3種類の金属が並んだ常磁性一次元化合物の合成に成功
[24/08/20]
提供元:共同通信PRワイヤー
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長い距離でも、強い磁気的相互作用を示す
2024年8月20日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
3種類の金属が並んだ常磁性一次元化合物の合成に成功
長い距離でも、強い磁気的相互作用を示す
本研究のポイント
・ロジウム(Rh)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)の3種類の金属が、直接の金属結合(注1)で-Rh-Rh-Pt-Ni-Pt-と並んだ一次元化合物の合成に成功した。
・得られた一次元化合物のNiは不対電子(注2)を2個もち、隣接のNi中の不対電子と反強磁性的相互作用(注3)することを明らかにした。
・金属結合を介した磁気的相互作用は、長距離でも強いことを証明した。
研究概要
岐阜大学工学部 植村一広准教授、自然科学技術研究科 修士課程(令和6年)修了生 安達友教さん、工学研究科 博士後期課程(令和5年)修了生 高森敦志さん、岐阜大学工学部 吉田道之助教は、白金(Pt)とニッケル(Ni)がPt-Ni-Ptと並んだ金属錯体(注4)を、ロジウム(Rh)の複核錯体で連結し、-Rh-Rh-Pt-Ni-Pt-と一次元状に伸長化させることに成功しました。それぞれの金属イオンは直接の金属結合で連なり、バンド構造(注5)を形成するにも関わらず、Niに不対電子が2個存在した常磁性であり、これらの不対電子は、-Pt-Rh-Rh-Pt-の13 Å(オングストローム)の距離で、強く反強磁性的相互作用することを明らかにしました。この一次元伸長化法は、周期表中の様々な種類の金属を選び並べられる可能性があり、強磁性化、単一次元鎖磁石、伝導電子と磁性電子が織りなす強相関電子系への発展が期待されます。
本研究成果は、2024年8月11日にAngewandte Chemie International Edition誌のオンライン版で正式に公開されました。
研究背景
身の回りの磁石は、物質中の多くの不対電子が作り出す磁気モーメントが束となり、大きな磁束となることに起因します。その束となる力が、磁気的相互作用であり、磁気モーメントの向きをN極とS極で表すと、同じ方向に向くのが強磁性的相互作用、打ち消し合うよう反対向きに向くのが反強磁性的相互作用と呼ばれます。通常、この相互作用は、距離が近いほど強い傾向があります。例えば、酸化物のMnO、FeO、CoO、NiOでは、各金属イオン(Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+)は酸素イオン(O2-)を介し、4.2 Åの距離で三次元的に
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202407183795-O5-61WRn8Ab】 図1. 緑色で記したNi付近の磁気が互いに逆向きになったことを表している図.
研究成果を抽象的に、逆方向に向いた方位磁石のCG (Computer Graphics)で表現。CGは本研究内容とイメージ案を元に、
サイエンス・グラフィックス株式会社 辻野貴志氏によって制作された
繋がっています。各金属イオンは不対電子をもち、それぞれ、122、198、292、530 K以下で反強磁性的相互作用することが知られています。一方で、金属イオンが、ハライドイオンや有機分子で連結された集積型金属錯体は1990年代後半から活発に合成され、例えば、Mn2+が塩化物イオンで3.7 Åの距離で連なったものは0.4 K以下で、Co2+がピラジンで7.3 Åの距離で連なったものは2 K以下で反強磁性的相互作用します(図2)。つまり、金属イオンの種類と距離が変わるだけで、極端にその相互作用が弱くなる傾向がありました。
研究成果
そのような中、岐阜大学のグループは、金属イオンを直接の金属結合で繋ぐことに注目しました。Pt-Ni-Ptと並んだ三核金属錯体と、Rh-Rhの複核金属錯体をエタノール中で混合すると、PtとRhが金属結合し、-Rh-Rh-Pt-Ni-Pt-と並んだ一次元化合物が得られました。単結晶X線構造解析で結晶構造を確認し、元素分析、赤外分光法、エネルギー分散型X線分光法、X線光電子分光で各金属の酸化数を確認したところ、-Rh(+2)-Rh(+2)-Pt(+2)-Ni(+2)-Pt(+2)-であることがわかりました。4 Kでの電子スピン共鳴測定の結果、Ni由来のシグナルが観測され、Ni(+2)中の8つのd電子のうち、dx2-y2電子、dz2電子が不対電子として存在することがわかりました。つまり、Ni上の2つの不対電子が、-Pt-Rh-Rh-Pt-の金属結合で、13 Åの距離で介していることになります。
極低温から常温までの磁化率測定の結果、55 K以下で反強磁性体となることがわかりました。図3に示すように、磁性金属イオン間の距離と相互作用の大きさは、トレードオフの関係にあり、それに逆らうように、磁気的相互作用が強いことがわかります。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202407183795-O6-q78x75vZ】 図2. これまでと本研究にみられる反強磁性的相互作用の発現温度.
