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「電力・エネルギー問題」に関するレポート

2015/3/17

トレンド総研

〜「今、岐路に立つ、日本のエネルギー計画」・第2弾〜
震災から4年、「電力・エネルギー問題」の実態を探る
求められる“S+3E”とは!? 研究者・秋元氏が解説

生活者の意識・実態に関する調査を行うトレンド総研(東京都渋谷区、URL:http://www.trendsoken.com/)では、先日3月3日(火)に「“エネルギー自給率”と“エネルギーセキュリティ”に関するレポート」(URL:http://www.trendsoken.com/report/economy/1355/)を発表しました。それに続く、第2弾となるのが今回の「電力・エネルギー問題への人々の意識の変化に関するレポート」です。

2011年3月に起きた東日本大震災の前後で、日本における“電力事情”は大きく変化しました。福島第一原子力発電所の事故の後、先日で丸4年を経た今も、国内の全ての原子力発電所の稼働は停止したままです。不足する電力は火力発電により何とかまかなっていますが、こうした歪な電源構成は様々なリスクをはらんでいます。第1弾のレポートで紹介した“エネルギーセキュリティ”に関する課題もこうした課題の1つですが、電気料金の値上げや排出量が増える温室効果ガスなど、その他にも多くの問題を抱えています。これらによるリスクの影響度は非常に大きく、何か起きてしまった時の影響の大きさは計り知れません。
こうした中で、先日2015年1月30日(金)には、経済産業省の有識者会議「長期エネルギー需給見通し小委員会」の初会合が開催されました。ここでは、2030年の電源構成比に関する議論が開始されています。また、原子力規制委員会の新規制基準のもと、原子力発電の再稼働の準備も進められていますが、日本のエネルギー計画は今まさに岐路に立っていると言えるでしょう。

それでは、こうした中で人々は、「電力・エネルギー問題」に対してどのように考えているのでしょうか。

東日本大震災以降、原子力発電所に関する話題には意識の高まりを感じる一方で、温室効果ガスをはじめとする、その他の問題への注目度は大きく下がったように見受けられます。そんな人々の意識の変化を明らかにするために、トレンド総研では、今回、「電力・エネルギー問題」に対する人々の意識・実態について調べました。
本レポートでは、はじめに、アンケート調査「日本の『電力・エネルギー問題』に関する意識・実態調査」の結果について報告します。このアンケート調査では、20代〜50代の男女500名を対象として、東日本大震災前後における、「電力・エネルギー問題」に関する意識の変化を明らかにしつつ、「電力・エネルギー問題」、とくに、温室効果ガスの排出量増加に対する人々の理解度を探りました。また、そのアンケート調査の結果を受けて、公益財団法人地球環境産業技術研究機構の秋元 圭吾氏に取材を依頼。火力発電への依存度が増す中で、今後より重大な課題となるだろう温室効果ガスについて、人々の意識の変化やその重要性についてお話をうかがいました。


■ 1. 東日本大震災から丸4年、「電力・エネルギー問題」への人々の意識を探る

今回行ったのは、20代〜50代の男女500名を対象にした、アンケート調査「日本の『電力・エネルギー』に関する意識・実態調査」です。本調査では、東日本大震災から丸4年経った“今”の人々の「電力・エネルギー問題」への関心度の変化や理解度を探りました。

[調査概要]
調査名 :日本の『電力・エネルギー問題』に関する意識・実態調査
調査対象 : 20歳〜59歳の男女500名(※ 性別・年代別に均等割付)
 ⇒ 20代男性:62名、30代男性:63名、40代男性:63名、50代男性:62名
 ⇒ 20代女性:63名、30代女性:62名、40代女性:62名、50代女性:63名
調査期間 : 2015年2月20日(金)〜2015年2月25日(水)
調査方法 : インターネット調査
調査実施機関 : 楽天リサーチ株式会社

