極東貿易 Research Memo(2):経営危機をバネに、経営の舵取りと企業構造を大きく転換(1)
[22/09/30]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■会社概要
1. 沿革
極東貿易<8093>は2022年11月に設立75周年を迎える。第2次世界大戦の終戦後、三井物産<8031>は財閥解体となったが、機械部門(営業課及び貿易課)が主体となり独立して同社が設立された。その後、海外の最先端の建設・鉱山機械や製造装置等を国内の基幹産業(建設、製鉄、化学プラント、電力、繊維、エレクトロニクス)へ輸入販売して日本の経済復興に貢献し、日本の高度経済成長とともに成長してきた。同社は、国内の大手企業から厚い信頼とロイヤリティを得ながら、基幹産業界のなかで一定の地位を確保してきた。
その後、航空・防衛産業向け電子機器や自動車産業向け樹脂・塗料等、事業領域の幅が広がった。特に航空・防衛関連事業は、同社の事業の大きな柱となっていった。1987年に東証に上場した頃は、産業用機械(製鉄所、電力等)、産業素材、航空・防衛関連が中核事業であった。2000年頃には年商2千億円を突破し、順調に拡大した。光通信用半導体も取り扱ったが市場が不透明でありボラティリティ(市場価格が1/100まで下落)が大きく、事業マネジメントが難しい局面もあった。そのような難局も乗り越え、同社は小粒でありながらも多種多様な事業を展開して、現在の総合商社のような事業構造の原型をつくり上げてきた。
ところが、2008年1月に同社を揺るがす大事件が起きた。防衛省への過大請求事案である。当時の新聞で取り扱われ、この事案解決までに約2年間を要した。これにより輸入元の米国メーカーとの契約取消・解除などが重なり、業績は大きく悪化した。結果として、航空・防衛関連は壊滅的状態となり、中核事業の一角を失った。また、当時は会計制度(売上計上法の変更)見直しの影響もあり、同社の単体売上高2千億円超は1/4以下にまで縮小した。そこで、同社では「企業変革と再成長」に取り組み、手持ち資金の取り崩しやコストカット等あらゆるリストラを断行したことで、“最悪の事態”を回避した。
この経営危機を機に大きく経営の舵を切った。中核事業の一角(航空・防衛関連)を失った事業構造を立て直すべく、新たな事業をM&Aで取り込んだ。幸い、不祥事対策やリストラ対策等に手持ち資金を一部充当したが、M&Aを実行する資金は手元にあった。
2011年1月の(株)ゼットアールシー・ジャパンを皮切りに、2018年までの7年間で立て続けに7案件以上のM&Aを実施した。結果的にはすべて成功(いずれの案件も売上総利益率は全社平均売上総利益率を上回る)した。最も成功したM&Aは2015年9月に完全子会社化したヱトー(株)である。ヱトーは自動車部品、建設機械、産業機械、住宅設備等の特注品ねじ等を取り扱っており、2022年3月期の連結売上総利益8,194百万円のうち3,453百万円(構成比42.1%)を稼ぐ儲頭事業となった。それ以外でも、サンコースプリング(株)は他社が真似できない「定荷重ばね」を開発して、世界トップクラスのシェア製品やオンリーワン製品を数多く生み出し、高付加価値・高収益(売上総利益率35.9%)で貢献している。
また、2018年4月には輸出商社のプラント・メンテナンスを完全子会社化し、同社の重電設備事業とのシナジーにより国内外での拡販を強化した。
同社は、エンジニアリング商社として、1)経営理念:「ニーズとシーズの橋になる」、2)社是:「人と技術と信頼と」を掲げ、「顧客からどんな高度な要求をされても、それに応えられる商社でありたい。そのためには、単にモノを提供するだけでなく、技術サポートを行い、ベストな商品を企業に提供する」ことを重視している。
2. 事業概要
大手商社に比べると企業体力で劣る中堅商社は、得意分野に絞り込み専門商社として事業展開するケースが一般的である。同社は設立75年の歴史のなかで、基幹産業からインフラ、そして、炭素繊維やメタンハイドレート等の先端分野まで幅広い業種を対象としてきた。
事業ポートフォリオの観点から見ても、同社の事業構造は景気に左右されにくい収益構造である。高い成長性は見込めないが安定受注・収益に寄与する重電、鉄鋼、化学プラント向け基幹産業事業や、特定車種に採用が決まれば、3〜5年間安定的に受注できる自動車関連事業(樹脂・塗料等)などを事業展開しており、個々の事業での需給変動や価格変動等の各種ビジネスリスクを吸収して事業の好不調を補い合える、安定的かつバランスの取れた事業運営となっている。またエネルギー市場関連ビジネスに関しては、昨今のESG動向に鑑みて火力発電所向け計装システム事業を縮小し、今後は成長分野である洋上風力発電関連事業へシフトする意図が窺える。
多種多彩な事業のなかでも、ねじ関連事業(2022年3月期売上高15,275百万円、売上総利益3,091百万円、売上総利益率20.2%)、自動車分野を中心とした樹脂・塗料事業(同8,801百万円、同1,318百万円、同15.0% )、重電設備事業(同6,131百万円、同1,330百万円、同21.7%)は“中核事業”として、安定事業基盤を支えている。
地域的には、世界各国へ現地法人や支店を13拠点配置している。また、2016年3月期に同社の子会社となったヱトーの現地法人、駐在員出張所10拠点を合わせると23拠点のグローバルネットワークとなり、世界各地に散らばるサプライヤー及びカスタマーに適時的確に質の高いビジネス情報を提供できるようになった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
