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植物由来の分子で環境発電

コガネバナの根から抽出できる成分の蒸着膜を用いた素子で振動発電を実証

ポイント

・ コガネバナ(シソ科タツナミソウ属)の根から抽出できる極性分子バイカレインを真空蒸着することで得られるエレクトレット薄膜による振動発電を実証

・ 大気中でエレクトレットとしての特性が早期に消失する原因を突き止め、保護膜を形成することで耐久性向上を確認

・ 微小な振動をエネルギー源として環境発電が可能なことから、ウエアラブルデバイスなどの分散型電源としての応用を期待

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202607162634-O1-0cUbN4pl

 

概 要

国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)材料基盤研究部門 赤池 幸紀 研究グループ付、下位 幸弘 テクニカルスタッフ、衛 慶碩 上級主任研究員、秋山 陽久 首席研究員、田中 駿介 主任研究員と、国立大学法人筑波大学数理物質系 山田 洋一 教授、小野 裕太郎(産総研技術研修員)は、自発配向分極を示すバイカレイン蒸着膜の表裏に蓄積される電荷の密度(分極電荷密度)を高めるとともに、その耐久性を向上させ、振動発電素子として利用できることを実証しました。

 

マグネットが磁気を長期間保持する物質であるのに対し、静電気を長期間保持する物質をエレクトレットといいます。エレクトレットは、小型マイクロホンにおける振動を電気信号に変換する素子や空気清浄機などのフィルターに実用化されています。また、エレクトレットが形成する電場を利用して振動を電気に変換できることから、IoTセンサー用の分散電源に用いる振動発電素子への実用化に向けて、高密度化と耐久性の向上を課題に研究開発が進められています。一方、同センサーの普及に伴って、必要とされる電源数も増加すると予想されます。そのため、持続的に材料供給でき、使用済み電源の廃棄時に環境負荷がかからない材料の探索も求められています。

 

今回、大がかりな荷電処理を必要とせず、真空蒸着するだけでエレクトレットとして機能する「自己組織化エレクトレット」を形成できる植物由来の分子を見つけ、その膜を使った振動発電素子の開発に取り組みました。その結果、成膜条件を最適化することで、自己組織化エレクトレットとして機能する既存の化学合成品と同程度の分極電荷密度2 mC/m2を達成しました。また、劣化の原因である水蒸気の吸着や拡散を抑制する保護膜を形成することで耐久性を向上させました。実際に、振動発電素子として機能することを実証しました。

 

今回見いだした自己組織化エレクトレットは、微小電気機械システム(MEMS)との相性が良く、半導体プロセスを応用して超小型振動発電素子が得られると考えられます。また、ウエアラブルデバイスや環境センサーなどにおいて、電池交換や充電が不要なIoTセンサーの自立電源として応用が期待されます。

 

なお、この技術の詳細は、2026年7月20日に「Advanced Functional Materials」に掲載されました。

 

下線部は【用語解説】参照

 

※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。

正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ

https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20260721/pr20260721.html )をご覧ください。

 

研究の社会的背景

環境発電とは、光、熱(廃熱や体温)、振動、電磁波、湿度変動など、身の回りにある未利用のエネルギーを電力に変換する技術です。発電容量はさほど大きくなく、マイクロワットや大きくてもミリワットレベルですが、ウエアラブルデバイスや環境センサーなどにおいて、電池交換や充電が不要なIoTセンサーの自立電源として注目されています。これらのうち、振動を電力に変換する振動発電は、圧電式や電磁式など複数の方式があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。中でも電極間容量の変化を電力として取り出す、エレクトレットを用いた静電式の振動発電素子は、他の方式に比べて低い周波数の振動に対する出力電力が大きいことが特徴です。また、MEMS技術で素子を小さくすれば、小型IoTセンサーへの搭載も可能となります。

 

静電式の振動発電素子(概要図)で使われるエレクトレットは、“電気の永久磁石” とも呼ばれています。永久磁石(マグネット)が磁気を長期間保持する物質なのに対して、エレクトレットは電気(電荷や分極)を長期間保持する性質を持った物質です。エレクトレットの概念自体は100年以上前から知られており、小型マイクロホンにおける振動を電気信号に変換する素子や空気清浄機などのフィルターとしてすでに実用化されていますが、振動発電素子への応用はまだ研究開発段階です。実用化に向けては、大面積に高密度かつ一様に電荷や分極を与えるという製造上のプロセスの困難さに加え、蓄えた電荷や分極が環境により時間とともに減少するという問題を抱えていました。また、IoTセンサーの導入量が今後増えると見込まれる中、その自立電源に利用する材料は持続的に供給可能で、使用済み電源の廃棄時に環境負荷が低いことが望まれます。