◆ “高まる関心”と“低い理解”、複雑な「電力・エネルギー問題」に、「理解できている」は僅か12%

はじめに、「東日本大震災後に、『電力・エネルギー問題』に関する行動に変化はありましたか?」と聞くと、「変化があった」と回答した人は71%と、7割を超えました。無意識の内に使われることの多い電気にまつわる「電力・エネルギー問題」なので、きっかけがなければ、普段はなかなか意識されることはありません。日本の電力事情の大きな転換点となった東日本大震災ですが、「電力・エネルギー問題」について人々に考えるきっかけにもなったようです。
また、先ほどの質問に「変化があった」と回答した人に「具体的にどのように行動が変わりましたか?」とたずねたところ、最も多かった回答は「電力・エネルギーに関する情報やニュースが気になるようになった」(81%)。以下、「エネルギーや電力に関する情報やニュースを積極的に見るようになった」(31%)、「エネルギーや電力について、周囲の人と議論したことがある」(21%)と続きます。自ら情報収集をするというのはもちろん、周囲の人とも積極的に意見交換をしている人も多く見られました。「電力・エネルギー問題」について、“知りたい”、“知ってもらいたい”という意識の拡がりが見受けられます。
しかし、その一方で、今回の調査において、「『電力・エネルギー問題』について、分かりやすい情報を手に入れられていると思う」という人は9%。「『電力・エネルギー問題』について、客観的な情報を手に入れられていると思う」という人も9%にとどまります。経済、資源、環境など、複数の領域にまたがるのが、「電力・エネルギー問題」の特徴です。関係者も多方面にわたり、その間には複雑な利害関係が絡み合うことも少なくありません。同じ事実でも、見る人の立場が異なれば、全く違う見解を生むこともあるため、分かりやすい情報や、正しい情報を手に入れることが難しいとも言えるでしょう。
その結果、今回の調査でも、「『電力・エネルギー問題』について、十分に理解できていると思いますか?」という質問に対して「理解できていると思う」という人はわずかに12%にとどまりました。東日本大震災をきっかけに関心を高めている「電力・エネルギー問題」ですが、その複雑さ故に、十分な理解ができているという人はそれほど多くないようです。

◆ 火力発電の正解率は僅か2%! 人々のイメージと異なる「電力構成比」、信頼するメディアによる回答傾向も

こうした傾向をよく反映しているのが、次の「電力構成」に関する質問です。2013年度における、日本の発電方法別の電力の割合は、以下の通りです。

≪2013年度の電源別発電電力量構成比≫
 火力発電:88.3%
 水力発電:8.5%
 原子力発電:1.0%
 地熱、および、新エネルギー(太陽光発電など):2.2%
※ 電気事業連合会の発表より引用
URL:http://www.fepc.or.jp/about_us/pr/pdf/kaiken_s1_20140523.pdf

稼働を停止しているため原子力発電の割合は少なく、その発電量を補っている火力発電の割合が非常に多くなっているというのが、大きな特徴です。
今回の調査では、これらの電力構成に対して、各発電方法の発電量の割合がどの程度を占めるかを予想してもらいました。その結果、全回答者の回答の平均を調べると、「火力発電は42.7%」、「水力発電は19.3%」、「原子力発電は29.7%」、「地熱、および、新エネルギーは12.4%」となりました。いずれの発電方法においても、回答者のイメージと実際の電力構成比には大きな隔たりがあることが分かりました。
また、正しく答えられている人の割合も、水力発電で19%、原子力発電で20%、地熱、および、新エネルギーで33%と、いずれも低い正答率にとどまります。特に、火力発電については正答率が2%のみ。およそ9割に迫る火力発電への依存度について、その実態を把握している人はごく僅かです。「電力構成」というテーマにおいては、各発電方法に対して、実際とは異なる誤ったイメージを持っている人も少なくありません。
さらに、こうした各発電方法の発電量のイメージが、普段見ているメディアによりどのように異なるのかを探りました。
今回の調査において、5大メディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネット)の内、「最も信頼しているメディア」を答えてもらったところ、上位3位は「テレビ」(38%)、「新聞」(29%)、「インターネット」(29%)で、これらの回答者を合計すると96%を占めます。そこで、これら3メディアに限定して、電力構成の予想結果を比較したところ、「テレビを最も信頼しているメディア」とした人は「原子力発電」と「地熱、および、新エネルギー」が多いと予想。一方、「インターネットを最も信頼しているメディア」とした人は「火力発電」を多いと予想し、「新聞を最も信頼しているメディア」とした人は両者の間の予想をしています。「電力・エネルギー問題」に関する論調は、テレビ、新聞、インターネットで異なります。このようにメディアで触れる情報の違いは、人々の「電力・エネルギー問題」に関するイメージの形成に少なからず影響を与えていると言えるでしょう。

