いちご Research Memo(5):2021年2月期はコロナの影響で減益
[21/05/31]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■業績動向
1. 2021年2月期の業績概要
いちご<2337>の2021年2月期通期は、売上高が前期比29.8%減の61,368百万円、営業利益が同65.1%減の9,668百万円、経常利益が同70.6%減の7,179百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同38.7%減の5,027百万円と、コロナの影響を受け減収減益となった。
アセットマネジメント事業及び心築事業では、コロナの影響を大きく受けたが、クリーンエネルギー事業は、コロナの影響を受けずに順調に成長した。主力の心築事業は、売上総利益で11,248百万円(前期比61.9%減)となった。内訳としては、フロー収益(不動産譲渡損益)が5,202百万円(前期比12,180百万円減)となり、堅調なレジデンス市場を背景としたいちごオーナーズによる売却で一定の成果を出したが、そのほかのセクター(オフィス・商業施設・ホテルなど)では、不動産売買市場の状況に鑑み売買を見送った。ストック収益(不動産賃貸損益、減価償却後)は6,219百万円(前期比5,720百万円減)となり、ホテルの賃貸収益が大きく減少したものの、固定賃料部分やそのほかのセクターで安定収益を確保した。保有資産は、177物件(前期と同じ)、245,136百万円(前期は242,321百万円)の想定NOI(Net Operating Income、営業純利益)利回りでは6.1%(前期は5.9%)であり、コロナにおいても堅実に不動産価値の維持、向上を実現したことがわかる。
アセットマネジメント事業は、ホテルの売上高に連動して賃貸収益が減少し、いちごホテルのベース運用フィーが減少したこと、前期はホテル売却で売却益の獲得によるキャッシュ・フローに連動したフィーが剥落したことなどにより、セグメント利益が減少した。クリーンエネルギー事業は、前期に竣工した発電所の売電収入が通期で寄与したことや新たに6ヶ所の発電所が売電を開始したことなどにより、セグメント利益が前期比44.2%増と大幅に増加した。
同社グループの売上総利益率が25.4%(前期は39.5%)と低下したのは、フロー収益(不動産譲渡損益)のなかで、レジデンスを1年程度で売却するビジネスモデルであるいちごオーナーズの構成比が高かったことが影響したためであり、薄利での売り急ぎなどは行っていない。同社は、循環的な景気後退がいつ来ても対応できる財務体質を以前から整備してきた。ストック収益で固定費をカバーできる同社にとって、市場が低迷している時期に安値での売却(フロー収益確保)を行う必要はない。ホテルや商業施設の事業環境が回復するまでじっくり待つ戦略を取れるのも、同社の強みと言えるだろう。
キャッシュ(稼ぐ力)の指標で比較すると、前期からの落ち込みは大きくない
同社は、キャッシュ・フローの創出にこだわった経営を行ってきた。2020年2月期末には、コロナの影響で不動産業界を取り巻く環境が急変するなか、心築事業にかかわる不動産(従来は販売用不動産)を固定資産化し、減価償却の税効果によりキャッシュを創出する施策を行った。一般に販売用不動産は、早期に販売されるべきものであり、会計処理上、減価償却を行わない。これを固定資産化すると、現金支出のない減価償却費を計上することになり、税効果が発生する(キャッシュが創出できる)。固定資産比率は、2019年2月期末30.1%に対し2020年2月期末84.4%と向上した。市場環境が悪化しているなかでは、売り急がずじっくり保有しつつキャッシュ創出力を最大化するという戦略の一環である。キャッシュ(稼ぐ力)の指標で、2021年2月期の決算を評価すると異なる姿が見えてくる。親会社株主に帰属する当期純利益は2021年2月期に前期比38.7%減となったが、減価償却を加味した「キャッシュ当期純利益」では同10.1%減と減少幅が小さい。1株当たり当期純利益(EPS)は2021年2月期に前期比38.0%減の10.48円となったが「キャッシュEPS」では同9%減の20.07円、自己資本当期純利益率(ROE)に関しても、2021年2月期は5.0%となったが、「キャッシュROE」では9.7%となり10%に近い水準となっている。この指標により、同社の本当の“稼ぐ力”は大きく落ちていないことがわかる。
健全な財務基盤が強み。2021年2月期は太陽光発電所などが増加し資産規模拡大
2. 財務状況と経営指標
2021年2月期末の総資産は前期末比13,350百万円増の347,076百万円となった。固定資産は10,187百万円増であり、太陽光発電所などの有形固定資産が増加したことが主な要因である。流動資産は3,163百万円増であり、販売用不動産の減少4,181百万円に対して現金及び預金の増加9,765百万円があったことによるものだ。
負債合計は前期末比4,701百万円増の236,820百万円となった。流動負債は1,906百万円減であり、1年内返済予定の長期借入金が減少したことなどが主な要因である。固定負債は6,608百万円増であり、長期借入金が増加したことなどが主な要因である。
経営指標では、流動比率(539.8%、200%以上が安全の目安)、固定長期適合率(69.7%、100%以下が安全の目安)など極めて安全性が高い。自己資本比率は28.5%だが、外部鑑定士が鑑定する鑑定評価額をベースとする不動産の含み益や同社に帰属しないリスクを控除した自己資本比率では44.7%とより高い数値になる。2016年8月には、資本の効率的活用や投資者を意識した経営観点など、グローバルな投資基準に求められる諸要件を満たした株価指数「JPX日経インデックス400」へ組み入れられ、連続してその地位を維持している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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1. 2021年2月期の業績概要
