ウェーブロックHD Research Memo(9):自動車向け金属調加飾フィルム、農業・建設向け地中熱ビジネスに期待
[21/07/26]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■今後の見通し
2. 事業別成長戦略
(1) マテリアルソリューション事業
マテリアルソリューション事業の2024年3月期業績目標は、売上高で186億円、営業利益で14.0億円を掲げた。2022年3月期は原材料コストの上昇等により減益を見込んでいるものの、2023年3月期以降は増収増益を見込んでいる。営業利益率も7.5%と2021年3月期の7.7%とほぼ同水準まで回復する見通しだ。ウェーブロックホールディングス<7940>の安定的な収益基盤として、さらなる収益力の強化に加えて、成長が見込まれる新規分野への展開を推進していく方針となっている。
収益基盤の向上施策としては、生産性向上に寄与する生産体制の再構築(外部パートナーとの協業含む)や、流通チャネルの最適化による販売効率の向上に取り組んでいく。一方、新規分野としては環境関連ビジネスと海外市場の開拓を進めていく。特に、環境関連ビジネスでは、熱交換の大幅な効率化を実現するシステム「ヒートクラスター」による地中熱ビジネスを育成していく方針で、2021年3月期の売上高0.3億円から2024年3月期は7億円を目標とし、3ヵ年の営業利益の増益分の半分を同事業で稼ぎ出す計画となっている。
熱交換システム「ヒートクラスター」とは、地下20〜100mの地中熱を利用したヒートポンプ方式の冷暖房システムである。年間を通し温度がほぼ一定となる地中に熱交換システムを設置し、冬の暖房時には外気より温度の高い地中から採熱し、夏の冷房時には外気より温度の低い地中に放熱することによって、既存の空調システムに対して大幅な省エネ化を実現したシステムとなる。消費電力の削減効果としては、既存システムの30〜60%程度を達成した事例がある。政府の再生可能エネルギー拡大政策により2011年度以降、経済産業省や環境省等で補助金制度が導入されたほか、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)でも普及促進に向けた研究開発事業等に取り組んでおり、省エネルギーソリューションの1つとして今後の市場拡大が見込まれている。
課題は、熱交換用のパイプを埋設するための掘削工事費用が高い点にあり、各社が施工方法も含めた低コスト化システムの開発を進めている。同社が開発した熱交換システムは従来技術よりも熱交換効率が3〜5倍高く、掘削回数が少なくて済むため、従来工法よりも設備投資費用を抑制できることが長所となっている。従来はシステムの販売のみであったが、事業を拡大していくために、2022年3月期中に建設業認可を保有する企業と連携することによって、施工も含めた元請けが可能なシステムインテグレータとして成長を目指していく戦略だ。このため、売上計画も2023年3月期からの伸長を見込んでいる。
ターゲット市場は、既存事業とのシナジーも見込める農業・建設分野を挙げており、大規模ビニルハウスや建物の空調システムとして導入拡大を目指していく。農業分野では農家の生産性向上が課題と言われており、同社は地中熱ビジネスの普及に取り組むことで、農業の生産性向上並びにサステナビリティに貢献していく考えだ。
そのほか、環境関連ビジネスでは、環境対応素材製品の展開を推進していく。樹脂使用量の低減や、食品のロングライフ化、リサイクル可能な建設資材の開発等、環境対応のための顧客ニーズは増大しており、こうしたニーズに迅速に対応していくことで、持続的な成長を実現していく。
海外展開では、農業用資材をアジア各国に販売していく。中国では、現地子会社と連携しながら有力な販売パートナーを探索し、日本製の高付加価値品を販売していく。韓国では現地販売チャネルを開拓し、遮光ネットを販売、ベトナムでは現地企業と協業して、周辺国を含めて遮光ネットや防虫ネットの拡販を進めていく計画となっている。ただ、今回の中期3ヵ年計画での売上貢献としては多くは見込んでいないようで、海外市場展開のための基盤固めを行う期間と位置付けている。
(2) アドバンストテクノロジー事業
アドバンストテクノロジー事業の2024年3月期業績目標は、売上高で59億円、営業利益で5.0億円となり、過去最高業績の更新を目指す。技術的競合優位性を構築し、顧客サービスの向上に注力することで、自動車内外装部品の市場成長を取り込んでいく戦略となっている。付加価値の高い金属調加飾フィルムやPMMA/PC2層シートの売上成長により、2024年3月期の営業利益率も8.5%と過去最高水準(2019年3月期は8.6%)まで回復する見通しとなっている。
技術的競合優位性を確保していくため、継続的な開発投資を実施し、多様な顧客ニーズに対する提案力を強化していくほか、小ロット多品種生産でも収益力を維持向上していくための、設備投資・人材投資を推進していく。また、2022年半ばまでに自動車業界の国際的な品質管理基準となるIATF16949の認定を取得することで、製品開発から販売までの強固な品質管理システムを構築し、顧客層の拡大を図っていく。販売戦略としては、北米、欧州の販売拠点の体制強化に加えて、中国市場では現地パートナーと連携しながら営業・技術サポート体制の構築を進めていくことで、売上規模の拡大を目指していく。
