器官再生を促進する細胞を発見 〜soxC細胞のヒト再生医療への応用に期待〜
[24/08/22]
提供元:共同通信PRワイヤー
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ポイント
・ヤマトヒメミミズのsoxC遺伝子は、器官再生を促進することを発見しました。
・ヤマトヒメミミズとツメガエルで、soxC遺伝子を発現する細胞(soxC細胞)は、共通して器官の切断端に集積することを発見しました。
・soxC細胞は動物種をこえて器官再生の初期イベントを担うと考えられ、ヒト再生医療への応用が期待されます。
概要
帝京大学薬学部教授 山口真二と助教 藤田俊之らの研究グループは、高い再生能力を有する環形動物※1のヤマトヒメミミズを用いて、soxC遺伝子※2が器官再生※3を促進することを発見しました。また、soxC遺伝子を発現する細胞(soxC細胞)は、ヤマトヒメミミズとツメガエル※4で共通して、器官の切断端に集積することを発見しました。これらの知見は、ヤマトヒメミミズとツメガエルで共通して、器官再生がおこる初期にsoxC細胞が重要な役割を果たすことを示しています。失われた器官を再生する能力は、多くの動物が有しているものの、その程度は種によって異なります。ヒトを含む哺乳類では、肝臓をのぞき高い再生能力をもつ器官はありません。 soxC遺伝子はヒトにも存在していることから、今回発見した知見は、将来的に新規創薬や再生医療にも新たな視点を与えることが期待されます。
本研究成果は、日本時間2024年8月22日(木)18時(英国時間2024年8月22日(木)10時)公開の「Nature Communications」誌に掲載されました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408165030-O4-w33FK4Rs】
研究の背景
ミミズを含む環形動物は、その優れた再生能力が古くから認識されてきました。環形動物を切断すると、切断端に「再生芽※5」が形成され、失われた器官を再生する材料として使われます。再生芽の形成は、器官再生の重要な初期イベントの一つです。130年以上前に行われたオヨギミミズを使った研究から、切断端には細胞が集まり、再生芽が形成されると考えられてきましたが、「どのような細胞がどこから再生芽に集まってくるのか?」は、不明のままでした(Randolph, H.(1892))。本研究グループは、ヤマトヒメミミズを用いて、この130年来の謎に取り組みました。
研究の内容
無傷のヤマトヒメミミズと再生芽を形成したヤマトヒメミミズの比較トランスクリプトーム解析※6により、再生芽の形成の際に、発現が変化する遺伝子を特定しました。その中から、sox遺伝子群※7に属するsoxC遺伝子が同定されました。soxC遺伝子はこれまで発生段階で重要な機能を果たすことが知られていましたが、器官再生での働きは不明でした。そこで、soxC遺伝子の器官形成における機能解析を行いました。RNA干渉※8でsoxC遺伝子の発現を抑えると、再生芽の形成が阻害されたことから、soxC遺伝子が再生芽形成を促進することが明らかになりました。また、切断後から再生芽が形成されるまで、複数のタイムポイントでヤマトヒメミミズをサンプリングし、再生芽の連続切片を作成し、soxC遺伝子が発現した細胞(soxC細胞)を観察しました。その結果、soxC細胞が、次第に再生芽に集積し、再生芽のほぼ全体を占めることがわかりました。このことは、soxC細胞が切断端に集積することが、再生芽形成そのものであることを示しています。さらに、脊椎動物であるツメガエルの幼生(オタマジャクシ)の尾の切断端に形成される再生芽でも、ツメガエルsoxC細胞が徐々に集積することがわかりました。これらの知見は、ヤマトヒメミミズとツメガエルに共通して、器官再生の初期イベントにsoxC細胞が働くことを示しています。
研究の成果の意義
本研究では、ヤマトヒメミミズでsoxC遺伝子が再生芽の形成を促進すること、そしてsoxC細胞が再生芽に集積することが再生芽形成そのものであることを明らかにしました。130年来の再生芽形成にかかわる謎のうち「どのような細胞が再生芽に集まってくるのか?」ということが明らかとなりました。soxC遺伝子に注目することで「どこから」も今後明らかになってくると考えられます。また、これまで無脊椎動物(ミミズ)と脊椎動物(カエル)の再生芽は全く異なると考えられていましたが、再生芽の形成時にsoxC細胞は共通に集積することから、器官再生は動物種を問わない共通の仕組みによっておこる可能性があります。soxC遺伝子はヒトにも存在します。soxC細胞は、マウス胎児で傷の回復に関与することから、将来的には、soxC細胞に注目することで、ヒトで傷跡を残さない治癒や器官再生を行うための新規創薬や再生医療につながることが期待されます。
