CAICAD Research Memo(6):市場環境の影響等を受け、「金融サービス事業」が大きく下振れ
[22/01/24]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■決算概要
1. 2021年10月期決算の概要
CAICA DIGITAL<2315>の2021年10月期の連結業績は、売上高が前期比0.9%減の5,946百万円、営業損失が915百万円(前期は679百万円の損失)、経常損失が929百万円(同903百万円の損失)、親会社株主に帰属する当期純損失が799百万円(同557百万円の損失)と減収減益となり、損失幅が拡大した。また、修正予想(2021年4月13日公表)に対しても、売上高・各利益ともに大きく下振れる着地となっている。
売上高は、2020年10月期におけるクシム株式の売却が減収要因※となった。一方、「ITサービス事業」は金融機関向けを中心におおむね堅調に推移したほか、カイカエクスチェンジホールディングスの連結化(第3四半期から)により「金融サービス事業」が前期比で大きく拡大した。ただ、計画を下回ったのは「金融サービス事業」によるものであり、暗号資産の相場下落局面において暗号資産交換所「Zaif」の取引量が一時的に減少したことや、カイカ証券における金融商品の販売低迷等が影響した。
※「HRテクノロジー事業」の連結除外が842百万円の減収要因となっている。
利益面では、「ITサービス事業」が損益改善を実現したものの、「金融サービス事業」については、売上高の下振れやカイカエクスチェンジホールディングスの連結化に伴う固定費増により損失幅がさらに拡大する結果となった。なお、カイカエクスチェンジホールディングスの連結化に伴う従前保有分の評価差益(段階取得に係る差益)(1,379百万円)を特別利益に計上した一方、のれん※1や固定資産※2の減損処理(合計1,226百万円)、投資有価証券評価損※3(151百万円)を特別損失に計上している。
※1 カイカエクスチェンジホールディングス、カイカエクスチェンジ、カイカキャピタルの3社分ののれん。
※2 カイカ証券の固定資産。
※3 カイカ証券が保有する投資有価証券。
財政状態についても、カイカエクスチェンジホールディングスの連結化により大きく変化したことに注意が必要である。特に総資産が前期末比約8.5倍の107,218百万円に大きく拡大したのは、暗号資産交換所の運営に係る「預託金」14,284百万円、「利用者暗号資産」79,689百万円が計上されたことに加え、「のれん」が5,457百万円※(前期末は24百万円)に増加したことが主因である。一方、自己資本は、新株予約権(第2回)の一部権利行使に伴う新株発行(約20億円の資金調達)により前期末比19.8%増の11,067百万円に増加したものの、総資産の大幅な拡大により自己資本比率は10.3%(前期末は81.8%)に大きく低下した。ただ、自己資本比率の低下は、暗号資産交換所特有の財務バランスが反映されたためであり、流動比率は105.8%と100%を超え、ネット有利子負債もマイナス(実質無借金)の状態が継続していることから、財務の安全性に懸念はない。
※2021年10月期第4四半期における減損処理(190百万円)後の計上額。
各事業別の業績及び活動実績は以下のとおりである。
(1) ITサービス事業
売上高(内部取引を含む)は前期比4.6%減の4,824百万円、セグメント利益は同280.0%増の313百万円と減収ながら増益となった。主力となる金融機関向けのシステム開発は、大型案件が少なかったもののおおむね堅調に推移し、とりわけ保険分野は一次請けが伸長した。非金融機関向けについても、コロナ禍により活況を呈するEC事業者などを中心にIT投資意欲が継続しており、新規案件の引き合いも確保しているようだ。また、暗号資産関連のシステム開発分野では、暗号資産交換所向けパッケージ「crypto base C」の受注獲得には至らなかったものの、内部取引となる「Zaif」向け案件(次世代システムの導入等)が本格化してきた。
(2) 金融サービス事業
売上高(内部取引を含む)は前期比約8倍の1,125百万円、セグメント損失は704百万円(前期は456百万円の損失)と大幅な増収ながら損失幅は拡大した。売上高は、カイカエクスチェンジホールディングスの連結化(第3四半期から)が増収に大きく寄与した。ただ、計画を下回ったのは、暗号資産の相場下落局面において暗号資産交換所「Zaif」の取引量が一時的に減少したことが主因である。暗号資産市場は、2021年4月まではビットコインが毎月最高値を更新するなど活況を呈していたものの、5月から7月にかけて下落相場が続き、その影響を受ける格好となった。取引量は8月から9月に回復基調をたどったものの、計画の遅れを取り戻すことはできなかった。