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202407183795-O7-onPVI6YO】 図3. 一次元化合物の構造と、距離に対する磁気的相互作用の強さのプロット.
今後の展開
今回合成に成功した一次元化合物は、金属が直接の金属結合で連なっているため、バンド構造を形成しており、磁性を担う不対電子以外に、伝導電子もあります。ゆえに、導電物性と磁気物性を絡めたマルチフェロイック(注6)に向けた物性調査を進めたいと考えています。また、この一次元化合物は合理的に合成されており、金属の種類を変えられることが可能です。不対電子の数、不対電子が存在し得る金属種を変えることで、強磁性化を狙い、ナノサイズの大きさの磁石の開発を目指しています。
用語解説
注1)金属結合: 金属原子と金属原子との間にできる化学結合のこと。銅や鉄といった金属の塊も、3次元的に金属結合で組みあがった固体である。2粒の原子があれば金属結合は可能で、原子間に電子を共有して結合を形成する。
注2)不対電子: 化学物質や分子内でペアを組まずに単独で存在する電子のことで、物質は化学反応や物性の面で特定の性質を示す。不対電子はスピンにより磁気モーメントを示し、不対電子をもつ分子は磁性を示すことがある。
注3)反強磁性的相互作用: 物質内の不対電子の磁気モーメントが、隣接のものと反平行になる相互作用のことである。この相互作用が強いほど、高温でも反強磁性体となり得る。逆に並行となる相互作用は強磁性的相互作用である。
注4)金属錯体: 金属原子に有機物が結合(配位)した、有機-無機複合分子のこと。有機物は、炭素、窒素、水素等からなる物質で、無機物は、それ以外の元素からなる、セラミックスや金属酸化物であり、金属錯体は双方の性質を併せもった化合物といえる。
注5)バンド構造: 固体中の電子がとり得るエネルギー準位の集まりで、原子間の相互作用により、電子のエネルギー準位が結晶中で連続的なエネルギーバンドとなる構造のこと。導電性や絶縁体性などの物性は、このエネルギーバンドの形状や充填状態によって決まる。
注6)マルチフェロイック: 1つの材料が複数の特性を同時に持つ性質を指す。
論文情報
雑誌名: Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル: Antiferromagnetic Interactions through the Thirteen Å Metal?Metal Distances in Heterometallic One-dimensional Chains
著者: Kazuhiro Uemura, Tomonori Adachi, Atsushi Takamori, Michiyuki Yoshida
DOI: 10.1002/anie.202408415
研究者プロフィール
植村 一広(うえむら かずひろ):論文筆頭著者、論文責任著者
岐阜大学 工学部 准教授
安達 友教(あだち とものり)
岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 修士課程修了(令和6年)
高森 敦志(たかもり あつし)
岐阜大学大学院 工学研究科 博士後期課程修了(令和5年)
吉田 道之(よしだ みちゆき)
岐阜大学 工学部 助教
研究サポート
本研究は、一般財団法人日本産業科学研究所と公益財団法人池谷科学技術振興財団の支援を受けて行われた。また、実験の一部および分子軌道計算は、日本学術振興会 科学研究費 基盤研究C(課題番号 21K05098)および自然科学研究機構 計算科学研究センター(課題番号 23-IMS-C182)の支援を受け実施された。本研究の一部は、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号 JPMXP1223MS1031)の支援を受け自然科学研究機構 分子科学研究所で実施された。
2024年8月20日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
3種類の金属が並んだ常磁性一次元化合物の合成に成功
長い距離でも、強い磁気的相互作用を示す
本研究のポイント
・ロジウム(Rh)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)の3種類の金属が、直接の金属結合(注1)で-Rh-Rh-Pt-Ni-Pt-と並んだ一次元化合物の合成に成功した。
