アーバネット Research Memo(5):好調な外部環境を追い風に、販売戸数の拡大が業績をけん引
[21/08/26]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■業績動向
1. 過去の業績推移
過去の業績推移を振り返ると、主力である投資用ワンルームマンションにおける販売戸数の拡大がアーバネットコーポレーション<3242>の業績をけん引してきた。2008年のリーマンショックの影響などによる金融引き締めを背景として、2011年6月期にボトムをつけたものの、金融緩和の動きとともに、順調に開発物件を積み上げることで業績は回復から拡大基調をたどっており、2020年6月期は2期連続で過去最高業績を更新した。後述するように、2021年6月期は一旦減収となったものの、2022年6月期は再び増収基調へと回帰する見通しである。特に、投資用ワンルームマンションの売れ行きが好調であることや、海外投資家や事業会社等への1棟一括直接販売による販売単価の上昇もあいまって、経常利益率も10%前後の水準で推移してきた。
一方、財務面では、開発物件の積み上げなどに伴い有利子負債残高も増加傾向をたどってきたが、内部留保の蓄積に加え、2015年6月の公募増資(約13億円)や2019年12月の公募増資等(約20億円)により、自己資本比率は30%を超える水準となっている。なお、2014年6月期以降、その他(固定資産)が拡大しているのは、安定収益源の確保や融資担保となる賃貸収益物件の取得を進めてきたことや、研究開発として取り組んでいるホテル開発プロジェクト(2020年10月オープン)によるものである。用地取得の困難な状況や物件厳選の方針により、2019年6月期以降、棚卸資産(販売用不動産と仕掛販売用不動産の合計)の伸びは若干抑え気味となっているが、固定資産(自社保有ホテルや賃貸収益物件の取得等)の増加などにより資産残高は拡大している。
2. 2021年6月期の業績概要
2021年6月期の業績は、売上高が前期比4.8%減の20,955百万円、営業利益が同6.6%減の2,321百万円、経常利益が同5.4%減の2,080百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同14.9%減の1,281百万円と減収減益ながら、計画を上回る着地となった。なお、コロナ禍の影響については、徹底した感染対策等により竣工遅延などは生じておらず、マンション販売会社やファンド等からの引き合いや金融機関からの資金調達も順調であり、業績への影響は受けていない。
売上高は、小規模ながら新たに「ホテル事業」が追加されたものの、主力の「不動産事業」が減収となった。「不動産事業」の内訳を見ると、主力の「不動産開発販売」の販売戸数が15棟683戸※1(前期比29戸減)に減少したことで減収要因となった(ただし、計画比では9戸増※2)。また、「不動産仕入販売」についても、中古分譲マンションの買取再販は5戸(前期は合計14戸)にとどまり減収となった。一方、「その他(不動産仲介及び不動産賃貸事業)」は、賃貸収益物件の安定稼働や新規取得により着実に伸びている。
※1 販売した15棟のうち、投資ファンド等への1棟一括販売は6棟と見られる。
※2 2022年6月期販売予定物件の竣工が早まったことから、全45戸のうち9戸を前倒しで販売したものである。
なお、2020年10月にオープンした自社保有ホテル「ホテルアジール東京蒲田」については、コロナ禍の影響により稼働率は損益分岐点を下回る水準(30%〜60%程度)で推移しているものの、研究開発の一環としての位置づけから費用を大きめに設定しており、期初の計画はほぼ達成できたようだ。
利益面では、減収による収益の下押しに加え、「ホテル事業」の新規開業に伴う初期費用等により営業減益となったものの、そこは想定内である。総じて用地価格の高騰が継続しているなかでも、利益率の高いプロジェクトが数件あったことにより、営業利益率は11.1%(計画は10.3%)と計画を上回る水準を確保した。なお、最終損益の減益幅が比較的大きくなったのは、固定資産(賃貸用不動産)の一部に対して減損損失(116百万円)を計上したことが理由である。
財務面では、総資産が「仕掛販売用不動産」の積み上げや「固定資産(賃貸収益物件)」の取得等により前期末比3.5%増の35,175百万円に増加した。特に、「仕掛販売用不動産」については、用地取得の困難な状況が続くなかで、第3四半期から積極的な用地仕入れ(大型プロジェクトの取得等)により大きく拡大している。一方、自己資本も内部留保の積み増し等により同6.6%増の12,036百万円に拡大したことから、自己資本比率は34.2%(前期末は33.2%)と若干改善した。
