巴川紙 Research Memo(8):静電チャック、高性能金属繊維シートを中心に拡大を推進(1)
[23/12/27]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
*17:08JST 巴川紙 Research Memo(8):静電チャック、高性能金属繊維シートを中心に拡大を推進(1)
■中長期の成長戦略
具体的に半導体関連部材では、静電チャック、高性能ヒートシンク、フレキシブルヒーターの3製品の拡大が見込まれている。新製品の中でも最も期待が大きいのが新型「静電チャック」で、巴川製紙所<3878>は大幅に性能向上した新型静電チャック(ドライエッチング装置向けに注力)を開発中で、現在300mmウエハ対応で標準採用となっているセラミック静電チャックに対し、高容量半導体メモリ向け等に利用される新型静電チャックの採用を見込んでいる。
1) 「新型静電チャック」
当初は2023年3月期に実証納入、その後、本格量産の見通しであったが、昨今のメモリ需要の急下降から投入がずれている。中計見直し発表時と比較し、現在は特にフラッシュメモリが不振で、在庫調整が完了し需要が回復する見通しが2024年後半にずれ込む見通しにある。現在メモリにおいてはサーバー用HBM(広帯域メモリ)に対する前工程のボンディング装置、中国でのレガシー半導体向け成膜装置などが拡大しているなかで、次世代フラッシュメモリに多用される新型エッチング装置の生産が先送りされている状況で、本格量産が2025年3月期以降にずれ込む見通しとなっている。積層数が200層を超すようなフラッシュメモリではエッチング装置のマルチチャンバー化が加速すると見られ、静電チャックの伸びがエッチング装置の伸びを上回るため2026年3月期には大きな伸びが見込まれる。なお多層化に伴い、静電チャックにはパーティクル発生を低減させる表面加工精度、ウエハ温度制御のよりきめ細かい制御技術、長寿命化などが要求されるが、これに対応できる製品になっていると見られる。現在、静電チャック市場は全体として500億円弱の市場となっているが、同分野で10%シェアを獲得するだけで50億円規模の事業となるだけに、中期的にはさらなる拡大が期待される。
2) 「高性能ヒートシンク」と「フレキシブルヒーター」
金属繊維シートを利用した「高性能ヒートシンク」「フレキシブルヒーター」も注目度が高い。同社は1980年代より、ステンレスやセラミックスといった金属・無機材料を繊維化・シート化する技術開発を行ってきた。ステンレス100%の多孔質シートは金属繊維同士が相互に融着しており繊維剥離が少なく、ステンレスの持つ耐熱性、耐薬品性、導電性などを備え、1998年にはノートPC用電磁波シールド材として上市した。また2016年に世界で初めてシート化に成功した銅繊維シートは、大電流・小型化が求められるデバイスなどへの用途展開が期待できるものと見られる。特に銅繊維シートは表面積の大きさを利用して、「高性能ヒートシンク材」としての利用を狙う。独自の微細金属材料を流路内に設置することで、従来のヒートシンクやウォータージャケット(水冷)と比較して放熱効率が従来品の2〜3倍も優れた熱交換率・軽量化が可能で、半導体製造装置のコンパクト化に役立つだけでなく、装置の流路設計の自由度が上がり、省エネ効果も大きなポイントとなっている。こちらは製造装置の温度制御に加えて工業設備などでも利用が見込まれ、2025年3月期には量産化を予定している模様。「フレキシブルヒーター」は金属繊維シートを単体として販売するだけでなく、半導体製造装置にユニット製品として組み込んだ製品にすることで、半導体製造装置用関連機器として販売拡大を狙う。金属繊維シートは熱を通すと瞬時に500℃まで加熱が可能となる。しかも製造装置部材の表面に密着することで熱を効率的に利用でき、省エネ効果も高い。また均質な面内発熱が可能な点も精密制御が可能となっており、2024年3月期から2025年3月期における量産のスタートを目指している模様。どちらの製品も本格採用となれば大きな製品に育つと見られる。なお、同社は東京エレクトロン<8035>が2023年12月12日に開催した「TELパートナーズデイ」において「環境パートナー賞」を受賞した。東京エレクトロンのグループ会社である東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ向けに省エネ性能の高い「配管用ステンレスペーパーヒーター」を開発したことが、東京エレクトロンの環境活動・E-COMPASSに大きく貢献すると評価された。
