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中国人全面入国規制が決断できない安倍政権の「国家統治能力」(2)【中国問題グローバル研究所】

GRICI
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、遠藤 誉所長の考察『中国人全面入国規制が決断できない安倍政権の「国家統治能力」(1)【中国問題グローバル研究所】』の続きとなる。

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◆中国大陸からの入境者を一律禁止した台湾の蔡英文総統
蔡英文政権は1月15日に新型肺炎を「法定感染症」に定め、2月5日には、香港・マカオを除く中国大陸住民の台湾への入境を全面禁止している。同時に台湾から中国大陸への渡航も禁止した。経済効果を考える一部台湾住民からの批判はあったが、それでも毅然として方針を変えなかった。

湖北省に在住する台湾人をどう扱うかに関しても、その動き方が凄い。2月3日に中国東方航空が247人の湖北省在住の台湾人を帰還させたのだが、その中に一人の感染者(陽性)がいたことが台湾に着いた後に判明した。台湾側は搭乗前に陰性でなければ帰還させないと要求していたが、陽性が一人紛れ込んでいたために、その後の台湾帰還を全て拒絶している。台湾側が提出した帰還者名簿と大陸側が搭乗させた乗客名簿が一致してないなど(さまざまな紛糾)もあったが、結果的に2月27日現在で1,148人の台湾人が湖北省に留まったままである。蔡英文政権は受け入れを拒絶しているのである。

同胞を見捨てるのかという批判は当然出て来るだろう。しかし蔡英文は怯まなかった。感染者を何としても抑えるために、何をどう批判されようと曲げずに感染拡大を防いだために、蔡英文総統の支持率が68.4%にまで急上昇している(台湾民意基金会データ(※2)より)。蔡英文政権の防疫対策に関しては75.3%が「80点以上」と絶賛し、平均点は84.16点という高得点だ。

習近平を国賓として招くことを最優先課題としている安倍首相とはなんという違いだろう。絶対に自国民を守ることを最優先課題にするという決断と、毅然とした統治能力の問題だ。

◆中国の特別行政区であるマカオでさえ
北京政府の管轄下にある中国特別行政区のマカオにおいてさえ、その行政区範囲内での統治者としての統治力は大きい。

3月1日付けのマカオ新聞は「マカオ、25日連続で新型コロナの新規感染確認ゼロ…累計患者数10人中8人が治癒し退院=来週末にも湖北省に残るマカオ人帰還用の救援機派遣へ」(※3)という見出しで、マカオの現状を報道している。マカオでは2月4日以来、25日間連続で新規感染者がゼロとなったとのこと。

これまでの累計患者数は10人で、最初の7人が武漢からの旅客、直近の3人がマカオ人だ。こんなことが可能になったのも、2月5日から中国大陸からの入境も中国大陸への渡航も禁止しているからである。

マカオを管轄するのは中国政府(北京政府)の全人代(全国人民代表大会)常務委員会である。この委員会が、マカオがこのような措置を取ることを許可しない限り、マカオ政府の一存では動けない。ということは北京政府がマカオ政府のこのような、中国大陸居住者の入境を禁止することを認めたということになる。

◆日本は中国に利用されているだけ
この事実を深く考えてみよう。2月20日付のコラム<習近平国賓訪日への忖度が招いた日本の「水際失敗」>(※4)で、「中国政府はアメリカの対応を『非常に非友好的である』として強く非難する一方、日本は『非常に友好的な国』として絶賛の嵐を送っている」と書いた。今般も安倍首相と楊潔チとの会見で安倍首相が言った言葉を「習近平礼賛の代表」として中国では大きく扱っている。

しかし、自国が管轄するマカオに関しては、中国大陸からの渡航者を入境させないことを肯定し歓迎するわけだ。これはマカオを自国とみなして、自国の利益を優先しているからだ。同じ特別行政区でも香港市民が反中的であるのに対して、マカオは非常に親中的で「一国二制度」の模範生である。そのマカオがカジノを中心とした観光地としての収入源を失うことを警戒し、習近平はマカオを守ろうとしている。

ということは逆に言えば、中国人入国の全面規制をしない日本は、習近平にとっては「これ以上においしい国はない」ということになる。日本に患者が増えようが知ったことではないのだ。中国を拒絶しない「先進国(G7)」の一国があれば、その存在を中国に都合が良いように宣伝して最大限に利用できる。

2月25日から中国山東省威海市などは日本と韓国からの渡航者を規制し14日間隔離している(※5)ことを中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」電子版「環球網」が報じているが、もちろん中国政府はそれを非難したりせず、むしろ奨励している。日本は世界から警戒される国になってしまったが、習近平は、「それは歓迎」なのである。

そんな日本は二階幹事長などが音頭を取ることにより中国にマスクや防護服などを大量に寄付し、中国人ネットユーザーから「そんなことばかりしてたら日本で足りなくなってしまうんじゃないか」と心配されているほどだ。そして実際、日本人はマスクが買えなくて困っている。これが日本だ。安倍政権の実態なのである。

私自身はこれまで安倍首相を心情的に応援してきたつもりだが、習近平を国賓として訪日させることを決定した安倍首相を応援する気にはなれなくなってしまった。ましてやそのことを重視して習近平に忖度し、日本国民にここまでの犠牲を強いている安倍政権を応援する日本国民は、きっと多くはないだろう。残念でならない。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)
写真:ロイター/アフロ

※1:中国問題グローバル研究所 https://grici.or.jp/
※2:https://www.tpof.org/%e7%b2%be%e9%81%b8%e6%96%87%e7%ab%a0/2020%e5%b9%b42%e6%9c%88%e3%80%8c%e6%ad%a6%e6%bc%a2%e8%82%ba%e7%82%8e%e3%80%81%e6%94%bf%e5%ba%9c%e6%95%88%e8%83%bd%e8%88%87%e5%85%a9%e5%b2%b8%e9%97%9c%e4%bf%82%e3%80%8d/
※3:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200301-00010000-macau-cn
※4:https://grici.or.jp/916
※5:https://china.huanqiu.com/article/3xB1CkbGQkX



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