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1. 沿革
極東貿易<8093>は2022年11月に設立75周年を迎える。第2次世界大戦の終戦後、三井物産<8031>は財閥解体となったが、機械部門(営業課及び貿易課)が主体となり独立して同社が設立された。その後、海外の最先端の建設・鉱山機械や製造装置等を国内の基幹産業(建設、製鉄、化学プラント、電力、繊維、エレクトロニクス)へ輸入販売して日本の経済復興に貢献し、日本の高度経済成長とともに成長してきた。同社は、国内の大手企業から厚い信頼とロイヤリティを得ながら、基幹産業界のなかで一定の地位を確保してきた。
その後、航空・防衛産業向け電子機器や自動車産業向け樹脂・塗料等、事業領域の幅が広がった。特に航空・防衛関連事業は、同社の事業の大きな柱となっていった。1987年に東証に上場した頃は、産業用機械(製鉄所、電力等)、産業素材、航空・防衛関連が中核事業であった。2000年頃には年商2千億円を突破し、順調に拡大した。光通信用半導体も取り扱ったが市場が不透明でありボラティリティ(市場価格が1/100まで下落)が大きく、事業マネジメントが難しい局面もあった。そのような難局も乗り越え、同社は小粒でありながらも多種多様な事業を展開して、現在の総合商社のような事業構造の原型をつくり上げてきた。
ところが、2008年1月に同社を揺るがす大事件が起きた。防衛省への過大請求事案である。当時の新聞で取り扱われ、この事案解決までに約2年間を要した。これにより輸入元の米国メーカーとの契約取消・解除などが重なり、業績は大きく悪化した。結果として、航空・防衛関連は壊滅的状態となり、中核事業の一角を失った。また、当時は会計制度(売上計上法の変更)見直しの影響もあり、同社の単体売上高2千億円超は1/4以下にまで縮小した。そこで、同社では「企業変革と再成長」に取り組み、手持ち資金の取り崩しやコストカット等あらゆるリストラを断行したことで、“最悪の事態”を回避した。
この経営危機を機に大きく経営の舵を切った。中核事業の一角(航空・防衛関連)を失った事業構造を立て直すべく、新たな事業をM&Aで取り込んだ。幸い、不祥事対策やリストラ対策等に手持ち資金を一部充当したが、M&Aを実行する資金は手元にあった。
2011年1月の(株)ゼットアールシー・ジャパンを皮切りに、2018年までの7年間で立て続けに7案件以上のM&Aを実施した。結果的にはすべて成功(いずれの案件も売上総利益率は全社平均売上総利益率を上回る)した。最も成功したM&Aは2015年9月に完全子会社化したヱトー(株)である。ヱトーは自動車部品、建設機械、産業機械、住宅設備等の特注品ねじ等を取り扱っており、2022年3月期の連結売上総利益8,194百万円のうち3,453百万円(構成比42.1%)を稼ぐ儲頭事業となった。それ以外でも、サンコースプリング(株)は他社が真似できない「定荷重ばね」を開発して、世界トップクラスのシェア製品やオンリーワン製品を数多く生み出し、高付加価値・高収益(売上総利益率35.9%)で貢献している。
また、2018年4月には輸出商社のプラント・メンテナンスを完全子会社化し、同社の重電設備事業とのシナジーにより国内外での拡販を強化した。
同社は、エンジニアリング商社として、1)経営理念:「ニーズとシーズの橋になる」、2)社是:「人と技術と信頼と」を掲げ、「顧客からどんな高度な要求をされても、それに応えられる商社でありたい。そのためには、単にモノを提供するだけでなく、技術サポートを行い、ベストな商品を企業に提供する」ことを重視している。
2. 事業概要
大手商社に比べると企業体力で劣る中堅商社は、得意分野に絞り込み専門商社として事業展開するケースが一般的である。同社は設立75年の歴史のなかで、基幹産業からインフラ、そして、炭素繊維やメタンハイドレート等の先端分野まで幅広い業種を対象としてきた。
事業ポートフォリオの観点から見ても、同社の事業構造は景気に左右されにくい収益構造である。高い成長性は見込めないが安定受注・収益に寄与する重電、鉄鋼、化学プラント向け基幹産業事業や、特定車種に採用が決まれば、3〜5年間安定的に受注できる自動車関連事業(樹脂・塗料等)などを事業展開しており、個々の事業での需給変動や価格変動等の各種ビジネスリスクを吸収して事業の好不調を補い合える、安定的かつバランスの取れた事業運営となっている。またエネルギー市場関連ビジネスに関しては、昨今のESG動向に鑑みて火力発電所向け計装システム事業を縮小し、今後は成長分野である洋上風力発電関連事業へシフトする意図が窺える。
多種多彩な事業のなかでも、ねじ関連事業(2022年3月期売上高15,275百万円、売上総利益3,091百万円、売上総利益率20.2%)、自動車分野を中心とした樹脂・塗料事業(同8,801百万円、同1,318百万円、同15.0% )、重電設備事業(同6,131百万円、同1,330百万円、同21.7%)は“中核事業”として、安定事業基盤を支えている。
地域的には、世界各国へ現地法人や支店を13拠点配置している。また、2016年3月期に同社の子会社となったヱトーの現地法人、駐在員出張所10拠点を合わせると23拠点のグローバルネットワークとなり、世界各地に散らばるサプライヤー及びカスタマーに適時的確に質の高いビジネス情報を提供できるようになった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
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