「習近平失脚」というデマの正体と真相(2)【中国問題グローバル研究所】
[22/05/31]
提供元:株式会社フィスコ
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GRICI
◇以下、「「習近平失脚」というデマの正体と真相(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
◆中共中央総書記は如何にして選ばれるのか?
中国では特殊な政治制度の下で中国共産党による一党支配制度が実施されており、西側諸国のような普通選挙が行われているのではない。
したがって、日本でよく「ゼロコロナに失敗したら、習近平の三期目に影響するので習近平は党大会が終わるまでは変えることができない」といった種類のことを大手メディアまでが言っているが、これは西側諸国の感覚が生む「幻想」に近い勘違いだ。
誰を中共中央総書記に選ぶのかに関しては、14億の中国人の内、「約200名」の中共中央委員会委員にしか投票資格がないのである。
このことを知らないために、「中国人民」が「中共中央総書記の選挙結果」に影響を与えるような「大きな錯覚」を持ち、大手メディアまでが「習近平三期目に大きな影響を与えるので・・・」といった類の解説をするのは罪作りなことである。
では、どのようにして、「中共中央総書記」が選ばれるのか、その基本的プロセスをご説明する。
中国には14億の人民がいるが、そのうち約1億人(正確には2021年6月5日の統計で9514.8万人)の中国共産党員がいる。
この内の「約3000人」が全国代表として全国津々浦々の行政区分地区から選ばれた「全国代表」として、5年に一回開催される党大会に参加する。
この3000人の中から「中共中央委員会委員約200人」を選ぶのだが、その選び方は基本的に党大会の全国代表を選ぶ選出母体が、割り当てられた「候補者」をノミネートする。
ノミネートされた者が適切であるか否かは、現任の総書記をトップとした「中央組織」が再審査監督をするので、結局は、現在で言うならば、「習近平・中共中央総書記」が最終判断をすることになる。
かくして厳選された「中共中央委員会委員候補者リスト」が党大会で配布され、一人一人に対して「賛成」、「反対」、「棄権」の3つのボタンの内のどれか一つを押して「投票」をする。
候補者リストは「差額選挙」と称して、もし委員200人を選ぶとすると、110%ほどの名前をノミネートするので、10%の人は落選することになっている。差額の数値は、その時々で違ってくるが、10%前後の超過人数分をノミネートするのが通例だ。これを以て「党内民主」と称し、「民主的な選挙」が行われていると中国共産党は胸を張っている。
党大会が閉幕すると同時に一中全会(中共中央委員会第一次全体会議)を開催して、そこで中央委員会委員が投票して中共中央総書記を決める。
翌年の3月に開催される全人代(全国人民代表大会)で国家主席に選出され全過程が終わる。
中共中央委員会委員の任期や選出方法に関して、たとえば「中国共産党中央委員会工作条例(2020年9月28日、中共中央政治局会議批准、2020年9月30日中共中央発布)(※2)のようなものがあり、党規約にも書いてあるが、筆者が本コラムで書いたような具体的な選出方法は明らかにしていない。
ここで重要なのは、今年秋の党大会で「次期中共中央総書記」に関して投票する資格を持っているのは、習近平の「指導」の下で選ばれた中共中央委員会委員候補者で、その中から選ばれた中共中央委員会委員であることを考えると、習近平が継続して総書記になることに反対する者が、その候補者リストの中に入っているということはほぼ「あり得ない」ということである。
◆習近平の「紅いDNA」には誰も及ばない
中華人民共和国誕生に当たって、習近平の父親・習仲勲が果たした役割は、実際上、毛沢東を越えると言っても過言ではないほど大きい。習近平は革命第一世代のほぼ唯一の、現在も活躍している直系の生き残りだ。彼以上に「紅いDNA」を持った男は、いま中国にはいないと言っていいだろう。
1934年から36年にかけて毛沢東が蒋介石率いる国民党軍に追われて北西方向に逃げていったとき(すなわち、長征のとき)、全中国に設立していた革命根拠地は延安がある陝甘革命根拠地(のちの西北革命根拠地)しか残っていなかった。それを建設したのは習仲勲たちである。あの西北革命根拠地がなかったら、共産党軍(紅軍)は完全に国民党軍に殲滅され、毛沢東は生き残っていなかっただろう。
ということは、中華人民共和国が建国されることもなかったということになる。
だから毛沢東はこの上なく習仲勲を大切にし、後継者の一人に考えていた。
そのことに激しい嫉妬と不安を抱いて警戒したのがトウ小平だ。
トウ小平は、さまざまな陰謀をめぐらして習仲勲を1962年に冤罪で失脚させてしまう。16年間に及ぶ監獄・軟禁生活を終えて、華国鋒と葉剣英の力を得て1978年に広東省に派遣され習仲勲が対外開放路線を実施したところ、その功績は全てトウ小平が自分の功労として持っていき、1990年に再び習仲勲を失脚させた。
この事実を正視することなく、習近平がなぜ第三期目を狙っているかを理解することは不可能であると断言できる(詳細は拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』)。
なお、朱鎔基が習近平三期目就任に反対するという声明(朱九条)をネットで公開したという情報が流れたが、これは捏造である可能性が大きい。朱鎔基と江沢民の仲がどれだけ悪かったかを知っている人なら、ここに江沢民の大番頭である曽慶紅の名前が(高く評価すべき人物として)出てくること自体が荒唐無稽であり、習近平を江沢民に推薦したのは、ほかならぬ曽慶紅である。他の内容から見ても、史実を知らない最近の若者が捏造したものとしか思えない。
写真: ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)http://politics.people.com.cn/n1/2020/1013/c1001-31889182.html
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◆中共中央総書記は如何にして選ばれるのか?
