長寿命な小型酸素センサーを開発
[24/08/20]
提供元:共同通信PRワイヤー
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金属流出のない新規電極の実現によりセンサー性能の低下を回避
ポイント
・ プルシアンブルー(PB)を担持した高結晶性グラフェン被覆多孔性シリカ球(PB/G/PSS)の電極化に成功
・ 銀溶出のない参照極の開発により、小型酸素センサーの連続使用の寿命を5倍以上に
・ 救急、医療現場での血液ガス分析装置に展開可能
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408154967-O1-bv4afVmU】
概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)化学プロセス研究部門 ナノ空間設計グループ 伊藤徹二 主任研究員、長谷川泰久 研究グループ長らは、株式会社テクノメディカ 方式開発部 吉田朗子 主任ら、国立大学法人 東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)西原洋知 教授(多元物質科学研究所 兼務)ら、富士シリシア化学株式会社 井澤謙一 研究開発グループ リーダーら、国立大学法人 筑波大学大学院 医学学位プログラム小児外科学分野 藤井俊輔 医師(現:地方独立行政法人 東京都立病院機構 東京都立小児総合医療センター)と共同で、連続使用可能な長寿命小型酸素センサーの開発に成功しました。この成果は、作用極への銀汚染が生じない参照極の開発によって実現しました。
従来の小型酸素センサーは、銀/塩化銀(Ag/AgCl)参照極から銀イオンが溶出し、作用極上に析出することで正確な測定ができなくなるという問題がありました。われわれは、プルシアンブルーを高分散担持した高結晶性グラフェン被覆多孔性シリカ球(PB/G/PSS)を参照極にすることで、イオンの溶出がなく長期間連続して使用できる小型酸素センサーの開発に成功しました。本成果は、医療現場における血中酸素分析に展開可能であり、「生活の質QOL(Quality of life)の向上」に貢献できると考えられます。
なお、この技術の詳細は、2024年8月20日に「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載され、表紙(Supplementary Journal Cover)にも掲載されます。
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ
( https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20240820/pr20240820.html )をご覧ください。
開発の社会的背景
血液ガス分析装置は、血液中の酸素や二酸化炭素の分圧、pHを分析する検査装置で、その診断結果から患者の病態を知り、治療方法を決めています。特に、呼吸不全などの重篤患者の病態を把握できる緊急検査装置として重要な役割を担っており、救急外来や手術室など緊急性の高い医療現場で使用されています。また、一般的に使用されるパルスオキシメーターなど簡便な手法では正確な血中分析が困難なため、緊急度の高い医療現場では使用が限定されています。現在は、連続使用が可能な中・大型装置が主流になっており、その市場規模は2020年には2,400億円であり、2027年には3,500億円に達すると予想されています。
こうした中、特に小児や新生児の血液中ガス分析において求められているのが、装置を小型化し、検体量(採血量)が少なくて済むようにすることです。そのため、小型酸素センサーの開発がさかんに進められています。しかし、従来の小型酸素センサーには、Ag/AgCl参照極から溶出した銀が作用極上に析出することで、短時間で正確な分析ができなくなってしまうという問題があり、小型化の障害となっていました。センサー性能の低下を防ぐ参照極を使い、連続測定可能な長寿命で小型の血中酸素濃度センサーの開発が求められていました。
研究の経緯
このような背景から、産総研、テクノメディカ、東北大学、富士シリシア化学、筑波大学は、共同で新規参照極作製に取り組み、連続測定可能な長寿命小型酸素濃度センサーに向けた開発を進めてきました。
研究の内容
