投資対象としてのイーサリアムをめぐる4つの主な懸念【フィスコ・仮想通貨コラム】
[19/03/26]
提供元:株式会社フィスコ
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仮想通貨コラム
仮想通貨調査専門会社デルファイ・デジタル(Delphi Digital)は、イーサリアムの現状と今後に関する新たな広範にわたる報告書の中で、仮想通貨「イーサ(ETH)」の長期的な価値をめぐる4つの主な懸念について分析を行った。
同社が列挙している懸念は包括的なものではなく、報告書はイーサリアムの将来の破たんを予測して作成されたものではない。だがイーサリアムの分散型アプリケーションの成功は必ずしもETH所有者にとっての利益につながらないかもしれない、というのが報告書のこの部分に共通するテーマだ。
同報告書が挙げている4つの懸念分野は競争、価値の保存手段としての可能性、流通速度の上昇とプルーフ・オブ・ステーク(PoS)の安全性だ。
1. 競争
ETHの長期的な価値提案に関するひとつ目の懸念は、イーサリアムが直面する、その他のネットワークとの競争だ。報告書はこれらの競合を、既に活気のあるその他のブロックチェーン、近い将来ローンチ予定の「次世代」プロトコル、イーサリアムのフォーク(分岐)版とアマゾンウェブサービス(AWS)のような中央集権型ソリューションに分類している。
「イーサリアムにスケーリングソリューションが完全導入されるのは、少なくとも2021年以降になるだろう」と報告書は述べている。「その前に新たな、スケーラブルな競合がローンチされると予想される。新たなプロトコルは、セカンドムーバーアドバンテージ(二番手として参入することによる利益)の恩恵を受けるだろうか?」
特筆すべきは、イーサリアム自体もビットコインからセカンドムーバーアドバンテージを得ていると見られることが多いことだ。だがスマートコントラクト(契約の自動化)のプラットフォームとしてのビットコインの有用性は、時にあまり評価されないか、見過ごされている。実際、ビットコインとライトニングネットワーク(Lightning Network)は同報告書で、イーサリアムの「未来の競合」に挙げられている。
ここで懸念されるのが、他のプロジェクトがイーサリアムよりも迅速にローンチやスケーリングを行うことができると予想されることで、そうなれば各種デベロッパーがイーサリアムよりもこれらの新しいネットワークに惹きつけられる可能性がある。
ただし同報告書は、一番乗りであることには利点もあるとし 「現在のエコシステムと関連インフラのネットワーク効果や、ブランドという点における心理的な標準であることを考えると、イーサリアムはこの状況から利益を得ることができる」と指摘している。
2.価値の保存に関する批評
報告書が指摘するETHの長期的な価値提案に関する二つ目の懸念は、基本的に「仮想通貨はいんちき商品」という5年近く前からある批判的な見方だ。
デルファイ・デジタルの報告書は、この議論を次のように要約している。
「将来、価値が高まるのは『価値の保存手段』として有力な仮想通貨だという理論が立てられている。つまり、たとえイーサリアム・ネットワークの使用率が高くても、参加者たちは必要に応じてETHを使用するが、価値の保存手段として魅力的な通貨を保有するためにその後すぐにポジションを手仕舞いにするということだ」
また価値の保存手段としてのETHの有用性に関して、同報告書はイーサリアムがETHについて、価値の保存(SoV)手段としての有用性よりも機能に重点を置いているという批判がある事に言及する。
この問題に関するデルファイ・デジタル独自の見解について、報告書は「長期的に見てSoVとして認められる上ではビットコインの方が強力な特性を持っていることには同意する。だが我々は、イーサリアムが今後SoVとしてより優れた地位を確立するために、なんらかの変更を行うことができると信じている」としている。
3.高い流通速度が価格を下落させる
報告書が挙げているもう一つの主な懸念が流通速度(ベロシティ)に関する懸念だ。
「価値評価に交換方程式(MV=PQ)が当てはめられた場合、その結果として生じる高い流通速度が理論価格を押し下げる可能性がある」と報告書は指摘している。
