カドカワ Research Memo(7):2023年3月期に営業利益160億円を目指す(1)
[20/12/08]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■KADOKAWA<9468>の中期経営方針
3. 経営数値目標と事業戦略
2023年3月期の経営数値目標として、売上高2,400億円、営業利益160億円、EBITDA250億円を掲げている。当初公表値と比較して、売上高は維持した一方、営業利益を10億円上積みした。2021年3月期の業績が好調に推移する見通しとなったためと考えられる。「基幹事業の規模拡大」×「ESG/SDGsを意識した経営」×「収益力の向上」に取り組むことで目標を達成し、中長期的な「持続的成長」と「企業価値向上」を図っていく考えだ。
(1) 成長事業への積極的な投資
同社では目標達成のため、4つの成長事業(書籍、アニメ、ゲーム、教育)へ経営資源を投入し、成長を加速していく方針であることを明らかにした。4事業合計の売上高は2020年3月期から3年間で250億円の増加を見込んでおり、これは全売上高の増加に対して約7割を占めることになる。同様に営業利益に関しては、3年間で全社合計の増加と同じ80億円を4事業で上積みしていく計画となっている。
書籍事業では、新刊点数の増加(ネットでの作品開発強化、ボーンデジタル作品の増加※)や電子書籍の販売強化施策(読み放題サービスや話売りなど多様なニーズを取り込む)によって売上を拡大し、取引先書店との連携システム拡充によって返品率低減を進め、利益率の向上を目指す。
※同社の小説投稿サイト「カクヨム」では2020年3月期の書籍化点数が122点、ドラマ化やアニメ化も実現している。2019年10月に作家への広告費還元プログラムを導入したこともあり更なる活性化が見込まれている。
アニメ事業では、新作点数の増加やライセンス収益の拡大(海外向け及びゲーム化等による許諾権販売)、海外配信事業者との連携(大型タイトルの共同制作)、ヒットIPの長寿化等に取り組むことで収益拡大を図る。特に、日本のアニメは海外での評価も高く、ライセンス収益等による成長余地は大きいと見られる。
ゲーム事業では、グループ各社の独自性を堅持し、コンテンツ創出力を強化していくほか、ライセンス販売や自社パブリッシングの本格展開による収益力の強化、UGC・インディゲーム※市場への参入によって更なる成長を目指していく。同社はUGC・インディゲーム市場向けに、ゲーム作成ツール「ツクール」シリーズを30年前から発売し、海外ユーザーを中心に累計350万本を販売してきたが、同事業をさらに強化すべく、2020年9月に会社分割により(株)Gotcha Gotcha Games(ゴッチャ ゴッチャ ゲームズ)を設立した。今後、豊富なゲーム素材販売とサブスクリプションモデルによる新サービス提供により安定収益の確保を目指すほか、国内外においてパートナーとの業務連携を視野に、世界規模での事業展開を図っていく予定となっている。
※個人や少数規模の開発者により開発されたゲームのこと。
教育事業では、ドワンゴによるEdTech事業の取り組みを強化していく。具体的には、「N高等学校」の生徒数拡大に伴って2021年4月に「S高等学校」を角川ドワンゴ学園が新設する予定となっているが、「N高」「S高」で2021年4月よりVR技術を使った授業「普通科プレミアム」コースを開講し、VRの教育システムをドワンゴが提供する。継続的な生徒数の拡大により、今後も高い成長率を見込んでいる。
(2) 働き方の更なる進化
所沢新オフィスのオープンによって、ABT※による新しい働き方へ移行し、テレワークとの融合も含めてオフィスを新たな共創空間へと進化させていく。業務の効率化もインフラ整備等によって進んでいる。編集業務においては、「紙の校了作業」がテレワークの最後の関門となっているが、PDFでの文字校正やタブレット端末上での色校正等の技術的課題を解消していくことで、2023年3月までに「完全テレワーク化」の実現を目指していく。
