CAICA Research Memo(7):クシム連結除外の影響により減収も、大幅な損益改善により営業損失幅は縮小
[21/07/28]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■決算概要
1. 2021年10月期上期決算の概要
CAICA<2315>の2021年10月期上期の連結業績は、売上高が前年同期比14.8%減の2,675百万円、営業損失が243百万円(前年同期は519百万円の損失)、経常損失が237百万円(同618百万円の損失)、親会社株主に帰属する四半期純利益が205百万円(同610百万円の損失)と減収ながら、営業損失幅が縮小した。なお、親会社株主に帰属する四半期純損益が黒字転換したのは、Zaif HDの連結化※に伴う会計上の要因(段階取得に係る差益の計上)によるものである。
※上期においては貸借対照表のみを取り込む一方、損益計算書については第3四半期より連結を開始する。
前年同期比で減収となったのは、前期に実施したクシム株式売却に伴う「HRテクノロジー事業」の連結除外※によるものであり、その要因を除けば、「ITサービス事業」及び「金融サービス事業」ともに増収を確保した。「ITサービス事業」は既存システム開発が堅調に推移した。金融機関向けが伸長したほか、非金融向けも継続案件(EC事業者向け一次請負案件等)の受注増が増収に寄与した。「金融サービス事業」については、株式市場の一時的な混乱に伴いトレーディング収益が大きく悪化した前年同期と比べれば、新商品の販売開始等により増収となったものの、収益環境は依然厳しい状況が続いている。
※「HRテクノロジー事業」の連結除外が881百万円の減収要因となっている。
利益面では、「ITサービス事業」による収益の底上げや販管費の削減等により、営業損失幅が縮小した。ただ、「金融サービス事業」は、コロナ禍に伴う市場の不確実性を勘案し、これまでの主力であった個別株を原資産とするeワラントの販売を抑制したことや、トレーディング収益の低迷等により営業損失の状態が続いており、計画に対しても若干下回る進捗となっているようだ。また、既述のとおり、Zaif HDの連結化に伴う従前保有分の評価差益(1,379百万円)※1を計上した一方、発生したのれんに対して減損損失(981百万円)※2を計上。それらの結果、特別利益が特別損失を大きく上回ったことから、親会社株主に帰属する四半期純損益はプラスに転じた。
※1 従前から保有する持ち分を当該追加取得時の時価で再評価することにより、評価差益(段階取得に係る差益)が発生したもの。
※2 2021年10月期上期末時点において、将来キャッシュ・フローの見積もり額を基に回収可能性を保守的に検討した結果の処理である。
財政状態については、Zaif HDの連結化により大きく変化したことに注意が必要である。特に総資産が前期末比約11倍の129,280百万円に大きく拡大したのは、暗号資産交換所の運営に係る「預託金」17,720百万円、「利用者暗号資産」98,648百万円が計上されたことに加え、Zaif HDの連結化に伴い「のれん」が5,840百万円※(前期末は24百万円)に増加したことが主因である。一方、自己資本は前期末比2.3%増の9,448百万円の増加にとどまったことから、自己資本比率は7.3%(前期末は81.8%)に大きく低下した。ただ、自己資本比率の低下は、暗号資産交換所特有の財務バランスが反映されたためであり、流動比率は103.8%と100%を超え、ネット有利子負債もマイナス(実質無借金)の状態が継続していることから、財務の安全性に懸念はない。あえて言えば、「のれん」に対する今後の減損リスクは気になるものの、Zaif HDの将来性(シナジー創出を含む)や自己資本の範囲内(約62%)でカバーされていることを勘案すれば、現時点で大きなリスク要因として捉える必要はないであろう。
※減損損失981百万円を減額した後の金額。
各事業別の業績及び活動実績は以下のとおりである。
(1) ITサービス事業
売上高は前年同期比2.4%増の2,486百万円、セグメント利益は190百万円(前年同期は75百万円の損失)と増収増益となった。既存システム開発が堅調に推移した。特に、主力の金融(銀行、証券、保険等)向けが伸長したほか、非金融向けも継続案件の受注増により増収を確保した。利益面でも、増収による収益の底上げ等により黒字転換を実現した。一方、暗号資産関連のシステム開発については、注力する暗号資産交換所向けパッケージ「crypto base C」が引き合いを獲得できているものの受注には至らなかったが、暗号資産交換所「Zaif Exchange」向けの案件は次世代システムの開発構想を含めて活発化してきたようだ。また、リモートワークの広がりを受け、「セキュリティコンサルティング・サービス」の引き合いが増加したことや、NFTプラットフォーム(詳細は後述)の販売を開始したことは、今後のプラス材料として捉えることができる。
