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アンジェス Research Memo(8):2024年3月にOMNIプラットフォームで初のライセンス契約を締結

注目トピックス 日本株
*14:38JST アンジェス Research Memo(8):2024年3月にOMNIプラットフォームで初のライセンス契約を締結
■アンジェス<4563>のEmendoBioの開発状況

2. 事業戦略
Emendoは2023年まで独自のOMNIヌクレアーゼの開発にあたり、その探索と最適化を労働集約的に行ってきたため、開発人員が100名を超えていたが、現在はこれまで蓄積した大量のデータベースにコンピューティング技術を活用して開発を行う知識集約型の研究開発体制に移行しており、イスラエルの研究所の人員規模も約30名までスリム化した。一方、米国では臨床試験開始に向けた準備を進めると同時に、同社主導で開発パイプラインやOMNIプラットフォーム技術に関するライセンス活動を強化していく方針となっており、体制を構築するための準備を進めている状況にある。

2024年3月には初のライセンス契約も締結した。具体的には、がん免疫療法の一種である遺伝子改変T細胞療法※1の1つであるTCR-T細胞治療薬の開発で業界をリードするスウェーデンのAnocca※2と、OMNI-A4ヌクレアーゼの使用権についての非独占的ライセンス契約を締結した。AnoccaはOMNI-A4ヌクレアーゼを用いて安全かつ効率的に開発を進め、難治性固形がんにおけるKRAS変異を標的とした初の臨床試験を2024年に開始する予定となっている。Anoccaでは、遺伝子編集技術としてOMNIプラットフォームとCRISPR/Cas9の両方の技術を試した結果、OMNIプラットフォームを高く評価し、今回の契約に至っている。Anoccaでは両技術を比較した研究成果も論文として発表する予定であり、同論文が発表されれば、さらに注目度も高まるものと予想される。なお、今回の契約締結によってEmendoは契約一時金(50万米ドル)と開発マイルストーンを合わせて総額で最大約100百万米ドルを受領する可能性があり、製品が販売された場合にはロイヤリティも受領することになる。

※1 遺伝子改変T細胞療法とは、患者自身から取り出したT細胞内にがん抗原特異的T細胞受容体(TCR)やキメラ抗原受容体(CAR)を遺伝子改変操作によって発現させ、同細胞を増殖させて体内に戻すことでがん細胞を攻撃する治療法。国内ではCAR-T細胞療法の「キムリア(R)」(ノバルティス ファーマ(株))が2019年に製造販売承認されている。CAR-Tは血液がん領域、TCR-Tは固形がん領域で副作用の少ない治療法として開発が進められている。
※2 2014年の設立で、科学者、エンジニア、ソフトウェア開発者を中心に従業員数は100名を超える。特定の抗原を認識するTCRを発現するT細胞を選別、培養する技術を保有しており、複数のがん標的に対するTCR-T療法のライブラリーを持ち、40を超える製品候補を抱えている。これまでに150百万米ドルの資金調達を行った。


そのほかの企業との契約交渉についても、特定の開発プロジェクトで同技術を利用したい企業と、複数の開発プロジェクトで包括的に同技術を利用したい企業等がある。いずれにしてもEmendoでは疾患別に非独占的ライセンス契約を締結し、幅広い企業や医療機関等で同技術を活用してもらい、遺伝性疾患の治療技術の進歩に貢献したい考えだ。

なお、開発パイプラインのうち、ELANE(好中球エラスターゼ遺伝子)変異による重症先天性好中球減少症
(SCN)※を対象とした臨床試験については、FDAとIND申請に向けた協議と並行してライセンス交渉も進めている。同治療技術に関心を寄せる医療機関等も多いため非独占的契約となる可能性が高いが、2024年内の進捗が期待できそうだ。

※重症先天性好中球減少症とは、骨髄における顆粒球系細胞の成熟障害により発症する遺伝性疾患で、遺伝子変異により出生後の早期から好中球減少による中耳炎、気道感染症、蜂窩織炎、皮膚感染症を反復し、肺炎や敗血症などその他の疾患に至るケースもある。100万人に2人の割合で発症する希少疾患で、SCNの約7割はELANE変異による。


SCNの現在の治療法は、ST合剤(抗生剤、スルファメトキサゾール・トリメトプリム)による感染予防が一般的で、感染症がコントロールできない場合にはG-CSF※を使用して好中球の誘導を促す。ただ、G-CSFを高用量で使用した場合、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病へ移行し、造血幹細胞移植が必要となるケースもある。Emendoでは患者から造血幹細胞を取り出し、OMNIヌクレアーゼ技術を用いて正常な機能を有するELANEを発現させたうえで患者の体内に戻し、好中球の機能を回復させる根治療法の開発を目指している。Emendoが実施した動物実験では、正常な遺伝子を傷つけずに異常な遺伝子のみを正確に区別して破壊することで造血幹細胞が好中球に分化できたことを確認しており、同論文に関しては世界最大の遺伝子治療及び細胞治療の研究者団体のジャーナルにも掲載された。

※G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子):サイトカインの一種で顆粒球産出の促進、好中球の機能を高める作用がある。


米国ではゲノム編集技術を用いた臨床開発段階のバイオベンチャーが複数社上場しており、時価総額は収益化前段階でも数億米ドル(数百億円)から数十億米ドル(数千億円)規模になっている。特に、初の製造販売承認を取得したCRISPR Therapeuticsについては時価総額で45億ドル(約7千億円)を超える水準まで評価されている。国内でゲノム編集技術のバイオベンチャーとしてはモダリス<4883>が上場しているが、時価総額は25億円程度にしか過ぎない。開発の進捗状況やパイプラインの潜在価値、ライセンス契約の有無等によって異なるものの、総じて米国のほうがゲノム編集技術に対する投資家の期待値は高いと考えられる。このため、Emendoについてもいずれは米国でIPOを実施し独自で資金調達を進めていく意向だ。米国では、ゲノム編集技術を持つベンチャーと大手製薬企業が共同開発契約を締結する事例も増えている。EmendoにおいてもAnoccaとライセンス契約を締結したことを皮切りに新たな企業と共同開発契約を締結する可能性は十分にあり、今後のライセンス交渉の進展に注目したい。

※2024年7月2日終値で算出。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)



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