中国では特殊な政治制度の下で中国共産党による一党支配制度が実施されており、西側諸国のような普通選挙が行われているのではない。
したがって、日本でよく「ゼロコロナに失敗したら、習近平の三期目に影響するので習近平は党大会が終わるまでは変えることができない」といった種類のことを大手メディアまでが言っているが、これは西側諸国の感覚が生む「幻想」に近い勘違いだ。
誰を中共中央総書記に選ぶのかに関しては、14億の中国人の内、「約200名」の中共中央委員会委員にしか投票資格がないのである。
このことを知らないために、「中国人民」が「中共中央総書記の選挙結果」に影響を与えるような「大きな錯覚」を持ち、大手メディアまでが「習近平三期目に大きな影響を与えるので・・・」といった類の解説をするのは罪作りなことである。
では、どのようにして、「中共中央総書記」が選ばれるのか、その基本的プロセスをご説明する。
中国には14億の人民がいるが、そのうち約1億人(正確には2021年6月5日の統計で9514.8万人)の中国共産党員がいる。
この内の「約3000人」が全国代表として全国津々浦々の行政区分地区から選ばれた「全国代表」として、5年に一回開催される党大会に参加する。
この3000人の中から「中共中央委員会委員約200人」を選ぶのだが、その選び方は基本的に党大会の全国代表を選ぶ選出母体が、割り当てられた「候補者」をノミネートする。
ノミネートされた者が適切であるか否かは、現任の総書記をトップとした「中央組織」が再審査監督をするので、結局は、現在で言うならば、「習近平・中共中央総書記」が最終判断をすることになる。
かくして厳選された「中共中央委員会委員候補者リスト」が党大会で配布され、一人一人に対して「賛成」、「反対」、「棄権」の3つのボタンの内のどれか一つを押して「投票」をする。
候補者リストは「差額選挙」と称して、もし委員200人を選ぶとすると、110%ほどの名前をノミネートするので、10%の人は落選することになっている。差額の数値は、その時々で違ってくるが、10%前後の超過人数分をノミネートするのが通例だ。これを以て「党内民主」と称し、「民主的な選挙」が行われていると中国共産党は胸を張っている。
党大会が閉幕すると同時に一中全会(中共中央委員会第一次全体会議)を開催して、そこで中央委員会委員が投票して中共中央総書記を決める。
翌年の3月に開催される全人代(全国人民代表大会)で国家主席に選出され全過程が終わる。
中共中央委員会委員の任期や選出方法に関して、たとえば「中国共産党中央委員会工作条例(2020年9月28日、中共中央政治局会議批准、2020年9月30日中共中央発布)(※2)のようなものがあり、党規約にも書いてあるが、筆者が本コラムで書いたような具体的な選出方法は明らかにしていない。
ここで重要なのは、今年秋の党大会で「次期中共中央総書記」に関して投票する資格を持っているのは、習近平の「指導」の下で選ばれた中共中央委員会委員候補者で、その中から選ばれた中共中央委員会委員であることを考えると、習近平が継続して総書記になることに反対する者が、その候補者リストの中に入っているということはほぼ「あり得ない」ということである。
◆習近平の「紅いDNA」には誰も及ばない
中華人民共和国誕生に当たって、習近平の父親・習仲勲が果たした役割は、実際上、毛沢東を越えると言っても過言ではないほど大きい。習近平は革命第一世代のほぼ唯一の、現在も活躍している直系の生き残りだ。彼以上に「紅いDNA」を持った男は、いま中国にはいないと言っていいだろう。
1934年から36年にかけて毛沢東が蒋介石率いる国民党軍に追われて北西方向に逃げていったとき(すなわち、長征のとき)、全中国に設立していた革命根拠地は延安がある陝甘革命根拠地(のちの西北革命根拠地)しか残っていなかった。それを建設したのは習仲勲たちである。あの西北革命根拠地がなかったら、共産党軍(紅軍)は完全に国民党軍に殲滅され、毛沢東は生き残っていなかっただろう。
ということは、中華人民共和国が建国されることもなかったということになる。
だから毛沢東はこの上なく習仲勲を大切にし、後継者の一人に考えていた。
そのことに激しい嫉妬と不安を抱いて警戒したのがトウ小平だ。
トウ小平は、さまざまな陰謀をめぐらして習仲勲を1962年に冤罪で失脚させてしまう。16年間に及ぶ監獄・軟禁生活を終えて、華国鋒と葉剣英の力を得て1978年に広東省に派遣され習仲勲が対外開放路線を実施したところ、その功績は全てトウ小平が自分の功労として持っていき、1990年に再び習仲勲を失脚させた。
この事実を正視することなく、習近平がなぜ第三期目を狙っているかを理解することは不可能であると断言できる(詳細は拙著『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』)。
なお、朱鎔基が習近平三期目就任に反対するという声明(朱九条)をネットで公開したという情報が流れたが、これは捏造である可能性が大きい。朱鎔基と江沢民の仲がどれだけ悪かったかを知っている人なら、ここに江沢民の大番頭である曽慶紅の名前が(高く評価すべき人物として)出てくること自体が荒唐無稽であり、習近平を江沢民に推薦したのは、ほかならぬ曽慶紅である。他の内容から見ても、史実を知らない最近の若者が捏造したものとしか思えない。
写真: ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)http://politics.people.com.cn/n1/2020/1013/c1001-31889182.html
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