キャッシュ・フローの状況についても、「仕掛販売用不動産」の増加に伴って営業キャッシュ・フローがマイナスとなったことに加え、固定資産(賃貸物件)の取得により投資キャッシュ・フローもマイナスとなったことから、「現金及び現金同等物」は前期末比19.2%減の7,193百万円に減少したが、依然として手元流動性は十分に確保されており、財務の安全性に懸念はない。
3. パイプラインの状況
2021年6月期末のパイプライン(開発物件)の状況は、2022年6月期の販売予定分727戸に加え、2023年6月期以降の販売予定分として1,000戸超を確保しており、しばらくは高い業績水準を維持していくことが可能であると弊社では評価している。コロナ禍においても、都心の好立地の不動産価格に下落の兆候は見られず、用地仕入れが難しい環境が続いているが、同社では不動産市況の動向を注視しながら、パイプラインをさらに積み上げていく方針である。特に、独自のビジネスモデルと安定した財務基盤を活かして、大型プロジェクトや東京都心以外(地方中核都市を含む)での開発も検討しているようだ。
4. その他のトピックス
(1) 学生マンション開発事業への参入
「不動産開発事業」の多様化を目的として、学生専用マンション開発事業に参入した。少子化の環境下、大学キャンパスの都心回帰の動きが顕著であり、学生専用マンションの立地が同社の開発対象エリアと重なることや、長年培ったワンルームマンション開発のノウハウ・強みが生かせることが参入に至った経緯である。第1号プロジェクト(東京都板橋区)は2020年11月に着工し、2022年2月下旬頃の竣工を予定している。
(2) 固定資産(賃貸収益物件)の取得
2021年5月には、ストックビジネスの強化を目的として、自社保有の賃貸収益物件(東京都杉並区/鉄筋造陸屋根3階建 共同住宅2棟)を356百万円で新たに取得した。2019年12月に実施した公募増資等により調達した資金の一部を原資とするものである。本件により自社保有の賃貸収益物件は合計8棟となった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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1. 過去の業績推移
過去の業績推移を振り返ると、主力である投資用ワンルームマンションにおける販売戸数の拡大がアーバネットコーポレーション<3242>の業績をけん引してきた。2008年のリーマンショックの影響などによる金融引き締めを背景として、2011年6月期にボトムをつけたものの、金融緩和の動きとともに、順調に開発物件を積み上げることで業績は回復から拡大基調をたどっており、2020年6月期は2期連続で過去最高業績を更新した。後述するように、2021年6月期は一旦減収となったものの、2022年6月期は再び増収基調へと回帰する見通しである。特に、投資用ワンルームマンションの売れ行きが好調であることや、海外投資家や事業会社等への1棟一括直接販売による販売単価の上昇もあいまって、経常利益率も10%前後の水準で推移してきた。
一方、財務面では、開発物件の積み上げなどに伴い有利子負債残高も増加傾向をたどってきたが、内部留保の蓄積に加え、2015年6月の公募増資(約13億円)や2019年12月の公募増資等(約20億円)により、自己資本比率は30%を超える水準となっている。なお、2014年6月期以降、その他(固定資産)が拡大しているのは、安定収益源の確保や融資担保となる賃貸収益物件の取得を進めてきたことや、研究開発として取り組んでいるホテル開発プロジェクト(2020年10月オープン)によるものである。用地取得の困難な状況や物件厳選の方針により、2019年6月期以降、棚卸資産(販売用不動産と仕掛販売用不動産の合計)の伸びは若干抑え気味となっているが、固定資産(自社保有ホテルや賃貸収益物件の取得等)の増加などにより資産残高は拡大している。
2. 2021年6月期の業績概要
2021年6月期の業績は、売上高が前期比4.8%減の20,955百万円、営業利益が同6.6%減の2,321百万円、経常利益が同5.4%減の2,080百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同14.9%減の1,281百万円と減収減益ながら、計画を上回る着地となった。なお、コロナ禍の影響については、徹底した感染対策等により竣工遅延などは生じておらず、マンション販売会社やファンド等からの引き合いや金融機関からの資金調達も順調であり、業績への影響は受けていない。