特記事項
本研究は、日本学術振興会(科学研究補助金(18K06667、21K06535))、帝京大学研究奨励助成金、帝京大学先端総研インキュベーション助成金などの助成により行われました。
本研究成果は、日本時間2024年8月22日(木)18時(英国時間2024年8月22日(木)10時)に公開の「Nature Communications」誌に掲載されました。
・タイトル:SoxC and MmpReg promote blastema formation in whole-body regeneration of fragmenting potworms Enchytraeus japonensis
・著者:Toshiyuki Fujita, Naoya Aoki, Chihiro Mori, Koichi Homma, and Shinji Yamaguchi,
・DOI :10.1038/s41467-024-50865-1
・URL :https://www.nature.com/articles/s41467-024-50865-1
用語説明
※1 環形動物:ミミズ、ゴカイ、ヒルなどを含み、高い再生能力を持つものが多いのが特徴です。
※2 soxC遺伝子:sox遺伝子群(※7 参照)に含まれる遺伝子のひとつです。
※3 器官再生:高い再生能力を有する動物では、失われた脳や心臓、また手足などの器官を再生できます。体の断片からすべての器官を含む全身を再生できるヤマトヒメミミズの再生は、器官再生の極端な例です。
※4 ツメガエル:幼生(オタマジャクシ)は、手や足や尾を切断されても元通りになるなど高い器官再生能力を有します。成体(カエル)になると器官再生能力が低下します。
※5 再生芽:切断端に形成される幹細胞様の細胞の集まりで、増殖が盛んに起こっていると考えられています。
※6 トランスクリプトーム解析:ある細胞・組織・器官などに発現しているRNA全体をトランスクリプトームと呼びます。トランスクリプトームを網羅的に解析することができます。
※7 sox遺伝子群:DNAと結合する部分によく似たアミノ酸配列を持つたんぱく質群をつくる遺伝子群で、sox遺伝子群には、細胞の分化の決定に中心的な役割を果たすものが多くみられます。
※8 RNA干渉:細胞内に二本鎖RNAを外から加えることで、特定の遺伝子の発現を抑える働きがあります。
参考文献
Randolph, H. The regeneration of the tail in Lumbriculus. J. Morphol.7,317?344(1892)
・ヤマトヒメミミズのsoxC遺伝子は、器官再生を促進することを発見しました。
・ヤマトヒメミミズとツメガエルで、soxC遺伝子を発現する細胞(soxC細胞)は、共通して器官の切断端に集積することを発見しました。
・soxC細胞は動物種をこえて器官再生の初期イベントを担うと考えられ、ヒト再生医療への応用が期待されます。
概要
帝京大学薬学部教授 山口真二と助教 藤田俊之らの研究グループは、高い再生能力を有する環形動物※1のヤマトヒメミミズを用いて、soxC遺伝子※2が器官再生※3を促進することを発見しました。また、soxC遺伝子を発現する細胞(soxC細胞)は、ヤマトヒメミミズとツメガエル※4で共通して、器官の切断端に集積することを発見しました。これらの知見は、ヤマトヒメミミズとツメガエルで共通して、器官再生がおこる初期にsoxC細胞が重要な役割を果たすことを示しています。失われた器官を再生する能力は、多くの動物が有しているものの、その程度は種によって異なります。ヒトを含む哺乳類では、肝臓をのぞき高い再生能力をもつ器官はありません。 soxC遺伝子はヒトにも存在していることから、今回発見した知見は、将来的に新規創薬や再生医療にも新たな視点を与えることが期待されます。
本研究成果は、日本時間2024年8月22日(木)18時(英国時間2024年8月22日(木)10時)公開の「Nature Communications」誌に掲載されました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408165030-O4-w33FK4Rs】
研究の背景
ミミズを含む環形動物は、その優れた再生能力が古くから認識されてきました。環形動物を切断すると、切断端に「再生芽※5」が形成され、失われた器官を再生する材料として使われます。再生芽の形成は、器官再生の重要な初期イベントの一つです。130年以上前に行われたオヨギミミズを使った研究から、切断端には細胞が集まり、再生芽が形成されると考えられてきましたが、「どのような細胞がどこから再生芽に集まってくるのか?」は、不明のままでした(Randolph, H.(1892))。本研究グループは、ヤマトヒメミミズを用いて、この130年来の謎に取り組みました。
研究の内容
