Jトラスト Research Memo(8):既存事業の成長を図るとともに、企業価値を高めるためのM&Aにより収益拡大へ
[21/03/15]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■Jトラスト<8508>の成長戦略
IFRS転換が遅れたことに加え、韓国及びモンゴル金融事業では負ののれんの処理や当局の規制強化の影響、東南アジア金融事業では不良債権処理の影響、投資事業ではGL関連損失処理の影響などから、結果として前中期経営計画(2016年3月期〜2018年3月期)は予定通りには進まなかった。現在、新たな中期経営計画の発表はないが、会社として投資家に中期的な利益目標を示すことは非常に重要であると弊社では考える。
当面は金融3事業、特に日本金融事業及び東南アジア金融事業を中心に成長を図る一方で、事業再編に伴い獲得した資金を、既存事業とのシナジーが期待できる事業へ投資を行うことで、グループ全体の収益拡大を目指している。
それに伴い同社グループでは、今後の成長戦略として、以下のように計画している。
(1) 日本金融事業
日本金融事業では、信用保証事業の拡充と債権回収事業の強化によってさらなる収益の拡大を図り、同社グループ全体の業績をリードする計画である。
子会社の日本保証は、営業利益率50.4%(2020年12月期)と高い収益性を誇っている。同社の強みは、長年の不動産担保ローンの取り扱いにより蓄積された不動産に対する知見にあり、2020年12月末現在で地方銀行・信用金庫・信用組合など提携金融機関は10行、保証残高は2,098億円に達している。保証残高の74%を占める1,550億円は保証期間が長期間にわたるアパートローン保証であり、保証料収入の安定化に寄与している。金融機関の審査基準が厳格化していることなどから、当面はアパートローンの保証残高は大幅な増加を期待しにくい環境にあるものの、新築のみならず首都圏・大阪圏の収益性の高い中古・リノベーション再販の取り扱いを開始し、引き続き良質な物件に限定して保証を拡大する計画だ。これに加え、ソーシャルレンディング保証ビジネスの拡大を図り、業界での保証ビジネスの確立を目指している。ソーシャルレンディング保証ビジネスとは、インターネットを介して不特定多数の投資家から資金を調達し(クラウドファンディング)、それを資金需要のある会社等に貸し付ける際に、不動産担保により保証を行うスキームである。これまでに4社と保証提携しているが、現在も複数のソーシャルレンディング業者と保証提携交渉中である。今後はNexus Bankとの保証ビジネスをモデルケースに、保証ビジネスの拡大を図る計画である。さらに、不動産のクラウドファンディングである「不動産特定共同事業法」に基づいた買取保証ビジネスも開始しており、2020年12月に第1号保証案件を販売した。同社の不動産に対する目利き力を生かすビジネスであり、投資家は買取保証が付いているため安心して投資することが可能になる。
パルティール債権回収では、2020年12月期も金融機関とのネットワークを生かし順調な買取実績で推移しているものの、今後も信販系大手カード会社等からの債権買取を推進する計画である。
(2) 韓国及びモンゴル金融事業
韓国及びモンゴル金融事業においては、JT親愛貯蓄銀行は2020年11月にJトラストカードとともにNexus Bankに株式交換方式で売却済みであり、JT貯蓄銀行はVI金融投資(株)に売却する予定である。2行ともに企業価値を最大化した状態で売却できたため、同社グループとしては手元流動性の確保と財務健全性のさらなる強靭化を実現できた有意義な売却であった。
今後の韓国及びモンゴル金融事業は、リース業のJTキャピタル、債権回収業のTAアセット、モンゴルにおける割賦事業のJトラストクレジットとなるが、収益の柱であった貯蓄銀行2行が抜けることで韓国及びモンゴル金融事業の収益貢献は大きく低下する見通しである。
(3)東南アジア金融事業
現状は損失計上を続けている東南アジア金融事業については、インドネシアでは事業継続のための土台整備を2019年12月期までに完了したことで、今後は優良なアセットの積み上げと債権回収の推進を図る。また、新たに加わったカンボジアでは、顧客層を徐々に広げてアセット増加を図る方針だ。これらの施策によって東南アジア金融事業を早期に黒字化することが同社グループの課題であるものの、足下ではコロナ禍の影響を大きく受けている。
IMFの推計では、インドネシアの実質GDP成長率は、従来の5%台から2020年はマイナス1.5%になる見通しとなっている。このような厳しい経済環境のなか、銀行業のBJIの貸出残高は増加に転じ、NPL比率は低位でコントロールできている。今後は、早期に損益分岐点を上回る規模への拡大が課題である。JTOでは滞納の少ない農機具ローンを推進し、中古車ローンは抑制している。一方、中小商店を対象にした事業者向けのローン(限度額7万円〜17万5千円程度、金利45%〜60%、期間最長1年)について、スマートフォンアプリを利用して申込フローを簡潔化し、融資までスピーディーな実行を実現するファイナンスサービスを試験的に開始した。運用が順調に進むようであれば、今後も拡大を検討している。さらに、債権回収のJTIIでは、債権回収金額は拡大傾向にあることから、現状の経済環境は不良債権買取の好機であると弊社では見ている。
