長鎖非コードRNAが関わる新たながん化メカニズムの発見
[16/02/15]
提供元:共同通信PRワイヤー
提供元:共同通信PRワイヤー
2016年2月15日
国立大学法人鳥取大学
長鎖非コードRNAが関わる新たながん化メカニズムの発見
<本研究成果のポイント>
◆大腸がんにおいて高い頻度で異常が発見されたKCNQ1OT1 lnc (long non-coding:長鎖非コード) RNAの発現は、β-カテニンにより調整されていることを明らかにしました。
◆核内におけるKCNQ1OT1RNAテリトリーの拡大は、その発現異常に寄与していることを発見しました。
◆siRNAによるβ-カテニンのノックダウンは、KCNQ1OT1核内RNAテリトリーの縮小を誘導し、このRNAによって制御されている近隣遺伝子(PHLDA2, SLC22A18)の発現変動が認められました。
これらのことから、本研究では、細核内に位置する長鎖非コードRNAの制御機構を解き明かし、そのRNA動態の変化が細胞のがん化に深く関わっている新しい知見を見出しました。
【概 要】
鳥取大学(学長:豐島 良太)の大学院医学系研究科遺伝子機能工学部門の久郷裕之教授のグループは、長鎖非コードRNAとして知られているKCNQ1OT1がβ-カテニンにより制御されることを明らかにしました。さらに、核内で過剰に蓄積されたβ-カテニンにより発現亢進されたKCNQ1OT1は、自身のRNA領域(テリトリー)を拡大させていることを発見しました。このことより、とりわけWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の異常が高頻度に認められる大腸がんなどにおいて、長鎖非コードRNAががん化の重要な役割を担っている可能性が示唆されました。
本研究成果が2016年2月12日午前10時(現地時間)の英国Nature Publishing Groupのオンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。なお、本研究は、財団法人山陽放送学術文化財団研究助成「機能性non-coding RNAの機能解析による発がん機構の解明」により行われました。
【研究背景】
β-カテニンは、Wntシグナル経路の伝達因子として知られています。このβ-カテニンの異常は、大腸がんや肝臓がんを含め多くのがんで見出されました。したがって、がんを治療するための創薬のターゲットとしてWnt/β-カテニンシグナル伝達経路は注目されています。近年、様々な生命現象や染色体起因疾患に機能性RNAの関与が明らかにされ、その分子機構の解明が進んでいます。これまでの研究より、未知の機能性非コードRNA(*用語参照)を含むエピジェネティクス(*用語参照)の変化が生物の多様性あるいは生命機能の複雑性かつ高性能なシステム構築の重要な制御分子として働いていることが強く推測されてきました。その中で長鎖非コードRNAに関しては、以前からX染色体の不活性化に関わるXist RNAを中心にエピジェネティクスの研究領域で注目されてきました。最近では、ゲノム刷り込みに関わるKCNQ1OT1、 Air、がん抑制遺伝子Ink4遺伝子座の発現制御に関わるANRILなど、いくつかの機能性長鎖非コードの存在が報告されています。とりわけ、当研究室で発見されたKCNQ1OT1遺伝子においては、ヒストン修飾を介して転写を制御し、シス(*用語参照)に自身の周辺遺伝子座の染色体上に集積(コーティング)することにより、局所的なクロマチンドメインレベルの遺伝子発現抑制を誘導する非常にユニークな発現動態を示すことが明らかにされています(図1)。しかし、KCNQ1OT1長鎖非コードRNAのはたらきは、どのように調節されているのか含めその詳細は明らかになっていませんでした。
【研究成果】
本研究では、KCNQ1OT1 lncRNAがβ-カテニンのより調整されていることを明らかにしました。大腸がん細胞株HCT15およびSW480細胞では、KCNQ1OT1 lncRNAの発現上昇を示しました(図2)。これらの細胞では、顕著なβ-カテニンの核内蓄積が認められました(図3)。
加えて、分子生物学的解析よりKCNQ1OT1 のプロモーター(遺伝子発現調節領域)上に位置するTCF(*用語参照)結合サイトにβ-カテニンが存在し、発現の制御を行っていることがわかりました。さらに、β-カテニンの過剰発現あるいは発現抑制実験によりKCNQ1OT1 lncRNAテリトリーが大きく変動することを見出しました(図4)。このRNAテリトリーの変動は、KCNQ1OT1が制御していることが知られている隣接遺伝子(PHLDA2およびSLC22A18)の発現に影響を与えることが分かりました(図5)。