だがデルファイ・デジタルは、ETHが今後予定するセレニティというアップグレードにおいて収益を生み出す資産として使用されることから、通常の方法では正確な流通速度が割り出せないともしている。ETHの将来の潜在的価値をめぐるこの懸念について、報告書の見解は概して楽観的なものではない。
4. プルーフ・オブ・ステークの安全性
ETHの長期的な価値をめぐる最後の懸念として報告書が挙げているのが、イーサリアムのプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行にまつわる問題だ。報告書はこの変更のプラス面とマイナス面を検証している。
利点
・PoWよりも遥かにマイニングのエネルギー効率がいい
・マイニングに専用のASICハードウェアが必要ない
・プロトコル違反にはペナルティが導入され違反者は保有ETHが減らされる
・ネットワークの中央集権化の緩和
・ステーキングのためにETHがロックされ流通速度がある程度抑えられる
・ステーキングによってETHが利益を生み出す資産になる(報酬がもらえる)
懸念点
・PoWに比べると取引履歴の証明が不十分/履歴が限定的
・ネットワークの安全性がイーサの価値により決定するため価格が下落傾向になると負のフィードバックループに拍車がかかる可能性がある
・PoWからPoSへの移行におけるリスク:イーサリアムはまったく新しいコンセンサスアルゴリズムへのアップグレードを行う必要がある
・「不公平な」経済モデル:残高に比例して報酬が割り当てられる
・利益志向のマイナーやステーカーの参加を妨げる攻撃
報告書では「PoWからPoSへの移行にはリスクがあり、PoSの方が評価の歴史が浅い。だが我々は、この変更がイーサリアムにとって利益になり得ると確信している」との見解を述べている。
デルファイ・デジタルの全65ページの報告書は同社のウェブサイトで入手することができる。
(記事提供:LongHash)
LongHashは独自のデータ分析を基に、仮想通貨のトレンドやニュース、価格に関する情報を日中英の3ヶ国語で提供するジャーナリズム・プラットフォームです。ブロックチェーンデータの解析や解説を行うLongHash所属のデータサイエンティストやライターを世界中に抱え、分かりやすい記事で配信しています。またLongHashはブロックチェーンハッカソンやミートアップの企画、実施運営のサービスも提供しています。より多くの記事を読みたい方は、LongHashの公式ページからアクセスできます。
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同社が列挙している懸念は包括的なものではなく、報告書はイーサリアムの将来の破たんを予測して作成されたものではない。だがイーサリアムの分散型アプリケーションの成功は必ずしもETH所有者にとっての利益につながらないかもしれない、というのが報告書のこの部分に共通するテーマだ。
同報告書が挙げている4つの懸念分野は競争、価値の保存手段としての可能性、流通速度の上昇とプルーフ・オブ・ステーク(PoS)の安全性だ。
1. 競争
ETHの長期的な価値提案に関するひとつ目の懸念は、イーサリアムが直面する、その他のネットワークとの競争だ。報告書はこれらの競合を、既に活気のあるその他のブロックチェーン、近い将来ローンチ予定の「次世代」プロトコル、イーサリアムのフォーク(分岐)版とアマゾンウェブサービス(AWS)のような中央集権型ソリューションに分類している。
「イーサリアムにスケーリングソリューションが完全導入されるのは、少なくとも2021年以降になるだろう」と報告書は述べている。「その前に新たな、スケーラブルな競合がローンチされると予想される。新たなプロトコルは、セカンドムーバーアドバンテージ(二番手として参入することによる利益)の恩恵を受けるだろうか?」
特筆すべきは、イーサリアム自体もビットコインからセカンドムーバーアドバンテージを得ていると見られることが多いことだ。だがスマートコントラクト(契約の自動化)のプラットフォームとしてのビットコインの有用性は、時にあまり評価されないか、見過ごされている。実際、ビットコインとライトニングネットワーク(Lightning Network)は同報告書で、イーサリアムの「未来の競合」に挙げられている。