小型酸素センサーは、作用極、対極、参照極、三つの電極を覆う電解質とガス透過膜で構成され、作用極と対極には白金が使用されます(図1(a))。作用極と対極間を流れる電流値を測定することで、作用極で還元される酸素量、すなわち血中の酸素分圧を測定できます。その際、参照極と作用極間に一定電圧を印加することで、測定精度を担保しています。しかし、従来の小型酸素センサーでは、Ag/AgCl参照極から溶出した銀が作用極上に析出することで(図1(b))、作用極と対極間を流れる電流値が変化し、正確な酸素分圧が測定できなくなっていました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408154967-O2-1rSPE83S】
われわれが開発した酸素センサーは、プルシアンブルーを高分散担持したグラフェン被覆多孔性シリカ球(PB/G/PSS)を参照極にすることで、従来5 cm程度の大きさであったセンサーを直径2.5 mmに小型化し、かつ、連続使用を可能としました(図1(c))。参照極には、表面積が大きいこと、導電性が高いこと、溶解度が低い酸化還元反応を示す化学種であること、といった特性が要求されます。本研究では、比表面積の大きな多孔性シリカ球の表面を、導電性のあるグラフェンで被覆し、さらに溶解度積が塩化銀の約10の31乗分の1で酸化還元反応を示すプルシアンブルーを担持することで、参照極に要求される特性をもつ材料の開発に成功しました。また、プリント印刷により粒子を緻密に充填した電極を形成しました(図1(c))。
図2(a)に、酸素分圧90 mmHgの水溶液を連続的に流通させたときの電流値の時間変化を示します。参照極にPB/G/PSSを用いた場合、5日間約−8ナノアンペアで安定した電流値を示し、作用極上への析出物は見られませんでした(図2(b))。また、酸素分圧と電流値が比例することも確認しました。一方、Ag/AgClを参照極とした場合には、20時間で電流値は約−13ナノアンペアまで変化し、作用極上に銀が析出していることが確認されました(図2(c))。これらの結果は、PB/G/PSS参照極を用いることにより、連続測定可能な小型酸素センサーが実現できることを示しています。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408154967-O3-T5ApM7Nu】
今回開発した連続使用可能な長寿命小型酸素センサーにより、血液ガス分析装置が小型化され、救急搬送された患者など緊急を要するさまざまな場面で使用されることが期待されます。
今後の予定
今後は、開発した小型酸素センサーを、血液ガス分析装置に組み込んでいく予定です。これにより、医療現場における連続分析が可能となり、QOL向上に貢献できると考えられます。
論文情報
掲載誌:ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル:Contamination-Free Reference Electrode Using Prussian Blue for Small Oxygen Sensors
著者:Akiko Yoshida, Kritin Pirabul, Shunsuke Fujii, Zheng-Ze Pan, Takeharu Yoshii, Mutsuhiro Ito, Kenichi Izawa, Yuka Minegishi, Yukinori Noguchi, Norihito Hiyoshi, Kota Takeda, Yasuhisa Hasegawa, Tetsuji Itoh, and Hirotomo Nishihara
DOI:10.1021/acsami.4c05103
URL:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsami.4c05103
用語解説
作用極、対極、参照極
酸素濃度を測定するセンサーを構成する電極。作用極は計測対象の酸素が反応する場となる電極。対極は、電流が流れる作用極の相手となる電極。参照極は、作用極に印加する電位を制御するための電位の基準となる電極。新規開発の参照極では、プルシアンブルーの酸化還元反応で参照極が示す電位を一定に保つことができるため、作用極と参照極間の印加電位を一定に維持することができる。
プルシアンブルー
鉄イオンと強く結合し、安定な化合物を形成する濃青色の物質。プルシアンブルーを使用したことで、従来の参照極と違って、作用極を汚染する金属イオンが溶出しない。
グラフェン
炭素原子が六角形に結びついている原子1個分の厚さのシート状の化合物。導電性で伝熱性や強度に優れ電極材などに使用される。
多孔性シリカ球
内部に多数の細孔をもつ粒径が10〜50 μmのシリカ球。細孔内部に多量の鉄プルシアンブルー錯体を担持できる。
溶解度積
溶液に溶けにくい塩の飽和溶液中における陰イオンおよび陽イオンの濃度の積。温度条件が同じであれば物質により固有の値となる。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20240820/pr20240820.html