現状、金属繊維シートは半導体市況の悪化によりリリースが遅れたことによって2024年3月期上期は会社計画に対し伸び悩んでいる。ただし半導体の高集積化・高速演算により発熱問題は大きな課題であり、熱対策が大きな問題となっているサーバー市場は市場が2023年の93億ドルに対し2025年には200億ドル、特にAIサーバーは24億ドルから80億ドルに成長する見方があり、「高性能ヒートシンク材」は2025年には大きな伸びが見込まれる。「フレキシブルヒーター」については紙形状の特長を持ち、急速で均一な過熱が可能なため、シリコン(Si)の結晶性を高める「アニール工程」などで利用拡大が見込まれる。
3) 半導体実装用テープ
半導体実装用テープについては、先端半導体でBGA(ボールグリッドアレイ)を利用したFC-BGA(フリップチップBGA)基板が多用されるが、それ以外では依然としてリードフレームを使ったパッケージ基板が多く、QFP(Quad Flat Package)、QFN(Quad Flat Non-leaded Package)など、パッケージ基板の2/3はリードフレームを用いている。特にQFNがその半分を占めており、小型・軽量なパッケージで価格も安価であるため携帯やスマートウオッチなどで多用されている。製造には樹脂漏れ防止用接着テープが必要で、耐熱性フィルムと接着剤を組み合わせた「QFN用接着テープ」が使われる。このように半導体実装用テープは半導体の生産拡大に合わせ需要が伸びると見られる。またBGAに対しリードフレームは耐熱性、高電圧、耐振動などで優位性があり、EVの普及などで車載向け半導体パッケージでは主流となると見られ、会社側では半導体生産推移よりも低い伸びを見ており、会社予想を上回る伸びが期待される。
4) 光学フィルム
光学フィルムについては主にLCDで光の透過性や反射性、色補正など機能を付与する粘着フィルム、輝度向上に威力を発揮するライトコントロールフィルム等がある。会社側ではLCD需要の低迷、大画面TVなど大面積のフィルム需要が増えない等で低成長を見込んでいる。ただし、2024年3月期上期においては想定していなかった受注(アイテムについては非開示)を獲得したことで、半導体・ディスプレイ関連事業の収益を押し上げる形となった。継続性については不透明であるものの、FPDの大画面化は継続する見通しで、今後、マイクロLEDなど有機ELに代わるパネル需要の拡大の動きもある。また折りたたみ式スマートフォンの登場によりスマホートフォンの大画面化の動きもある。その他、AR・VRなど新たなデバイスの登場も考えられるため、光学フィルムについては2024年3月期をボトムに緩やかな拡大が見込まれる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
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■中長期の成長戦略
具体的に半導体関連部材では、静電チャック、高性能ヒートシンク、フレキシブルヒーターの3製品の拡大が見込まれている。新製品の中でも最も期待が大きいのが新型「静電チャック」で、巴川製紙所<3878>は大幅に性能向上した新型静電チャック(ドライエッチング装置向けに注力)を開発中で、現在300mmウエハ対応で標準採用となっているセラミック静電チャックに対し、高容量半導体メモリ向け等に利用される新型静電チャックの採用を見込んでいる。
1) 「新型静電チャック」
当初は2023年3月期に実証納入、その後、本格量産の見通しであったが、昨今のメモリ需要の急下降から投入がずれている。中計見直し発表時と比較し、現在は特にフラッシュメモリが不振で、在庫調整が完了し需要が回復する見通しが2024年後半にずれ込む見通しにある。現在メモリにおいてはサーバー用HBM(広帯域メモリ)に対する前工程のボンディング装置、中国でのレガシー半導体向け成膜装置などが拡大しているなかで、次世代フラッシュメモリに多用される新型エッチング装置の生産が先送りされている状況で、本格量産が2025年3月期以降にずれ込む見通しとなっている。積層数が200層を超すようなフラッシュメモリではエッチング装置のマルチチャンバー化が加速すると見られ、静電チャックの伸びがエッチング装置の伸びを上回るため2026年3月期には大きな伸びが見込まれる。なお多層化に伴い、静電チャックにはパーティクル発生を低減させる表面加工精度、ウエハ温度制御のよりきめ細かい制御技術、長寿命化などが要求されるが、これに対応できる製品になっていると見られる。現在、静電チャック市場は全体として500億円弱の市場となっているが、同分野で10%シェアを獲得するだけで50億円規模の事業となるだけに、中期的にはさらなる拡大が期待される。
2) 「高性能ヒートシンク」と「フレキシブルヒーター」
