レポート「地球温暖化対策と経済成長との両立に向けた考察-日本の基幹産業である自動車産業を中心に-」を発表
[18/06/04]
提供元:PRTIMES
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脱炭素社会の実現に向けた地球温暖化対策と経済成長の両立は可能か
慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岩本隆特任教授は、レポート「地球温暖化対策と経済成長との両立に向けた考察-日本の基幹産業である自動車産業を中心に-」を発表しましたのでお知らせします。
【サマリー】
■パリ協定を機に各国の「脱炭素」化が加速し、化石燃料関連の投融資から撤退(ダイベストメント)など世界ビジネスが激変し、日本企業は取り残されようとしている
■世界各国で推進されるEVシフトにより日本経済に与える影響(2040年にEV化率50%と想定)を試算
・自動車産業の年間製造出荷額 ▲11.3兆円
・自動車産業の年間輸出額(F.O.Bベース) ▲3.2兆円
・名目GDP ▲10.8兆円
・自動車関連就業人口 ▲129万人
■海外では、国家政策としてEVを積極導入するなど「EVシフト」が潮流となっており、自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えている。日本の関連産業もその影響を免れないが、我が国の電源構成や産業構造を考慮すると、地球温暖化対策と経済成長を両立するためには、以下の3つの施策の検討が求められる。
・短期:ICEVでのCO2削減-バイオエタノール混合比率の増加-
・中長期1:発電時でのCO2削減-再生可能エネルギーの積極的な導入-
・中長期2:バイオ燃料の産業化
2016年11月4日の「パリ協定」発効により、世界は「脱炭素」に大きく舵を切りました。日本の想像以上に、世界は気候変動を深刻に捉え、同時に国を上げて「脱炭素」化をビジネスにつなげようとしています。一方で、かつて「省エネ先進国」として世界をリードした日本は、「脱炭素」においては大きく出遅れ、その発言力を失いつつあります。また、化石燃料関連の投融資から撤退(ダイベストメント)表明が相次ぎ、「脱炭素」に取り組まなければサプライチェーンから外される危機が訪れようとしています。
この潮流も相まって、自動車業界でも内燃機関自動車(ICEV:Internal Combustion Engine Vehicle)から電気自動車(EV:Electric Vehicle)へのシフトが加速しています。日本の自動車業界はOEM(Original Equipment Manufacturer:自動車メーカー)を頂点にしたピラミッド構造となっており、Tier 1、Tier 2など、サプライヤーの多くは自動車産業への依存度が高くなっています。また、自動車関連産業の就業人口は534万人で、国内就業者全体の8.3%を占めており、国内での雇用創出に大きく貢献しています。一方、EVシフトが進むことにより日本のGDP(Gross Domestic Product:国内総生産)や雇用は大きな影響を受けます。
【EVシフトで失われる日本の技術力】
EVの構造はきわめてシンプルで、駆動系は主にモーター、インバーター、電池で構成されています。EVにおいては、エンジン、トランスミッション、排気系を始めとした多くの部品が不要となり、経済産業省によると、ガソリン車に必要な部品約3万点のうち、約4割がEV化で不要になると予想されています。
EVシフトが進むことで事業機会が生まれる市場(特に畜電池やモータなど)がある一方、衰退する市場(特にエンジン部品)があり、EVシフトで搭載不要となる内燃機関部品売上への依存度が高い企業は売上低下や製造コスト増となり、経営難に陥る可能性があります。
【自動車産業を崩壊させない、地球温暖化対策と経済成長への施策案】
英仏政府が2040年までにICEVの新車販売を禁止する方針を決めるなど、海外諸国ではICEV廃止に向けた動きが活発化していますが、地球温暖化対策と経済成長との両立を鑑みると、我が国においても他国同様にEVシフトを進めることが最善の策とはいえません。電力の多くを火力発電に依存している日本においては、EVシフトしても電力のCO2排出量が削減できず、地球温暖化対策として与えるインパクトは少ない。さらに、自動車関連ビジネスや石油ビジネスの衰退を引き起こし、日本経済の成長を停滞させることや雇用環境の悪化に繋がりかねず、経済的なメリットも少ない。そこで、本レポートでは下記3つの施策案の提言を行いました。
(1) ICEVでのCO2削減〜自動車へのバイオ燃料導入〜
地球温暖化対策は待ったなしの状態であり、短期的な施策を打つことが求められています。
日本においてGDPを維持するためにはICEVの維持が必要です。世界ではCO2削減対策として、EVシフト以外に、輸送燃料にバイオ燃料導入を加速する動きも進んでいます。バイオ燃料は、ガソリンにエタノールを混合することによってノッキングのしにくさを表す指標である「オクタン価」を上げることができます。それにより、内燃機関での熱効率を高めることができ、CO2削減の効果も期待できます。現在の我が国のバイオ燃料導入量ではCO2削減効果は少なく、今後日本においても、諸外国でも進められているように、CO2排出削減量の観点からバイオ燃料の混合率増加を検討する必要があります。
