【プレスリリース】HIV/エイズ:最新報告書発表、中所得国向け薬価優遇が打ち切りに
[11/07/19]
提供元:共同通信PRワイヤー
提供元:共同通信PRワイヤー
2011年7月19日
国境なき医師団(MSF)日本
HIV/エイズ:最新報告書発表
中所得国向け薬価優遇が打ち切りに
2011年7月17日から20日まで、イタリア、ローマで開催されている国際エイズ学会第6回HIV病理・治療・予防会議(IAS 2011) で、国境なき医師団(MSF)は、HIV治療薬に関する最新の報告書を発表した。
「薬価引き下げの謎を解く(第14版)*」
http://www.msf.or.jp/info/pressreport/pdf/AIDS_report_UTW14_ENG_2011_FINAL.pdf
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MSFはこの報告書で、HIV治療薬の価格を優遇する割引制度について、大手製薬企業数社が中所得国をその対象から打ち切ったと明らかにしている。
本報告書では、19社の製薬会社から得た情報を元に23種類の抗レトロウイルス薬(ARV)の価格動向が分析されており、特許障壁がない治療薬の薬価については、下落傾向が示されている。
ティボテック社とジョンソン・エンド・ジョンソン社は、すべての中所得国を自社の割引制度から除外している。アボット社は保有する治療薬の1つについて、低所得および低中所得国を除外している。また、ヴィーブヘルスケア社(グラクソ・スミスクライン社とファイザー社との合弁会社)は、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)や米国大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)から全額助成を受けているプログラムであっても、中所得国向け割引価格の設定を取りやめた。メルク社も自社の新薬ラルテグラビルについて、49ヵ国の中所得国に対し割引価格を適用しないと発表した。
このような方針転換により、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、ウクライナ、コロンビアやブラジル等の国々でHIVとともに生きる人びとは、薬価優遇の対象外となる。現在、ブラジルではラルテグラビルだけで、患者1人あたり年間5870米ドル(約46万4082円)が薬価として支払われている。また、開発途上国の場合、メルク社は患者1人あたり年間675米ドル(約5万3366円)を請求しており、これは推奨された第一選択薬による3剤併用療法(テノホビル/ラミブジン/エファビレンツ)の4倍である。
MSFが10年以上にわたり治療を提供する南米やアジアの国々では、現地当局が患者に治療薬を提供できるという確信のもと、それら治療プログラムの多くを現地当局に引き継ぎ運営が続けられている。これらの国に住む人びとは、HIV治療を受け始めて数年が経っており、薬剤耐性の問題から新薬を必要としているが、特許がより安価な後発薬の開発を阻んでいる。
MSF必須医薬品キャンペーンでHIV/エイズを専門とする薬剤師、ジャニス・リーは語る。
「この報告書は、製薬企業の割引制度が、長期的な解決策になりえないことを明らかにしています。特許の問題で製薬企業が価格の引き下げを拒否した場合、政府は自国のHIV陽性患者が治療費を支払えるよう、強制実施権**などを発動しなければなりません」
タイとブラジルがHIV治療薬について2006年と2007年に発動した「強制実施権」は、特許がHIV治療薬の薬価を押し上げ、治療の障壁となっていたときに、劇的な価格下落をもたらした。しかしこれらの措置が国際貿易法によって認可されたにもかかわらず、これらの措置を実施した各国は製薬企業と数ヵ国の政府から報復措置を受けた。
一方で、この報告書にはよいニュースもある。後発薬による価格競争によって、HIV治療に重要なテノホビルはいまや患者1人あたり1年で76米ドル(約6009円)にまで下がり、患者1人あたり1年で88米ドル(約6957円)かかるジドブジンを下回っている。
これにより、世界保健機関(WHO)が第一治療薬として推奨する、「1日1錠」で済むテノホビルを含んだ併用療法への移行がより低価格で可能になるため、重篤な長期の副作用がある、スタブジンの使用を減らす取り組みとして期待される。
5年前にWHOがはじめてこの治療法を推奨した当時、患者1人あたり年間613米ドル(約4万8464円)の薬代がかかっていたが、現在は患者1人あたり年間173米ドル約1万3677円)と、薬価は70%も下落している。
また、米国立衛生研究所(NIH)が13日に発表した新しい調査結果によると、テノホビルを含む治療薬を、HIVウィルスに感染していない人に事前投薬することで、HIV陽性患者からの異性間による感染が63%低下することも判明している。
リー薬剤師は続ける。
「MSFは後発薬が特許に阻まれず製造された場合、薬価が下がり続けていることを目にしてきました。これらの薬価下落は国連が掲げた『2015年までに1500万人にエイズ治療を開始させる』という目標の実現可能性を高めているのです」
MSFはARV治療を17万人に19ヵ国で提供している。
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*"Untangling the Web of ARV Price Reductions" (14th ed), English