自動車業界ではCO2排出規制や環境規制などを背景に、EVの普及だけでなく脱メッキ・塗装の流れが進展している。特に、EVでは駆動システムの変化により、内装や外装デザインのトレンドが大きく変化してきており、同社が手掛けている金属調加飾フィルムやPMMA/PC2層シートの需要拡大が見込まれている。具体的には、電波透過性並びに光透過性、意匠性の高い金属調加飾フィルムの特徴を生かしてフロントグリルのエンブレム部分やLEDランプ周辺部分での需要増加が見込まれるほか、UI部分(インパネ)のディスプレイやHUDの大型化に伴うPMMA/PC2層シートの需要増加が見込まれている。
金属調加飾フィルム及びPMMA/PC2層シートの売上高は2年先までの採用モデルや生産数量がすべて確定しているわけではないが、現在見込み案件数が増加していることを考慮すれば高成長が見込める。特に、北米EV向けでは塗料・メッキ品から金属調加飾フィルムへの代替ニーズが強く、商談件数も増加しており、今後さらに売上が伸びる見込みだ。このため、今後の状況次第では北米で現地製造を行う(または製造委託先を探す)可能性もあるとしている。北米市場で金属調加飾フィルムを展開している企業はAkzo Nobelしかなかったが、サービスや電波透過率等の品質面において一定優位性があることが、同社の商談件数が増加している一因となっているようだ。
また、欧州ではHUDの防塵用シートやインパネ部分のディスプレイ用フィルムとして、同社のPMMA/PC2層シートの採用が進みつつある。このため、現地子会社を拠点としてデザインや機能性も含めた提案力の強化により、売上を拡大していく戦略となっている。中国に関してはEVや車載用ディスプレイで世界最大の市場となる見込みであることから、現地代理店と連携して、中国及びグローバル案件の取り込みを強化していく。一方、日本では塗装の代替となりうる新規構成フィルムの開発や、FCV向け燃料電池用途等、将来の飛躍を担う技術開発に注力していく方針だ。
(3) 新規事業分野の探索
その他、既存分野における深化と強みを生かした新規分野・新規事業については、「樹脂の加工」にこだわらず探索していく方針としている。また、新規分野への参入については、自前主義にこだわらず外部連携やM&Aなど柔軟に進めていくことを考えている。具体的には、ICTを活用した新規プラットフォーム事業や環境関連製品事業での展開を想定しており、今後3年間でM&Aも含めて30〜35億円の投資を行い、将来の成長に向けた足掛かりの構築を進めていくことにしている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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2. 事業別成長戦略
(1) マテリアルソリューション事業
マテリアルソリューション事業の2024年3月期業績目標は、売上高で186億円、営業利益で14.0億円を掲げた。2022年3月期は原材料コストの上昇等により減益を見込んでいるものの、2023年3月期以降は増収増益を見込んでいる。営業利益率も7.5%と2021年3月期の7.7%とほぼ同水準まで回復する見通しだ。ウェーブロックホールディングス<7940>の安定的な収益基盤として、さらなる収益力の強化に加えて、成長が見込まれる新規分野への展開を推進していく方針となっている。
収益基盤の向上施策としては、生産性向上に寄与する生産体制の再構築(外部パートナーとの協業含む)や、流通チャネルの最適化による販売効率の向上に取り組んでいく。一方、新規分野としては環境関連ビジネスと海外市場の開拓を進めていく。特に、環境関連ビジネスでは、熱交換の大幅な効率化を実現するシステム「ヒートクラスター」による地中熱ビジネスを育成していく方針で、2021年3月期の売上高0.3億円から2024年3月期は7億円を目標とし、3ヵ年の営業利益の増益分の半分を同事業で稼ぎ出す計画となっている。
熱交換システム「ヒートクラスター」とは、地下20〜100mの地中熱を利用したヒートポンプ方式の冷暖房システムである。年間を通し温度がほぼ一定となる地中に熱交換システムを設置し、冬の暖房時には外気より温度の高い地中から採熱し、夏の冷房時には外気より温度の低い地中に放熱することによって、既存の空調システムに対して大幅な省エネ化を実現したシステムとなる。消費電力の削減効果としては、既存システムの30〜60%程度を達成した事例がある。政府の再生可能エネルギー拡大政策により2011年度以降、経済産業省や環境省等で補助金制度が導入されたほか、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)でも普及促進に向けた研究開発事業等に取り組んでおり、省エネルギーソリューションの1つとして今後の市場拡大が見込まれている。
課題は、熱交換用のパイプを埋設するための掘削工事費用が高い点にあり、各社が施工方法も含めた低コスト化システムの開発を進めている。同社が開発した熱交換システムは従来技術よりも熱交換効率が3〜5倍高く、掘削回数が少なくて済むため、従来工法よりも設備投資費用を抑制できることが長所となっている。従来はシステムの販売のみであったが、事業を拡大していくために、2022年3月期中に建設業認可を保有する企業と連携することによって、施工も含めた元請けが可能なシステムインテグレータとして成長を目指していく戦略だ。このため、売上計画も2023年3月期からの伸長を見込んでいる。