ここで懸念されるのが、他のプロジェクトがイーサリアムよりも迅速にローンチやスケーリングを行うことができると予想されることで、そうなれば各種デベロッパーがイーサリアムよりもこれらの新しいネットワークに惹きつけられる可能性がある。
ただし同報告書は、一番乗りであることには利点もあるとし 「現在のエコシステムと関連インフラのネットワーク効果や、ブランドという点における心理的な標準であることを考えると、イーサリアムはこの状況から利益を得ることができる」と指摘している。
2.価値の保存に関する批評
報告書が指摘するETHの長期的な価値提案に関する二つ目の懸念は、基本的に「仮想通貨はいんちき商品」という5年近く前からある批判的な見方だ。
デルファイ・デジタルの報告書は、この議論を次のように要約している。
「将来、価値が高まるのは『価値の保存手段』として有力な仮想通貨だという理論が立てられている。つまり、たとえイーサリアム・ネットワークの使用率が高くても、参加者たちは必要に応じてETHを使用するが、価値の保存手段として魅力的な通貨を保有するためにその後すぐにポジションを手仕舞いにするということだ」
また価値の保存手段としてのETHの有用性に関して、同報告書はイーサリアムがETHについて、価値の保存(SoV)手段としての有用性よりも機能に重点を置いているという批判がある事に言及する。
この問題に関するデルファイ・デジタル独自の見解について、報告書は「長期的に見てSoVとして認められる上ではビットコインの方が強力な特性を持っていることには同意する。だが我々は、イーサリアムが今後SoVとしてより優れた地位を確立するために、なんらかの変更を行うことができると信じている」としている。
3.高い流通速度が価格を下落させる
報告書が挙げているもう一つの主な懸念が流通速度(ベロシティ)に関する懸念だ。
「価値評価に交換方程式(MV=PQ)が当てはめられた場合、その結果として生じる高い流通速度が理論価格を押し下げる可能性がある」と報告書は指摘している。
だがデルファイ・デジタルは、ETHが今後予定するセレニティというアップグレードにおいて収益を生み出す資産として使用されることから、通常の方法では正確な流通速度が割り出せないともしている。ETHの将来の潜在的価値をめぐるこの懸念について、報告書の見解は概して楽観的なものではない。
4. プルーフ・オブ・ステークの安全性
ETHの長期的な価値をめぐる最後の懸念として報告書が挙げているのが、イーサリアムのプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行にまつわる問題だ。報告書はこの変更のプラス面とマイナス面を検証している。
利点
・PoWよりも遥かにマイニングのエネルギー効率がいい
・マイニングに専用のASICハードウェアが必要ない
・プロトコル違反にはペナルティが導入され違反者は保有ETHが減らされる
・ネットワークの中央集権化の緩和
・ステーキングのためにETHがロックされ流通速度がある程度抑えられる
・ステーキングによってETHが利益を生み出す資産になる(報酬がもらえる)
懸念点
・PoWに比べると取引履歴の証明が不十分/履歴が限定的
・ネットワークの安全性がイーサの価値により決定するため価格が下落傾向になると負のフィードバックループに拍車がかかる可能性がある
・PoWからPoSへの移行におけるリスク:イーサリアムはまったく新しいコンセンサスアルゴリズムへのアップグレードを行う必要がある
・「不公平な」経済モデル:残高に比例して報酬が割り当てられる
・利益志向のマイナーやステーカーの参加を妨げる攻撃
報告書では「PoWからPoSへの移行にはリスクがあり、PoSの方が評価の歴史が浅い。だが我々は、この変更がイーサリアムにとって利益になり得ると確信している」との見解を述べている。
デルファイ・デジタルの全65ページの報告書は同社のウェブサイトで入手することができる。
(記事提供:LongHash)
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