ポイント
・ プルシアンブルー(PB)を担持した高結晶性グラフェン被覆多孔性シリカ球(PB/G/PSS)の電極化に成功
・ 銀溶出のない参照極の開発により、小型酸素センサーの連続使用の寿命を5倍以上に
・ 救急、医療現場での血液ガス分析装置に展開可能
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408154967-O1-bv4afVmU】
概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)化学プロセス研究部門 ナノ空間設計グループ 伊藤徹二 主任研究員、長谷川泰久 研究グループ長らは、株式会社テクノメディカ 方式開発部 吉田朗子 主任ら、国立大学法人 東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)西原洋知 教授(多元物質科学研究所 兼務)ら、富士シリシア化学株式会社 井澤謙一 研究開発グループ リーダーら、国立大学法人 筑波大学大学院 医学学位プログラム小児外科学分野 藤井俊輔 医師(現:地方独立行政法人 東京都立病院機構 東京都立小児総合医療センター)と共同で、連続使用可能な長寿命小型酸素センサーの開発に成功しました。この成果は、作用極への銀汚染が生じない参照極の開発によって実現しました。
従来の小型酸素センサーは、銀/塩化銀(Ag/AgCl)参照極から銀イオンが溶出し、作用極上に析出することで正確な測定ができなくなるという問題がありました。われわれは、プルシアンブルーを高分散担持した高結晶性グラフェン被覆多孔性シリカ球(PB/G/PSS)を参照極にすることで、イオンの溶出がなく長期間連続して使用できる小型酸素センサーの開発に成功しました。本成果は、医療現場における血中酸素分析に展開可能であり、「生活の質QOL(Quality of life)の向上」に貢献できると考えられます。
なお、この技術の詳細は、2024年8月20日に「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載され、表紙(Supplementary Journal Cover)にも掲載されます。
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ
( https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20240820/pr20240820.html )をご覧ください。
開発の社会的背景
血液ガス分析装置は、血液中の酸素や二酸化炭素の分圧、pHを分析する検査装置で、その診断結果から患者の病態を知り、治療方法を決めています。特に、呼吸不全などの重篤患者の病態を把握できる緊急検査装置として重要な役割を担っており、救急外来や手術室など緊急性の高い医療現場で使用されています。また、一般的に使用されるパルスオキシメーターなど簡便な手法では正確な血中分析が困難なため、緊急度の高い医療現場では使用が限定されています。現在は、連続使用が可能な中・大型装置が主流になっており、その市場規模は2020年には2,400億円であり、2027年には3,500億円に達すると予想されています。
こうした中、特に小児や新生児の血液中ガス分析において求められているのが、装置を小型化し、検体量(採血量)が少なくて済むようにすることです。そのため、小型酸素センサーの開発がさかんに進められています。しかし、従来の小型酸素センサーには、Ag/AgCl参照極から溶出した銀が作用極上に析出することで、短時間で正確な分析ができなくなってしまうという問題があり、小型化の障害となっていました。センサー性能の低下を防ぐ参照極を使い、連続測定可能な長寿命で小型の血中酸素濃度センサーの開発が求められていました。
研究の経緯
このような背景から、産総研、テクノメディカ、東北大学、富士シリシア化学、筑波大学は、共同で新規参照極作製に取り組み、連続測定可能な長寿命小型酸素濃度センサーに向けた開発を進めてきました。
研究の内容
小型酸素センサーは、作用極、対極、参照極、三つの電極を覆う電解質とガス透過膜で構成され、作用極と対極には白金が使用されます(図1(a))。作用極と対極間を流れる電流値を測定することで、作用極で還元される酸素量、すなわち血中の酸素分圧を測定できます。その際、参照極と作用極間に一定電圧を印加することで、測定精度を担保しています。しかし、従来の小型酸素センサーでは、Ag/AgCl参照極から溶出した銀が作用極上に析出することで(図1(b))、作用極と対極間を流れる電流値が変化し、正確な酸素分圧が測定できなくなっていました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408154967-O2-1rSPE83S】