・得られた一次元化合物のNiは不対電子(注2)を2個もち、隣接のNi中の不対電子と反強磁性的相互作用(注3)することを明らかにした。
・金属結合を介した磁気的相互作用は、長距離でも強いことを証明した。
研究概要
岐阜大学工学部 植村一広准教授、自然科学技術研究科 修士課程(令和6年)修了生 安達友教さん、工学研究科 博士後期課程(令和5年)修了生 高森敦志さん、岐阜大学工学部 吉田道之助教は、白金(Pt)とニッケル(Ni)がPt-Ni-Ptと並んだ金属錯体(注4)を、ロジウム(Rh)の複核錯体で連結し、-Rh-Rh-Pt-Ni-Pt-と一次元状に伸長化させることに成功しました。それぞれの金属イオンは直接の金属結合で連なり、バンド構造(注5)を形成するにも関わらず、Niに不対電子が2個存在した常磁性であり、これらの不対電子は、-Pt-Rh-Rh-Pt-の13 Å(オングストローム)の距離で、強く反強磁性的相互作用することを明らかにしました。この一次元伸長化法は、周期表中の様々な種類の金属を選び並べられる可能性があり、強磁性化、単一次元鎖磁石、伝導電子と磁性電子が織りなす強相関電子系への発展が期待されます。
本研究成果は、2024年8月11日にAngewandte Chemie International Edition誌のオンライン版で正式に公開されました。
研究背景
身の回りの磁石は、物質中の多くの不対電子が作り出す磁気モーメントが束となり、大きな磁束となることに起因します。その束となる力が、磁気的相互作用であり、磁気モーメントの向きをN極とS極で表すと、同じ方向に向くのが強磁性的相互作用、打ち消し合うよう反対向きに向くのが反強磁性的相互作用と呼ばれます。通常、この相互作用は、距離が近いほど強い傾向があります。例えば、酸化物のMnO、FeO、CoO、NiOでは、各金属イオン(Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+)は酸素イオン(O2-)を介し、4.2 Åの距離で三次元的に
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202407183795-O5-61WRn8Ab】 図1. 緑色で記したNi付近の磁気が互いに逆向きになったことを表している図.
研究成果を抽象的に、逆方向に向いた方位磁石のCG (Computer Graphics)で表現。CGは本研究内容とイメージ案を元に、
サイエンス・グラフィックス株式会社 辻野貴志氏によって制作された
繋がっています。各金属イオンは不対電子をもち、それぞれ、122、198、292、530 K以下で反強磁性的相互作用することが知られています。一方で、金属イオンが、ハライドイオンや有機分子で連結された集積型金属錯体は1990年代後半から活発に合成され、例えば、Mn2+が塩化物イオンで3.7 Åの距離で連なったものは0.4 K以下で、Co2+がピラジンで7.3 Åの距離で連なったものは2 K以下で反強磁性的相互作用します(図2)。つまり、金属イオンの種類と距離が変わるだけで、極端にその相互作用が弱くなる傾向がありました。
研究成果
そのような中、岐阜大学のグループは、金属イオンを直接の金属結合で繋ぐことに注目しました。Pt-Ni-Ptと並んだ三核金属錯体と、Rh-Rhの複核金属錯体をエタノール中で混合すると、PtとRhが金属結合し、-Rh-Rh-Pt-Ni-Pt-と並んだ一次元化合物が得られました。単結晶X線構造解析で結晶構造を確認し、元素分析、赤外分光法、エネルギー分散型X線分光法、X線光電子分光で各金属の酸化数を確認したところ、-Rh(+2)-Rh(+2)-Pt(+2)-Ni(+2)-Pt(+2)-であることがわかりました。4 Kでの電子スピン共鳴測定の結果、Ni由来のシグナルが観測され、Ni(+2)中の8つのd電子のうち、dx2-y2電子、dz2電子が不対電子として存在することがわかりました。つまり、Ni上の2つの不対電子が、-Pt-Rh-Rh-Pt-の金属結合で、13 Åの距離で介していることになります。
極低温から常温までの磁化率測定の結果、55 K以下で反強磁性体となることがわかりました。図3に示すように、磁性金属イオン間の距離と相互作用の大きさは、トレードオフの関係にあり、それに逆らうように、磁気的相互作用が強いことがわかります。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202407183795-O6-q78x75vZ】 図2. これまでと本研究にみられる反強磁性的相互作用の発現温度.
