アンジェス Research Memo(7):高血圧DNAワクチンの開発はモディファイすることも含めて戦略を策定中
[22/03/23]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■アンジェス<4563>の主要開発パイプラインの動向
3. 高血圧DNAワクチン
プラスミドDNA製法を用いたワクチンの1つとして、高血圧症を対象としたDNAワクチン(AGMG0201)の開発を進めている。同ワクチンは大阪大学の森下竜一(もりしたりゅういち)教授の研究チームにより基本技術が開発されたもので、血圧の昇圧作用を有する生理活性物質アンジオテンシンIIに対する抗体の産生を誘導し、アンジオテンシンIIの作用を減弱させることで長期間安定した降圧作用を発揮するワクチンとなる。
現在、主力の治療薬としてはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬(経口薬))があるものの、毎日服用する必要があるため、長期的に見れば患者1人当たりの治療コストは高い。このため、発展途上国では医療経済上の問題から使用が限定的となっている。同社が開発するDNAワクチンは既存薬よりも高薬価になると想定されるが、1回の治療で長期間の薬効が期待できるためトータルの治療コストは逆に低くなる可能性もあり、開発に成功すれば発展途上国も含めて普及拡大が期待される。
同社は2018年4月よりオーストラリアで第1相/前期第2相臨床試験(プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験、予定症例数24例)を開始し、2020年3月にすべての患者への投与を完了した。二重盲検下で6ヶ月間の安全性と有効性(血圧の低下等)を評価し、その後6ヶ月の非盲検下での長期安全性及び有効性を評価した。
同試験結果についは、2021年10月17日付でHypertension Researchに論文として掲載されたほか、第43回日本高血圧学会総会でも発表している。要旨としては、安全性に問題がなかったこと、また、DNAワクチンを投与した患者では、特に高用量群で抗アンジオテンシンII抗体の産生が多く認められたこと、全体として同ワクチンに対する忍容性は良好だったことを挙げている。ただ、抗体価については被験者ごとでバラつきがあり、今後分析する必要があるとしており、血圧降下作用といった有効性についても別の形でデータをまとめていく予定にしている。
同社では、今回の試験で安全性について問題のないことが確認できたことで、データの詳細分析を行いながら今後の開発方針をモディファイする余地がないかどうかも含めて検討し、策定することにしている。例えば高血圧症のなかでも重度のグレードの患者をターゲットにした開発を進めるといったケースが想定される。このため、今後の開発方針次第では再度第1相/前期第2相臨床試験を実施する可能性もある。なお、高血圧DNAワクチンに関しては2020年6月に日本で、7月に米国でそれぞれ製剤特許及び用途特許を取得している。
EmendoはELANE関連SCNを対象とした臨床試験入りを目指す
4. Emendoのゲノム編集技術
2020年12月に子会社化したEmendoでは、独自開発した先進的なゲノム編集ツール「OMNI Platform」を用いて遺伝子治療薬の開発を進めている。ゲノム編集とは、特定の遺伝子(DNA配列)をDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)によって特異的に切断、編集、改変する技術のことで、ゲノム編集により特定の遺伝子の機能を失わせたり、疾患の原因となっている遺伝子の異常を修正することが可能となる。これまでも複数のゲノム編集ツールが開発されており、なかでも、CRISPR/Cas9は従来技術よりも短時間で簡単に標的となるDNA配列を切断できる革命的な技術として評価され、その開発者が2020年のノーベル化学賞を受賞したことは記憶に新しい。
Emendoでは、これまで一般に用いられてきた既存のCas9ヌクレアーゼとは異なる新規のRNA誘導型ヌクレアーゼ(ガイドRNAがゲノム上の標的配列にCas9ヌクレアーゼを誘導する)を探索し、これらをゲノム編集に応用した技術が「OMNI Platform」となる。Emendoが開発するOMNIヌクレアーゼの長所は、ターゲット遺伝子ごとにヌクレアーゼが最適化されるため、高い効率と精度を持ってゲノム編集ができる点にある。ヒトでの遺伝子疾患治療薬の開発では、人体への悪影響を避けるためゲノム編集を高精度に行う必要があり、それが開発のボトルネックにもなっていた。「OMNI Platform」はそのブレイクスルーとなる技術として注目されており、2021年に開催された学会で同技術を用いた臨床研究の成果を発表したところ、大手製薬企業からバイオベンチャーまで、問い合わせが増えているという。