**強制実施権:特許権を有する製造元の許可を得ずに、特許付与された製品を第3者が自由に製造・輸入する許可を国が与えること。
国境なき医師団(MSF)日本
HIV/エイズ:最新報告書発表
中所得国向け薬価優遇が打ち切りに
2011年7月17日から20日まで、イタリア、ローマで開催されている国際エイズ学会第6回HIV病理・治療・予防会議(IAS 2011) で、国境なき医師団(MSF)は、HIV治療薬に関する最新の報告書を発表した。
「薬価引き下げの謎を解く(第14版)*」
http://www.msf.or.jp/info/pressreport/pdf/AIDS_report_UTW14_ENG_2011_FINAL.pdf
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MSFはこの報告書で、HIV治療薬の価格を優遇する割引制度について、大手製薬企業数社が中所得国をその対象から打ち切ったと明らかにしている。
本報告書では、19社の製薬会社から得た情報を元に23種類の抗レトロウイルス薬(ARV)の価格動向が分析されており、特許障壁がない治療薬の薬価については、下落傾向が示されている。
ティボテック社とジョンソン・エンド・ジョンソン社は、すべての中所得国を自社の割引制度から除外している。アボット社は保有する治療薬の1つについて、低所得および低中所得国を除外している。また、ヴィーブヘルスケア社(グラクソ・スミスクライン社とファイザー社との合弁会社)は、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)や米国大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)から全額助成を受けているプログラムであっても、中所得国向け割引価格の設定を取りやめた。メルク社も自社の新薬ラルテグラビルについて、49ヵ国の中所得国に対し割引価格を適用しないと発表した。
このような方針転換により、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、ウクライナ、コロンビアやブラジル等の国々でHIVとともに生きる人びとは、薬価優遇の対象外となる。現在、ブラジルではラルテグラビルだけで、患者1人あたり年間5870米ドル(約46万4082円)が薬価として支払われている。また、開発途上国の場合、メルク社は患者1人あたり年間675米ドル(約5万3366円)を請求しており、これは推奨された第一選択薬による3剤併用療法(テノホビル/ラミブジン/エファビレンツ)の4倍である。
MSFが10年以上にわたり治療を提供する南米やアジアの国々では、現地当局が患者に治療薬を提供できるという確信のもと、それら治療プログラムの多くを現地当局に引き継ぎ運営が続けられている。これらの国に住む人びとは、HIV治療を受け始めて数年が経っており、薬剤耐性の問題から新薬を必要としているが、特許がより安価な後発薬の開発を阻んでいる。
MSF必須医薬品キャンペーンでHIV/エイズを専門とする薬剤師、ジャニス・リーは語る。
「この報告書は、製薬企業の割引制度が、長期的な解決策になりえないことを明らかにしています。特許の問題で製薬企業が価格の引き下げを拒否した場合、政府は自国のHIV陽性患者が治療費を支払えるよう、強制実施権**などを発動しなければなりません」
タイとブラジルがHIV治療薬について2006年と2007年に発動した「強制実施権」は、特許がHIV治療薬の薬価を押し上げ、治療の障壁となっていたときに、劇的な価格下落をもたらした。しかしこれらの措置が国際貿易法によって認可されたにもかかわらず、これらの措置を実施した各国は製薬企業と数ヵ国の政府から報復措置を受けた。
一方で、この報告書にはよいニュースもある。後発薬による価格競争によって、HIV治療に重要なテノホビルはいまや患者1人あたり1年で76米ドル(約6009円)にまで下がり、患者1人あたり1年で88米ドル(約6957円)かかるジドブジンを下回っている。
これにより、世界保健機関(WHO)が第一治療薬として推奨する、「1日1錠」で済むテノホビルを含んだ併用療法への移行がより低価格で可能になるため、重篤な長期の副作用がある、スタブジンの使用を減らす取り組みとして期待される。
5年前にWHOがはじめてこの治療法を推奨した当時、患者1人あたり年間613米ドル(約4万8464円)の薬代がかかっていたが、現在は患者1人あたり年間173米ドル約1万3677円)と、薬価は70%も下落している。
また、米国立衛生研究所(NIH)が13日に発表した新しい調査結果によると、テノホビルを含む治療薬を、HIVウィルスに感染していない人に事前投薬することで、HIV陽性患者からの異性間による感染が63%低下することも判明している。
リー薬剤師は続ける。
「MSFは後発薬が特許に阻まれず製造された場合、薬価が下がり続けていることを目にしてきました。これらの薬価下落は国連が掲げた『2015年までに1500万人にエイズ治療を開始させる』という目標の実現可能性を高めているのです」
MSFはARV治療を17万人に19ヵ国で提供している。
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*"Untangling the Web of ARV Price Reductions" (14th ed), English
**強制実施権:特許権を有する製造元の許可を得ずに、特許付与された製品を第3者が自由に製造・輸入する許可を国が与えること。