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202407183795-O7-onPVI6YO】 図3. 一次元化合物の構造と、距離に対する磁気的相互作用の強さのプロット.
今後の展開
今回合成に成功した一次元化合物は、金属が直接の金属結合で連なっているため、バンド構造を形成しており、磁性を担う不対電子以外に、伝導電子もあります。ゆえに、導電物性と磁気物性を絡めたマルチフェロイック(注6)に向けた物性調査を進めたいと考えています。また、この一次元化合物は合理的に合成されており、金属の種類を変えられることが可能です。不対電子の数、不対電子が存在し得る金属種を変えることで、強磁性化を狙い、ナノサイズの大きさの磁石の開発を目指しています。
用語解説
注1)金属結合: 金属原子と金属原子との間にできる化学結合のこと。銅や鉄といった金属の塊も、3次元的に金属結合で組みあがった固体である。2粒の原子があれば金属結合は可能で、原子間に電子を共有して結合を形成する。
注2)不対電子: 化学物質や分子内でペアを組まずに単独で存在する電子のことで、物質は化学反応や物性の面で特定の性質を示す。不対電子はスピンにより磁気モーメントを示し、不対電子をもつ分子は磁性を示すことがある。
注3)反強磁性的相互作用: 物質内の不対電子の磁気モーメントが、隣接のものと反平行になる相互作用のことである。この相互作用が強いほど、高温でも反強磁性体となり得る。逆に並行となる相互作用は強磁性的相互作用である。
注4)金属錯体: 金属原子に有機物が結合(配位)した、有機-無機複合分子のこと。有機物は、炭素、窒素、水素等からなる物質で、無機物は、それ以外の元素からなる、セラミックスや金属酸化物であり、金属錯体は双方の性質を併せもった化合物といえる。
注5)バンド構造: 固体中の電子がとり得るエネルギー準位の集まりで、原子間の相互作用により、電子のエネルギー準位が結晶中で連続的なエネルギーバンドとなる構造のこと。導電性や絶縁体性などの物性は、このエネルギーバンドの形状や充填状態によって決まる。
注6)マルチフェロイック: 1つの材料が複数の特性を同時に持つ性質を指す。
論文情報
雑誌名: Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル: Antiferromagnetic Interactions through the Thirteen Å Metal?Metal Distances in Heterometallic One-dimensional Chains
著者: Kazuhiro Uemura, Tomonori Adachi, Atsushi Takamori, Michiyuki Yoshida
DOI: 10.1002/anie.202408415
研究者プロフィール
植村 一広(うえむら かずひろ):論文筆頭著者、論文責任著者
岐阜大学 工学部 准教授
安達 友教(あだち とものり)
岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 修士課程修了(令和6年)
高森 敦志(たかもり あつし)
岐阜大学大学院 工学研究科 博士後期課程修了(令和5年)
吉田 道之(よしだ みちゆき)
岐阜大学 工学部 助教
研究サポート
本研究は、一般財団法人日本産業科学研究所と公益財団法人池谷科学技術振興財団の支援を受けて行われた。また、実験の一部および分子軌道計算は、日本学術振興会 科学研究費 基盤研究C(課題番号 21K05098)および自然科学研究機構 計算科学研究センター(課題番号 23-IMS-C182)の支援を受け実施された。本研究の一部は、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号 JPMXP1223MS1031)の支援を受け自然科学研究機構 分子科学研究所で実施された。