売上高は、小規模ながら新たに「ホテル事業」が追加されたものの、主力の「不動産事業」が減収となった。「不動産事業」の内訳を見ると、主力の「不動産開発販売」の販売戸数が15棟683戸※1(前期比29戸減)に減少したことで減収要因となった(ただし、計画比では9戸増※2)。また、「不動産仕入販売」についても、中古分譲マンションの買取再販は5戸(前期は合計14戸)にとどまり減収となった。一方、「その他(不動産仲介及び不動産賃貸事業)」は、賃貸収益物件の安定稼働や新規取得により着実に伸びている。
※1 販売した15棟のうち、投資ファンド等への1棟一括販売は6棟と見られる。
※2 2022年6月期販売予定物件の竣工が早まったことから、全45戸のうち9戸を前倒しで販売したものである。
なお、2020年10月にオープンした自社保有ホテル「ホテルアジール東京蒲田」については、コロナ禍の影響により稼働率は損益分岐点を下回る水準(30%〜60%程度)で推移しているものの、研究開発の一環としての位置づけから費用を大きめに設定しており、期初の計画はほぼ達成できたようだ。
利益面では、減収による収益の下押しに加え、「ホテル事業」の新規開業に伴う初期費用等により営業減益となったものの、そこは想定内である。総じて用地価格の高騰が継続しているなかでも、利益率の高いプロジェクトが数件あったことにより、営業利益率は11.1%(計画は10.3%)と計画を上回る水準を確保した。なお、最終損益の減益幅が比較的大きくなったのは、固定資産(賃貸用不動産)の一部に対して減損損失(116百万円)を計上したことが理由である。
財務面では、総資産が「仕掛販売用不動産」の積み上げや「固定資産(賃貸収益物件)」の取得等により前期末比3.5%増の35,175百万円に増加した。特に、「仕掛販売用不動産」については、用地取得の困難な状況が続くなかで、第3四半期から積極的な用地仕入れ(大型プロジェクトの取得等)により大きく拡大している。一方、自己資本も内部留保の積み増し等により同6.6%増の12,036百万円に拡大したことから、自己資本比率は34.2%(前期末は33.2%)と若干改善した。
キャッシュ・フローの状況についても、「仕掛販売用不動産」の増加に伴って営業キャッシュ・フローがマイナスとなったことに加え、固定資産(賃貸物件)の取得により投資キャッシュ・フローもマイナスとなったことから、「現金及び現金同等物」は前期末比19.2%減の7,193百万円に減少したが、依然として手元流動性は十分に確保されており、財務の安全性に懸念はない。
3. パイプラインの状況
2021年6月期末のパイプライン(開発物件)の状況は、2022年6月期の販売予定分727戸に加え、2023年6月期以降の販売予定分として1,000戸超を確保しており、しばらくは高い業績水準を維持していくことが可能であると弊社では評価している。コロナ禍においても、都心の好立地の不動産価格に下落の兆候は見られず、用地仕入れが難しい環境が続いているが、同社では不動産市況の動向を注視しながら、パイプラインをさらに積み上げていく方針である。特に、独自のビジネスモデルと安定した財務基盤を活かして、大型プロジェクトや東京都心以外(地方中核都市を含む)での開発も検討しているようだ。
4. その他のトピックス
(1) 学生マンション開発事業への参入
「不動産開発事業」の多様化を目的として、学生専用マンション開発事業に参入した。少子化の環境下、大学キャンパスの都心回帰の動きが顕著であり、学生専用マンションの立地が同社の開発対象エリアと重なることや、長年培ったワンルームマンション開発のノウハウ・強みが生かせることが参入に至った経緯である。第1号プロジェクト(東京都板橋区)は2020年11月に着工し、2022年2月下旬頃の竣工を予定している。
(2) 固定資産(賃貸収益物件)の取得
2021年5月には、ストックビジネスの強化を目的として、自社保有の賃貸収益物件(東京都杉並区/鉄筋造陸屋根3階建 共同住宅2棟)を356百万円で新たに取得した。2019年12月に実施した公募増資等により調達した資金の一部を原資とするものである。本件により自社保有の賃貸収益物件は合計8棟となった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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