Emendoでは今後、2つの事業戦略を推進していく計画となっている。第1に、「OMNI Platform」を用いた遺伝子治療薬(技術)の開発推進、第2に「OMNI Platform」のライセンス提供となる。治療薬(技術)の開発では希少遺伝性疾患となるELANE(好中球エラスターゼ遺伝子)変異によるSCNを対象とした開発を進めていくべく、FDAと協議を進めていく予定にしている。SCNとは骨髄における顆粒系細胞の成熟障害により発症する好中球減少症のことで、遺伝子変異により出世後の早期から好中球減少による中耳炎、気道感染症、蜂窩織炎、皮膚感染症を反復、肺炎や敗血症などその他の疾患に至るケースもある。100万人に2人の割合で発症する希少疾患となり、SCNの約7割はELANE変異によるものとなっている。
現在の治療法は、ST合剤(抗生剤、スルファメトキサゾール・トリメトプリム)による感染予防が一般的で、感染症がコントロールできない場合にはG-CSF※を使用して好中球の誘導を促すことになる。ただ、G-CSFを高用量で使用した場合、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病へ移行し、造血幹細胞移植が必要となるケースもある。Emendoでは患者から造血幹細胞を取り出し、「OMNI Platoform」を用いて正常な機能を有するELANEを発現させたうえで患者の体内に戻し、好中球の機能を回復させる根治療法の開発を進めていくことになる。先進的な遺伝子改変技術を用いた治療法となるため、臨床試験のプトロコル策定まで時間を要するものと考えられ、臨床試験の開始時期は未定となっている。同社では2030年までに開発パイプラインを数本走らせることを目標としている。一方で、「OMNI Platform」のライセンス提供については興味を持つ企業も多いため、非独占的な形で比較的早期にサービス提供が拡大していく可能性もある。
※G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子):サイトカインの一種で顆粒球産出の促進、好中球の機能を高める作用がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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3. 高血圧DNAワクチン
プラスミドDNA製法を用いたワクチンの1つとして、高血圧症を対象としたDNAワクチン(AGMG0201)の開発を進めている。同ワクチンは大阪大学の森下竜一(もりしたりゅういち)教授の研究チームにより基本技術が開発されたもので、血圧の昇圧作用を有する生理活性物質アンジオテンシンIIに対する抗体の産生を誘導し、アンジオテンシンIIの作用を減弱させることで長期間安定した降圧作用を発揮するワクチンとなる。
現在、主力の治療薬としてはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬(経口薬))があるものの、毎日服用する必要があるため、長期的に見れば患者1人当たりの治療コストは高い。このため、発展途上国では医療経済上の問題から使用が限定的となっている。同社が開発するDNAワクチンは既存薬よりも高薬価になると想定されるが、1回の治療で長期間の薬効が期待できるためトータルの治療コストは逆に低くなる可能性もあり、開発に成功すれば発展途上国も含めて普及拡大が期待される。
同社は2018年4月よりオーストラリアで第1相/前期第2相臨床試験(プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験、予定症例数24例)を開始し、2020年3月にすべての患者への投与を完了した。二重盲検下で6ヶ月間の安全性と有効性(血圧の低下等)を評価し、その後6ヶ月の非盲検下での長期安全性及び有効性を評価した。
同試験結果についは、2021年10月17日付でHypertension Researchに論文として掲載されたほか、第43回日本高血圧学会総会でも発表している。要旨としては、安全性に問題がなかったこと、また、DNAワクチンを投与した患者では、特に高用量群で抗アンジオテンシンII抗体の産生が多く認められたこと、全体として同ワクチンに対する忍容性は良好だったことを挙げている。ただ、抗体価については被験者ごとでバラつきがあり、今後分析する必要があるとしており、血圧降下作用といった有効性についても別の形でデータをまとめていく予定にしている。