※2020年3月時点で5千坪のオフィススペース返却を決定していたが、コロナ禍でテレワークが浸透したことにより、更なるオフィススペース、倉庫の返却を2023年3月期までに実施予定。
(3) 機動的な製造販売体制
所沢新工場における書籍のデジタル製造ラインが本格稼働することによって、従来の見込製造型から需要即応型に転換し、高速な受注・出荷サイクルによる純出荷率の向上と返品率低下を図り、書籍事業における製造・物流改革の実現を目指していく。対象となるのはハードカバーを除く出版物(コミック、文庫本等)の重版本となり、比率としては全体の1/4程度となる。同社の試算によれば純出荷数で10%程度のコスト圧縮が可能となるもようで、収益性の向上につながる取り組みとして注目される。なお、本格稼働時期については前述のとおり、コロナ禍の影響で当初計画から1年程度遅れる見通しとなっている。
(4) データマーケティングの強化
グループ共通のマーケティングオートメーション基盤を構築する。グループ各社が保有する顧客データを統合したデータマネジメントプラットフォームを構築し、対顧客への広告精度向上やサービス改善等につなげていく。さらに、独自機械学習の構築によって、広告の最適化やクロスセル促進等の自動化によるマーケティングコストの効率化と、グループ全体のLTV向上にも取り組んでいく。
(5) IP展開力の強化
拡大するグローバルIPニーズを取り込むために、グローバルのマーケティング戦略構築とリスクマネジメント体制の整備を推進する。特に、アニメやゲームなどのIPは海外でも評価が高く、ライセンス収入や越境EC、配信プラットフォームでの拡大が見込めるほか、現地でのIP開発等も進めるなど注力していく方針だ。
マーケティング戦略としては、事業領域×地域ごとのマトリクス戦略を展開していくほか、開発についてもプロダクトアウト型からユーザー視点を重視したマーケットイン型での開発を進めていく方針だ。リスクマネジメントとしては各地域のリスク(法的、文化的)を整理した上で、各リスクに対応した体制を整備していく。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<EY>
3. 経営数値目標と事業戦略
2023年3月期の経営数値目標として、売上高2,400億円、営業利益160億円、EBITDA250億円を掲げている。当初公表値と比較して、売上高は維持した一方、営業利益を10億円上積みした。2021年3月期の業績が好調に推移する見通しとなったためと考えられる。「基幹事業の規模拡大」×「ESG/SDGsを意識した経営」×「収益力の向上」に取り組むことで目標を達成し、中長期的な「持続的成長」と「企業価値向上」を図っていく考えだ。
(1) 成長事業への積極的な投資
同社では目標達成のため、4つの成長事業(書籍、アニメ、ゲーム、教育)へ経営資源を投入し、成長を加速していく方針であることを明らかにした。4事業合計の売上高は2020年3月期から3年間で250億円の増加を見込んでおり、これは全売上高の増加に対して約7割を占めることになる。同様に営業利益に関しては、3年間で全社合計の増加と同じ80億円を4事業で上積みしていく計画となっている。
書籍事業では、新刊点数の増加(ネットでの作品開発強化、ボーンデジタル作品の増加※)や電子書籍の販売強化施策(読み放題サービスや話売りなど多様なニーズを取り込む)によって売上を拡大し、取引先書店との連携システム拡充によって返品率低減を進め、利益率の向上を目指す。
※同社の小説投稿サイト「カクヨム」では2020年3月期の書籍化点数が122点、ドラマ化やアニメ化も実現している。2019年10月に作家への広告費還元プログラムを導入したこともあり更なる活性化が見込まれている。
アニメ事業では、新作点数の増加やライセンス収益の拡大(海外向け及びゲーム化等による許諾権販売)、海外配信事業者との連携(大型タイトルの共同制作)、ヒットIPの長寿化等に取り組むことで収益拡大を図る。特に、日本のアニメは海外での評価も高く、ライセンス収益等による成長余地は大きいと見られる。