(2) 発電時でのCO2削減〜再生可能エネルギーの積極的な導入〜
日本政府は2050年に向けた長期戦略において、「パリ協定」に基づく脱炭素社会に向け、再生可能エネルギーを主力電源とする方針を示しました。日本における火力発電の割合(2015年時点)は84.6%を占めており、主な燃料であるLNG(Liquefied Natural Gas)・石炭・石油の9割近くを海外に依存しています。また、これらの輸入総額は約10.7兆円(2016年度実績)あり、エネルギーセキュリティだけでなく、GDP成長の観点からも国内での地産地消が求められます。電源構成に占める再生可能エネルギー比率22〜24%(2030年度時点)を実現することで、一次エネルギー供給構造としてのエネルギー自給率は24.3%程度に改善し、CO2排出量は2013年度比で21.9%減となります。再生可能エネルギーが化石燃料の代替となることで、輸入による仕入れコストが低減し、GDPが高まります。さらに、バイオマスや土地などの資源を多く有する農山漁村では、1次・2次・3次産業の融合である6次産業化することで付加価値を生み、農山漁村での雇用確保や所得の向上につながり、地球温暖化対策に加えて、GDP向上にもなります。
(3) バイオ燃料の産業化
世界各国で進められるバイオ燃料導入の義務化政策も後押しとなり、バイオ燃料の事業化を進める企業も増加しています。バイオ燃料市場は2030年には11.8兆円規模の市場になると見られ、世界的な需要を見据え、長期的視点をもってバイオ燃料を産業化していくことが経済成長に繋がります。仮にバイオ燃料の1割を日本国内で精製・供給する体制が整えば、1兆円を超える産業としてGDPにプラスインパクトをもたらします。2017年6月19日に、「未来投資戦略2017-Society 5.0の実現に向けた改革」が閣議決定され、その中で、2015年度に5.5兆円だった6次産業化の市場規模を2020年度に10兆円まで増加させる目標が掲げられています。バイオ燃料の産業化は6次産業化による日本の成長産業の創造にも資することであり、国家的課題として取り組む意義もあります。
レポート本文は、下記URLからご確認ください。
https://www.tiwamoto.jp/report/
【執筆者プロフィール】
岩本 隆 慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。
日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。「技術」・「戦略」・「政策」を融合させた「産業プロデュース論」を専門領域として、様々な分野の新産業創出に携わる。
慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岩本隆特任教授は、レポート「地球温暖化対策と経済成長との両立に向けた考察-日本の基幹産業である自動車産業を中心に-」を発表しましたのでお知らせします。
【サマリー】
■パリ協定を機に各国の「脱炭素」化が加速し、化石燃料関連の投融資から撤退(ダイベストメント)など世界ビジネスが激変し、日本企業は取り残されようとしている
■世界各国で推進されるEVシフトにより日本経済に与える影響(2040年にEV化率50%と想定)を試算
・自動車産業の年間製造出荷額 ▲11.3兆円
・自動車産業の年間輸出額(F.O.Bベース) ▲3.2兆円
・名目GDP ▲10.8兆円
・自動車関連就業人口 ▲129万人
■海外では、国家政策としてEVを積極導入するなど「EVシフト」が潮流となっており、自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えている。日本の関連産業もその影響を免れないが、我が国の電源構成や産業構造を考慮すると、地球温暖化対策と経済成長を両立するためには、以下の3つの施策の検討が求められる。
・短期:ICEVでのCO2削減-バイオエタノール混合比率の増加-
・中長期1:発電時でのCO2削減-再生可能エネルギーの積極的な導入-
・中長期2:バイオ燃料の産業化
2016年11月4日の「パリ協定」発効により、世界は「脱炭素」に大きく舵を切りました。日本の想像以上に、世界は気候変動を深刻に捉え、同時に国を上げて「脱炭素」化をビジネスにつなげようとしています。一方で、かつて「省エネ先進国」として世界をリードした日本は、「脱炭素」においては大きく出遅れ、その発言力を失いつつあります。また、化石燃料関連の投融資から撤退(ダイベストメント)表明が相次ぎ、「脱炭素」に取り組まなければサプライチェーンから外される危機が訪れようとしています。
この潮流も相まって、自動車業界でも内燃機関自動車(ICEV:Internal Combustion Engine Vehicle)から電気自動車(EV:Electric Vehicle)へのシフトが加速しています。日本の自動車業界はOEM(Original Equipment Manufacturer:自動車メーカー)を頂点にしたピラミッド構造となっており、Tier 1、Tier 2など、サプライヤーの多くは自動車産業への依存度が高くなっています。また、自動車関連産業の就業人口は534万人で、国内就業者全体の8.3%を占めており、国内での雇用創出に大きく貢献しています。一方、EVシフトが進むことにより日本のGDP(Gross Domestic Product:国内総生産)や雇用は大きな影響を受けます。