一方、カイカ証券については、暗号資産を対象とした独自の新商品※が好評を得ているものの、これまでの主力商品であったカバードワラント(eワラント)の販売が低調であったことに加え、(株)SBI証券が2021年7月より新規eワラントの銘柄追加を中止したことも起因し、計画を下回る結果となった。
※第1弾となる「ビットコインレバレッジトラッカー」に続き、第2弾「イーサリアムレバレッジトラッカー」、第3弾「ビットコイン先物インデックストラッカー」及び「イーサリアム先物インデックストラッカー」の取り扱いを相次いで開始した。
2. 2021年10月期の総括
以上から、2021年10月期を総括すると、市場環境の影響を受けたとは言え、業績面で計画を大きく下回る結果となったところは厳しい評価をせざるを得ないだろう。暗号資産ビジネスのポテンシャルの高さや同社戦略に対する評価に変わりはないものの、グループ体制の確立により事業拡大に向けた道筋が見えてきただけに、収益基盤の早期確立や顧客基盤の活性化が急務であることが改めて浮き彫りとなったと言える。ただ、暗号資産交換所「Zaif」を擁するカイカエクスチェンジホールディングスの連結化に踏み切り、事業基盤の大幅な拡充を図ったところは、将来に向けたチャレンジングな決断であるとともに、同社戦略の方向性にも合致するものとして前向きに評価したい。同社ならではの様々な戦略的施策や機動力の発揮により、長期ビジョンの実現に向けて数段階ギアが上がることが期待される。そのためにも、暗号資産交換所「Zaif」を軌道に乗せるだけでなく、各事業との連携強化により、いかに暗号資産ビジネスの拡大やその先の「金融プラットフォーマー構想」へと結び付けていくのかがポイントとなろう。一方、暗号資産を軸とする新たな金融分野への挑戦は、比較的安定しているIT分野と比べて市場環境の影響を受けやすいうえ、暗号資産そのものが現時点で不確実性が高い市場であることから、大幅なアップサイドが期待できる一方、業績の下振れも大きくなることを十分に認識しておく必要がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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1. 2021年10月期決算の概要
CAICA DIGITAL<2315>の2021年10月期の連結業績は、売上高が前期比0.9%減の5,946百万円、営業損失が915百万円(前期は679百万円の損失)、経常損失が929百万円(同903百万円の損失)、親会社株主に帰属する当期純損失が799百万円(同557百万円の損失)と減収減益となり、損失幅が拡大した。また、修正予想(2021年4月13日公表)に対しても、売上高・各利益ともに大きく下振れる着地となっている。
売上高は、2020年10月期におけるクシム株式の売却が減収要因※となった。一方、「ITサービス事業」は金融機関向けを中心におおむね堅調に推移したほか、カイカエクスチェンジホールディングスの連結化(第3四半期から)により「金融サービス事業」が前期比で大きく拡大した。ただ、計画を下回ったのは「金融サービス事業」によるものであり、暗号資産の相場下落局面において暗号資産交換所「Zaif」の取引量が一時的に減少したことや、カイカ証券における金融商品の販売低迷等が影響した。
※「HRテクノロジー事業」の連結除外が842百万円の減収要因となっている。
利益面では、「ITサービス事業」が損益改善を実現したものの、「金融サービス事業」については、売上高の下振れやカイカエクスチェンジホールディングスの連結化に伴う固定費増により損失幅がさらに拡大する結果となった。なお、カイカエクスチェンジホールディングスの連結化に伴う従前保有分の評価差益(段階取得に係る差益)(1,379百万円)を特別利益に計上した一方、のれん※1や固定資産※2の減損処理(合計1,226百万円)、投資有価証券評価損※3(151百万円)を特別損失に計上している。
※1 カイカエクスチェンジホールディングス、カイカエクスチェンジ、カイカキャピタルの3社分ののれん。
※2 カイカ証券の固定資産。
※3 カイカ証券が保有する投資有価証券。