KCNQ1OT1 lncRNAがWnt/β-カテニンシグナル伝達経路を介して調整されていることを明らかにしました。これらのことから、核内に位置する長鎖非コードRNAテリトリーの変化は、遺伝子発現の異常を誘導の起因になり細胞のがん化に深く関わっている可能性が明らかになりました(図6)。
【今後の展開】
本研究により明らかにされました長鎖非コードRNAが関わる新しいがん化経路は、がん化に関わる新たな標的遺伝子の発見を通してがんを治すための創薬や早期診断薬あるいは予後マーカーなどの開発につながります。さらに、複雑な遺伝子発現制御機構の秘密を解き明かす鍵になると期待されます。
【掲載論文】
題名:Regulation of functional KCNQ1OT1 lncRNA by β-catenin
雑誌名:Scientific Reports (出版社: Nature Publishing Group)
オンライン版URL:http://www.nature.com/articles/srep20690
【お問い合わせ先】
医学部 総務課 広報係
電話: 0859-38-7037 E-Mail: me-kouhou@adm.tottori-u.ac.jp
<用語解説>
機能性非コードRNA: タンパク質へ翻訳されずに機能するRNAの総称。2003年に終了したヒトゲノムの解読により, タンパクをコードするmRNAは全RNAのわずか1.5%に過ぎず、残りの98%はタンパクをコードしていない非コードRNA(non-coding RNA: ncRNA)で占めていることが明らかとなった。最近、これらの非コードRNAが様々な生体制御機構に重要な働きをしていることが分かってきています。
エピジェネティクス: ゲノムに書かれた遺伝情報を変更することなく遺伝子機能を制御する現象の総称。DNAメチル化等様々な一次構造以外の後成的修飾によるクロマチン構造の変化に伴う遺伝子発現の変化し、これらの異常ががんを含む疾患の原因にもなることが分かっています。
シス: ここでの意味は、KCNQ1OT1 lncRNAが発現している染色体上のみ影響する現象を示しています。
TCF (T-cell factor): DNAに結合する転写因子のグループの1つで、β-カテニンと結合することで転写が活性化される。
国立大学法人鳥取大学
長鎖非コードRNAが関わる新たながん化メカニズムの発見
<本研究成果のポイント>
◆大腸がんにおいて高い頻度で異常が発見されたKCNQ1OT1 lnc (long non-coding:長鎖非コード) RNAの発現は、β-カテニンにより調整されていることを明らかにしました。
◆核内におけるKCNQ1OT1RNAテリトリーの拡大は、その発現異常に寄与していることを発見しました。
◆siRNAによるβ-カテニンのノックダウンは、KCNQ1OT1核内RNAテリトリーの縮小を誘導し、このRNAによって制御されている近隣遺伝子(PHLDA2, SLC22A18)の発現変動が認められました。
これらのことから、本研究では、細核内に位置する長鎖非コードRNAの制御機構を解き明かし、そのRNA動態の変化が細胞のがん化に深く関わっている新しい知見を見出しました。
【概 要】
鳥取大学(学長:豐島 良太)の大学院医学系研究科遺伝子機能工学部門の久郷裕之教授のグループは、長鎖非コードRNAとして知られているKCNQ1OT1がβ-カテニンにより制御されることを明らかにしました。さらに、核内で過剰に蓄積されたβ-カテニンにより発現亢進されたKCNQ1OT1は、自身のRNA領域(テリトリー)を拡大させていることを発見しました。このことより、とりわけWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の異常が高頻度に認められる大腸がんなどにおいて、長鎖非コードRNAががん化の重要な役割を担っている可能性が示唆されました。
本研究成果が2016年2月12日午前10時(現地時間)の英国Nature Publishing Groupのオンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。なお、本研究は、財団法人山陽放送学術文化財団研究助成「機能性non-coding RNAの機能解析による発がん機構の解明」により行われました。
【研究背景】