 

研究の経緯

産総研は、これまでにシソ科タツナミソウ属の植物コガネバナの根に含まれる成分から抽出されるバイカレイン(図1a)という極性を持った分子を基板に真空蒸着すると自発配向分極が発現することを、ケルビンプローブ法(KP法)を用いた表面電位測定から見いだしてきました[1]。バイカレイン分子は分子構造に由来する永久双極子を持っていますが(図1a)、通常はそれぞれの永久双極子が互いに打ち消し合うため、集合体全体としての分極は生じません。一方、バイカレイン蒸着膜では、蒸着過程で分子の向きが一定の割合で特定の方向に偏って配列します。そのため、各分子が持つ永久双極子は隣接分子間で完全には打ち消されず、膜全体として基板表面に垂直な方向に電気的な偏り、すなわち分極が生じ、エレクトレットとして機能すると考えられます。今回、バイカレイン蒸着膜のエレクトレットとしての性能評価や、振動発電素子への実用化に向けた技術開発に取り組みました。

 

研究の内容

まず、バイカレイン蒸着膜の自発配向分極の挙動をKP法で調べました。電極上に膜を徐々に堆積し、各膜厚における表面電位を調べると、膜厚に比例して表面電位が増える領域が現れます(図1b点線部)。この線形な電位変化は、自発配向分極の発現を示唆します。すなわち、蒸着膜中で、バイカレイン分子の永久双極子が隣接分子間で完全には打ち消されず、基板に垂直な方向にプラスとマイナスの電荷の偏り(分極)が生じています。(図1b挿図)

 

線形領域における表面電位の傾きは、分極電荷密度に比例します。蒸着膜をエレクトレットに用いた振動発電素子で発生する電流は分極電荷密度に比例するため、電位の傾きは振動電流を見積もる指標となります。バイカレイン膜を形成する際の蒸着速度を1 Å/sから約3倍に増やすと、永久双極子の配向性が向上し、線形領域の傾きは55 mV/nmから72 mV/nmに増加しました(図1b)。この表面電位の傾きは、自発配向分極を示す代表的な低分子材料である有機発光ダイオード材料、1,3,5-トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)ベンゼン(TPBi)と同程度でした。さらに、この傾きから分極電荷密度を見積もると、3 Å/sで作製した膜では2.4 mC/m?に達しました。この値は、市販のフッ素系ポリマーを帯電させたエレクトレットに匹敵し、植物由来の極性分子でも既存のエレクトレット材料と同程度の電荷を蓄積できることを示しています。

 

続いて、分子の並びが特定の方向に向いた箇所の振動スペクトルを測定できる和周波発生(SFG)分光で、バイカレイン膜を評価しました。膜厚が増えるとSFG信号強度が増加しました(図1c)。その傾向は、基板垂直方向に一様な電場が発生した試料から放出されるSFGの理論モデルとよく対応します(図1c挿図)。この結果から、隣接分子間で永久双極子が打ち消されない分子配列が積み重なり、蒸着膜が分極することが分かりました。

 

次に、固定電極にインジウムスズ酸化物(ITO)、可動電極にKP測定装置のプローブを用い、短絡時における振動電流を真空中で測定しました(図1d)。その結果、外部回路に交流電流が流れたため、バイカレイン蒸着膜がエレクトレットとして機能することを確認しました。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202607162634-O2-Ze64ORSb

 

自発配向分極を示す膜を振動発電素子に実用化するには、動作環境における分極状態の安定化が不可欠です。多くのIoTセンサーは大気中での利用が想定されます。しかし、大気中でのバイカレイン蒸着膜の分極状態は、水蒸気の吸着が誘起する結晶化により、わずか4.4時間で消失します。そこで、バイカレイン膜への水蒸気拡散を抑制するため、疎水性分子の蒸着膜で保護できるかを調べました。保護層なしのバイカレイン膜では、表面電位が初期値の半分となる大気曝露時間(T50)が3.8時間であるのに対し、膜厚が200 nmの9-(1-ナフチル)-10-(2-ナフチル)アントラセン(1,2-ADN)層で保護した場合、T50が132時間に延びることが分かりました(図2a)。また、単純な長鎖アルカン蒸着膜による保護でもT50を100時間以上に延ばせました。