同社では、今回の試験で安全性について問題のないことが確認できたことで、データの詳細分析を行いながら今後の開発方針をモディファイする余地がないかどうかも含めて検討し、策定することにしている。例えば高血圧症のなかでも重度のグレードの患者をターゲットにした開発を進めるといったケースが想定される。このため、今後の開発方針次第では再度第1相/前期第2相臨床試験を実施する可能性もある。なお、高血圧DNAワクチンに関しては2020年6月に日本で、7月に米国でそれぞれ製剤特許及び用途特許を取得している。
EmendoはELANE関連SCNを対象とした臨床試験入りを目指す
4. Emendoのゲノム編集技術
2020年12月に子会社化したEmendoでは、独自開発した先進的なゲノム編集ツール「OMNI Platform」を用いて遺伝子治療薬の開発を進めている。ゲノム編集とは、特定の遺伝子(DNA配列)をDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)によって特異的に切断、編集、改変する技術のことで、ゲノム編集により特定の遺伝子の機能を失わせたり、疾患の原因となっている遺伝子の異常を修正することが可能となる。これまでも複数のゲノム編集ツールが開発されており、なかでも、CRISPR/Cas9は従来技術よりも短時間で簡単に標的となるDNA配列を切断できる革命的な技術として評価され、その開発者が2020年のノーベル化学賞を受賞したことは記憶に新しい。
Emendoでは、これまで一般に用いられてきた既存のCas9ヌクレアーゼとは異なる新規のRNA誘導型ヌクレアーゼ(ガイドRNAがゲノム上の標的配列にCas9ヌクレアーゼを誘導する)を探索し、これらをゲノム編集に応用した技術が「OMNI Platform」となる。Emendoが開発するOMNIヌクレアーゼの長所は、ターゲット遺伝子ごとにヌクレアーゼが最適化されるため、高い効率と精度を持ってゲノム編集ができる点にある。ヒトでの遺伝子疾患治療薬の開発では、人体への悪影響を避けるためゲノム編集を高精度に行う必要があり、それが開発のボトルネックにもなっていた。「OMNI Platform」はそのブレイクスルーとなる技術として注目されており、2021年に開催された学会で同技術を用いた臨床研究の成果を発表したところ、大手製薬企業からバイオベンチャーまで、問い合わせが増えているという。
Emendoでは今後、2つの事業戦略を推進していく計画となっている。第1に、「OMNI Platform」を用いた遺伝子治療薬(技術)の開発推進、第2に「OMNI Platform」のライセンス提供となる。治療薬(技術)の開発では希少遺伝性疾患となるELANE(好中球エラスターゼ遺伝子)変異によるSCNを対象とした開発を進めていくべく、FDAと協議を進めていく予定にしている。SCNとは骨髄における顆粒系細胞の成熟障害により発症する好中球減少症のことで、遺伝子変異により出世後の早期から好中球減少による中耳炎、気道感染症、蜂窩織炎、皮膚感染症を反復、肺炎や敗血症などその他の疾患に至るケースもある。100万人に2人の割合で発症する希少疾患となり、SCNの約7割はELANE変異によるものとなっている。
現在の治療法は、ST合剤(抗生剤、スルファメトキサゾール・トリメトプリム)による感染予防が一般的で、感染症がコントロールできない場合にはG-CSF※を使用して好中球の誘導を促すことになる。ただ、G-CSFを高用量で使用した場合、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病へ移行し、造血幹細胞移植が必要となるケースもある。Emendoでは患者から造血幹細胞を取り出し、「OMNI Platoform」を用いて正常な機能を有するELANEを発現させたうえで患者の体内に戻し、好中球の機能を回復させる根治療法の開発を進めていくことになる。先進的な遺伝子改変技術を用いた治療法となるため、臨床試験のプトロコル策定まで時間を要するものと考えられ、臨床試験の開始時期は未定となっている。同社では2030年までに開発パイプラインを数本走らせることを目標としている。一方で、「OMNI Platform」のライセンス提供については興味を持つ企業も多いため、非独占的な形で比較的早期にサービス提供が拡大していく可能性もある。
※G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子):サイトカインの一種で顆粒球産出の促進、好中球の機能を高める作用がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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