β-カテニンは、Wntシグナル経路の伝達因子として知られています。このβ-カテニンの異常は、大腸がんや肝臓がんを含め多くのがんで見出されました。したがって、がんを治療するための創薬のターゲットとしてWnt/β-カテニンシグナル伝達経路は注目されています。近年、様々な生命現象や染色体起因疾患に機能性RNAの関与が明らかにされ、その分子機構の解明が進んでいます。これまでの研究より、未知の機能性非コードRNA(*用語参照)を含むエピジェネティクス(*用語参照)の変化が生物の多様性あるいは生命機能の複雑性かつ高性能なシステム構築の重要な制御分子として働いていることが強く推測されてきました。その中で長鎖非コードRNAに関しては、以前からX染色体の不活性化に関わるXist RNAを中心にエピジェネティクスの研究領域で注目されてきました。最近では、ゲノム刷り込みに関わるKCNQ1OT1、 Air、がん抑制遺伝子Ink4遺伝子座の発現制御に関わるANRILなど、いくつかの機能性長鎖非コードの存在が報告されています。とりわけ、当研究室で発見されたKCNQ1OT1遺伝子においては、ヒストン修飾を介して転写を制御し、シス(*用語参照)に自身の周辺遺伝子座の染色体上に集積(コーティング)することにより、局所的なクロマチンドメインレベルの遺伝子発現抑制を誘導する非常にユニークな発現動態を示すことが明らかにされています(図1)。しかし、KCNQ1OT1長鎖非コードRNAのはたらきは、どのように調節されているのか含めその詳細は明らかになっていませんでした。
【研究成果】
本研究では、KCNQ1OT1 lncRNAがβ-カテニンのより調整されていることを明らかにしました。大腸がん細胞株HCT15およびSW480細胞では、KCNQ1OT1 lncRNAの発現上昇を示しました(図2)。これらの細胞では、顕著なβ-カテニンの核内蓄積が認められました(図3)。
加えて、分子生物学的解析よりKCNQ1OT1 のプロモーター(遺伝子発現調節領域)上に位置するTCF(*用語参照)結合サイトにβ-カテニンが存在し、発現の制御を行っていることがわかりました。さらに、β-カテニンの過剰発現あるいは発現抑制実験によりKCNQ1OT1 lncRNAテリトリーが大きく変動することを見出しました(図4)。このRNAテリトリーの変動は、KCNQ1OT1が制御していることが知られている隣接遺伝子(PHLDA2およびSLC22A18)の発現に影響を与えることが分かりました(図5)。
KCNQ1OT1 lncRNAがWnt/β-カテニンシグナル伝達経路を介して調整されていることを明らかにしました。これらのことから、核内に位置する長鎖非コードRNAテリトリーの変化は、遺伝子発現の異常を誘導の起因になり細胞のがん化に深く関わっている可能性が明らかになりました(図6)。
【今後の展開】
本研究により明らかにされました長鎖非コードRNAが関わる新しいがん化経路は、がん化に関わる新たな標的遺伝子の発見を通してがんを治すための創薬や早期診断薬あるいは予後マーカーなどの開発につながります。さらに、複雑な遺伝子発現制御機構の秘密を解き明かす鍵になると期待されます。
【掲載論文】
題名:Regulation of functional KCNQ1OT1 lncRNA by β-catenin
雑誌名:Scientific Reports (出版社: Nature Publishing Group)
オンライン版URL:http://www.nature.com/articles/srep20690
【お問い合わせ先】
医学部 総務課 広報係
電話: 0859-38-7037 E-Mail: me-kouhou@adm.tottori-u.ac.jp
<用語解説>
機能性非コードRNA: タンパク質へ翻訳されずに機能するRNAの総称。2003年に終了したヒトゲノムの解読により, タンパクをコードするmRNAは全RNAのわずか1.5%に過ぎず、残りの98%はタンパクをコードしていない非コードRNA(non-coding RNA: ncRNA)で占めていることが明らかとなった。最近、これらの非コードRNAが様々な生体制御機構に重要な働きをしていることが分かってきています。
エピジェネティクス: ゲノムに書かれた遺伝情報を変更することなく遺伝子機能を制御する現象の総称。DNAメチル化等様々な一次構造以外の後成的修飾によるクロマチン構造の変化に伴う遺伝子発現の変化し、これらの異常ががんを含む疾患の原因にもなることが分かっています。
シス: ここでの意味は、KCNQ1OT1 lncRNAが発現している染色体上のみ影響する現象を示しています。
TCF (T-cell factor): DNAに結合する転写因子のグループの1つで、β-カテニンと結合することで転写が活性化される。