今後のインドネシアの実質GDP についてIMFは、2021年には6.1%、2022年からは5%台へと従来の成長率に戻ると予想している。インドネシアは東南アジア最大の人口を有していることから、コロナ禍が収束すれば金融業市場として大きな発展性を秘めていると言える。インドネシア事業会社3社の営業利益は改善傾向にあることから、現在実行している様々な施策が奏功し、今後も順調に進めば、2022年12月期には黒字転換すると同社では見込んでいる。
加えて2019年12月期より同社グループに加わったJTRBは、カンボジア商業銀行42行中10位の資産規模(2018年12月末当時)を持つ資産内容の良い優良銀行である。安定的に年間25〜30億円の営業利益を計上しており、グループへの利益貢献が期待される。JTRBでは、従来は超優良顧客のみを対象としていたが、今後は法人では大企業から中堅企業まで、また個人は住宅ローンを中心に顧客層の拡大を図る方針である。2020年5月には、JTRBはカンボジアの大手資金移動業者であるWingとの提携により、Wingのスマートフォンアプリの簡単な操作により、銀行預金口座を保有していないWingの利用者にも預金金利のメリットが享受できる「マイクロ普通預金」の提供を開始した。カンボジア国内では周辺国に比してコロナ禍が抑制されており、また金融インフラが十分に行き渡っていないことから、金融サービスの裾野拡大への貢献が期待される。
(4) 事業ポートフォリオの更なる再編
これまで同社グループでは、日本金融事業と韓国及びモンゴル金融事業で安定的に利益を確保する一方で、中期的には成長可能性が大きい東南アジア金融事業を原動力として、持続的な成長を目指す方針であった。ただ、コロナ禍により世界各国で経済環境が急変し、先行き不透明感が増しているなか、韓国の貯蓄銀行2行の売却などにより、手元流動性の増強と有利子負債の圧縮を進めるとともに、事業ポートフォリオの改善を目指している。ただ、今後は従来の韓国の貯蓄銀行に代わる新たな収益源の確立が急務であろう。同社では、売却により獲得した資金を、主に企業価値を高めるためのM&Aに活用する予定であり、既存の成功事業をさらに成長させることができる事業、既存事業とのシナジーを期待できる事業、金融機関と取り組める事業などへ投資する考えだ。藤澤社長の強力なリーダーシップのもと、同社グループの成長を促すための次の一手に注目したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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IFRS転換が遅れたことに加え、韓国及びモンゴル金融事業では負ののれんの処理や当局の規制強化の影響、東南アジア金融事業では不良債権処理の影響、投資事業ではGL関連損失処理の影響などから、結果として前中期経営計画(2016年3月期〜2018年3月期)は予定通りには進まなかった。現在、新たな中期経営計画の発表はないが、会社として投資家に中期的な利益目標を示すことは非常に重要であると弊社では考える。
当面は金融3事業、特に日本金融事業及び東南アジア金融事業を中心に成長を図る一方で、事業再編に伴い獲得した資金を、既存事業とのシナジーが期待できる事業へ投資を行うことで、グループ全体の収益拡大を目指している。
それに伴い同社グループでは、今後の成長戦略として、以下のように計画している。
(1) 日本金融事業
日本金融事業では、信用保証事業の拡充と債権回収事業の強化によってさらなる収益の拡大を図り、同社グループ全体の業績をリードする計画である。
子会社の日本保証は、営業利益率50.4%(2020年12月期)と高い収益性を誇っている。同社の強みは、長年の不動産担保ローンの取り扱いにより蓄積された不動産に対する知見にあり、2020年12月末現在で地方銀行・信用金庫・信用組合など提携金融機関は10行、保証残高は2,098億円に達している。保証残高の74%を占める1,550億円は保証期間が長期間にわたるアパートローン保証であり、保証料収入の安定化に寄与している。金融機関の審査基準が厳格化していることなどから、当面はアパートローンの保証残高は大幅な増加を期待しにくい環境にあるものの、新築のみならず首都圏・大阪圏の収益性の高い中古・リノベーション再販の取り扱いを開始し、引き続き良質な物件に限定して保証を拡大する計画だ。これに加え、ソーシャルレンディング保証ビジネスの拡大を図り、業界での保証ビジネスの確立を目指している。ソーシャルレンディング保証ビジネスとは、インターネットを介して不特定多数の投資家から資金を調達し(クラウドファンディング)、それを資金需要のある会社等に貸し付ける際に、不動産担保により保証を行うスキームである。これまでに4社と保証提携しているが、現在も複数のソーシャルレンディング業者と保証提携交渉中である。今後はNexus Bankとの保証ビジネスをモデルケースに、保証ビジネスの拡大を図る計画である。さらに、不動産のクラウドファンディングである「不動産特定共同事業法」に基づいた買取保証ビジネスも開始しており、2020年12月に第1号保証案件を販売した。同社の不動産に対する目利き力を生かすビジネスであり、投資家は買取保証が付いているため安心して投資することが可能になる。