(2) 金融サービス事業
売上高は191百万円(前年同期は56百万円のマイナス※)、セグメント損失は210百万円(同351百万円の損失)と増収により損失幅が縮小した。2020年10月期第2四半期における株式市場の混乱による影響を踏まえ、これまでの主力であった個別株を原資産とするeワラントの販売を抑制する一方、2021年2月以降、暗号資産を原資産とした新商品の取り扱いを開始したことをきかっけに、eワラント取引が復調した。ただ、計画に対しては若干下回る進捗となっているようだ。利益面でも、増収により損失幅が縮小したものの、トレーディング収益の低迷等の影響により、損失を計上した。一方、2019年9月より開始した、eワラント証券自身による直接販売「eワラント・ダイレクト」については、口座数が順調に増加している。特に、2021年2月に暗号資産を原資産とした新商品「ビットコインレバレッジトラッカー」、同じく3月には「イーサリアムレバレッジトラッカー」の取り扱いを相次いで開始すると、eワラント証券の口座申し込み数も増えており、新たな収益基盤となってきた。
※前年同期は、第2四半期における株式市場の混乱に伴うトレーディング損失の計上により、売上高はマイナスとなった。
2. 2021年10月期上期の総括
以上から、2021年10月期上期を総括すると、業績面ではやや計画に対して遅れが生じたものの、「ITサービス事業」による収益の底上げにより損失幅が縮小したところは、傾向を見るうえでプラスの評価をしても良いであろう。一方、活動面・戦略面においては、1) Zaif HDの連結化を始め、2) 各種自社製品の販売強化、3) 新たな暗号資産関連商品の販売開始、4) NFTプラットフォームの販売開始など、上期業績にはまだ貢献していないものの、今後の方向性を判断するうえで大きな前進を示すことができたと評価できる。特に、Zaif HDの連結化は、暗号資産ビジネスの拡大に向けてメリットが期待できる一方、同社にとって大きな投資となったことに加え、暗号資産交換所の運営に係る財務的な影響を踏まえると、プラス・マイナス両面で大きな転機となる可能性が高い。ただ、同社成長を加速させるために絶好のチャンスであることは明らかであり、今後いかに内部管理態勢を強化し、グループシナジーを創出していくのか、これからの経営手腕にかかっていると言える。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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1. 2021年10月期上期決算の概要
CAICA<2315>の2021年10月期上期の連結業績は、売上高が前年同期比14.8%減の2,675百万円、営業損失が243百万円(前年同期は519百万円の損失)、経常損失が237百万円(同618百万円の損失)、親会社株主に帰属する四半期純利益が205百万円(同610百万円の損失)と減収ながら、営業損失幅が縮小した。なお、親会社株主に帰属する四半期純損益が黒字転換したのは、Zaif HDの連結化※に伴う会計上の要因(段階取得に係る差益の計上)によるものである。
※上期においては貸借対照表のみを取り込む一方、損益計算書については第3四半期より連結を開始する。
前年同期比で減収となったのは、前期に実施したクシム株式売却に伴う「HRテクノロジー事業」の連結除外※によるものであり、その要因を除けば、「ITサービス事業」及び「金融サービス事業」ともに増収を確保した。「ITサービス事業」は既存システム開発が堅調に推移した。金融機関向けが伸長したほか、非金融向けも継続案件(EC事業者向け一次請負案件等)の受注増が増収に寄与した。「金融サービス事業」については、株式市場の一時的な混乱に伴いトレーディング収益が大きく悪化した前年同期と比べれば、新商品の販売開始等により増収となったものの、収益環境は依然厳しい状況が続いている。
※「HRテクノロジー事業」の連結除外が881百万円の減収要因となっている。
利益面では、「ITサービス事業」による収益の底上げや販管費の削減等により、営業損失幅が縮小した。ただ、「金融サービス事業」は、コロナ禍に伴う市場の不確実性を勘案し、これまでの主力であった個別株を原資産とするeワラントの販売を抑制したことや、トレーディング収益の低迷等により営業損失の状態が続いており、計画に対しても若干下回る進捗となっているようだ。また、既述のとおり、Zaif HDの連結化に伴う従前保有分の評価差益(1,379百万円)※1を計上した一方、発生したのれんに対して減損損失(981百万円)※2を計上。それらの結果、特別利益が特別損失を大きく上回ったことから、親会社株主に帰属する四半期純損益はプラスに転じた。
※1 従前から保有する持ち分を当該追加取得時の時価で再評価することにより、評価差益(段階取得に係る差益)が発生したもの。