◆ 関心度最下位の「温室効果ガスの排出問題」、高い課題意識とは裏腹の理解度の低さも明らかに

最後に、温室効果ガスに関する人々の問題意識や課題の認知度について調べました。東日本大震災後、火力発電への依存度が高まったため、化石燃料の使用量は急速に増加しました。それに伴い増加しているのが、温室効果ガスの排出量です。前段では、火力発電の依存度の増大に対して正しく認識している人は僅かでしたが、この温室効果ガスに関する問題に関する理解はどのようなものなのでしょうか。
まず、「電力・エネルギー問題」に関する5つのテーマを提示した上で、その関心度をたずねたところ、関心を示した人が多かったのは、「原子力発電のリスク」(83%)と「電気料金の値上げ」(82%)という2つのテーマ。一方で、「太陽光発電などの再生可能なエネルギー」(77%)、「省エネ家電や水素自動車などを生み出す新技術」(75%)と続き、最も関心度が低かったのが、「温室効果ガスの排出量拡大」(65%)でした。関心を示した人の割合は決して少なくありませんでしたが、その他の「電力・エネルギー問題」に関するテーマと比較すると、注目度の低い話題であることが分かりました。
こうした傾向はこの課題に対する理解度とも紐付きます。「CO2などの温室効果ガスの排出量は減らしていかなければならないと思う」という人は83%にのぼる一方で、「東日本大震災後、日本の温室効果ガスの排出量が増加していることを知っている」という人は55%と半数程度。さらに、「温室効果ガスの排出量増加により、国際社会で日本を非難する声もあることを知っている」という人は50%にとどまりました。高い課題意識とは裏腹に、現状の温室効果ガスの課題に対する理解度は高いとは言えないでしょう。


■ 2. 研究者・秋元 圭吾氏に聞く、温室効果ガスの現状とこれから

そこで、こうした温室効果ガスの話題を中心に、人々の「電力・エネルギー問題」に関する意識について、公益財団法人地球環境産業技術研究機構の秋元 圭吾氏にお話をうかがいました。

◆ “過度な注目”と“過度な冷え込み”、温室効果ガス対策の変遷を秋元氏が解説
Q. 温室効果ガスの排出量の問題に関する人々の意識の変化について、どのように感じていますか?

温室効果ガスの問題に対する人々の注目が最も高まったのは、2009年の頃でしょう。当時、鳩山由紀夫総理大臣が、「2020年までに二酸化炭素の排出量を1990年比で25%削減する」という目標を掲げたことをきっかけに、温室効果ガスに関する話題が加熱していきました。産業界からは経済への悪影響を懸念する声もあがる一方で、再生可能エネルギーの注目が高まったり、排出権取引の活用に関する議論が深まったりと、温室効果ガスに関する一連の情報の認知度は急速に高まっていきました。しかし、そうした中で、過度な議論の盛り上がりに少々違和感を覚えたのも事実です。
その後、2011年3月の東日本大震災の影響で、温室効果ガスに関する状況は一変します。原子力発電所の稼働が停止し、火力発電による温室効果ガスの排出量は増加していきました。2012年10月には、政府は温室効果ガス25%削減の撤回を表明します。東日本大震災以前の議論が過度な加熱であったとすれば、今の温室効果ガスに関する注目度の冷え込みも過度なものだと思っています。これにより、温室効果ガスのリスク、すなわち、科学的にその因果関係がほぼ間違いがないと考えられる温暖化のリスクが過小評価されてしまうことを強く懸念しているところです。
科学者としては、こうした状況に警鐘を鳴らさなければならないと感じています。テレビなどのメディアも温暖化の話題に触れる機会が減っているように感じます。こうした傾向が続けば、国民の注目も下がってしまいますし、そうなれば、政治家の方たちもその対策の優先度を下げざるを得なくなるでしょう。
リスクというのは、顕在化しない内は過小評価されやすいものです。福島第一原子力発電所の事故のように顕在化したリスクは大きな注目を集めるのですが、顕在化していない温暖化のようなリスクは、なかなか実感しにくいものでしょう。しかし、何かが起きてしまってからでは遅いのです。リスクというのは、まだ芽である内に対応しなければなりません。温暖化についても、今の内から実現性のある対策を検討していくことが求められます。