パルティール債権回収では、2020年12月期も金融機関とのネットワークを生かし順調な買取実績で推移しているものの、今後も信販系大手カード会社等からの債権買取を推進する計画である。
(2) 韓国及びモンゴル金融事業
韓国及びモンゴル金融事業においては、JT親愛貯蓄銀行は2020年11月にJトラストカードとともにNexus Bankに株式交換方式で売却済みであり、JT貯蓄銀行はVI金融投資(株)に売却する予定である。2行ともに企業価値を最大化した状態で売却できたため、同社グループとしては手元流動性の確保と財務健全性のさらなる強靭化を実現できた有意義な売却であった。
今後の韓国及びモンゴル金融事業は、リース業のJTキャピタル、債権回収業のTAアセット、モンゴルにおける割賦事業のJトラストクレジットとなるが、収益の柱であった貯蓄銀行2行が抜けることで韓国及びモンゴル金融事業の収益貢献は大きく低下する見通しである。
(3)東南アジア金融事業
現状は損失計上を続けている東南アジア金融事業については、インドネシアでは事業継続のための土台整備を2019年12月期までに完了したことで、今後は優良なアセットの積み上げと債権回収の推進を図る。また、新たに加わったカンボジアでは、顧客層を徐々に広げてアセット増加を図る方針だ。これらの施策によって東南アジア金融事業を早期に黒字化することが同社グループの課題であるものの、足下ではコロナ禍の影響を大きく受けている。
IMFの推計では、インドネシアの実質GDP成長率は、従来の5%台から2020年はマイナス1.5%になる見通しとなっている。このような厳しい経済環境のなか、銀行業のBJIの貸出残高は増加に転じ、NPL比率は低位でコントロールできている。今後は、早期に損益分岐点を上回る規模への拡大が課題である。JTOでは滞納の少ない農機具ローンを推進し、中古車ローンは抑制している。一方、中小商店を対象にした事業者向けのローン(限度額7万円〜17万5千円程度、金利45%〜60%、期間最長1年)について、スマートフォンアプリを利用して申込フローを簡潔化し、融資までスピーディーな実行を実現するファイナンスサービスを試験的に開始した。運用が順調に進むようであれば、今後も拡大を検討している。さらに、債権回収のJTIIでは、債権回収金額は拡大傾向にあることから、現状の経済環境は不良債権買取の好機であると弊社では見ている。
今後のインドネシアの実質GDP についてIMFは、2021年には6.1%、2022年からは5%台へと従来の成長率に戻ると予想している。インドネシアは東南アジア最大の人口を有していることから、コロナ禍が収束すれば金融業市場として大きな発展性を秘めていると言える。インドネシア事業会社3社の営業利益は改善傾向にあることから、現在実行している様々な施策が奏功し、今後も順調に進めば、2022年12月期には黒字転換すると同社では見込んでいる。
加えて2019年12月期より同社グループに加わったJTRBは、カンボジア商業銀行42行中10位の資産規模(2018年12月末当時)を持つ資産内容の良い優良銀行である。安定的に年間25〜30億円の営業利益を計上しており、グループへの利益貢献が期待される。JTRBでは、従来は超優良顧客のみを対象としていたが、今後は法人では大企業から中堅企業まで、また個人は住宅ローンを中心に顧客層の拡大を図る方針である。2020年5月には、JTRBはカンボジアの大手資金移動業者であるWingとの提携により、Wingのスマートフォンアプリの簡単な操作により、銀行預金口座を保有していないWingの利用者にも預金金利のメリットが享受できる「マイクロ普通預金」の提供を開始した。カンボジア国内では周辺国に比してコロナ禍が抑制されており、また金融インフラが十分に行き渡っていないことから、金融サービスの裾野拡大への貢献が期待される。
(4) 事業ポートフォリオの更なる再編
これまで同社グループでは、日本金融事業と韓国及びモンゴル金融事業で安定的に利益を確保する一方で、中期的には成長可能性が大きい東南アジア金融事業を原動力として、持続的な成長を目指す方針であった。ただ、コロナ禍により世界各国で経済環境が急変し、先行き不透明感が増しているなか、韓国の貯蓄銀行2行の売却などにより、手元流動性の増強と有利子負債の圧縮を進めるとともに、事業ポートフォリオの改善を目指している。ただ、今後は従来の韓国の貯蓄銀行に代わる新たな収益源の確立が急務であろう。同社では、売却により獲得した資金を、主に企業価値を高めるためのM&Aに活用する予定であり、既存の成功事業をさらに成長させることができる事業、既存事業とのシナジーを期待できる事業、金融機関と取り組める事業などへ投資する考えだ。藤澤社長の強力なリーダーシップのもと、同社グループの成長を促すための次の一手に注目したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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