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Social distancingがCOVID-19の封じ込めにもっとも有効

2020年5月29日

帝京大学

Social distancingがCOVID-19の封じ込めにもっとも有効
〜PCR検査を広く一般に行うことの寄与は大きくない可能性〜

 帝京大学医学部神経内科学講座主任教授の園生雅弘と同臨床助手神林隆道は、札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所ゲノム医科学部門講師の井戸川雅史、岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野教授の下畑享良、大阪医科大学医学部化学教室教授の林秀行らとの共同研究により、公開データを用いて、COVID-19の封じ込め成功の主因はsocial distancingであり、PCR検査を広く一般に行うことの寄与は少ないと考えられることを示しました。

【本研究の概要と意義】
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の封じ込めのために、PCR検査を広く一般人に行うべきという主張がなされていますが、COVID-19封じ込めの成功と、人口中のPCR検査率とにどのような関係があるかについて、実際に検討した報告はこれまでに存在しませんでした。
 そこで、園生主任教授らの研究グループは、インターネット上の公開データを用いて以下の検討を行いました。2020年5月16日時点で感染者1,000人以上の90ヶ国について、COVID-19の封じ込め成功度(トラジェクトリー解析で1週間における新規感染者数の最新値を、その過去の最大値で割ったもの)と、人口中のPCR検査率、さらに一人当たり国民総生産(以下GDP)との相関を調べました。GDPを説明変数として選んだのは、COVID-19の封じ込めに重要な方策と考えられるsocial distancingの遵守度にGDPが関連すると仮定したためです。
 その結果、COVID-19の封じ込め成功は、検査率、GDPともに有意な相関がありましたが、重回帰を行うと検査率の貢献は消えて、封じ込め成功度はGDPのみで説明できました。個々の国を見ると、タイ、マレーシア、シンガポールの東南アジアの近接3国においては検査率が低いほど(前記の順番、タイが最低)封じ込めは成功しており、想定と真逆の関係にあります。これはタイでは早期にロックダウンが徹底されたこと、シンガポールでは2020年4月初旬まで一般人のマスク着用を推奨していなかったことと外国人労働者の密な環境に関連する可能性があります。日本はPCR検査率の低さ(0.19%)を批判されていますが、検査率2〜7%の欧米主要国と比べて、最新の封じ込め成功度において、日本は欧米での優等生国(フランス,スペイン,ドイツ,イタリア)に引けを取らず、英国、米国、スウェーデンなどよりもはるかに良い状況です。

【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202005280304-O2-sB347LL1
左:封じ込め度とPCR検査率
検査率世界最高のアイスランドは封じ込め成功も世界最高だが、同じく第2位、第3位のUAE、バーレーンは、封じ込めに全く成功していない。

右:封じ込め度と一人当たりGDP
GDPは高いが封じ込めができていないところに湾岸諸国が並ぶ。同じグループにスウェーデンがあるが、この国が封鎖を緩くしていることは有名。

 以上より、COVID-19封じ込めの成功はsocial distancingが主因であり、PCR検査を広く一般に行うことの寄与は少ないと考えられます。PCR検査はもちろん重要・有用な検査であり、特に医師が必要と判断した時には速やかに行える体制の整備は必須ですが、現行の方針、即ち、臨床症候からの疑い例の確定、院内感染の予防と封じ込め、可能であればクラスター同定と封じ込めなどを目的として行うというスタンスで基本的に問題ないと考えられます。

本研究成果は以下の国際雑誌に掲載されました。
Masahiro Sonoo, Masashi Idogawa, Takamichi Kanbayashi, Takayoshi Shimohata, Hideyuki Hayashi. Correlation between PCR Examination Rate among the Population and the Containment of Pandemic of COVID-19. Public Health. in press.   
掲載日:2020 年5月24日(日本時間)オンラインで掲載
URL: https://doi.org/10.1016/j.puhe.2020.05.027
※ただし、上記URLから得られる原稿は、2020年5月25日現在では古いデータに基づくものであり、新しいデータに基づく新版に差し替えの予定です。

より新しい版の論文は以下URLのプレプリントサーバーよりご覧いただけます。
URL:https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.05.13.20100982v2

文中で言及したトラジェクトリー解析(共著者の井戸川雅史作成)については、以下のURLより
ご覧いただけます。
URL:https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/trajectory.html

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