◆ これからの電力計画に求められるバランスとは!? キーワードは“S+3E”
Q. 温室効果ガスの排出量の問題の現状と今後の展望について、お教え下さい。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、大気中の二酸化炭素濃度の上昇は化石燃料の使用が原因で、地球温暖化がこうした人類の活動の影響によるところであるのはほぼ間違いないことだと報告されました。こうした事実は改めて認識されなければなりません。そして、温室効果ガス、温暖化のリスクには、グローバルな対策が不可欠で、国際的協調が求められます。
それは、もちろん日本においても同様です。京都議定書の第1約束期間(2008年〜2012年)において、温室効果ガスの排出量を、目標値である6%を大きく上回り、1990年比で8%以上削減した日本。景気の低迷による排出量の減少はあったものの、そこには産業界の身を切るような削減努力による寄与が大きかったと言えます。しかし、東日本大震災後には火力発電による化石燃料の消費が急速に拡大。経済の回復も重なり、2013年には、過去最大量の二酸化炭素排出量を記録し、火力発電の原子力発電代替による排出量の増大は1990年比で9%程に値します。それまでの削減努力が水の泡となってしまったような状況です。
こうした中で再び温室効果ガスの削減を目指そうにも、これまで省エネを追求してきた産業界には、一部業界を除けば、ほとんど改善の余地はないと言えるでしょう。そうなれば、民生部門、それも最もインパクトの大きい電力による温室効果ガスの排出量の見直しが不可欠です。
そこで、東日本大震災の後、改めて電力の供給には「S+3E」を考えるべきと言われています。“S”が示す「Safety=安全性」と、3つの“E”、「Energy Security=供給安定性」、「Economic Growth=経済性」、「Environmental Conservation=環境保全」の全ての要素を両立させることが、電力には求められています。しかし、これらはいずれかを追求しようとすると、いずれかを満たさなくなってしまいます。いかにバランスをとるかがポイントです。
発電方法にも同様のことが言えます。完璧な発電方法はありません。火力発電には火力発電の長所と短所があり、それは、水力発電も、原子力発電も、再生可能エネルギーも同様です。今は、火力発電に大きく偏ってしまっているため、温室効果ガスによるリスクが大きくなってしまっている状態です。バランス良く発電方法を組み合わせることが必要でしょう。
例えば、稼働が停止している原子力発電は、確かに事故のリスクは非常に大きく、安全性の担保は不可欠ではありますが、通常運転時の発電時のコストは小さく、排気による環境破壊の影響もほとんどありません。一方で、リスクが小さいというイメージの強い再生可能エネルギーも、発電量が変動したり、発電のコストがかさみ電気料金が上がったりと、経済的なリスクを内包します。それぞれの発電方法の長所を組み合わせることで短所を補う、「S+3E」の観点でバランスの良い電力計画が求められています。

◆秋元 圭吾(あきもと けいご)
−研究者−

公益財団法人 地球環境産業技術研究機構 システム研究グループリーダー
東京大学大学院 総合文化研究科広域科学専攻 客員教授
1970年生まれ。富山県出身。
1994年横浜国立大学工学部電子情報工学科卒業。99年横浜国立大学大学院工学研究科博士課程修了。
同年、公益財団法人 地球環境産業技術研究機構(RITE)入所。
システム研究グループ主任研究員を経て、2007年より同グループリーダー・副主席研究員、2012年より同グループリーダー・主席研究員。
専門はエネルギー・地球環境を中心としたシステム、政策の分析・評価。
公益財団 法人地球環境産業技術研究機構 HP URL:http://www.rite.or.jp/
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