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月桂冠総合研究所 吟醸香を超高生産する酵母により華やかな香りが2倍の日本酒を量産可能に

2020年3月26日
月桂冠株式会社

月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)の総合研究所は、吟醸酒などに含まれるリンゴのような華やかな香りの成分「カプロン酸エチル」を従来の約2倍含む日本酒を、工場スケールで醸造することに成功しました。独自に育種したカプロン酸エチル超高生産酵母を用いることにより実現したもので、華やかな吟醸香(ぎんじょうか)を豊富に含んだ日本酒など新たな製品の創出につながる成果となりました。



日本酒の香りは様々な成分で構成されていますが、中でも酵母によって作られる果物や花のような香りは、人々を魅了し、吟醸酒や大吟醸酒の人気を支えるもとになっています。吟醸酒造りでは、吟醸香の成分であるカプロン酸エチルを多く生産する酵母がよく用いられています。その酵母では通常、「カプロン酸エチルの生産を促す遺伝子」と「通常の遺伝子」とが対(つい)になった形で存在しています。さらにその酵母から、特別な条件下で生育できる株を選抜したところ、「カプロン酸エチルの生産を促す遺伝子」どうしが対になった株を見出しました。このような特別な酵母を、「特別に選抜された」という意味も込めて「ヒーロー酵母」と名付けています。



今回選抜された株を用いて実験室での醸造試験を行った結果、カプロン酸エチルを高生産できることと、発酵力にも問題がないことを確認しました。さらに、醸造場で実地醸造試験(原料の総米7トン)を行ったところ、発酵力は維持しながらカプロン酸エチルを20mg/Lと多量に生産できることを確認しました。この濃度は、国内最大の日本酒の品評会である「全国新酒鑑評会」の出品酒のうち、カプロン酸エチル濃度が高いといわれるものの約2倍の濃度にあたります。



この研究成果は、「カプロン酸エチル超高生産株の育種と清酒実地醸造試験」と題して、「日本農芸化学会2020年度大会」(主催:日本農芸化学会)で発表しました。



●ヒーロー(HELOH)酵母



【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202003258441-O2-OHsu43u1

目的の形質を与える有用な変異を持つ遺伝子を2本対で持つ特殊な酵母を「特別に選抜された」という意味も込めて「ヒーロー酵母」と命名、このような酵母の存在を広く知っていただくために今回ロゴを作成しアピールしています(右図)。有用な変異が2本の遺伝子対のうち片方に入っていたものが両方に入る珍しい現象LOH(loss of heterozygosity:ヘテロ接合性の消失)が生じた株を高効率に選抜するHELOH法(High-efficiency loss of heterozygosity)を用い、非遺伝子組換えで選抜した株であることが名前の由来となっています。有用な変異が2本の遺伝子対の両方に入ることによりその形質をより強く発揮します。月桂冠では対になる遺伝子の種類が異なる、様々なヒーロー酵母を保管しており、今回取得した株もその一つとして菌株のライブラリーに加わりました。



●学会での発表
学会名:日本農芸化学会2020年度大会(主催:日本農芸化学会)
発表日時:2020年3月5日 (講演要旨集発行日、26日に口頭発表を予定していた大会は中止)
演題:カプロン酸エチル超高生産株の育種と清酒実地醸造試験
発表者:○小高 敦史、高宮 毅志、松村 憲吾、堀田 夏紀、村上 直之、鈴木 佐知子、秦 洋二、石田 博樹(○は演者)

●日本酒業界全体の大吟醸酒造りに貢献
―月桂冠による吟醸香を高生産する酵母育種の歴史―
月桂冠では1980年代後半、酵母が醸し出す香気成分「カプロン酸エチル」「酢酸イソアミル」などの生成機構の解明に成功しました。その成果をもとにして吟醸酒造りに適した酵母を開発し、その特許技術を広く開放してきました。それらの技術を用いて育種した菌株は、「きょうかい酵母」として公益財団法人日本醸造協会を通じて頒布され、全国の蔵元で広く活用されています。月桂冠の酵母育種技術が活用されたものとしては、「きょうかい1601号」、日本醸造協会と月桂冠の共有特許権となっている「きょうかい1701号」など、吟醸香を多く作る酵母のほか、有機酸のひとつリンゴ酸を多く生産する酵母などがあります。特に1601号をもとにバージョンアップされた日本醸造協会の「きょうかい1801号」は、全国新酒鑑評会への出品酒の醸造にも多く使われています。月桂冠による酵母の研究と開発の成果は日本酒業界全体で活用されており、酒の香りや酸味をコントロールして目的とする美味しい酒質へと醸すことに貢献するなど、大吟醸酒造りを支えるもとになっています。

●月桂冠総合研究所
1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます (所長=石田 博樹、所在地=〒612−8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。




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