としては日本で2026年、海外で2027年頃を目標としている。

なお、世界における造血幹細胞移植(他家移植)の件数は年間3.5万件で、国内はこのうち約3,700件となっている。国内を年齢層別で見ると19歳以下の移植件数が500件程度と全体の約14%の構成比※1となっており、海外でも同様の比率だと仮定すると4〜5千件が19歳以下で占められることになる。造血幹細胞移植後のアデノウイルス感染症の症例数について明確なデータは無いものの、過去の国内の文献によればアデノウイルス感染に起因する出血性膀胱炎の発症率が3.5%程度※2であったとの報告がある。

※1 出所:(一社)日本造血細胞移植データセンター「日本における造血幹細胞移植の実績 2019年度」
※2 出所: 日本腎臓学会誌2008:50(8)造血幹細胞移植施行後のアデノウイルス感染性急性壊死性尿細管間質性腎炎の解析


同社ではアデノウイルス感染症で開発に成功すれば、その他のウイルス感染症にも領域を広げ、造血幹細胞移植後のマルチウイルス感染症治療薬または予防薬としての地位を確立し、その後に臓器移植後の感染症や経口剤の改良開発などに着手していく計画となっている。また、ウイルス感染症は皮膚科や眼科領域の疾患でも存在することから、将来的にこれら専門領域で展開する製薬企業との共同開発に広がっていく可能性もある。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)




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