「習近平失脚」というデマの正体と真相(1)【中国問題グローバル研究所】
[22/05/31]
提供元:株式会社フィスコ
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GRICI
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。
なにやら習近平が失墜し李克強が格上げされているというデマが横行している。そもそも中国の政治体制を知らない人たちの願望でしかないが、いかにして中共中央総書記が選出されるかを解説したい。
◆習近平失脚への願望
なにやらアメリカ発の習近平失脚願望がデマを流し、日本の一部の「中国研究者」がそれに飛びついた。
「老灯(Lao-deng)」という中国人(※2)で、彼はツイッターで(※3)さまざまな反中反共情報を流している。特に5月5日に流した「習下李上(習近平が下馬し、李克強が上位に立つ」(※4)は、一部のネットユーザーを喜ばせて、「習下李上」という言葉がもてはやされている(中国語では下野を下馬と言うので、敢えて日本語訳に「下馬」を使った)。
少し前まで、この役割を果たして人気を得ていたのがアメリカに逃亡した郭文貴という中国人で、彼は偽情報を創りあげては「これは中国の国家安全関係者から得た情報だ」と宣伝し、「金づる」を求めていた。
そこに飛びついたのがトランプ政権時代初期に主席戦略官を務めたことがあるスティーヴン・バノンで(7ヶ月間で解任)、筆者はバノン氏から何度か取材を受けたりした関係から、バノン氏には「郭文貴とつながるのは危険だ」と伝えたが、二人とも別々の理由で逮捕されたりして、郭文貴は消えた。
すると、次の郭文貴になりたいという海外(特にアメリカ)在住の華人華僑が現れる。自分は中国政府のインサイダー情報を持っているとして、大衆が喜びそうなデマを流して金を稼ぐのである。
◆李克強は習近平以上にガチガチの中国共産党員
そういった情報に飛びついて「尾ひれ」を付けたがるのが、日本の一部の「中国研究者」であり、日本メディアだ。これは「中国庶民の不満の表れだ」とか「背後には反習近平勢力」とか「権力闘争」だとか、言いたい放題だ。
しかし、勘違いしてはいけない。
李克強はれっきとした「中国共産党員」で、しかも「ガチガチ」である。「がり勉さん」なので、融通が利かない。
習近平が下馬すれば、中国大陸の八大民主党派の「中国国民党革命委員会」とか「台湾民主自治同盟」などの党首が、習近平に取って代わるわけではない。中国は中国共産党が統治する一党支配体制であることに変わりはないので、何も喜ばしいことはないのである。
日本人は李克強がまるで個人の意思で何か発言していると勘違いして「習近平が失墜して李克強の人気が上昇している」とか「李克強が習近平をガン無視」といった類のことを書いては喜んでいるが、李克強はあくまでもチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員7名)の合意の結果の一つを発表する役割をしているだけで、そこには寸分たりとも「個人の意思」はない!
