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アップル Research Memo(8):変化の速い海外で先進的な取り組みを試みる(2)

注目トピックス 日本株
*16:08JST アップル Research Memo(8):変化の速い海外で先進的な取り組みを試みる(2)
■アップルインターナショナル<2788>の中長期の成長戦略

(3) 東南アジア市場では中国企業が積極展開中
日系メーカーが牙城を築いた東南アジア市場では、EVに関する現地政府の対応が欧米と異なる。タイ政府とインドネシア政府は、EVの販売・生産振興策を採っている。タイはバッテリーセルを生産する企業や、商用車をEVに移行する企業への奨励金を出す。インドネシアはEVにかかるぜいたく品税と輸入関税の撤廃と、現行の減税策の延長を決めた。

2023年10〜11月に、東京モーターショーから名称・コンセプトを変えて4年ぶりに開催された「ジャパンモビリティショー」は、来場者数が目標の100万人を超え111万人となった。モーターショーの時代は近未来のコンセプトカーの展示が中心であったが、新たに自動車産業の枠を超え多様なモビリティがつくり出す未来を表現する場となった。タイのバンコクで2023年3〜4月に開催された第44回バンコク国際モーターショーには、ジャパンモビリティショーを上回る162万人が来場した。より商業的で、近隣諸国からも人が集まり、来場者はその場で自動車の購入予約ができる。成約数前年比34.5%増の42,855台、うち内燃機関車(ICE)が33,651台、EVが9,234台であった。ブランド別では、トヨタ自動車(6,042台)、本田技研工業<7267>(4,304台)、上海汽車集団のMG(3,929台)、スズキ<7269>(3,887台)、長城汽車のGWM(3,117台)、いすゞ自動車<7202>(3,064台)、マツダ<7261>(2,989台)、日産自動車<7201>(2,808台)、BYD(2,737台)、フォード(1,630台)の順だった。

2023年1〜11月までの11ヶ月間のタイの国内総販売台数における中国BYDのシェアは3.7%となった。中国系で上海汽車集団と長城汽車を抑えてトップに立ち、日系を入れても第5位となった。日系9社のシェア合計は、2022年通年の85.4%から2023年1〜11月に77.9%へ縮小した。一方、中国系は企業数が2社から4社に増え、シェアも4.6%から10.6%へ急拡大した。

2024年の3月25日から4月7日に開催される第45回バンコク国際モーターショーでは、BYDの展示スペースがトヨタ自動車レクサス合同ブースと並ぶ大きさとなる。3番目にBMW・MINIが続く。展示スペースの規模は、日系メーカー7社と中国メーカー6社でほぼ同等となる。韓国2社のスペースが日系全体の3割程度で、欧州系9社は日系の9割弱となる。

タイ政府は、BEV時代にアジアのデトロイトとしての地位を強化するため、2030年までにタイの自動車総生産台数に占めるEV比率を30%に引き上げる国家戦略を採っている。EV需要を創出し、投資を促すため、販売奨励制度を導入した。2022年から2023年にかけての奨励制度として、小売価格と電池容量に応じて乗用車の場合は1台当たり7万バーツまたは15万バーツ、ピックアップトラックは15万バーツの補助金を支給した。購入時の物品税は、乗用車が8%から2%へ、ピックアップトラックが10%から0%に引き下げられた。BEV完成車の輸入関税は、輸入価格が200万バーツまでの車両に最大40%、200万バーツ超、700万バーツまでを20%引き下げた。最大関税率は80%だが、貿易協定により中国製は無関税である。日本製は20%が課せられている。BEV完成車の輸入に関連した国内生産条件は、2022年から2023年の輸入台数に相当する台数を2024年にタイ国内で自社もしくは委託先で生産する必要がある。2025年までの延長期間を利用する場合は、比率が1.5倍となる。国内生産が輸入台数に満たない場合は、補助金の返還と金利(年7.5%)が課せられる。また、国産の電池または部品を使用する必要がある。

EV用バッテリーへの投資促進策として、2023年2月にEV用バッテリーに対する物品税を8%から1%へ引き下げ、バッテリーの国内生産に対する総額240億バーツ(約960億円)の補助金を支給することを決めた。補助金の給付は先着順となる。

