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中堅企業の「女性経営幹部」に関する世界35カ国同時調査を発表

2015年4月16日

太陽グラントソントン

・日本の中堅企業における「経営幹部の女性比率」は8%で、35カ国中最下位。
・世界35カ国の「経営幹部の女性比率」の平均は22%で調査開始以来、長期的に停滞。
・女性の管理職昇進の障害として「家庭」が大きな要因と認識される。

世界35カ国の中堅企業経営者に、「自社の経営幹部(※1)の女性比率」について尋ねたところ、全調査対象国の平均は22%となり、 2013年及び2014年の調査結果(共に24%)から僅かに低下する結果となった。調査を開始した2004年(19%)に比べると増加はしているものの、11年間の全調査期間(全8回の調査)に渡って、経営幹部における女性比率の平均が、常に4分の1未満という結果となった。

■日本の「経営幹部の女性比率」は8% 2004年の調査開始から8回連続で対象国中最下位
日本の中堅企業における「経営幹部の女性比率」は8%で2004年(9%)から微減、調査対象国中唯一の1桁の数字となった。また、調査を開始した2004年の女性比率も今回と同じ8%であり、さらに過去の全調査において日本は8回連続で最下位となっていることから、日本の中堅企業においては女性の経営参加の点でほとんど改善が進まず、世界から大きく遅れをとっていることが明らかになった。逆に経営幹部に一人も女性がいない日本の中堅企業は66%に達し、全調査対象国の中で最も高い結果となった。

■大企業の女性活用の法整備を進めるフランスとスペインでは、中堅企業の女性活用にも好影響
国、地域別に見ると 「経営幹部の女性比率」が今回最も高かったのはロシア(40%)で、グルジア(38%)、ポーランド(37%)が続いた。その他主要国では、中国が25%、英国が22%、米国が21%などとなった。
また、EUの平均は26%となり2004年の調査結果(17%)と比較すると、着実な改善傾向が見られた。特に大企業に対する女性活用の法整備(※2)が進んだフランスとスペインでは、本中堅企業への調査でも、それぞれ33%と26%へと顕著な改善が見られた(2014年調査ではフランス24%、スペイン22% )。
一方、ドイツは調査対象国中、日本に次いで女性比率の低い結果となった(14%)。ドイツは製造業が強いなど、先進国の中で日本と経済構造が類似していると言われており、今後ドイツがどのような施策を選択し、それが成果としてどのように現れるかが、日本にとっても参考になると考えられる。

■クオータ制導入、日本の中堅企業は消極的
「上場企業において取締役会や常務会における女性の比率を割り当てるクオータ制が導入されるとしたら、どう思われますか」という質問に対しては、「賛成する」という回答が全調査対象国の平均で47%となり、全体として半数近い経営者が肯定的であることが分かった。
国別にみると、ボツワナが93%と最も支持率が高く、メキシコ(74%)、トルコとマレーシア(共に70%)が続いた。一方最も支持率が低かったのは、リトアニア(8%)で、これに日本(12%)、ラトビア(15%)、ロシア(16%)が続いた。
「経営幹部の女性比率」との相関を見ると、今回経営幹部の女性比率の高かったロシア(経営幹部の女性比率40%)やラトビア(同36%)、リトアニア(同33%)がクオータ制導入の支持が低いのに比べ、同女性比率の低かったボツワナ(同16%)が最も高い支持率を示し、同様に女性比率の低いブラジル(同15%)も61%がクオータ制を支持するなど、一部の国では現状の改善策としてクオータ制に期待している様子がうかがわれた。ただし、経営幹部の女性比率が最も低い日本は、クオータ制導入の支持率においても調査国中2番目に低いことが明らかになった。

■女性の管理職昇進の障害として家庭が大きな要因に「男女の性差による偏見」は男女で認識にずれ
「貴社の組織において、女性の管理職への昇進で障害となっていることは、何だと思われますか」という質問に対しては、「子供の養育」と「その他家族への義務や責務」を合わせた回答が、全調査対象国の平均で44%に達し、家庭が女性の管理職への昇進に大きくか関わっていると考えられていることが分かった。
また12%が選択した「男女の性差による偏見」について男女別の内訳を見てみると、女性の19%が同意しているのに対し、男性は約半分の10%となっており、男女で偏見に対する認識に大きなずれがあることが明らかになった。