金属繊維シートを利用した「高性能ヒートシンク」「フレキシブルヒーター」も注目度が高い。同社は1980年代より、ステンレスやセラミックスといった金属・無機材料を繊維化・シート化する技術開発を行ってきた。ステンレス100%の多孔質シートは金属繊維同士が相互に融着しており繊維剥離が少なく、ステンレスの持つ耐熱性、耐薬品性、導電性などを備え、1998年にはノートPC用電磁波シールド材として上市した。また2016年に世界で初めてシート化に成功した銅繊維シートは、大電流・小型化が求められるデバイスなどへの用途展開が期待できるものと見られる。特に銅繊維シートは表面積の大きさを利用して、「高性能ヒートシンク材」としての利用を狙う。独自の微細金属材料を流路内に設置することで、従来のヒートシンクやウォータージャケット(水冷)と比較して放熱効率が従来品の2〜3倍も優れた熱交換率・軽量化が可能で、半導体製造装置のコンパクト化に役立つだけでなく、装置の流路設計の自由度が上がり、省エネ効果も大きなポイントとなっている。こちらは製造装置の温度制御に加えて工業設備などでも利用が見込まれ、2025年3月期には量産化を予定している模様。「フレキシブルヒーター」は金属繊維シートを単体として販売するだけでなく、半導体製造装置にユニット製品として組み込んだ製品にすることで、半導体製造装置用関連機器として販売拡大を狙う。金属繊維シートは熱を通すと瞬時に500℃まで加熱が可能となる。しかも製造装置部材の表面に密着することで熱を効率的に利用でき、省エネ効果も高い。また均質な面内発熱が可能な点も精密制御が可能となっており、2024年3月期から2025年3月期における量産のスタートを目指している模様。どちらの製品も本格採用となれば大きな製品に育つと見られる。なお、同社は東京エレクトロン<8035>が2023年12月12日に開催した「TELパートナーズデイ」において「環境パートナー賞」を受賞した。東京エレクトロンのグループ会社である東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ向けに省エネ性能の高い「配管用ステンレスペーパーヒーター」を開発したことが、東京エレクトロンの環境活動・E-COMPASSに大きく貢献すると評価された。
現状、金属繊維シートは半導体市況の悪化によりリリースが遅れたことによって2024年3月期上期は会社計画に対し伸び悩んでいる。ただし半導体の高集積化・高速演算により発熱問題は大きな課題であり、熱対策が大きな問題となっているサーバー市場は市場が2023年の93億ドルに対し2025年には200億ドル、特にAIサーバーは24億ドルから80億ドルに成長する見方があり、「高性能ヒートシンク材」は2025年には大きな伸びが見込まれる。「フレキシブルヒーター」については紙形状の特長を持ち、急速で均一な過熱が可能なため、シリコン(Si)の結晶性を高める「アニール工程」などで利用拡大が見込まれる。
3) 半導体実装用テープ
半導体実装用テープについては、先端半導体でBGA(ボールグリッドアレイ)を利用したFC-BGA(フリップチップBGA)基板が多用されるが、それ以外では依然としてリードフレームを使ったパッケージ基板が多く、QFP(Quad Flat Package)、QFN(Quad Flat Non-leaded Package)など、パッケージ基板の2/3はリードフレームを用いている。特にQFNがその半分を占めており、小型・軽量なパッケージで価格も安価であるため携帯やスマートウオッチなどで多用されている。製造には樹脂漏れ防止用接着テープが必要で、耐熱性フィルムと接着剤を組み合わせた「QFN用接着テープ」が使われる。このように半導体実装用テープは半導体の生産拡大に合わせ需要が伸びると見られる。またBGAに対しリードフレームは耐熱性、高電圧、耐振動などで優位性があり、EVの普及などで車載向け半導体パッケージでは主流となると見られ、会社側では半導体生産推移よりも低い伸びを見ており、会社予想を上回る伸びが期待される。
4) 光学フィルム
光学フィルムについては主にLCDで光の透過性や反射性、色補正など機能を付与する粘着フィルム、輝度向上に威力を発揮するライトコントロールフィルム等がある。会社側ではLCD需要の低迷、大画面TVなど大面積のフィルム需要が増えない等で低成長を見込んでいる。ただし、2024年3月期上期においては想定していなかった受注(アイテムについては非開示)を獲得したことで、半導体・ディスプレイ関連事業の収益を押し上げる形となった。継続性については不透明であるものの、FPDの大画面化は継続する見通しで、今後、マイクロLEDなど有機ELに代わるパネル需要の拡大の動きもある。また折りたたみ式スマートフォンの登場によりスマホートフォンの大画面化の動きもある。その他、AR・VRなど新たなデバイスの登場も考えられるため、光学フィルムについては2024年3月期をボトムに緩やかな拡大が見込まれる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
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