【EVシフトで失われる日本の技術力】
EVの構造はきわめてシンプルで、駆動系は主にモーター、インバーター、電池で構成されています。EVにおいては、エンジン、トランスミッション、排気系を始めとした多くの部品が不要となり、経済産業省によると、ガソリン車に必要な部品約3万点のうち、約4割がEV化で不要になると予想されています。
EVシフトが進むことで事業機会が生まれる市場(特に畜電池やモータなど)がある一方、衰退する市場(特にエンジン部品)があり、EVシフトで搭載不要となる内燃機関部品売上への依存度が高い企業は売上低下や製造コスト増となり、経営難に陥る可能性があります。
【自動車産業を崩壊させない、地球温暖化対策と経済成長への施策案】
英仏政府が2040年までにICEVの新車販売を禁止する方針を決めるなど、海外諸国ではICEV廃止に向けた動きが活発化していますが、地球温暖化対策と経済成長との両立を鑑みると、我が国においても他国同様にEVシフトを進めることが最善の策とはいえません。電力の多くを火力発電に依存している日本においては、EVシフトしても電力のCO2排出量が削減できず、地球温暖化対策として与えるインパクトは少ない。さらに、自動車関連ビジネスや石油ビジネスの衰退を引き起こし、日本経済の成長を停滞させることや雇用環境の悪化に繋がりかねず、経済的なメリットも少ない。そこで、本レポートでは下記3つの施策案の提言を行いました。
(1) ICEVでのCO2削減〜自動車へのバイオ燃料導入〜
地球温暖化対策は待ったなしの状態であり、短期的な施策を打つことが求められています。
日本においてGDPを維持するためにはICEVの維持が必要です。世界ではCO2削減対策として、EVシフト以外に、輸送燃料にバイオ燃料導入を加速する動きも進んでいます。バイオ燃料は、ガソリンにエタノールを混合することによってノッキングのしにくさを表す指標である「オクタン価」を上げることができます。それにより、内燃機関での熱効率を高めることができ、CO2削減の効果も期待できます。現在の我が国のバイオ燃料導入量ではCO2削減効果は少なく、今後日本においても、諸外国でも進められているように、CO2排出削減量の観点からバイオ燃料の混合率増加を検討する必要があります。
(2) 発電時でのCO2削減〜再生可能エネルギーの積極的な導入〜
日本政府は2050年に向けた長期戦略において、「パリ協定」に基づく脱炭素社会に向け、再生可能エネルギーを主力電源とする方針を示しました。日本における火力発電の割合(2015年時点)は84.6%を占めており、主な燃料であるLNG(Liquefied Natural Gas)・石炭・石油の9割近くを海外に依存しています。また、これらの輸入総額は約10.7兆円(2016年度実績)あり、エネルギーセキュリティだけでなく、GDP成長の観点からも国内での地産地消が求められます。電源構成に占める再生可能エネルギー比率22〜24%(2030年度時点)を実現することで、一次エネルギー供給構造としてのエネルギー自給率は24.3%程度に改善し、CO2排出量は2013年度比で21.9%減となります。再生可能エネルギーが化石燃料の代替となることで、輸入による仕入れコストが低減し、GDPが高まります。さらに、バイオマスや土地などの資源を多く有する農山漁村では、1次・2次・3次産業の融合である6次産業化することで付加価値を生み、農山漁村での雇用確保や所得の向上につながり、地球温暖化対策に加えて、GDP向上にもなります。
(3) バイオ燃料の産業化
世界各国で進められるバイオ燃料導入の義務化政策も後押しとなり、バイオ燃料の事業化を進める企業も増加しています。バイオ燃料市場は2030年には11.8兆円規模の市場になると見られ、世界的な需要を見据え、長期的視点をもってバイオ燃料を産業化していくことが経済成長に繋がります。仮にバイオ燃料の1割を日本国内で精製・供給する体制が整えば、1兆円を超える産業としてGDPにプラスインパクトをもたらします。2017年6月19日に、「未来投資戦略2017-Society 5.0の実現に向けた改革」が閣議決定され、その中で、2015年度に5.5兆円だった6次産業化の市場規模を2020年度に10兆円まで増加させる目標が掲げられています。バイオ燃料の産業化は6次産業化による日本の成長産業の創造にも資することであり、国家的課題として取り組む意義もあります。
レポート本文は、下記URLからご確認ください。
https://www.tiwamoto.jp/report/
【執筆者プロフィール】
岩本 隆 慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。
日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。「技術」・「戦略」・「政策」を融合させた「産業プロデュース論」を専門領域として、様々な分野の新産業創出に携わる。