無傷のヤマトヒメミミズと再生芽を形成したヤマトヒメミミズの比較トランスクリプトーム解析※6により、再生芽の形成の際に、発現が変化する遺伝子を特定しました。その中から、sox遺伝子群※7に属するsoxC遺伝子が同定されました。soxC遺伝子はこれまで発生段階で重要な機能を果たすことが知られていましたが、器官再生での働きは不明でした。そこで、soxC遺伝子の器官形成における機能解析を行いました。RNA干渉※8でsoxC遺伝子の発現を抑えると、再生芽の形成が阻害されたことから、soxC遺伝子が再生芽形成を促進することが明らかになりました。また、切断後から再生芽が形成されるまで、複数のタイムポイントでヤマトヒメミミズをサンプリングし、再生芽の連続切片を作成し、soxC遺伝子が発現した細胞(soxC細胞)を観察しました。その結果、soxC細胞が、次第に再生芽に集積し、再生芽のほぼ全体を占めることがわかりました。このことは、soxC細胞が切断端に集積することが、再生芽形成そのものであることを示しています。さらに、脊椎動物であるツメガエルの幼生(オタマジャクシ)の尾の切断端に形成される再生芽でも、ツメガエルsoxC細胞が徐々に集積することがわかりました。これらの知見は、ヤマトヒメミミズとツメガエルに共通して、器官再生の初期イベントにsoxC細胞が働くことを示しています。
研究の成果の意義
本研究では、ヤマトヒメミミズでsoxC遺伝子が再生芽の形成を促進すること、そしてsoxC細胞が再生芽に集積することが再生芽形成そのものであることを明らかにしました。130年来の再生芽形成にかかわる謎のうち「どのような細胞が再生芽に集まってくるのか?」ということが明らかとなりました。soxC遺伝子に注目することで「どこから」も今後明らかになってくると考えられます。また、これまで無脊椎動物(ミミズ)と脊椎動物(カエル)の再生芽は全く異なると考えられていましたが、再生芽の形成時にsoxC細胞は共通に集積することから、器官再生は動物種を問わない共通の仕組みによっておこる可能性があります。soxC遺伝子はヒトにも存在します。soxC細胞は、マウス胎児で傷の回復に関与することから、将来的には、soxC細胞に注目することで、ヒトで傷跡を残さない治癒や器官再生を行うための新規創薬や再生医療につながることが期待されます。
特記事項
本研究は、日本学術振興会(科学研究補助金(18K06667、21K06535))、帝京大学研究奨励助成金、帝京大学先端総研インキュベーション助成金などの助成により行われました。
本研究成果は、日本時間2024年8月22日(木)18時(英国時間2024年8月22日(木)10時)に公開の「Nature Communications」誌に掲載されました。
・タイトル:SoxC and MmpReg promote blastema formation in whole-body regeneration of fragmenting potworms Enchytraeus japonensis
・著者:Toshiyuki Fujita, Naoya Aoki, Chihiro Mori, Koichi Homma, and Shinji Yamaguchi,
・DOI :10.1038/s41467-024-50865-1
・URL :https://www.nature.com/articles/s41467-024-50865-1
用語説明
※1 環形動物:ミミズ、ゴカイ、ヒルなどを含み、高い再生能力を持つものが多いのが特徴です。
※2 soxC遺伝子:sox遺伝子群(※7 参照)に含まれる遺伝子のひとつです。
※3 器官再生:高い再生能力を有する動物では、失われた脳や心臓、また手足などの器官を再生できます。体の断片からすべての器官を含む全身を再生できるヤマトヒメミミズの再生は、器官再生の極端な例です。
※4 ツメガエル:幼生(オタマジャクシ)は、手や足や尾を切断されても元通りになるなど高い器官再生能力を有します。成体(カエル)になると器官再生能力が低下します。
※5 再生芽:切断端に形成される幹細胞様の細胞の集まりで、増殖が盛んに起こっていると考えられています。
※6 トランスクリプトーム解析:ある細胞・組織・器官などに発現しているRNA全体をトランスクリプトームと呼びます。トランスクリプトームを網羅的に解析することができます。
※7 sox遺伝子群:DNAと結合する部分によく似たアミノ酸配列を持つたんぱく質群をつくる遺伝子群で、sox遺伝子群には、細胞の分化の決定に中心的な役割を果たすものが多くみられます。
※8 RNA干渉:細胞内に二本鎖RNAを外から加えることで、特定の遺伝子の発現を抑える働きがあります。
参考文献
Randolph, H. The regeneration of the tail in Lumbriculus. J. Morphol.7,317?344(1892)