※2 2021年10月期上期末時点において、将来キャッシュ・フローの見積もり額を基に回収可能性を保守的に検討した結果の処理である。
財政状態については、Zaif HDの連結化により大きく変化したことに注意が必要である。特に総資産が前期末比約11倍の129,280百万円に大きく拡大したのは、暗号資産交換所の運営に係る「預託金」17,720百万円、「利用者暗号資産」98,648百万円が計上されたことに加え、Zaif HDの連結化に伴い「のれん」が5,840百万円※(前期末は24百万円)に増加したことが主因である。一方、自己資本は前期末比2.3%増の9,448百万円の増加にとどまったことから、自己資本比率は7.3%(前期末は81.8%)に大きく低下した。ただ、自己資本比率の低下は、暗号資産交換所特有の財務バランスが反映されたためであり、流動比率は103.8%と100%を超え、ネット有利子負債もマイナス(実質無借金)の状態が継続していることから、財務の安全性に懸念はない。あえて言えば、「のれん」に対する今後の減損リスクは気になるものの、Zaif HDの将来性(シナジー創出を含む)や自己資本の範囲内(約62%)でカバーされていることを勘案すれば、現時点で大きなリスク要因として捉える必要はないであろう。
※減損損失981百万円を減額した後の金額。
各事業別の業績及び活動実績は以下のとおりである。
(1) ITサービス事業
売上高は前年同期比2.4%増の2,486百万円、セグメント利益は190百万円(前年同期は75百万円の損失)と増収増益となった。既存システム開発が堅調に推移した。特に、主力の金融(銀行、証券、保険等)向けが伸長したほか、非金融向けも継続案件の受注増により増収を確保した。利益面でも、増収による収益の底上げ等により黒字転換を実現した。一方、暗号資産関連のシステム開発については、注力する暗号資産交換所向けパッケージ「crypto base C」が引き合いを獲得できているものの受注には至らなかったが、暗号資産交換所「Zaif Exchange」向けの案件は次世代システムの開発構想を含めて活発化してきたようだ。また、リモートワークの広がりを受け、「セキュリティコンサルティング・サービス」の引き合いが増加したことや、NFTプラットフォーム(詳細は後述)の販売を開始したことは、今後のプラス材料として捉えることができる。
(2) 金融サービス事業
売上高は191百万円(前年同期は56百万円のマイナス※)、セグメント損失は210百万円(同351百万円の損失)と増収により損失幅が縮小した。2020年10月期第2四半期における株式市場の混乱による影響を踏まえ、これまでの主力であった個別株を原資産とするeワラントの販売を抑制する一方、2021年2月以降、暗号資産を原資産とした新商品の取り扱いを開始したことをきかっけに、eワラント取引が復調した。ただ、計画に対しては若干下回る進捗となっているようだ。利益面でも、増収により損失幅が縮小したものの、トレーディング収益の低迷等の影響により、損失を計上した。一方、2019年9月より開始した、eワラント証券自身による直接販売「eワラント・ダイレクト」については、口座数が順調に増加している。特に、2021年2月に暗号資産を原資産とした新商品「ビットコインレバレッジトラッカー」、同じく3月には「イーサリアムレバレッジトラッカー」の取り扱いを相次いで開始すると、eワラント証券の口座申し込み数も増えており、新たな収益基盤となってきた。
※前年同期は、第2四半期における株式市場の混乱に伴うトレーディング損失の計上により、売上高はマイナスとなった。
2. 2021年10月期上期の総括
以上から、2021年10月期上期を総括すると、業績面ではやや計画に対して遅れが生じたものの、「ITサービス事業」による収益の底上げにより損失幅が縮小したところは、傾向を見るうえでプラスの評価をしても良いであろう。一方、活動面・戦略面においては、1) Zaif HDの連結化を始め、2) 各種自社製品の販売強化、3) 新たな暗号資産関連商品の販売開始、4) NFTプラットフォームの販売開始など、上期業績にはまだ貢献していないものの、今後の方向性を判断するうえで大きな前進を示すことができたと評価できる。特に、Zaif HDの連結化は、暗号資産ビジネスの拡大に向けてメリットが期待できる一方、同社にとって大きな投資となったことに加え、暗号資産交換所の運営に係る財務的な影響を踏まえると、プラス・マイナス両面で大きな転機となる可能性が高い。ただ、同社成長を加速させるために絶好のチャンスであることは明らかであり、今後いかに内部管理態勢を強化し、グループシナジーを創出していくのか、これからの経営手腕にかかっていると言える。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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