ゲーム事業では、グループ各社の独自性を堅持し、コンテンツ創出力を強化していくほか、ライセンス販売や自社パブリッシングの本格展開による収益力の強化、UGC・インディゲーム※市場への参入によって更なる成長を目指していく。同社はUGC・インディゲーム市場向けに、ゲーム作成ツール「ツクール」シリーズを30年前から発売し、海外ユーザーを中心に累計350万本を販売してきたが、同事業をさらに強化すべく、2020年9月に会社分割により(株)Gotcha Gotcha Games(ゴッチャ ゴッチャ ゲームズ)を設立した。今後、豊富なゲーム素材販売とサブスクリプションモデルによる新サービス提供により安定収益の確保を目指すほか、国内外においてパートナーとの業務連携を視野に、世界規模での事業展開を図っていく予定となっている。
※個人や少数規模の開発者により開発されたゲームのこと。
教育事業では、ドワンゴによるEdTech事業の取り組みを強化していく。具体的には、「N高等学校」の生徒数拡大に伴って2021年4月に「S高等学校」を角川ドワンゴ学園が新設する予定となっているが、「N高」「S高」で2021年4月よりVR技術を使った授業「普通科プレミアム」コースを開講し、VRの教育システムをドワンゴが提供する。継続的な生徒数の拡大により、今後も高い成長率を見込んでいる。
(2) 働き方の更なる進化
所沢新オフィスのオープンによって、ABT※による新しい働き方へ移行し、テレワークとの融合も含めてオフィスを新たな共創空間へと進化させていく。業務の効率化もインフラ整備等によって進んでいる。編集業務においては、「紙の校了作業」がテレワークの最後の関門となっているが、PDFでの文字校正やタブレット端末上での色校正等の技術的課題を解消していくことで、2023年3月までに「完全テレワーク化」の実現を目指していく。
※2020年3月時点で5千坪のオフィススペース返却を決定していたが、コロナ禍でテレワークが浸透したことにより、更なるオフィススペース、倉庫の返却を2023年3月期までに実施予定。
(3) 機動的な製造販売体制
所沢新工場における書籍のデジタル製造ラインが本格稼働することによって、従来の見込製造型から需要即応型に転換し、高速な受注・出荷サイクルによる純出荷率の向上と返品率低下を図り、書籍事業における製造・物流改革の実現を目指していく。対象となるのはハードカバーを除く出版物(コミック、文庫本等)の重版本となり、比率としては全体の1/4程度となる。同社の試算によれば純出荷数で10%程度のコスト圧縮が可能となるもようで、収益性の向上につながる取り組みとして注目される。なお、本格稼働時期については前述のとおり、コロナ禍の影響で当初計画から1年程度遅れる見通しとなっている。
(4) データマーケティングの強化
グループ共通のマーケティングオートメーション基盤を構築する。グループ各社が保有する顧客データを統合したデータマネジメントプラットフォームを構築し、対顧客への広告精度向上やサービス改善等につなげていく。さらに、独自機械学習の構築によって、広告の最適化やクロスセル促進等の自動化によるマーケティングコストの効率化と、グループ全体のLTV向上にも取り組んでいく。
(5) IP展開力の強化
拡大するグローバルIPニーズを取り込むために、グローバルのマーケティング戦略構築とリスクマネジメント体制の整備を推進する。特に、アニメやゲームなどのIPは海外でも評価が高く、ライセンス収入や越境EC、配信プラットフォームでの拡大が見込めるほか、現地でのIP開発等も進めるなど注力していく方針だ。
マーケティング戦略としては、事業領域×地域ごとのマトリクス戦略を展開していくほか、開発についてもプロダクトアウト型からユーザー視点を重視したマーケットイン型での開発を進めていく方針だ。リスクマネジメントとしては各地域のリスク(法的、文化的)を整理した上で、各リスクに対応した体制を整備していく。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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