財政状態についても、カイカエクスチェンジホールディングスの連結化により大きく変化したことに注意が必要である。特に総資産が前期末比約8.5倍の107,218百万円に大きく拡大したのは、暗号資産交換所の運営に係る「預託金」14,284百万円、「利用者暗号資産」79,689百万円が計上されたことに加え、「のれん」が5,457百万円※(前期末は24百万円)に増加したことが主因である。一方、自己資本は、新株予約権(第2回)の一部権利行使に伴う新株発行(約20億円の資金調達)により前期末比19.8%増の11,067百万円に増加したものの、総資産の大幅な拡大により自己資本比率は10.3%(前期末は81.8%)に大きく低下した。ただ、自己資本比率の低下は、暗号資産交換所特有の財務バランスが反映されたためであり、流動比率は105.8%と100%を超え、ネット有利子負債もマイナス(実質無借金)の状態が継続していることから、財務の安全性に懸念はない。
※2021年10月期第4四半期における減損処理(190百万円)後の計上額。
各事業別の業績及び活動実績は以下のとおりである。
(1) ITサービス事業
売上高(内部取引を含む)は前期比4.6%減の4,824百万円、セグメント利益は同280.0%増の313百万円と減収ながら増益となった。主力となる金融機関向けのシステム開発は、大型案件が少なかったもののおおむね堅調に推移し、とりわけ保険分野は一次請けが伸長した。非金融機関向けについても、コロナ禍により活況を呈するEC事業者などを中心にIT投資意欲が継続しており、新規案件の引き合いも確保しているようだ。また、暗号資産関連のシステム開発分野では、暗号資産交換所向けパッケージ「crypto base C」の受注獲得には至らなかったものの、内部取引となる「Zaif」向け案件(次世代システムの導入等)が本格化してきた。
(2) 金融サービス事業
売上高(内部取引を含む)は前期比約8倍の1,125百万円、セグメント損失は704百万円(前期は456百万円の損失)と大幅な増収ながら損失幅は拡大した。売上高は、カイカエクスチェンジホールディングスの連結化(第3四半期から)が増収に大きく寄与した。ただ、計画を下回ったのは、暗号資産の相場下落局面において暗号資産交換所「Zaif」の取引量が一時的に減少したことが主因である。暗号資産市場は、2021年4月まではビットコインが毎月最高値を更新するなど活況を呈していたものの、5月から7月にかけて下落相場が続き、その影響を受ける格好となった。取引量は8月から9月に回復基調をたどったものの、計画の遅れを取り戻すことはできなかった。
一方、カイカ証券については、暗号資産を対象とした独自の新商品※が好評を得ているものの、これまでの主力商品であったカバードワラント(eワラント)の販売が低調であったことに加え、(株)SBI証券が2021年7月より新規eワラントの銘柄追加を中止したことも起因し、計画を下回る結果となった。
※第1弾となる「ビットコインレバレッジトラッカー」に続き、第2弾「イーサリアムレバレッジトラッカー」、第3弾「ビットコイン先物インデックストラッカー」及び「イーサリアム先物インデックストラッカー」の取り扱いを相次いで開始した。
2. 2021年10月期の総括
以上から、2021年10月期を総括すると、市場環境の影響を受けたとは言え、業績面で計画を大きく下回る結果となったところは厳しい評価をせざるを得ないだろう。暗号資産ビジネスのポテンシャルの高さや同社戦略に対する評価に変わりはないものの、グループ体制の確立により事業拡大に向けた道筋が見えてきただけに、収益基盤の早期確立や顧客基盤の活性化が急務であることが改めて浮き彫りとなったと言える。ただ、暗号資産交換所「Zaif」を擁するカイカエクスチェンジホールディングスの連結化に踏み切り、事業基盤の大幅な拡充を図ったところは、将来に向けたチャレンジングな決断であるとともに、同社戦略の方向性にも合致するものとして前向きに評価したい。同社ならではの様々な戦略的施策や機動力の発揮により、長期ビジョンの実現に向けて数段階ギアが上がることが期待される。そのためにも、暗号資産交換所「Zaif」を軌道に乗せるだけでなく、各事業との連携強化により、いかに暗号資産ビジネスの拡大やその先の「金融プラットフォーマー構想」へと結び付けていくのかがポイントとなろう。一方、暗号資産を軸とする新たな金融分野への挑戦は、比較的安定しているIT分野と比べて市場環境の影響を受けやすいうえ、暗号資産そのものが現時点で不確実性が高い市場であることから、大幅なアップサイドが期待できる一方、業績の下振れも大きくなることを十分に認識しておく必要がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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