われわれが開発した酸素センサーは、プルシアンブルーを高分散担持したグラフェン被覆多孔性シリカ球(PB/G/PSS)を参照極にすることで、従来5 cm程度の大きさであったセンサーを直径2.5 mmに小型化し、かつ、連続使用を可能としました(図1(c))。参照極には、表面積が大きいこと、導電性が高いこと、溶解度が低い酸化還元反応を示す化学種であること、といった特性が要求されます。本研究では、比表面積の大きな多孔性シリカ球の表面を、導電性のあるグラフェンで被覆し、さらに溶解度積が塩化銀の約10の31乗分の1で酸化還元反応を示すプルシアンブルーを担持することで、参照極に要求される特性をもつ材料の開発に成功しました。また、プリント印刷により粒子を緻密に充填した電極を形成しました(図1(c))。
図2(a)に、酸素分圧90 mmHgの水溶液を連続的に流通させたときの電流値の時間変化を示します。参照極にPB/G/PSSを用いた場合、5日間約−8ナノアンペアで安定した電流値を示し、作用極上への析出物は見られませんでした(図2(b))。また、酸素分圧と電流値が比例することも確認しました。一方、Ag/AgClを参照極とした場合には、20時間で電流値は約−13ナノアンペアまで変化し、作用極上に銀が析出していることが確認されました(図2(c))。これらの結果は、PB/G/PSS参照極を用いることにより、連続測定可能な小型酸素センサーが実現できることを示しています。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408154967-O3-T5ApM7Nu】
今回開発した連続使用可能な長寿命小型酸素センサーにより、血液ガス分析装置が小型化され、救急搬送された患者など緊急を要するさまざまな場面で使用されることが期待されます。
今後の予定
今後は、開発した小型酸素センサーを、血液ガス分析装置に組み込んでいく予定です。これにより、医療現場における連続分析が可能となり、QOL向上に貢献できると考えられます。
論文情報
掲載誌:ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル:Contamination-Free Reference Electrode Using Prussian Blue for Small Oxygen Sensors
著者:Akiko Yoshida, Kritin Pirabul, Shunsuke Fujii, Zheng-Ze Pan, Takeharu Yoshii, Mutsuhiro Ito, Kenichi Izawa, Yuka Minegishi, Yukinori Noguchi, Norihito Hiyoshi, Kota Takeda, Yasuhisa Hasegawa, Tetsuji Itoh, and Hirotomo Nishihara
DOI:10.1021/acsami.4c05103
URL:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsami.4c05103
用語解説
作用極、対極、参照極
酸素濃度を測定するセンサーを構成する電極。作用極は計測対象の酸素が反応する場となる電極。対極は、電流が流れる作用極の相手となる電極。参照極は、作用極に印加する電位を制御するための電位の基準となる電極。新規開発の参照極では、プルシアンブルーの酸化還元反応で参照極が示す電位を一定に保つことができるため、作用極と参照極間の印加電位を一定に維持することができる。
プルシアンブルー
鉄イオンと強く結合し、安定な化合物を形成する濃青色の物質。プルシアンブルーを使用したことで、従来の参照極と違って、作用極を汚染する金属イオンが溶出しない。
グラフェン
炭素原子が六角形に結びついている原子1個分の厚さのシート状の化合物。導電性で伝熱性や強度に優れ電極材などに使用される。
多孔性シリカ球
内部に多数の細孔をもつ粒径が10〜50 μmのシリカ球。細孔内部に多量の鉄プルシアンブルー錯体を担持できる。
溶解度積
溶液に溶けにくい塩の飽和溶液中における陰イオンおよび陽イオンの濃度の積。温度条件が同じであれば物質により固有の値となる。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20240820/pr20240820.html