いちご<2337>の2021年2月期通期は、売上高が前期比29.8%減の61,368百万円、営業利益が同65.1%減の9,668百万円、経常利益が同70.6%減の7,179百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同38.7%減の5,027百万円と、コロナの影響を受け減収減益となった。
アセットマネジメント事業及び心築事業では、コロナの影響を大きく受けたが、クリーンエネルギー事業は、コロナの影響を受けずに順調に成長した。主力の心築事業は、売上総利益で11,248百万円(前期比61.9%減)となった。内訳としては、フロー収益(不動産譲渡損益)が5,202百万円(前期比12,180百万円減)となり、堅調なレジデンス市場を背景としたいちごオーナーズによる売却で一定の成果を出したが、そのほかのセクター(オフィス・商業施設・ホテルなど)では、不動産売買市場の状況に鑑み売買を見送った。ストック収益(不動産賃貸損益、減価償却後)は6,219百万円(前期比5,720百万円減)となり、ホテルの賃貸収益が大きく減少したものの、固定賃料部分やそのほかのセクターで安定収益を確保した。保有資産は、177物件(前期と同じ)、245,136百万円(前期は242,321百万円)の想定NOI(Net Operating Income、営業純利益)利回りでは6.1%(前期は5.9%)であり、コロナにおいても堅実に不動産価値の維持、向上を実現したことがわかる。
アセットマネジメント事業は、ホテルの売上高に連動して賃貸収益が減少し、いちごホテルのベース運用フィーが減少したこと、前期はホテル売却で売却益の獲得によるキャッシュ・フローに連動したフィーが剥落したことなどにより、セグメント利益が減少した。クリーンエネルギー事業は、前期に竣工した発電所の売電収入が通期で寄与したことや新たに6ヶ所の発電所が売電を開始したことなどにより、セグメント利益が前期比44.2%増と大幅に増加した。
同社グループの売上総利益率が25.4%(前期は39.5%)と低下したのは、フロー収益(不動産譲渡損益)のなかで、レジデンスを1年程度で売却するビジネスモデルであるいちごオーナーズの構成比が高かったことが影響したためであり、薄利での売り急ぎなどは行っていない。同社は、循環的な景気後退がいつ来ても対応できる財務体質を以前から整備してきた。ストック収益で固定費をカバーできる同社にとって、市場が低迷している時期に安値での売却(フロー収益確保)を行う必要はない。ホテルや商業施設の事業環境が回復するまでじっくり待つ戦略を取れるのも、同社の強みと言えるだろう。
キャッシュ(稼ぐ力)の指標で比較すると、前期からの落ち込みは大きくない
同社は、キャッシュ・フローの創出にこだわった経営を行ってきた。2020年2月期末には、コロナの影響で不動産業界を取り巻く環境が急変するなか、心築事業にかかわる不動産(従来は販売用不動産)を固定資産化し、減価償却の税効果によりキャッシュを創出する施策を行った。一般に販売用不動産は、早期に販売されるべきものであり、会計処理上、減価償却を行わない。これを固定資産化すると、現金支出のない減価償却費を計上することになり、税効果が発生する(キャッシュが創出できる)。固定資産比率は、2019年2月期末30.1%に対し2020年2月期末84.4%と向上した。市場環境が悪化しているなかでは、売り急がずじっくり保有しつつキャッシュ創出力を最大化するという戦略の一環である。キャッシュ(稼ぐ力)の指標で、2021年2月期の決算を評価すると異なる姿が見えてくる。親会社株主に帰属する当期純利益は2021年2月期に前期比38.7%減となったが、減価償却を加味した「キャッシュ当期純利益」では同10.1%減と減少幅が小さい。1株当たり当期純利益(EPS)は2021年2月期に前期比38.0%減の10.48円となったが「キャッシュEPS」では同9%減の20.07円、自己資本当期純利益率(ROE)に関しても、2021年2月期は5.0%となったが、「キャッシュROE」では9.7%となり10%に近い水準となっている。この指標により、同社の本当の“稼ぐ力”は大きく落ちていないことがわかる。
健全な財務基盤が強み。2021年2月期は太陽光発電所などが増加し資産規模拡大
2. 財務状況と経営指標
2021年2月期末の総資産は前期末比13,350百万円増の347,076百万円となった。固定資産は10,187百万円増であり、太陽光発電所などの有形固定資産が増加したことが主な要因である。流動資産は3,163百万円増であり、販売用不動産の減少4,181百万円に対して現金及び預金の増加9,765百万円があったことによるものだ。
負債合計は前期末比4,701百万円増の236,820百万円となった。流動負債は1,906百万円減であり、1年内返済予定の長期借入金が減少したことなどが主な要因である。固定負債は6,608百万円増であり、長期借入金が増加したことなどが主な要因である。
経営指標では、流動比率(539.8%、200%以上が安全の目安)、固定長期適合率(69.7%、100%以下が安全の目安)など極めて安全性が高い。自己資本比率は28.5%だが、外部鑑定士が鑑定する鑑定評価額をベースとする不動産の含み益や同社に帰属しないリスクを控除した自己資本比率では44.7%とより高い数値になる。2016年8月には、資本の効率的活用や投資者を意識した経営観点など、グローバルな投資基準に求められる諸要件を満たした株価指数「JPX日経インデックス400」へ組み入れられ、連続してその地位を維持している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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