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中堅企業の「女性経営幹部」に関する世界35カ国同時調査 コメント
東洋大学社会学部助教  榊原圭子

調査結果では、日本の中堅企業における経営幹部の女性比率8%と、調査参加国中最下位であることが示された。世界に比べると、確かに日本はかなり遅れを取っている。しかし日本国内で比べると、大企業よりもその比率は高い。森川(2014)(
1)によると、従業員数5000名以上の企業における女性役員比率は2.6%であり、従業員規模が小さくなるほど女性役員比率は高く、従業員規模300~999名の企業においては7.6%である。本調査の結果はこれに近い。

企業属性と女性役員比率との関連性については、オーナー経営企業や創業が浅い若い企業で女性役員比率が高く、子会社、上場企業、労働組合のある企業は女性役員がいない傾向があることが報告されている。これを森川は、「歴史の長い上場大企業やその子会社では女性が役員になるのが難しい傾向があること、オーナー経営企業において妻・娘といった創業家族の女性が役員に就く場合が多く、その中で親族継承によって社長に就任する女性もいること、また、従業員規模に関わらず若い企業ほど女性の活躍の機会が多いことが示された」と説明している。

ここから、女性役員がいる中堅企業は、創業家族の女性が役員に就くというパターンだけでなく、創業が浅い若い企業において能力が評価された女性が役員に就く、というパターンがあることがわかる。

新興の若い企業は、事業の継続、拡大、安定が課題であり、性別に関らず能力のある人材を活用する必要があり、とくにグローバル化を含め厳しい経営環境にある中堅企業では、女性の活用が必須であると言える。こうした企業で継続的に女性役員を輩出していくためには、出産・育児などにより退職する女性社員を極力出さないこと、そして彼女らの能力を開発することが重要であることは言うまでもない。

今回の調査で「貴社の組織において女性の管理職への昇進で障害となっていることは何だと思われますか」の質問に対し、「子供の養育」「その他家族への義務や責務」を合わせた回答がグローバル平均で44%に達し、日本では39%が「子供の養育」、22%が「その他家族への義務や責務」と回答していた。中堅企業においても育児や介護の負担が女性社員の昇進を阻む大きな要因になっているのである。

近年、多くの企業が両立支援の制度を導入し、育児中の社員が継続して勤務できるような体制を取りつつある。しかし重要なのは制度の有無ではなく、その運用の要である上司の理解である。大企業では粘土層、つまり、伝統的なサラリーマン社会における男性中心主義から抜け切れず、女性活用やワークライフバランスを受け入れようとしない上司が存在するために、両立支援制度が活用されず、女性活用が進まないという実態がある。一方若い企業では、そこで働く従業員も若く、育児に関る社員は男女ともに多いため、仕事と育児の両立は皆の問題である。このことから、大企業よりも両立支援的な企業文化を醸成しやすいと考えられよう。

能力開発については、中堅企業では大企業のような「研修」をする余裕はないと言われる。しかし、真の意味での能力開発はそうしたoff-the-job trainingではなく、実際に仕事を通して学ぶon-the-job trainingである。責任ある仕事を女性に積極的に任せ、様々な経験をさせることで、彼らの能力を開発する。それにより、会社の利益に貢献できれば自分の成長を実感でき、モチベーションも高まる。こうした魅力ある企業は、能力ある人材を惹きつけ、そこで活躍する女性はさらに増えていく。中堅企業で女性が活躍できる可能性は決して小さくない。


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榊原 圭子
慶應義塾大学法学部政治学科卒業
三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、エグゼクティブサーチ会社、コミュニケーションコンサルティング会社などを経て、
東京大学大学院医学系研究科に進学。2013年博士課程修了。博士(保健学)、修士(公衆衛生学)。
現在、東洋大学社会学部助教、日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員。
働く女性のストレスと健康、女性のキャリア発達、学生のキャリア支援に関する研究を行っている。
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(1)森川 正之(2014)女性・外国人取締役はどのような企業にいるのか? ‐サーベイデータによる分析‐ RIETI Discussion Paper Series 14-J-025.
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