「個人の言葉」は皆無なのである。
「分工」と言って、チャイナ・セブンの中で決めたことを、誰がどのような形で発表し実行していくかという「職掌」に沿って動いているだけである。
おまけに李克強はすでに今年の全人代閉幕後の記者会見で「これが最後となる」(※5)と、自ら「退官」の意思を表明した。
これも、そのようなことを公表して良いか否かは、事前にチャイナ・セブンで決めてから意思表明しているのだ。
加えて、李克強は軍事委員会(※6)において、現在はいかなる職位も持っていない。
したがって、あらゆる側面から見て、習近平に代わって李克強が今年秋に開催される党大会で「中国共産党中央委員会(中共中央)総書記」に選ばれる可能性はゼロである。
「「習近平失脚」というデマの正体と真相(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.youtube.com/c/%E8%80%81%E7%81%AF
(※3)https://twitter.com/laodeng89
(※4)https://www.youtube.com/watch?v=yeqsxxw7aOc
(※5)http://www.gov.cn/xinwen/2022-03/11/content_5678592.htm
(※6)http://www.mod.gov.cn/leaders/index.htm
<FA>
なにやら習近平が失墜し李克強が格上げされているというデマが横行している。そもそも中国の政治体制を知らない人たちの願望でしかないが、いかにして中共中央総書記が選出されるかを解説したい。
◆習近平失脚への願望
なにやらアメリカ発の習近平失脚願望がデマを流し、日本の一部の「中国研究者」がそれに飛びついた。
「老灯(Lao-deng)」という中国人(※2)で、彼はツイッターで(※3)さまざまな反中反共情報を流している。特に5月5日に流した「習下李上(習近平が下馬し、李克強が上位に立つ」(※4)は、一部のネットユーザーを喜ばせて、「習下李上」という言葉がもてはやされている(中国語では下野を下馬と言うので、敢えて日本語訳に「下馬」を使った)。
少し前まで、この役割を果たして人気を得ていたのがアメリカに逃亡した郭文貴という中国人で、彼は偽情報を創りあげては「これは中国の国家安全関係者から得た情報だ」と宣伝し、「金づる」を求めていた。
そこに飛びついたのがトランプ政権時代初期に主席戦略官を務めたことがあるスティーヴン・バノンで(7ヶ月間で解任)、筆者はバノン氏から何度か取材を受けたりした関係から、バノン氏には「郭文貴とつながるのは危険だ」と伝えたが、二人とも別々の理由で逮捕されたりして、郭文貴は消えた。
すると、次の郭文貴になりたいという海外(特にアメリカ)在住の華人華僑が現れる。自分は中国政府のインサイダー情報を持っているとして、大衆が喜びそうなデマを流して金を稼ぐのである。
◆李克強は習近平以上にガチガチの中国共産党員
そういった情報に飛びついて「尾ひれ」を付けたがるのが、日本の一部の「中国研究者」であり、日本メディアだ。これは「中国庶民の不満の表れだ」とか「背後には反習近平勢力」とか「権力闘争」だとか、言いたい放題だ。
しかし、勘違いしてはいけない。
李克強はれっきとした「中国共産党員」で、しかも「ガチガチ」である。「がり勉さん」なので、融通が利かない。
習近平が下馬すれば、中国大陸の八大民主党派の「中国国民党革命委員会」とか「台湾民主自治同盟」などの党首が、習近平に取って代わるわけではない。中国は中国共産党が統治する一党支配体制であることに変わりはないので、何も喜ばしいことはないのである。
日本人は李克強がまるで個人の意思で何か発言していると勘違いして「習近平が失墜して李克強の人気が上昇している」とか「李克強が習近平をガン無視」といった類のことを書いては喜んでいるが、李克強はあくまでもチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員7名)の合意の結果の一つを発表する役割をしているだけで、そこには寸分たりとも「個人の意思」はない!
「個人の言葉」は皆無なのである。
「分工」と言って、チャイナ・セブンの中で決めたことを、誰がどのような形で発表し実行していくかという「職掌」に沿って動いているだけである。
おまけに李克強はすでに今年の全人代閉幕後の記者会見で「これが最後となる」(※5)と、自ら「退官」の意思を表明した。
これも、そのようなことを公表して良いか否かは、事前にチャイナ・セブンで決めてから意思表明しているのだ。
加えて、李克強は軍事委員会(※6)において、現在はいかなる職位も持っていない。
したがって、あらゆる側面から見て、習近平に代わって李克強が今年秋に開催される党大会で「中国共産党中央委員会(中共中央)総書記」に選ばれる可能性はゼロである。
「「習近平失脚」というデマの正体と真相(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
写真: ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.youtube.com/c/%E8%80%81%E7%81%AF
(※3)https://twitter.com/laodeng89
(※4)https://www.youtube.com/watch?v=yeqsxxw7aOc
(※5)http://www.gov.cn/xinwen/2022-03/11/content_5678592.htm
(※6)http://www.mod.gov.cn/leaders/index.htm
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