ターゲット市場は、既存事業とのシナジーも見込める農業・建設分野を挙げており、大規模ビニルハウスや建物の空調システムとして導入拡大を目指していく。農業分野では農家の生産性向上が課題と言われており、同社は地中熱ビジネスの普及に取り組むことで、農業の生産性向上並びにサステナビリティに貢献していく考えだ。
そのほか、環境関連ビジネスでは、環境対応素材製品の展開を推進していく。樹脂使用量の低減や、食品のロングライフ化、リサイクル可能な建設資材の開発等、環境対応のための顧客ニーズは増大しており、こうしたニーズに迅速に対応していくことで、持続的な成長を実現していく。
海外展開では、農業用資材をアジア各国に販売していく。中国では、現地子会社と連携しながら有力な販売パートナーを探索し、日本製の高付加価値品を販売していく。韓国では現地販売チャネルを開拓し、遮光ネットを販売、ベトナムでは現地企業と協業して、周辺国を含めて遮光ネットや防虫ネットの拡販を進めていく計画となっている。ただ、今回の中期3ヵ年計画での売上貢献としては多くは見込んでいないようで、海外市場展開のための基盤固めを行う期間と位置付けている。
(2) アドバンストテクノロジー事業
アドバンストテクノロジー事業の2024年3月期業績目標は、売上高で59億円、営業利益で5.0億円となり、過去最高業績の更新を目指す。技術的競合優位性を構築し、顧客サービスの向上に注力することで、自動車内外装部品の市場成長を取り込んでいく戦略となっている。付加価値の高い金属調加飾フィルムやPMMA/PC2層シートの売上成長により、2024年3月期の営業利益率も8.5%と過去最高水準(2019年3月期は8.6%)まで回復する見通しとなっている。
技術的競合優位性を確保していくため、継続的な開発投資を実施し、多様な顧客ニーズに対する提案力を強化していくほか、小ロット多品種生産でも収益力を維持向上していくための、設備投資・人材投資を推進していく。また、2022年半ばまでに自動車業界の国際的な品質管理基準となるIATF16949の認定を取得することで、製品開発から販売までの強固な品質管理システムを構築し、顧客層の拡大を図っていく。販売戦略としては、北米、欧州の販売拠点の体制強化に加えて、中国市場では現地パートナーと連携しながら営業・技術サポート体制の構築を進めていくことで、売上規模の拡大を目指していく。
自動車業界ではCO2排出規制や環境規制などを背景に、EVの普及だけでなく脱メッキ・塗装の流れが進展している。特に、EVでは駆動システムの変化により、内装や外装デザインのトレンドが大きく変化してきており、同社が手掛けている金属調加飾フィルムやPMMA/PC2層シートの需要拡大が見込まれている。具体的には、電波透過性並びに光透過性、意匠性の高い金属調加飾フィルムの特徴を生かしてフロントグリルのエンブレム部分やLEDランプ周辺部分での需要増加が見込まれるほか、UI部分(インパネ)のディスプレイやHUDの大型化に伴うPMMA/PC2層シートの需要増加が見込まれている。
金属調加飾フィルム及びPMMA/PC2層シートの売上高は2年先までの採用モデルや生産数量がすべて確定しているわけではないが、現在見込み案件数が増加していることを考慮すれば高成長が見込める。特に、北米EV向けでは塗料・メッキ品から金属調加飾フィルムへの代替ニーズが強く、商談件数も増加しており、今後さらに売上が伸びる見込みだ。このため、今後の状況次第では北米で現地製造を行う(または製造委託先を探す)可能性もあるとしている。北米市場で金属調加飾フィルムを展開している企業はAkzo Nobelしかなかったが、サービスや電波透過率等の品質面において一定優位性があることが、同社の商談件数が増加している一因となっているようだ。
また、欧州ではHUDの防塵用シートやインパネ部分のディスプレイ用フィルムとして、同社のPMMA/PC2層シートの採用が進みつつある。このため、現地子会社を拠点としてデザインや機能性も含めた提案力の強化により、売上を拡大していく戦略となっている。中国に関してはEVや車載用ディスプレイで世界最大の市場となる見込みであることから、現地代理店と連携して、中国及びグローバル案件の取り込みを強化していく。一方、日本では塗装の代替となりうる新規構成フィルムの開発や、FCV向け燃料電池用途等、将来の飛躍を担う技術開発に注力していく方針だ。
(3) 新規事業分野の探索
その他、既存分野における深化と強みを生かした新規分野・新規事業については、「樹脂の加工」にこだわらず探索していく方針としている。また、新規分野への参入については、自前主義にこだわらず外部連携やM&Aなど柔軟に進めていくことを考えている。具体的には、ICTを活用した新規プラットフォーム事業や環境関連製品事業での展開を想定しており、今後3年間でM&Aも含めて30〜35億円の投資を行い、将来の成長に向けた足掛かりの構築を進めていくことにしている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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