 

最後に、プロトタイプの振動発電素子を作製して、大気中における動作を評価しました(図2b)。ITOが被覆された柔軟なポリエチレンテレフタレート(PET)基板上に形成されたバイカレイン膜を1,2-ADN膜で保護し、エレクトレットとしました(図2b)。ITO/ガラス基板側をスピーカーで振動させ、発生した電流を抵抗で電圧に変換して測定しました。その結果、振動の周波数に合わせて電圧が出力されることが分かりました(図2c)。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202607162634-O3-bu4109Z9

 

これらの結果は、植物由来のバイカレインを真空蒸着して得られる薄膜が、自己組織化エレクトレットとして機能し、環境中の振動を電気に変換する発電素子として応用できる可能性を示しています。

 

今後の予定

バイカレイン蒸着膜を大気中で使うIoTセンサー用の分散電源として長期間利用するには、分極状態のさらなる延命化が直近の課題です。今後は、バイカレインエレクトレットの大気安定性をさらに高めるため、水蒸気拡散をより抑制できる材料の探索と表面保護方法の最適化に関する研究を推進します。また、自己組織化エレクトレットとして機能する、バイカレイン以外の植物由来材料の探索も進めます。これらの基盤研究を踏まえて、IoTセンサー用分散電源に使用するデバイスの作製技術の確立を目指します。

 

論文情報

掲載誌:Advanced Functional Materials

論文タイトル:Demonstrating Vibrational Current Generation With a Self-Assembled Bioelectret

著者:Kouki Akaike, Yukihiro Shimoi, Qingshuo Wei, Yutaro Ono, Satomi Hosono, Yoichi Yamada, Haruhisa Akiyama, Shunsuke Tanaka

DOI:https://doi.org/10.1002/adfm.76653

 

参考情報

[1] Akaike, K. et al. Spontaneous orientation polarization of flavonoids. Scientific Reports. 2023, vol. 13, no. 1,

p. 19402. DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-023-46834-1

 

用語解説

自発配向分極

極性分子を基板上に成膜した際に、外部から電場をかけたり帯電処理をしたりしなくても、薄膜中で分子の向きが一定方向にある程度そろい、電気的な偏りが生じる(分極する)現象。

 

分極電荷密度

自発配向分極が生じる蒸着膜の表裏に蓄積される電荷の密度。この値が大きいほど、振動発電で得られる電流が増える。

 

振動発電

機械や人の動き、音などによる振動エネルギーを電気エネルギーに変換する発電技術。静電式の振動発電では、エレクトレットに蓄えられた電荷や分極を利用し、振動による電極間の距離や面積の変化から電気を取り出す。

 

エレクトレット

外部から与えられた電荷や、材料内部に生じた電気的な偏りを保持する材料。磁石を意味する「マグネット」にならい、エレクトレットと名付けられた。

 

微小電気機械システム(MEMS)

半導体を作る技術を応用して、目に見えないほど小さな機械部品やセンサーを作る技術。スマートフォンの加速度センサーなどに使われている。

 

ケルビンプローブ法(KP法)

試料表面とプローブの間に発生する接触電位差から、試料表面の仕事関数を測定する手法。今回の研究では、電位差が大きいほど、基板表面に垂直な方向に永久双極子を傾けた分子の割合が多く、分極によって蓄積される電荷の密度が高いことを意味する。

 

永久双極子

外部電場がない状態でもプラスとマイナスが偏っている電荷のペア。

 

有機発光ダイオード

発光する分子の薄膜を二つの電極で挟み、プラスとマイナスの電荷を注入して発光させるデバイス。テレビやスマートフォンのディスプレーに実用化されている。

 

和周波発生(SFG)分光

赤外光と可視光を試料に同時に照射し、入射光の周波数の和に相当する光(和周波光)の強度を赤外光の波数を走査しながら測定する手法。和周波発生は二次の非線形光学現象であるため、表面・界面、バルク内部で原子や分子の並びが特定の方向に向いた箇所などの振動スペクトルが選択的に得られる。

 

インジウムスズ酸化物(ITO)

無色透明で導電性の高い金属酸化物。太陽電池や発光ダイオードなどの透明電極に使われる。

 

 

プレスリリースURL

https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20260721/pr20260721.html

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