タイではさらに2024年以降のEV普及策「EV3.5」が決定された。支援策のスキームはおおむね前制度を踏襲しているが、補助額が下げられ、輸入完成車の台数に対して義務付けられるタイ国内でのEV生産台数の条件も厳しくなった。補助金は、乗用車の小売価格200万バーツ以下、電池容量50キロワット時未満で、2024年が5万バーツ、2025年が3.5万バーツ、2026〜2027年が2.5万バーツと年を追って漸減する。小売価格200万バーツ以下、電池容量50キロワット時以上では、補助額が10万バーツ、7.5万バーツ、5万バーツと縮小する。EVピックアップトラックと電動二輪車は、タイ国内製造限定とし、2024年から2027年まで一律でそれぞれ10万バーツ、1万バーツが補助額となる。完成車輸入時の関税は、200万バーツ以下のEV乗用車は、2024年から2025年までの2年間において最大40%の引き下げとする。これらの支援策を受ける条件として、2026年までにタイ国内でのEV生産を開始する場合は、補助金を受けて輸入したEV完成車の台数の2倍以上、2027年に生産を始める場合は3倍以上が義務付けられる。

先行する中国メーカーの長城汽車と上海汽車集団は、すでにタイ政府の補助制度を活用している。長城汽車は、2024年1月にEVの生産を開始した。米ゼネラル・モーターズのタイ工場を取得し、改修することでEVの生産ラインを整えた。設備投資額は約120億バーツ(約480億円)となる。先に生産を開始したPHEVと併せて年産能力は最大12万台とされる。3月から中核部品の電池の生産も開始する。

BYDは、タイで200億バーツ(約820億円)を投じてEVの組立工場を建設している。2024年6月に完工すると、年15万台の乗用車の生産能力を持つ見込みだ。タイをはじめ東南アジア諸国連合(ASEAN)地域にも供給する。経済特区に土地を取得しており、法人所得税などで優遇措置が受けられる。BYDは、2024年に現地生産を開始することから、輸送費のコストカットやリードタイムの短縮が見込め、販売攻勢を強めることになろう。すでに2月下旬にミドルサイズSUVの人気モデル「ATTO 3」の定価を、従来の約120万バーツから89万バーツへ一気に100万円以上の引き下げを行った。日本では定価450万円のBEVが、タイではトヨタカローラ(約100万バーツ)より安くヤリス並みの値付けとなる。

タイ高官は、2023年12月に日系4社、トヨタ自動車、本田技研工業、いすゞ自動車、三菱自動車<7211>が今後5年間でEVの現地生産のためそれぞれ200億〜500億バーツ、合計1,500億バーツ(約6,200億円)を投資する計画であることを明らかにした。タイ政府は、EV購入者への補助金を縮小する一方、自動化とロボティクスに投資する自動車メーカーを対象とする3年間の優遇税制措置も打ち出した。

日本メーカーの強みは高品質だが、それが揺らぐ事態が起こっている。トヨタ自動車が認証申請手続き用に豊田自動織機に委託した自動車用ディーゼルエンジン3機種の出力試験において、違反行為があった。該当するエンジンが搭載された車両は、グローバルで10車種(うち日本6車種)となる。豊田自動織機は対象のエンジンを、トヨタ自動車は該当エンジンが搭載された車両の出荷を一旦停止した。タイでは、ハイラックスやフォーチュナーが不正行為対象エンジンの搭載車両となる。3月4日から生産が再開されたが、現地の消費者は、トヨタ車の入手が困難な場合、他の日系メーカーではなく価格競争力の強い中国メーカーに流れることになろう。

タイの一般家庭の電圧は220Vであり、日本の100Vに比べEVの充電に適している。EVの普及を背景に、ショッピングセンターでは高速充電器の整備が進んでいる。日本のベンチャー企業も、タイにおける充電インフラ事業に参入した。2024年夏ごろまでに、競合が比較的少ないコンドミニアムを中心に、ホテル、商業施設、ガソリンスタンドなど約1,000基の導入を目指すという。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)



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